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幽谷の村②

「うひゃぁぁぁああ! 見て、やしろくん! めっちゃ可愛いよ!」


 村の中を駆け回る人狼の子供たちを見て、つかささんが初めて見る表情を浮かべている。

 女性とデートでテーマパークなんかに行くと、こういう表情を見られるのだろうか。人生でそんな経験をしたことがないのでわからない。

 周りを見ると見事に人狼だらけだが、大人たちはこちらにかなりの警戒心を出しているようだ。あまり歓迎はされていない。

 いやむしろ、人狼の方が人間を襲うってイメージがあるから、普通は反応が逆だと思うんだが。

 そこで一人の人狼の男の子がこちらに走ってくると、俺たちのことをじっと見ている。

 つかささんは彼の前にしゃがむと、キラキラした目で彼のことを見つめている。

 

「どうしたのかなぁ?」

「お姉さん。毛が生えてないね。変なの」

「そうだねぇ。変だねぇ」


 つかささんは完全にデレデレモードである。


「ねぇ、この子抱きしめてもいい?」


 俺たちをこの村まで案内してくれた彼は、周りを見て少し悩んだあと、小さく頷く。

 

「ホントぉ? ボク、こっちおいでぇ」


 つかささんが手を広げると、男の子はさらに近づく。

 そしてつかささんは男の子をガッシリ抱きしめると頬と頬をスリスリし始めた。


「うわぁ。フカフカだぁ。モフモフだぁ。サイコーだぁ」


 完全に上機嫌である。

 それを見て、彼も少し安心したようだ。

 男の子はそれが気持ち悪かったのか。つかささんの腕をすり抜けると友達の方へと走って行ってしまった。


「あー、行っちゃった」

「さぁ、遊んでないで。こちらですよ」


 そう言われ、ひときわ大きな家へと案内された。

 少なくとも犬小屋というレベルではない。当たり前だが。

 中には、あきらかな老犬のような人狼が二人いた。おそらく村長とその奥さんなのだろう。


「ジョニィ、話は聞いているよ。ご苦労だったね」

「いえ。村長、こちらがこの村にやってきた人間です」


 彼はジョニィという名前だったのか。彼は村長に跪いて見せたので、一応俺たちも前をしてみる。


「よいよい。人間のつがいよ。そちらの椅子に座りなさい。山道、疲れたでしょう。我々は水しか飲まないのだが、水で良いのかな?」

「えーと、お構いなく」

 

 つがいと言われ少し戸惑うが、そこまで間違いでもないのか? と疑問に思っていると勝手に話が進められた。


「ところで、この村の奥にある温泉へと向かいたいと?」

「そうなんです。私たちは温泉を巡る旅をしていまして。それで、この村の奥にあるという温泉に興味があってやってきたのですが、、、」

「そうか。ですが、あの温泉には行けぬのじゃ」

「それは何故なのですか?」

「実はあの温泉の近くには恐ろしいモンスターが住み着いてしまってな。我々も、あの温泉は気に入っていて、以前は通ってはいたのだがそれ以来行けなくなってしまったのだ」

「そんなに恐ろしいモンスターなのですか?」

「そうじゃ。我々も、腕の立つ若い衆らにモンスター討伐に向かってもらったのだが返り討ちにあってしまってな」


 人狼が束になって敵わないモンスターっていったい、、、どれほど恐ろしいモンスターなんだ。


「もし君たちがあの温泉に入りたいというのなら、そのモンスター討伐をお願いしたいのじゃ」

「いや、人間よりも遥かに力のあるアナタ方が敵わなかったモンスターとマトモに戦えると思えないのですが」

「しかしな。相性というものもある。我々とあのモンスターでは相性が悪いのかもしれん。人間は我々よりも知恵が回る。ぜひお願いを聞いてほしい」


 人狼と相性の悪いモンスターか。どんなモンスターなのだろう。

 

「つかささん、どうしますか?」

「そうね。実際にそのモンスターを見てみないことにはわからないわね。もしかしたら、打開策があるかもだし」


 つかささんとそんな話をしていたら、村長の奥さんが薄い皿に水を入れて出してくれた。

 ジョニィはそれを、長い舌を使って器用に飲んでいた。


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