高嶺の花
「好きです!俺と、付き合ってください!」
「すまない、私、好きな人がいるんだ。だから、それはできない。」
窓から見える告白現場をクラスのみんなは覗いている。告白し、そして撃沈していく瞬間を。
「また一人、撃沈したな〜」
「あいつでもダメなのかよ……」
「好きな人って誰なんだろうな〜めっちゃ羨ましい。」
「きっと俳優みたいにかっこいい人なんじゃない?」
「ただの断るための口実じゃない?」
霧島理香、なんでもできる優等生。美人で、成績優秀、運動神経も良く、さらには人付き合いも良い完璧な人。学級委員長としてクラスを代表している。いわゆる高嶺の花というやつだ。
あまりの美貌に別の高校の生徒から告白されていたなんて情報もある。もちろん断ったらしいが。
彼女の黒髪のポニーテールはその美貌をさらに輝かせ、言葉遣いも合わさり大人びた雰囲気を作っていて、学校の男子全員を虜にする程だった。
けど、そんな彼女を僕はあまり好きにはなれなかった。
僕は自分の事が嫌いだった。男として生まれてきたのに顔は女の子っぽく、名前も凛音と男らしい名前じゃない。
しかも中学生の時に嘘告白をされてしまい、以降女子と話すのが怖い。高校になってやっと話せるようになったくらいで、恋愛なんて出来るはずがない、
そんな自分の数少ない取り柄で常に一位だった学力も霧島さんに負けてしまう。
何も無い僕に対して霧島さんは全てを持っていて、羨ましかった。
全てを持っているのに、学校トップクラスのモテ男からの告白を断る霧島さん。
決して彼等の性格が悪いわけでもないのに断る。好きな人がいるならさっさと告白すれば良いのに、霧島さんはそうしない。
きっと霧島さんは自分に告白をさせ、そして断る。そんな事をして遊んでいるんだろう。そう思うと彼女の事を好きになるなんて有り得なかった。
(結局あいつもそういうやつなんだろ………)
そう思っていると霧島さんが教室に戻ってくる。先程まで告白現場を覗いていた奴らは全員何事もなかったかのようにしていた、気味が悪いほどに。
そして授業が始まると、先生は席替えを行うと言い、クジを引かせる。男子達は霧島さんの隣を引こうと躍起になっている。
順番にクジを引き、ついに僕の番が来た。誰が来てもどうせ変わらない。そして引くと、一番後ろの隅っこの方だった。あまり目立たない場所で運がいいと思いながらクジの机に向かうと、その隣には霧島さんが座っていた。
「あっ、坂本くん。もしかして隣かい?よろしくね。」
「えっ…あ、よ…よろしく…」
よりによって一番引いてはいけない場所を引いてしまった。霧島さんの言葉に皆の視線は一斉に僕の方に向く。
そしてくじ引きが終わると、どこからか
「坂本ってあまり目が良くないから前の席の方がいいんじゃないか?俺の場所と交換しようぜ!」
前の席に座っている男子からそう言われる。その言葉が善意で言われた訳ではないと分かっていたが、僕にとっても都合が良かった。返事をしようとすると、霧島さんが立ち上がり
「私が何書いてあるか教えるよ、だから心配しないで!」
「あ……霧島さんが言うんなら大丈夫か!」
僕の言葉を遮り、霧島さんはそう返す。男子も霧島さんの言葉だからか、すぐに引き下がってしまった。引き下がったのを確認すると霧島さんは座り、小声で
「ねぇ、この後時間ある?話があるんだけど。」
「え……?いやえっと……うん……」
「そっか、じゃあ放課後でね。」
ただでさえ隣の席になってしまって男子からの視線が凄いことになっているのに、霧島さんにまで呼び出されてしまい、緊張で塗り潰されていく。
(どうしよう……………)
そして放課後になった。
「それじゃ、ついてきてくれるかい?」
「う、うん…」
そう言われ付いていくと、そこは人目のない校舎の裏だった。何かされてしまうんじゃないかと不安の中、霧島さんは僕に近づき
ドンッ!
「…………え?」
僕が横を向くと横には壁を突く霧島さんの手があった。困惑している僕を置いて、彼女は
「君の事がずっと好きだったんだ。良かったら私と付き合ってくれないかい?」
「え………?」
突然の告白に咄嗟に下を向いてしまう。まさか好きな人が自分だったなんて思ってもなかったからすると霧島さんはすぐに僕の顎に手をやり、無理矢理上の方を向かせる。
無理矢理向かせられた方には霧島さんの綺麗な顔があり、ずっと僕の方を見てくる。
「地面じゃなくて私を見てくれ。」
「ちょっと………やめてください………」
「なら答えを聞かせてほしい、告白の返事。」
顔を直視できず逸らし、やめてと言うと本題に引き戻される。
「………ごめんなさい。付き合えません……」
「………理由を聞いてもいいかな……?」
付き合えないと言うと、霧島さんは理由を聞いてくる。
「だって、さっき初めて喋ったんだよ……?それなのに急に好きって言われても……」
「それに僕。昔、嘘告白された事があるんだ……それで、女子と話す事が怖くなっちゃって、だから……付き合うのは難しい。」
「私が嫌な訳では無いんだよね……?」
「別に嫌って訳じゃ無いけど……ちょっと羨ましい……」
「羨ましい?」
「だって霧島さんは僕が無いもの全て持ってるから……僕は何も無いし……」
「そんな事ないさ、坂本くんは色々持っているよ。君がいたから、今の私がいるんだ。」
「けど、ならまだ私にも可能性はあるって事だよね?」
付き合えない事情も話したのに、霧島さんは諦めようとしない。
「可能性って……僕は女子と付き合う事自体……」
「私が君を女の子と付き合えるようにする。そうすれば、私とも付き合えるだろう?」
「どういうこと……?」
「君が嘘告白された事で女の子と付き合う事ができないなら、私が君のその辛い過去を楽しい思い出で塗り替える。だから、もし辛くなくなったらもう一度答えを聞かせてほしい。」
「うん………」
いきなりの言葉に、僕は頷いてしまった。これから霧島さんが僕に色々仕掛けてくるなんて、想像してなかったから……
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