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クレーマー

「やっと見つけたわ!」


 少女はそう言い放つと、背負っていた彼女の背の半分はある大きなカバンを地面へと下ろした。

 ガシャンという大きな金属音を立てたそのカバンの口を開くと、少女は中身を漁る。

 カバンが大きくて、少女がカバンに飲み込まれるのではないかと思ってみていたが、さすがにそうはならなかった。

 金属音が鳴っていたので、金属製の何かしらが出てくるのかと思っていたら予想は外れ、取り出されたのは一枚の紙切れだった。


「ほら、やっぱりそうだ。間違いない!」


 少女は紙と俺たちの顔を照らし合わせている。

 ひょっとして、指名手配の似顔絵でも書かれていたのだろうか。そんな話は聞いてないし、身に覚えもない。

 

「えーと、お嬢さん? いったい何のこと?」


 つかささんの顔を見ると、無言で「アンタが相手しなさいよ」みたいな顔をしていたので、仕方なく少女に近づき聞いてみる。


「これよこれ! これ、アンタたちでしょ?」


 少女がその紙を見せてくれた。それを見てガテンがいった。

 確かに俺だわ。

 その紙には、俺とつかささんが描かれていた。

 

「以前立ち寄った街で、このポスターを見たのよ。武器屋に貼ってあったわ。アンタ達が怪鳥を倒した時に使った武器が売られているって」


 倒したわけじゃなく、勝手にどっかに行っただけなんだが。まぁ戦ったのは事実だ。

 もしかして、そのポスターを見てファンになって追いかけて来てくれたのか。

 だが、そうではないのか少女の表情は険しい。


「確かに、このポスターの絵は俺たちのことだよ。ひょっとして、それで俺たちの事を探してきてくれたの? あの街からずいぶんと離れているけど」

「探す? 探すわけないでしょ。でも、もし旅の途中で見かけたら文句言ってやろうと思ってたのよ」

「文句!?」

「当たり前でしょ。あんな何の変哲もない普通の武器。なんならちょっと低品質だったわよ。あんなもので怪鳥を倒せるわけないじゃない。もし本当に倒したっていうのならそれは本人たちが相当の実力者ってことよ。でも見たところ、けしてそうは見えない。ウソなんでしょ? 怪鳥を倒したなんて。ウソ付いてあたかも素晴らしい武器のように見せて、何も知らない素人に安物を売りつけてたんでしょ!」

 

 随分な言われようだ。まるで俺たちが誇大広告詐欺をしたかのようだ。でも、、、あながち間違ってないところがイタイ。まさかこっちの世界でこんなクレームを受けることになるとは。

 助けを求めるようにつかささんを見る。

 それに、ため息を一つ付いてこちらへとやってきた。


「あのね、お嬢ちゃん。ここをよく読んで。撃退って書いてあるでしょ? 倒したとは言ってない。どこで聞き間違えたのか勘違いしたのかは知らないけど、嘘は書いてないわよ」

「そんな。でも、武器屋の主人は倒したって」

「じゃあ、あの武器屋の主人が悪いわね。あの街に戻って、武器屋にクレームしてもらえるかしら」

「でも、このポスターはアナタの提案だったって。アナタがあの武器屋の主人に入れ知恵したんでしょ? アナタに責任があるんじゃないの?」

「確かに、ご提案をさせて頂いたのは私です。ですが、わたくしの意図とは違った商売をされたのはあちらです。ですのでクレームはお受けできかねます」

「だけど、アナタ達のポスターを見て、勘違いをして武器を買ったお客さんが、もしそれで気が大きくなって、モンスターに襲われて怪我をしても、アナタは心が痛まないの?」

「貴重なご意見。ありがとうございます。今後の参考にさせて頂きます。では行こうか」


 話は終わったとばかりに、つかささんは、アゴをクイッと振って俺を促した。

 確かに、彼女の言い分は正しいが、ここはつかささんが一枚も二枚も上手だったようだ。


「でも私は、アナタ達のやり方を認めない!」


 その場を立ち去ろうとする俺たちの背中に、彼女の言葉が刺さる。

俺はそれに振り返る。


「やしろくん」


 つかささんの静止を振り切り、俺は少女へと駆け寄った。


「勘違いさせちゃったのならゴメンね。でも、あの武器で怪鳥を撃退したっていうのは本当なんだ。それに、武器を持たない一般の人が、あのPRをきっかけに身を守ることに意識を持ってくれれば、モンスターに襲われた時に命を落とす人が減るんじゃないかなとも思ったんだ」

「私はそうは思わない。自分に力がないと思えば、人は戦わずに逃げるという選択肢を選ぶ。なまじ武器なんて持ってしまったら、不用意に立ち向かう勇気を与えてしまう。もしかしたら、暴漢に襲われた時に武器を奪われて、さらに危険になることだってある。それくらい、武器って危険なモノだと私は思う」

「そうだね。君の考えは正しい。君は旅人なのかい? 普通の旅人には見えないけど」


 少女のカバンをチラリと見る。よくは見えないが、何かしらの金属が沢山見える。


「私はイエッタ。実はアナタ達、人間とは違う。ドワーフなの」

「ドワーフ!」


 聞いたことはある。ファンタジー小説に出てくる奴だ。比較的小柄で、それでいて力自慢のイメージである。

 ヒゲもじゃのオジサンのイメージだったのだが、こんなに可愛い少女もいるのか。


「私の家系は鍛冶職人なの。でも、うちの作った武器で戦争をして、傷つけたり傷つけられたりする人々を沢山見てきた。私はそれが嫌だった。だから私は家を出た。世界中を旅して、武器の知識を身につけて、最高の武器を作るために。だれも傷つかない武器を作るために」

「ご立派ね」


 そこで、つかささんがやってくる。

 

「がんばんなさい。まだ若そうだし。ドワーフ? の年齢っていうのがよくわからにけど。だけど、他人の商売にでもでも言っているうちは無理だと思うわよ」

「わかってます! うるさいなぁ。もう話しは済んだんだから行きます。さようなら」

 

 彼女、イエッタはカバンを背負うと歩き出した。


「あっ、そっちは戦争してるみたいだよ!」

「大丈夫です。私、鍛冶屋ですから。武器が必要なところに行くんです」

「あっそう。気をつけて」


 さっき、武器で傷つけ合うところを見るのがイヤだって言ってたじゃん。

 そんなことを思いながら、彼女に手を振った。


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