貨幣鋳造権の行方
このお話は妄想です。
現実はもっと複雑です。
大資本家はもっと冷酷無慈悲です。
「ハユンさん、それをお聞かせ願えますか?」
「今回の大規模貨幣偽造事件によって、ドニアのドワーフ族の名声と信用は地の底です。エルムード王国、ハザール王国、ラマ―ジュ帝国のいずれもおそらく今後、ドニアのドワーフ王国に貨幣鋳造権を与えることはありえないでしょう。」
「とすると、今後は誰が貨幣を鋳造するのか?が問題となりますね。」
「そうです。それが問題になるのです。各国には残念ながら貨幣鋳造技術がありません。世界3大鉱山の一角であるドニアが信用を失った今、残る貨幣鋳造可能な大鉱山は2つ。一つはディミトール丘陵のドワーフ王国ですが、こちらはローダニア大陸にあります。そして、エルフと精霊からなるエル・フィンドール帝国と密接な関係にあり、距離的にも、政治的にも、経済的にも、貨幣鋳造を依頼することは現実的ではないでしょう。」
「では、カザド・ドゥムに?」
「そうです。各国政府はおそらく、いえ、まず間違いなく、貨幣鋳造に関してユカワ様に依頼したいと考えるはずです。ユカワ様の常識はずれの能力については、各国が少なからず情報収集していると思われます。だとすると、貨幣鋳造権をユカワ様に与え、今回の危機を乗り越えようと考えるのではないでしょうか。」
「ハユンさん、これは非常に大きなチャンスですね。貨幣鋳造権を掌握すればカザド・ドゥムの影響力は巨大なものとなりますね。」
「そして、それは巨大な権力と富の源泉となるでしょう。」
「これを逃す手はありませんね。」
「そうです。なので今からでもご準備なさるべきです。」
「わかりました。すぐにでも準備いたしましょう。しかし、新貨幣を発行するにしても、経済の混乱を最小限に抑えるためには、少し工夫が必要ですね。」
「はい、各国政府もおそらくそれに頭を悩ませているのではないかと思います。」
「では、カザド・ドゥムが発行する新貨幣と旧貨幣の交換レートを決定し、旧貨幣が本物であれ偽物であれ、区別せずに交換するというのはいかがですか?」
「なるほど、現在流通している旧貨幣の価値を新貨幣によって真贋に関わらず保証するのですね。そうすれば、旧貨幣の価値の急変を防ぎ経済の混乱を避けることができるでしょう。しかも、新貨幣の迅速な普及に効果がありそうです。」
「各国政府はこれまで貨幣鋳造権は与えても貨幣発行量決定権まではドニアに与えていませんよね?」
「うむ、それは国家が持ちうる財政上の重要な一権利じゃからな。」
「わたしが、例えばカザド・ドゥムとドロシュをまとめて新たな国として認めさせることができれば、貨幣鋳造権だけでなく、貨幣発行量決定権も掌握できますよね?」
「ユカワ殿、お主、いったい何をするつもりなのじゃ。その理屈は間違っておらぬが、交渉は困難になるぞ。もし両方とも掌握したならば各国を経済的に支配することも理論上可能になるぞ。」
「まさに、それが目的です。平時であれば猛烈な反発を受けるでしょう。しかし、現在の、貨幣危機の状況下においては各国とも迅速な対応を切望するはずです。そして、それを提供する能力を持つのは世界広しといえどもカザド・ドゥムのみ。この条件を飲ませることは可能でしょう。」
「ユカワ様、わたくしも可能だと思います。そして、その計画にはわたくし共商人ギルドも一枚かませていただきたいと思います。わたくし共商人ギルドから各国政府に対してカザド・ドゥム及びドロシュの国家承認、貨幣鋳造権および貨幣発行量決定権の付与を求めましょう。わたくしをはじめとして大商会の会頭の多くは現在流通している貨幣の価値が不安定化することを避け、資本の保護を優先したいと考えています。なんでしたら国家に先んじて新貨幣との交換を開始したいくらいです。」
「ハユンさん、そう焦ることはありません。我々はこの危機をチャンスに変えるでしょう。状況は我々に極めて有利です。これはあなた方、商人ギルドの利益にもなることですから、どうか各国政府との交渉を任せられる優秀な人材を集めていただけないでしょうか。」
「お任せください。では、本日の会談はこの辺で切り上げて、さっそく行動に移りましょう。」
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