戦場の村
俺たちはまた森の中をさまよっていた。
この森を抜ければ、また新しい温泉の村にたどり着くはずなのだが。
俺の少し後ろをついてくるつかささんは、疲れと森を抜けられないイライラから、かなり機嫌が悪い。
これで村が見つからないとなると、かなり最悪の雰囲気になる。
つかささんを休ませて、その間にその辺を探しにいくか? とも考えたが、はぐれる可能性もあるなと思うとそれも出来ない。
そんなことも考えながらトボトボと歩いていると、木の影に座る二人の男と遭遇した。
「おっ?」
「ん?」
男たちは少し驚いた様子でこちらを見る。軽装の鎧のような物を着ているため、冒険者のようにも見える。しかし彼らの手がスッと自身の剣へと伸びたところを見ると、こちらをかなり警戒しているようにも見えた。
それを見て、俺もつかささんも剣の柄を握る。場に緊張が走る。
「女連れってことは、お前たち冒険者か?」
「まぁそんなところです」
「なんでこんなところにいる?」
「なんでって、この先の村に用があって。ただちょっと迷ってはいたんですが」
「なんだそうか」
そこで男達は剣から手を離した。そこで急に緊張が解かれる。
「この先に村はないぞ」
「そうなんですか? やっぱり迷って、道を間違えたのかな」
「いや違う。村はあったんだが、無くなっちまった」
「無くなった?」
「お前ら本当に何も知らずにここに来たんだな。バンガル王国とアルマータ教国は知っているか?」
「いえ」
「それも知らないのか。じゃあ冒険者というより旅人か。けっこう遠くから旅をしてきたのか」
「まぁそんなところです」
「じゃあ教えてやるよ。どうせ暇だしな。この先にはバンガル王国とアルマータ教国って2つの国があるんだが、戦争中でな。この先の村もその争いに巻き込まれて滅ぼされてしまった」
「そうなんですか? なんで戦争なんて」
「知らねぇよ。戦争を始めるのなんて基本、国のお偉いさんだからな」
まぁわかなくもない。
「この先では今も両軍が争いをしている。巻き込まれたくなかったら、さっさと引き返した方がいい」
「どうします?」
俺はつかささんに聞いてみる。
「そうね。ヘタに巻き込まれるのも厄介だし、村がないなら行く必要もないしね。残念だけど引き返しましょうか」
「わかりました。ところでお二人はここで何をしているんですか?」
「ん?」
一瞬空気がピリつく。
つかささんも小声で「ちょっと」と言いながら俺の脇腹をつついた。
どうやらまずいこと聞いてしまったみたいだ。
「俺たちもアンタらと同じ冒険者さ。でもこの先で戦争やってるからどうしようか相談していただけだよ」
「あぁそうなんですね」
「ありがとうございました、戦争中の事を教えて頂いて。では失礼します。ほら行くわよ」
つかささんに腕を引っ張られながら俺たちは二人の下を去り、来た道を引き返した。
「俺、なんかマズイこと言いました?」
「言ったわよ。見ればわかるでしょ? あの二人がヤバそうだってことくらい」
「そうなんですか?」
「っていうか、戦場の近くで武装した男二人がウロウロしてたら相当怪しいわよ」
「あぁ確かに。でも冒険者だって」
「嘘に決まってるじゃない。2つの国が戦争してる事を知っていたのよ。じゃあ普通の冒険者なら近づかないでしょ。にもかかわらず戦場の側でこれからどうするか相談していたなんで絶対に嘘よ」
「なるほどですね」
「やめなさいよ。その新人サラリーマンみたいな返し」
いやだって最近まで新人サラリーマンだったし。
「おそらく戦争が終わった後に、死んだ兵士から武器やら鎧やらを剥ぎ取って売りさばいているか、あとはどちらかの国に雇われた傭兵ね」
「傭兵、、、」
「戦争なんてね。さっきの二人も言っていたけど、始めるのは国の偉いさんだけど、実際に戦うのは庶民か傭兵よ」
「でも国には軍隊とかありますよね?」
「正規軍なんてほとんど出てこないわよ。実際に出張ってきて死んだらバカみたいじゃない。だから庶民を徴兵する。でも庶民を徴兵すると国力が下がるじゃない?」
「下がるんですか?」
「当たり前でしょ? 庶民なんて大抵が農民。農民が作物を作らなかったら、王様だって食べる物に困るのよ。だから基本は傭兵を雇ったりする。まぁそこに庶民も参加したりはするけどね。でも傭兵だって死にたくない。だからあぁやって戦場から少し離れた場所で上手く隠れて、終わった頃に戻って報酬だけ貰う。よくある話よ。なんなら、友人同士でそれぞれの国の傭兵になって、戦っているフリだけする人だっているって」
「そんなことあるんですね。でもそれだと、ずっと決着しなくないですか?」
「そうね。だからそうやって何世代も戦争やって、気づいたら戦争そのものが産業になっていて、何のために始めたのかわからなくなっているってのもよくある話よ」
「そんなんに巻き込まれて死んだら、本当にバカみたいですね」
「でしょ? だから、さっさと別の街に行きましょう。もう少ししてちょっと落ち着いたら、地図で確認しましょうか」
「わかりました」
そうして歩いているうちに、俺たちは街道へと出た。ここへきて、どっと疲れが押し寄せる。
さっきまででもけっこう疲れていたのに、あの場から逃れるために急ぎ足で来たのだ。街道に出られて少し安心したってのもあるのかもしれない。
「とりあえずどこかに座って休みません?」
「そうね。そうしましょうか」
そこで、街道を通り過ぎる一人の少女と目が合った。
「あっ、アンタ達は!」
見覚えのない少女は、こちらを指差し大声を上げた。




