仕方ないだろう?
僕は昨日の事を忘れられずにいた。
突然の告白、それも霧島さんからの。その出来事は家に帰ってからも脳裏に焼き付いて、今も離れずにいる。
完璧な彼女が、隣の席に座ってから初めて喋ったはずの僕のことをいきなり好きだと言ってくる。正直何か裏があるんじゃないかとそう考えてしまう。そんなことを考えながら、僕は教室の扉を開けると、女子が霧島さんを問い詰めていた。
「ねぇ!告白したって本当!?」
「相手は誰!?どうだったの!?」
「相手は申し訳ないけど言えないな……それに結果はダメだったよ……」
「嘘!?霧島さんをフったの!?相手の人彼女いたの?」
ずっと僕の席の周りで話す女子たち、座れずに困っていると霧島さんが僕に気がついた
「君たち、そろそろ先生も来るから、席についた方がいいよ」
「はーーーい」
霧島さんが言うと、女子達は自分の席に戻って行く。そして霧島さんは小声で僕に話しかけてくる。
「ごめんね……彼女達、どこからか告白の噂を聞いたみたいなんだ。でも、誰かはバレてないから大丈夫だよ。」
「そうなんだ……」
霧島さんは平然としている。隣には告白をした相手がいて、そして告白を失敗したことをみんなに知られているのに。
自分だったら告白したところを見られるだけでも恥ずかしいのに、彼女はその素振りを一切見せない。まるでそんな事最初からなかったかのようにしていた。霧島さんのその姿は完璧に見える。でも、僕からはどこか底が見えない。暗闇があるようで少し不気味だった。
授業のチャイムがなって授業が始まったが、僕は隣が気になって仕方がなかった。
授業が終わり、昼食の時間になった。
皆それぞれ購買で買ったものであったり、持参した弁当を食べている。自分も持参した弁当を食べようと鞄を確認するが、中には弁当が入っていない。どこを探しても鞄の中に弁当は入っていなかった。
「忘れてきちゃった……」
購買で買うお金も持ってきていない。今日は食べずに過ごすことになると思っていたとき、霧島さんから声をかけられる。
「坂本くん、もしかしてお弁当忘れてきたのかい? よかったら私のを分けてあげるよ」
「けど、いいの………?」
「勿論だよ、何も食べずに放課後まで過ごすのは大変だろう?」
「じゃあ……ちょっとだけ……」
周りの男子からの視線があるので、少しだけもらって乗り切ろうと考えていたのだが、その考えは霧島さんによって全て砕かれてしまった。
「じゃあ、口開けて、あ〜ん。」
「………!?」
霧島さんの言葉で教室にいたクラスメイトの殆どがこちらの方を向く。僕は咄嗟に小声で霧島さんと話す。
「ちょっと……!何言ってるんです……!!」
「仕方ないだろう?君に素手で食べさせるわけにはいかないし」
「自分で取って食べればいいじゃないですか……!」
「私だってお腹は空いてるんだ。それに、私は君に分けてあげてるんだ、素直に言うことを聞いた方がいいと思うよ? じゃなきゃ………ね?」
霧島さんはほぼ脅しとも言える言葉で僕を黙らせ、僕の目の前にご飯を見せつけるように持ってくる。
「ほら、あ〜ん」
「あ……あ〜ん……」
霧島さんは恥ずかしそうにして食べる僕を見てにやける。そして、周りの男子からは今にも殴られるんじゃないかと言わんばかりの圧があるにも関わらず、霧島さんは一切気付いていない。
「坂本のやつ………霧島さんに食べさせてもらってるぞ……!」
「なんてずるいやつなんだ………!」
「ねぇねぇ、あれ見て……!坂本くんと霧島さんのあれ……!めっちゃ可愛くない……!?」
「坂本くんって意外と可愛い顔してるよね……!」
みんなが見ていることに霧島さんも気が付いて、少し考える素振りを見せる。やめてくれると思ったが、弁当から食材を摘むと、僕の方に持ってくる。
「はい、あ〜ん」
「やめてくれるんじゃなかったの……!」
「ん〜? 何の事だ?」
「みんな見てるのに気づいたからやめるんだと思ってたんだけど………」
「気づいてるよ、見せつけてるんだ」
「……え?」
何故か見せつけるのか分からずに、聞こうとした時だった。
「ほら、いらないの?唐揚げ、好きだったと思ったんだけど。違ったかな?」
「あの……なんで……」
「じゃ、食べちゃおっかな〜?」
「ねぇ………!」
「いただきまー……」
「食べりゅから待って!」
………噛んだ。
「……そんなに食べたかったの?」
ただでさえ恥ずかしいのに、それをからかわれ余計に恥ずかしくなる。しかも霧島さんの方を見ると噛んだ僕を見て笑いを堪えている。
「やっぱいい……」
「ああ、すまない!ほら、あげるよ。少しからかいすぎたね」
「いらない……!」
拗ねてしまった僕を必死に慰める霧島さん。結局唐揚げは食べたが、とても自分好みの味で美味しかった。
「坂本くん、私は本当に悪いと思ってるんだよ。申し訳ないと………」
「別にいいですよ……」
「でもその様子は……」
「別にいいって言ってるじゃないですか!」
ずっと僕の機嫌を直そうとする霧島さん。僕も少し意地になってしまっている所もあった。ずっとこんな話を続けながら帰っていると霧島さんの様子が変わる。
「私はダメな人だな……君に嫌われる事をしてしまった……」
「え……?」
急に落ち込む霧島さん。何を今更なんて思ったりもしたが、流石に落ち込む姿を見ると少し焦ってしまう。
「そんな落ち込まなくても……僕も意地になっちゃってたし……」
「でも私は……」
そう言うと涙を浮かべ始める霧島さん。正直完璧な霧島さんがこんな表情をする人だと思っていなくて動揺してしまう。
「そんな顔されたら僕が悪い人になっちゃうじゃないですか…!僕が悪いですけど……ごめんなさい……」
「私を許してくれるのかい……?」
「許しますから……!泣かないでください!」
「ふふっ、良かった。君に嫌われたら私は生きていけないからね。」
急に何事もなかったかのようにする霧島さん。さっきまであったはずの涙は、とっくに見えなくなっていた。
「私、実は演技も出来るんだよ?知らなかった?」
突然言われた言葉。それが何を意味するかはすぐに理解できた。僕がそれを怒ろうとすると霧島さんは遮って話す。
「あ、そうそう。今度のお弁当には何が欲しいかな? なんでも言ってくれ、用意するよ」
「え? 別に用意する必要は……」
「君が忘れたときに、分けられるようにね。だからいつでも忘れてもいいんだよ?」
「…………。もっと唐揚げが食べたいです…」
「ふふっ、分かった。次は増やしておくよ。」
そして翌日、僕はまた弁当を忘れ、霧島さんに分けてもらうことになった。
「霧島さん…その、弁当忘れました……」
「……なら、一緒に食べよう。今度は箸も二人分持ってきたよ。」
僕が忘れたと知った時の霧島さんの表情はとても嬉しそうだった。
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