大丈夫だから
僕は霧島さんにこの前の体育祭の事をからかわれていた。
「まさか恥ずかしすぎて倒れるなんて思わなかったよ。凛音くんって意外と照れ屋なんだね」
「そりゃ霧島さんにお姫様抱っこされるなんて思ってなかったですから……あと、名前で呼ぶのやめてくれません?あんまり自分の名前、好きになれないんで……」
「ふむ、体育祭の時も名前で呼んでたんだけど、急にどうして?」
「え、呼んでましたっけ……?」
「呼んでたさ、てっきり名前呼び許してくれたのかと思ってたけど、気づいてなかったんだね」
霧島さんと話している時、霧島さんが微笑む。僕はその微笑む姿を見て、少し変な気持ちになる。
「どうしたんだい? 大丈夫?」
「えっ!?いや、大丈夫!」
「………ねぇ、坂本くん。こんど君の家に遊びに行っても良いかな?」
「え……どうしてですか?」
突然の話に少し戸惑ってしまう。
だって、女子を家にあげる事なんて人生で一度もなかったから。
僕の戸惑う反応を見て、霧島さんは少し悲しそうな顔をする。
「やっぱり………迷惑かな……?」
「いや!全然大丈夫です……!」
あんな顔をされたら、とてもじゃないけど断れなかった。
笑ってるけど、笑ってるだけ。その奥には本当の想いを隠してる。
僕のことを考えてるけど、僕は霧島さんが嘘をついてるかがなんとなく分かるから意味がない。
嘘をついて、自分を隠す彼女の姿を見たくなかった。
僕が大丈夫と言うと、霧島さんは
「ありがとう」
と言い、心の底から嬉しそうな笑顔を見せる。
その笑顔は僕を不思議な気持ちにさせて、霧島さんの事しか考えれないようにさせていく。
授業も終わり、霧島さんと一緒に僕の家に向かう。
「坂本くんの家で遊べるなんて、楽しみだな……」
「僕の家ってそんなに気になります……?」
「私は好きな人の事はなんでも気になるよ。君は違う?」
好きと言われて僕の体が一瞬反応する。今までなんともなかったのに。
「……そもそも好きになる事があんまりなかったですから」
「……!すまない…軽率な発言だった……」
霧島さんはやってしまった!という反応をし、僕に謝る。
その反応が余計に僕を傷つける事に、彼女は気づいていない。
「謝らないでくれます…?余計に辛いですから…それに、霧島さんが気にする必要ないですよ!」
「そうか……」
僕が気にしなくても良いと言っても、霧島さんの表情は暗いままだった。
当たり前だけど、霧島さんは完璧な人に見えるだけで、完璧な人というわけじゃない。
頭も良くて、運動も出来る。更に優しいなんて完璧に見えるけど、優しすぎる。
人を傷つけてしまった時、彼女はそれを引きずってしまう。
そして、その反応が僕を辛くさせる原因だった。
「霧島さん……僕のこと、本当に好きなんですか?」
「え……?それは当然だろう……!?」
「だったら、そんな反応しないでください。僕が悪い人みたいになるので、笑顔でいてください。」
「ははっ、君らしくないことを言う……」
「霧島さんが思ってるほど、僕って優しい人じゃないですから」
まだ引きずってはいそうだけど、僕の言っている意味を理解したのか、いつもの霧島さんに戻った。
そんなことを話していると、ついに僕の家に着いた。
「ただいま〜」
「お邪魔します……」
家にあがると、霧島さんの存在に気付いたのか、姉が急いで僕達の方に来る。
「えっ!?凛音、その人……」
「僕の友達の霧島さん。」
「霧島理香と言います。急に来てしまって申し訳ありません。」
「へ〜……そっか!あ、私の名前は美咲。弟と仲良くしてやってね!」
「もちろんです!」
僕に対して言ってる言葉じゃないけど、仲良くするのはもちろん。と言う反応を聞いて、僕は少し嬉しくなる。
「あ、凛音? 母さんは今日帰ってこないらしいから」
「分かった。じゃ、行こ? 僕の部屋、案内するよ」
そう言って霧島さんを僕の部屋に案内する。普段通りを装ってるけど、僕は緊張で胸がいっぱいだった。
(変な部屋だと思われたらどうしよう……)
