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ずっと待ってた

「私が君のことを本当に好きだと思ってたのかい?」


「え……?でも……」


「君みたいな男らしくない人、好きなはずがないだろう?」


僕は霧島さんにそう言われている。どこからこの会話を見ているのかは分からない。

霧島さんの顔は見えないのに、霧島さんが僕を嘲笑っている事は分かって、笑い声も鮮明に聴こえてくる。


これは僕が中学生の時にされた嘘告白と同じで、同じようなことを言われたことがあった。

霧島さんが僕に嘘告白をした訳じゃないし、するような人でもないと分かっているのに。


しばらくすると、突然地面が抜け僕は落ちていく。いつまでも底は見えなくて、いつ地面に落ちるのかがわからない。

そして、ずっと落ち続ける僕を上から霧島さんが見てきていた。

その顔は、よく見えない。でも、僕はそれを見て酷く苦しくなり、目が覚める。


時計の針を見ると、まだ二時を過ぎたばかりで、朝までは遠かった。

それなのに、僕は大量の汗をかき、着ている服はびしょびしょに濡れている。

霧島さんの事を考えると、胸が苦しくなる。嫌な記憶のせいなのか、好きなのかが分からない。


結局僕は、朝まで寝れなかった。寝てしまうと、また嫌な夢を見てしまう気がして、怖かったから。



教室に入ると、霧島さんは僕に気づく。昨日の事を気にしてるのか、不安なのが見て分かった。


「坂本くん……昨日の事……あの後大丈夫だったかな……?」


霧島さんに話しかけられると、夢の事が頭によぎってしまう。

何か話さないといけないのに、話す事ができない。


黙ってただ座る僕を見て、何かを察したのか霧島さんは何も言わなかった。


授業が終わり、普段は一緒に食べるはずの昼食。

だけど僕は未だに霧島さんと話す事ができない状態で、一緒に昼食を食べるなんて出来るはずがなかった。

誘う言葉を霧島さんも言えず。様子を伺うだけで、そんな霧島さんを見ると僕も辛くなってしまう。


話しかけないと、これ以上霧島さんを悲しませるのはダメだと。

僕は理解しているのに、声を出せない。


どうしようと焦っていると、霧島さんは突然僕の腕を掴んで、僕を何処かへ連れていく。


「ちょ………!?」


動揺する僕を無視して、霧島さんはただ歩いていく。僕の腕を掴む手は、とても強い力で、少し痛くなるほどだった。

霧島さんが通る道は見覚えがあり、どこに連れて行こうとするのかは途中で分かった。


目的地に到着する。


そこはいつも僕たちが昼食を食べる時に来る屋上。

霧島さんは僕に弁当を見せ、


「君の辛そうな顔を見るのは嫌だったから……気を紛らそうと思ってね。一緒に食べよう…?」


霧島さんの顔は不安で満ちている。それなのに、僕をここまで連れてきてくれた。

僕は何も出来ないのに、話しかけることも出来ずただ彼女に迷惑だけかけてしまっているのに。


彼女の優しさを受けて、僕の中で色々な感情がぐしゃぐしゃになって、目から涙が出てきてしまう。

嬉しくて、悲しくて、ただ辛くて。


「え!?どうしたんだい!?やっぱり嫌だったかな……!?」


霧島さんの言葉に僕は顔を横に振ることでしか否定ができず、涙を止めようとしても止めれない。

そんな僕を霧島さんが抱きしめ、僕は幼い子供のように大泣きする。

僕の涙で、彼女の服は濡れてしまうのに、僕が泣き止むまでずっと僕を抱きしめてくれた。



僕は涙が出てこなくなるまで泣いて、少し落ち着いた。


「もう大丈夫かな…?」


僕の様子を見て、霧島さんも少し安心している様子だった。


「ごめん……服……」


「気にしなくていい。私は君にためにやったんだから」


「だけど……」


「君にあのまま泣かれていたら、私が悪いみたいになるだろう?それと、私のことを思うなら、そんな顔をしないで」


「うん、分かった」


僕は霧島さんの言葉に、笑顔で返すと、霧島さんも笑顔になる。


その笑顔に僕は見覚えがあった。



あれは、小学生の頃。


休憩時間になり、みんなとグラウンドで遊ぼうとしていた時、ふと一人の少女が目に入る。

少女はいつも一人で本を読んでいて、誰かと遊ぶ姿を一度も見た事がなかった。

皆が遊びに行く中、僕はその少女が気になって仕方がなかった。


