転移者と黒猫
「またここからですか」
自分の周囲しか視界が効かない辺りは真っ暗な場所で、1人の男性が項垂れる様に呟く
『死んだからしょうがないにゃ』
1人の男性の傍に黒猫がいた
その声の主は、その猫の様だ
「まさか、あんな上層の隠し扉の向こう側にドラゴンがいるなんて聞いてないっ!!」
男性が黒猫に視線を向けながら大声で叫ぶ様に言う
『声が大きいにゃ
その大声で一度死んでしまったのに、もう一度経験したいのかにゃ?|』
黒猫が何か呆れた様な声で言ってくる
「ぐ・・・それは嫌だ」
男性は心底嫌そうな表情を浮かべつつ応える
『ならば、さっさと移動するにゃ』
黒猫がそう喋ると、すたすたと歩きだす
「ちょいちょい!
向こう側にポーションあったよね!?」
男性がその方向に指を指しながら尋ねる
『六回も同じ罠にハマって、六回死に戻っても懲りないかにゃ?』
黒猫は立ち止まり、振り返りながら喋る
「七回目からは取れるかも|」
男性が何か決め貌をつくって応える
『・・・』
黒猫は、人間の様にため息を一つ吐くと、無言ですたすたと歩いていく
「いや、普通取りに行かせてくれてもいいんじゃないかな!?」
男性はそう言いながら視界が効かない中、慌てて黒猫の後を追う
灯りもない足場の悪い中なのに、その男性はまるで歩きなれているかの様にだ
その後、黒猫と男性は真っ暗な場所を歩き続けると、ある場所に辿り着いた
そこの床には青白く輝く魔法陣が描かれていた
「まじか!
やはり最初からか!!」
男性は大げさに頭を抱えながら呻く様に呟く
『いい加減にその反応はやめるにゃ
こっちは飽きるにゃ』
黒猫がうんざりした様に喋る
「飽きるって・・・こっちだって好き好んで昨今のネット小説の死に戻りや死にゲーみたいな事してないから!!
そもそも、こんな事になっているのはたまたま牛丼屋に寄ってお持ち帰りしようと帰る時に、
携帯いじっていた他の客と接触し、その携帯を落とされて丁重に謝ったのにガチキレされて
殴り殺されたからだよ!!」
男性が黒猫に視線を向けながら告げる
『それは何回も聞いたにゃ ほれ、さっさと行くにゃ』
黒猫はそう喋ると、さっさと魔法陣が描かれている中に入っていく
ほんの数秒もしないうちに、その姿は煙の様に消えた
「何か段々と雑な扱いになっているような
ネット小説なんかでは、こんな雑な扱い受ける様な主人公なんていない」
男性はぼそっと呟くと、同じように魔法陣の中に入っていく
身体がむずむずするような感覚と共に、魔法陣の先に広がっていた風景はどうやら地上の様だった
「やっぱ娑婆の空気はうまい」
男性は軽く背伸びしつつ言う
『よく同じ様な事言えるにゃ
何回も『転移魔法陣』を使用してるによく言えるにゃ』
黒猫は呆れつつも喋る
「これは決まり事」
男性が応える
『はいはい・・
それよりも今回はどうするにゃ?』
黒猫が質問してくる
「・・・マジでどうしょう
夜間まで待って、デュラハンにリベンジを挑むか、それとも奴隷商人を襲撃する
義賊に倍返しするか」
男性が何か考える様にぶつぶつと言う
『大人しく街に行くにゃ』
黒猫がそう喋ると、再びすたすたと歩いていく
「尋ねといてそれはないんじゃないかな!?」
男性は急ぎ足で後を追っていく
黒猫と男性がいた洞窟は、深い森に入った所に存在していた
真昼でも暗い森の中、黒猫と男性はまるで来たことがあるかのように歩いている
「やっぱ、この現世界の私服だと歩きつらい・・・
死に戻るとアイテムが全部パーになるのは泣きたい」
男性は、本気で泣きそうな表情を浮かべつつ言う
『死んだのが悪いにゃ
嫌なら死なない事にゃ』
黒猫が喋りながら、男性の少し前を歩く
そして、しばらく歩いていると突然立ち止まった
「なに? どうした?