女子を自分の部屋に連れて行くなんて事今までなかったため、自分の部屋が女子にとってどんな印象なのか分からなかった。
「ごめんね…汚いかもだけど…」
そう言って部屋の扉を開ける。
どんな反応が返ってくるのか気になって仕方がなかったけど、僕が思っていたような反応はなかった。
「凄いじゃないか……!?これ、全部自分で配置決めたのかい!?」
「え、う…うん…」
「いいなぁ……羨ましいよ。その、私はこういう事が苦手でね、私の部屋はあまり綺麗とはいえないんだ」
恥ずかしそうにしながら言う霧島さん。僕は、そんな霧島さんの姿を見ると不思議な気持ちがまた僕を襲う。
「君と結婚したら、私の部屋はあっという間に綺麗になるんだろうね」
「け、結婚…!?」
結婚という言葉に思わず反応してしまうと同時に、不思議な気持ちが徐々に僕を埋め尽くし、次第に溢れ出しそうになってくる。
霧島さんは僕の反応を見て少し驚いたが、すぐに僕をからかってくる。
「坂本くん…?どうしたんだいそんな反応をして。もしかして、私の事好きになっちゃったのかな?」
霧島さんはいつもの様にからかわれてる事に怒りながら否定する反応を待っていたのかもしれないけど、今の僕にいつもの反応をする事は不可能に近かった。
「そうかも………」
「えぁっ!?」
霧島さんは意外な反応が返ってきて変な声をあげる。
恥ずかしくて霧島さんの顔は見れないけど、霧島さんもずっと黙ってしまった。
二人の空間は、ただただ静かで、時間だけが過ぎていく。
この静寂をどうにかしようと、話しかけようと思っても恥ずかしくてそれが出来ない。
恐らく霧島さんも同じだったのだろう。
「なぁ……さっきの事……」
「私の事、好きかもって言ってたけど……本当に?」
霧島さんは様子を伺いながら僕に話しかけてくる。その言葉は、期待があると同時に少しの不安も混じっていた。
「分かんない……けど、霧島さんを不思議な気持ちになって……一緒に居たいって思った…」
僕の返しは中途半端で、曖昧だった。でも、そんな言葉を聞いた霧島さんは、微笑んで、僕に迫る。
「私が教えてやる……それはきっと……好きって事だ。」
僕の気持ちを、霧島さんに言葉で表される。僕はそれに半信半疑だった。
女子と話す事が怖かった僕が、恋をする事が本当にあるんだろうか。
何かの間違いなんじゃないか。そう思ってしまう僕に、霧島さんは言葉で押しきろうとする。
「私の事が好きなら、両想いじゃないか……だったら、付き合わない理由はないだろう……?」
霧島さんは話しかけながら、僕に徐々に迫ってきて、次第に僕を押し倒した。
その勢いは、危なっかしくて、でも受け入れてしまう。
そんな僕がいる事に気づいて、僕は霧島さんの事が好きなんだと確信した。
「霧島さん……!」
「私と付き合おうじゃないか……凛音……!」
霧島さんの顔は、僕の顔の目の前にあり、それは吐息の暖かさが感じれてしまうほどだった。
あと数秒も経てば、僕の口は彼女の口で塞がれてしまう。そんな状況で、僕の頭には嫌な光景が見える。
霧島さんが僕を遊びだったと言って、僕を捨ててしまう。そんな辛い光景だった。
僕と霧島さんの距離を保つ様に脳裏にそんな光景が浮かび、僕は耐える事が出来なかった。
「やめてっ……!!」
「凛音……?」
霧島さんを避けてしまう。決して嫌いな訳じゃない。
むしろ僕は霧島さんの事が好きだったはずなのに。
でも僕の想いよりも捨てられてしまう恐怖が強く、体の震えが止まらなくなってしまう。
そんな僕を見て、霧島さんは不安そうにする。
危険物を扱う様な手つきで、優しく震える僕の体を抱きしめた。
「不安なんだろう……?大丈夫…私は君を裏切ったりしないから……!
霧島さんの言葉はとても暖かった。
でも、霧島さんに迷惑をかけてしまっている自分がただ情けなくて、自分が嫌になった……
これから不定期に更新していきます。
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