本を読む姿は、幼いのに大人のような雰囲気があって、綺麗だった。


僕は勇気を振り絞って話しかける。


「ねぇ……何読んでるの?」


「え……!?」


少女は僕が話しかけた事に不思議そうにする。


「あ…えっと、聞いても面白くないと思うよ………」


「君が読んでるんだから面白いと思うんだけどなぁ」


「でも……歴史の本だし……」


「へぇ〜勉強熱心なんだね…あ、名前! まだ言ってなかったでしょ! 坂本! 坂本凛音! 君は?」


「私は……」


「そっか、いい名前だね!」


僕は時間があればその子に話しかけていた。最初は少女も戸惑っていた様子だったけど、仲良くなるのに時間はかからなかった。

ずっと一緒に居たけど、小学校を卒業して、彼女は引越しで遠くに行ってしまうことになる。


「またどこかで会おうね……凛くん! 約束!」


少女は涙を浮かべながら言う。


「うん……約束…!」


中学になってから色々あってすっかり少女の事も、約束の事も忘れていたけど。今思い出した。


きっと少女は今も僕の事も約束の事も全部覚えている。


だから今、僕の目の前にいる。僕の前で笑ってくれる。



僕の嫌な記憶。

暗闇の中で、僕の目の前には女子が一人立っている。

この女子は中学生の頃僕に嘘告白をしてきた女子だった。


僕を苦しめる原因。忘れようと思っても、どこかで出てきて、僕を辛くさせる。

だけど、あの少女は僕の手を引っ張ってここから引き離して、どこかで連れて行く。

あの少女は僕を連れて行きながら成長していく。

僕を連れてきた場所はとても綺麗で、それは嫌な記憶を消し去ってくれた。


見慣れた後ろ姿に成長した少女は、僕の方へ振り向いて、そして笑う。

その笑顔を見ると、僕の胸が締め付けられる。

僕の想いがいっぱいになって、そして溢れ始める。



「どうしたの?大丈夫……?」


僕を心配する霧島さん。心配するその顔が、何もかもが僕を好きにさせる。


「霧島さん……! 思い出した……昔のこと、何もかも……」


溢れる想いが止まらず、僕は霧島さんに迫る。

霧島さんは驚いている。僕の行動に驚いたのか、言葉に驚いたのかは分からない。


でも、言葉の意味は理解したみたいで、霧島さんは微笑んだ。


「ずっと好きだった……ずっと待ってたんだよ……?凛くん……」


「ごめん……霧島さん……僕も…好き…!」


「謝らなくていいから……来て……?」


僕が体を近づけると、霧島さんが僕を抱き寄せ、口を塞ぐ。



初めての感覚で、あまり分からない。

でも、とても甘くて、まるでスイーツみたいで、僕の中を埋め尽くす。


暫くして、やっと喋れるようになる。


「僕からしようとしてたのに……」


「ごめんね?折角君からしてくれようとしてたのに。でも、こっちの方が性に合ってるからさ」


「まぁ別にいいですけど……」


僕が勇気を出したのに結局彼女にされるままになってしまった。


「凛くんはこれから大変になるかもね。私と付き合う事知られちゃったら」


「内緒にできないの?」


「それは……無理だな、それに告白されるの面倒だからね」


これから少し騒がしくなってしまうかもしれない。

でも、そんなことよりも霧島さんと二人で居れることの方が嬉しかった。


「そろそろ教室に戻らないとね?」


「もうそんな時間なんだ……」


過ぎる時間の速さに僕は少し驚くけど、それ以上に驚く出来事が起こる。


「…っ!?」


霧島さんが僕の口を突然塞ぐ、霧島さんが僕の中に入ってくる感触が嫌と言うほど感じれた。


「ちょっと……急になんですか……」


咄嗟のことに僕は少し照れながら、霧島さんに聞く。


「勇気出してくれたご褒美だよ。あ、今度は凛くんからしてもらおっかな?」


霧島さんは僕をからかう。その顔はとても嬉しそうで、楽しそうにしている。


「……! 早く戻らないとチャイム鳴りますよ!!」


僕は霧島さんの言葉に照れるのを誤魔化すように話題を変える。

午後の授業は、ずっと隣にいる霧島さんの事が気になって全く話に入らなかったけど、僕はずっと幸せな気持ちだった。

これで完結。でも正直展開早くしすぎたので、適当な日常を別で書くかもしれません。


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