どうしたんだい?
「はぁ……どうしよう………」
屋上で二人きり、昼食を食べていたが今日はあまり良い気分ではなかった。それに霧島さんも気付いたのか少し心配そうにしている。
「どうしたんだい?そんなに悩んで、ほら、私に話して?」
「いや、別に大したことじゃ……」
「話して?」
霧島さんは僕に対してだけはいつも強引にしてくる。僕が断ろうとしても、そうさせないように話を遮り、圧をかけてくる。
「姉と喧嘩したんです……どうやって仲直りしようかなって……」
「ふむ、珍しいね。君は優しい人だから喧嘩をするなんて思わなかったよ」
「いや、霧島さん僕とそんなに話してないのになんで知った風なんですか……」
「で、なんで喧嘩したんだい?」
「それが……」
「凛音、高校は大丈夫か? 悩んでることあったら姉ちゃんになんでも言ってくれよ」
「お姉ちゃん……別に大丈夫だし……ていうか何回同じ事言ってるの。そんなに僕が駄目そうに見える?」
「私はお前のこと心配してるんだぞ? だって中学の時に……」
「その事言うのやめてくれる……?余計なお世話なんだけど……!」
「はぁ!?私がせっかく心配してやってんのに何だよ!」
「だからそれが余計なお世話だって言ってんじゃん!」
「はぁ?大体凛音はいつもいつも……」
「って言う感じで……心配してくれてるのは分かってるんですけど、そんなに僕が頼りないのかなって思っちゃって……」
「君はそれが嫌なのかな?」
「まぁ……少し嫌です……」
「なら今の自分について教えてあげれば良い。高校でどうしてるか話して、君を心配しなくてもいいようにすれば良い。ほら、例えば私との事について話せば丁度いいんじゃないか?」
「けど喧嘩しちゃって話しかけるのも少し……」
「お姉さんが心配する気持ちを君に話しただろう?それと同じように、君が心配してほしくないという気持ちをお姉さんに話せば良い。」
霧島さんは僕の悩みにちゃんと答えてくれる。少し自信が付いてきたら、霧島さんが突然
「そうだ、私を君のお姉さんと思って練習してみないか?そうすればきっと仲直りもうまく出来ると思うんだけど、どうかな?」
「はい!?」
僕が何を言っているのか理解する時間も与えずに、霧島さんは立ち上がり
「さあ、私は今から君の第二のお姉ちゃんだ!その胸に秘めた想い、私にぶつけるがいい!」
「あの、霧島さん………別にもう大丈……」
「ぶつけるがいい……!」
多分霧島さんは僕に何かして欲しいんだろう。話を聞いてもらったし、少し恥ずかしいけどお礼だと思ってする事にした。
「ねぇ……お姉ちゃん……」
「何?凛音」
霧島さんの言葉遣いは姉に似ていて、霧島さんと分かっているのに、姉と話してる気分になる。
「いや、この前高校のことでちょっと喧嘩しちゃったでしょ……?」
「その、心配してくれてたのに、ああいうこと言っちゃって、ごめんなさい……」
「気にしなくていいよ……でも、ちゃんと謝れて偉いな、凛音」
そういって霧島さんは僕は抱きしめてくる。
「……霧島さん。もしかしてただ抱きしめたかっただけなんじゃないんですか……?」
「いや、これも演技の一つだよ、姉が弟にこう言われると抱きしめたくなるものだろう?」
「僕の姉がそんなことすると思います……?」
「……まぁ、する日もあるんじゃないか?」
霧島さんは平然としてるけど、そこには少し動揺が混じっている。恐らく僕はただ抱きしめる口実でも作ったんだろう。
「霧島さん!僕は真剣に悩んでたんですよ!」
「すまない。なら、最初からやろう。」
「もうしません!!」
霧島さんは怒る僕を笑いながら宥める。
霧島さんはいつも余裕で完璧な人で、決して冗談は言わない人だった。その姿は完璧で、みんなの理想の人そのものだった。
だけど僕の前では少しだけ、冗談を言う。それは、僕で遊んでいるのか、僕の事が好きだからかは分からない。でも、僕にだけ見せる霧島さんの姿は、とても輝いて見えた。
「ただいま……」
「……おかえり」
「お母さんは?」
「さっき買い物行った」
「そう……」
家に帰ると普段いるはずの母は買い物に行っていて、姉しかいなかった。いつもだと母がいて、姉と僕が喧嘩していても母が明るく話すからこんな静かになる事なんてあり得なかった。
でも、仲直りするところを母に見られるのも僕は少し恥ずかしかった。だから母がいない今のうちにとそう思った。
「お姉ちゃん……?」
「何、凛音」
「その、ごめん……」
「何のこと?」
姉はそっけない態度を取る。
「この前の喧嘩のこと……お姉ちゃん、心配してくれてたのにあんなこと言っちゃったから、謝らなきゃって思って……」
「でも!僕もずっと心配されると……その、僕が頼りないのかなって思っちゃってあんまりいい気分にならないからさ……気にしないで欲しいなって」
「……たしかに、私もお前のこと考えてやれてなかった。ごめん」
「もう怒ってない……?」
「凛音が謝ったのに私が怒っても仕方ないじゃん。はい、仲直り」
姉はそういうと小指を立てて僕の方に向けてくる。僕が小指を立て、掛けようとすると、姉は咄嗟に手をさげ、僕を引っ張る形で抱き締めてくる。
「は!?ちょっ…お姉ちゃん……!?」
「謝ってくれて、お姉ちゃん嬉しいよ!偉いなぁ!凛音」
「からかわないでよ……!割と本気だったのに……!」
姉から離れようともがいていると、母が帰ってきて、僕たちの様子を見られてしまった。
「あんたら何してんの?」
「母さん聞いて!凛音が凄い可愛いんだから!」
「お姉ちゃんやめて………!」
何とか姉から逃れたと同時に、霧島さんの演技と姉の発言が凄く似ていた事に気づいて、僕は少しだけ霧島さんの事が怖くなった。
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