何かヤバいのいる!? 」
男性が辺りに視線を走らせながら尋ねる
『少し離れた所に野営している武装した盗賊がいるにゃ
今回はどうするにゃ?
それと、何で何回もそんな反応するかにゃ・・・』
黒猫がそう喋る
「なんだ盗賊か・・・ そりゃもちろん!!
スルーします!!」
男性が即答する
『本当にそれでいいのかにゃ?
街に着いても、お金が無いと宿屋にも止まれないし、食事もできないにゃ?』
黒猫がそう喋る
『ぶっ殺して金毟りに行ってきます!!』
男性が言い直した様な口調で応えると、指を鳴らしまるで野営している場所を最初から把握しているかのように|、歩いていく
『そっちは逆にゃ
何回も死に戻っているのにいい加減に道を覚えたらどうかにゃ?』
黒猫が喋る
「物覚えが悪くてすんません!」
男性がそう応えると、正しい方向に向かって歩いていく
そこから四十メートルほど進んだ先に、薄汚れた衣装を身に纏いギラつく野獣の様に輝きすら
放っている眼をした6人ほどの集団がいた
明らかに真っ当な人間という風貌ではない事が一目でわかる
「なっ!?」
その中の1人が男性の薄暗い森の中から、突然現れたように見えた男性の姿を発見し、驚きながら
横に置いていた剣を掴みつつ立ち上がる
残り5人組も立ち上がり、それぞれの武器を持とうとした
だが、それでは何もかも遅すぎた
「というわけで、お金毟り取らせてもらいますっと」
男性は静かに告げ眼をスッと座らせると、電光石火の速さで最初に気づいた薄汚れた男性に詰め寄る
「な」
恐らく何者だと言おうとしたのだろうが、その前に男性の拳が腹に叩き込まれていた
その一撃で軽々と大木まで軽々と吹き飛ばされる
「おめえっ!? 何しゃ」
2人目の薄汚れた男性が叫ぶ様に途中まで言った
全部言い終える事が出来なかったのは男性の眼も醒める様な回し蹴りが、薄汚れた男性の側頭部に
決まったからだ
頭蓋骨を割られた薄汚れた男性が白目を剥き、蹴られた衝撃で頭から地面に倒れ込む
残り3人は慌てながら、奇声を発しつつ狂った様に剣を振るう
一振り一振りが狙いすましているのだが、男性は木の葉の様にひらりひらりと躱す
回避を上手く織り交ぜつつ薄汚れた男性達にに肉薄すると、それぞれの相手の左右の顎に
閃光の様なダブルパンチを打ち込む
痛ましい顎が砕ける音が響き、それぞれが大木がある所まで吹き飛び、したたかに背中を打ち付けた
「こっちは経験を積んでいるんでね 余裕なんすわ」
男性はすでに絶命しているであろう盗賊達に視線を向けながら言う
『良く言うにゃ
四回も返り討ちにあって死に戻った癖にカッコつけすぎにゃ』
いつの間にか来ていた、黒猫が喋る
「それを言うのはやめてもらえないかな!?」
男性は引きつる様な表情を浮かべつつ応える
『勝てなきゃ、今まで死に戻った経験が全て無意味にゃ』
黒猫がそう喋る
「もうやだ、このリアル死にゲー・・・
本当にネット小説やアニメなんかの死に戻りキャラって、改めてすげぇわ」
男性は何処か遠い目をしつつ、盗賊達の遺品を手慣れた様子で漁る
『これはゲームじゃないにゃ」
黒猫が喋る
「いや、それはもちろんこの『異世界』に転移させてもらった、この世界の神様・・・いや管理人?
