遠く、けれども近い泡沫の夢。
遠くからあの音色が聞こえてくる。
優しくて、君らしい旋律が。
「おーい。ーー!」
「あ! ーーくん!」
「あの曲できたのか?」
「まだ未完成だけどね! 聴いてみて!」
夏の夕暮れ。大人になりたくて背伸びをした僕達。ひぐらしの鳴き声。時折吹く、優しい冷たさの風。まるで世界に僕達しかいないような、そんな感覚に包まれる。
「……どうだった?」
「すごいじゃん! これのどこが未完成なんだ?」
「まだ曲名を考えてないから……」
「ーーくんがつけて?」
「……『あの夏をもう一度。』とかどうだ? あぁ、でもヴァイオリンの曲名っぽくないか?」
「ううん! とっても素敵!」
「そうか……よかった。」
「……きっと、これからも一緒にこんな夏を過ごせたらいいね。」
「待ってるよ、私。この丘で、ずっと。」
そういうと君は柔らかく笑った。
「しばらく会えないけど、夏には戻ってこれるから。……じゃあな。元気でな。」
「うん……あ、そうだ。ーーくん、これ。」
そういうと君は、いつもつけていたペンダントを外す。
「ーーくんにあげる。大袈裟かもしれないけど、お守り。」
「……ありがとう。」
「俺からもお守りだ。ーーの病気が良くなるように。」
右手につけていた指輪を渡す。
ーーが幸せになりますように。
光がさしてくる。
あたたかい光が。