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冒険者の村②

「えっ、なんか賑わってる?」

「そうみたいね」


 たどり着いたカーランの村は大勢の人で賑わっていた。

 ただ予想外だったのが、それらのほとんどが鎧を着込み剣を携えていることだった。


「戦士、というか冒険者のようね」

「マルチもいますけどソロもいるみたいですね」

「ソロ?」

「あー、一人で旅をしている人ってことです」

「おひとり様か」

「しかしなんでこんなに多いんでしょうか。結構辺境だと思うんですけどここ。みんな温泉目当て、なんですかね?」

「さぁね。とりあえず宿に行ってみましょう。そこで聞けば少しはわかるでしょ」

「それにしても宿屋、わかりやすいですね」

「そうねぇ」


 そう。ものすごくわかりやすかった。

 小さな村の中央にデカデカと鎮座する二階建てのその木造建造物は、まるでどこかのお城のようだった。

 とりあえず俺たちはその建物へと向かった。

 村には他の冒険者が多かった為、村の中を歩いていても目立つことはなかった。

 まぁ男女ペアは珍しいらしく、それはそれで少し注目は集めてはいたが。


「いらっしゃいませ。カーランの宿屋へようこそ」


 若い女性が笑顔で出迎えてくれる。

 中に入るとエントランスがあり、むさ苦しい男の冒険者ばかりの中で一際華やかに目立っている。

 

「冒険者の方でよろしいでしょうか?」

「はっ、はい」

「当宿屋のご利用は初めてで?」

「そうです」

「ではご説明させていただきます。当館の利用は無料となっております」

「無料!?」


 つかささんと目を合わせる。無料の宿屋は初めてだ。


「当館には温泉もございます。そちらも無料で何度でもご利用いただけます」


 温泉も無料。いったいどういう仕組みなのか。


「そのかわり、当館では一人部屋から四人部屋までございまして、ひと組様ひと部屋限りとさせて頂いております」

「つまり二人組で来てシングルを二部屋とかできないと」

「そういうことになります。またお食事はすべて有料となっております。食堂でのご注文をお願いします。またそれ以外にも有料のモノがございますので室内に設置しております案内をご覧下さい」

「なるほどね。泊まるのは自由だけど食事は有料と。そこで採算を取っているわけか。みたところ小さな村だし、近くに他の街や村もない。そこでお金を落とせってことね」

「あとこちらをご覧下さい」

 

 女性が差し出した紙には絵が書かれていた。


「これって、、、」

「最近こちらの村周辺に出没するモンスター、カリカリです」

「カリカリ?」

「はい。すぐに村の作物をカリカリかじって食べてしまうのでカリカリと言われています。彼らの村への被害は大きく皆困っているのです。そこで村長よりカリカリを討伐した冒険者の方には一匹につき30ゴルカが贈られます。どうぞチャレンジしてみてください」

「僕らこの村に来る前に近くで四匹倒したんですけど、、、」

「討伐の証として死骸の持参をお願いしております。持参していただかないとこちらでも判断しかねますし、死骸がそのまま放置されてしまいますと、他のモンスターが集まってきたり腐敗が進んで虫が湧いたりしますので」

「どうしよ。取りに戻ります?」

「えー嫌よ私は。やしろくん一人で行ってきてよ」

「わっ、わかりましたよ、、、」

「おー、お前らか。村の外にカリカリの死骸を放置していた連中は」


 そう言って俺たちの後ろに現れたのは背の高いガッシリした体格の男だった。

 鎧は着ていないが毛皮で作られた服を着込み、腰には剣と棍棒をぶら下げている。

 その男は担いでいた袋をドサっと置くと口を開く。中にはカリカリの死骸が入っていた。しかし四匹よりも多く見える。


「ライリー様。カリカリの死骸をエントランスに持ってくるのはやめて下さいと、、、他のお客様もいらっしゃいますし」

「いいじゃねぇか。客なんてむさい冒険者しかいねぇって。ってこれは失礼。こんな美人なお嬢さんが。珍しい。どうです? 今夜1杯?」

「ごめんなさい。私、お酒は一人で飲むのが好きなの」


 よく言うよ。いつもベロベロになるまで飲んで俺に絡むくせに。と思いながら、おそらく彼の誘いを断る方便なのだろうと黙っている。


「あっ、ライリー様はこの村の村長のご長男で。お断りするなんて」

「いいよ。気にするな。男連れの女を本気で口説きはしないさ。挨拶だよ」


 そう言うと俺に向けてウィンクする。

 こういう仕草はどこの世界でも共通なのか。


「それよりさっきも言ったが村の外でカリカリの死骸を四つ拾った。彼らの物だろう。120ゴルカ払ってやりな。アンタらもついてるな拾ったのが俺で。他の冒険者ならそのままがめてるぜ」

「はい。ありがとうございます」


 俺たちはペコリと頭を下げた。

 

「あっ、兄さん帰ってたんだ」

「おう、トミーか」


 そう言ってやってきたのはライリーより一回り小さくひ弱な感じの青年だ。


「またずいぶんカリカリを仕留めてきたみたいだね」

「おう、俺の手にかかればこんなもんよ。でもこのうち四匹はこちらの冒険者の方のものだがな」

「はじめまして。この村の村長でありこの宿屋の店主でもあるレギーの息子のトミーです」


 彼が頭を下げるのにつられてこちらもまた会釈する。


「でも兄さん。最近またカリカリの数が一層増えている気がするんだ。一人で出かけるのは危険だよ」

「大丈夫だよ。オヤジも爺さんも腕っ節の立つ冒険者だったんだ。こんなんで死んでちゃレギーの息子を名乗れねェよ。それよりもなんでトミーは身体が大きくなんねぇんだろうな。同じ兄弟なのによ」

「俺はそういうのには向いてないんだよ」

「まぁお前の分までカリカリ倒してきてやるから心配すんな」


 ワッハッハと笑いながらカリカリの入った袋を肩に担ぐと宿屋を出て行った。

 待ってよ兄さん。と言いながら弟のトミーもその後を追う。

 それたちはポカンとした表情でその二人のやり取りを見終わると、二人でまた顔を見合わせる。


「えーと、何をしようとしてたんだっけ」

「とりあえず、疲れたんで部屋に荷物置いて温泉に行きましょうか」

「そうね」


 俺たちは受付のお姉さんから宿賃を払うどころか120ゴルカを受け取って、指定された部屋へと向かった。


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