お嬢さん? おばちゃん?」
男性が最後に言った言葉を終えると同時に、近くの木の枝が何の兆しもなくへし折れて地面に落下した
『・・・』
黒猫は、無言で男性を見る
「管理人さんでお願いします!!
いやぁ、転移させてもらってよかったなぁーーー!! でも少しはもっと普通のチートというか
なんというか」
男性は、何か怯えた表情を浮かべつつ言いながら目当ての金目のものを手に入れる
「手に入れたなら、さっさと森を抜け街に行って冒険者登録するにゃ』
黒猫は喋り終えると、さっさと歩きだす
「ニャンコさん、ニャンコさん
あなたは管理人さんが遣わしたナビですよね!? もうちょっと、こう優しくナビを・・」
深い森を抜けると、地平線が見えそうな草原が広がっていた
その光景に眼を奪われ、男性が立ち止まる
「おーやっぱこの景色は感動するなぁ」
男性は、広がっている景色を見ながら言う
『何回も視ているのに飽きないのかにゃ?』
黒猫が男性に視線を向きながら喋る
「俺は飽きません」
男性は即答した
「・・・所で今回の登録名はどうするにゃ?』
黒猫が喋る
「ナナシノゴンベェ」
男性が応える
『・・・四回目と五回目の時にぼそっと言って
いた『レヴェナント』か『マヴァール』のどっちかにするにゃ』
黒猫が喋る
「げっ、聞いてたのか
いや、それはあれだ! 俺のいた世界・・・日本では小説のタイトルの名前だから!!」
男性が心底驚いた様な表情で告げる
『ナナシノゴンベェよりかは、そのどちらかの方がまだマシにゃ』
黒猫が喋ると、すたすたと歩きだした
「ナナシノゴンベェではだめですかね?
ねえ、ニャンコさん、ちょっと! ニャンコさん!! 早いって!!
ちょい待って!! いや、待ってください!! ねえ、ニャンコさん!!」
男性は急ぎ足で追いかける
黒猫と男性が半日ほど西に歩き続けると、城壁で囲まれている街が見え始めた
そこが目的の場所だった
「お、目的の場所についたよ! にゃんこさん!」
男性が指をさしつつ、何か嬉しそうな声で言う
『六回も死に戻っているのに、よくそんな反応がてぎるにゃ』
黒猫が何とも言えない様に喋る
「嬉しいんだから仕方がないじゃんかー」
男性がブーブー文句言う
『街に入ったらわかっているとは思うがにゃ、あんまり普通に話しかけない方がいいにゃ』
黒猫が喋る
「何で?」
男性が尋ねる
『何でって・・・二回目と三回目の時にどんな目にあったのか忘れたとは言わさないにゃ」
黒猫が喋る
「そんな事当の昔に忘れました!」
男性がきっぱりと言う
『お馬鹿にゃ!
異端審問にかけられる寸前だった事をどうしたら忘れられるにゃ!!』
黒猫がそう喋る
「いやぁ、あれだよ
過去は振り替えない主義なんで」
男性はへへっと笑いながら応える
『アンポンタンは死に戻ってもアンポンタンなのかにゃ・・』
黒猫はため息を吐くと、とぼとぼと城壁で囲まれている街のある方向に向かう
「どったの? ニャンコさん
お腹空いた? 街に入ったらご飯する? 盗賊から毟り取った銭あるから美味しいもの食べられるよ」
男性は黒猫の後を追いながら告げた
この先、この黒猫と『異世界』へと転移した男性の話はいづれまたの機会に・・・
なんとなく思いつきで・・・
正確に言うと、親がたまたま買ってきてくれたコーヒーが微糖じゃなく無糖で、「それはいらない」と
断れずに、しぶしぶ飲んであまりにも苦く、苦さを必死に忘れるために思いついた短編です