しばしの別れ
馬車の中には3人がいる。俺、パーカーさん、リリアン姫だ。馬車の御者は一連の大騒動の間中どうやら馬車の下に隠れていたらしいバルトロという男性だった。彼が今は御者席にいて馬車を操っている。
「ユカワ様、改めて今回は我々の命をお救いくださりありがとうございました。」
「いえいえ、もうお気になさらず。こうしてパーカーさんやリリアン姫にお会いすることができましたから。」
「パーカー、前置きは省いて早速事情を説明しましょうよ。」
「そうですね、姫様。ではユカワ様、我々のことをご説明したいと思います。」
「よろしくお願いします。」
「こちらのリリアン様は大陸の西に位置する国、ハザール王国の王女様です。いえ、正確に申しますと、先日まで王女様でいらっしゃいました。ハザール王国で起きた宮廷クーデターによってリリアン様とそのお父君でいらっしゃる国王陛下は追放されたのです。国王陛下と一部の家臣、それと私共は何とか国を脱出することはできました。しかし、国王陛下を含め、我々以外は途中でクーデターを起こした者たちに追いつかれ連れ戻されてしまいました。我々は当初ハザール国内の拠点に隠れてとどまるつもりだったのですが、事態が急変したため、魔の森を挟んで東の隣国エルムード王国に亡命することにいたしました。ラガドの街はハザール王国とエルムード王国の国境地域に位置しており、エルムード王国領です。ラガドまでたどり着けば何とか亡命を受け入れてもらえるのではないかと考えていたのです。」
「なるほど。そういう事情でしたか。しかし、ラガドの街で安全を保障してもらえるとは限らないのではないですか?」
「おっしゃる通りです。このままラガドの街に行っても先に追っての手が回っていては自ら罠に飛び込むようなものです。そこで、リリアン様の保護をユカワ様にお願いしたいのです。」
「そうですね、リリアン姫を保護しましょう。私の拠点は魔の森の中にあります。あの拠点に近づけるものはそうそうおりませんから、姫の身の安全は保障いたします。」
「ありがとうございます。ですが、どのように拠点まで移動なさいますか。」
「転移魔法を使いましょう。姫様が転移魔法をお好きでなければ、ワイバーンのミラーに乗って向かう手もありますが、どちらがよろしいですか?」
「私ワイバーンに乗ってみたいですわ。本当に乗せてくださるの?」
「ええ、もちろんです。なかなか気持ちいいですよ。」
「ところで、転移魔法というのは失われた古代魔法ではありませんの?あなたはお使いになれるの?」
「はい、転移魔法はとても便利な魔法ですよ。普段屋敷で使ってます。」
「お屋敷で使っていらっしゃるの!?一体どういうこと!?」
「ユカワ様、転移魔法にも興味はございますが、姫様をワイバーンに乗せて運ぶというのは危険ではありませんか?」
「パーカーさん、ご心配なく。ワイバーンのミラーは決して乗っている人を振り落とすようなことはありません。快適な空の旅をお約束します。」
「そ、そうですか。しかし、姫様だけをワイバーンに乗せるというのは少々心配なのですが。」
「パーカーさん、あなたが付いて行ってあげてください。」
「えッ、私がですか!」
「大丈夫です。初心者の私でも簡単に乗りこなせましたから。乗りこなせたというとミラーがまるでただの馬のように聞こえますが、それは正確ではありませんね。ミラーは大変知能の高い魔物です。おとなしく乗っていさえすれば何の心配もありません。」
「そ、そうですか。しかしユカワ様は一緒に乗られないのですか?」
「私は少々ラガドの街に用がありますから、やはり、ラガドに行こうと思います。帰りは転移魔法を使えば一瞬ですからね。」
「わかりました。お屋敷にはだれかいらっしゃいますか?」
「はい。ミユという名のエルフのメイドがおります。彼女にあなた方のことを伝える手紙を書きますので、それをお持ちください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「いえいえ」
「ユカワ様、ラガドに行かれるのであれば、私の旧知の友人を訪ねてこの手紙を渡してはいただけないでしょうか。その友人はヴァンダールヴルという名で、鍛冶職人町で工房を経営しております。」
「もしや、もともとはその方に保護を依頼するつもりでいらっしゃいましたか?」
「その通りです。彼は以前私がエルムード王国を旅した際に知り合ったドワーフなのです。しばらく旅を共にして気心が知れており、私がハザール王国に戻った後も長く文通などして付き合いのある信頼のおける人物です。」
「わかりました、その方に手紙を渡しておきます。」
「よろしくお願いします。」
「パーカーさま!そろそろラガドの街の城壁が見えてきましたよ!」
御者席からバルトロが声を張り上げて伝えてきた。そう、ラガドの街は、魔の森に隣接し、ハザールとエルムードの国境に位置する戦略上の要衝地であるから別名、要塞都市ラガドと呼ばれている。両国の関係は現在は安定しているが長い歴史の中ではたびたび戦火を交えてきた。ラガドは戦時には最前線基地としての役目を担ってきた。さらには、魔の森が近いため、人間が暮らす領域へ侵入しようとする魔物の襲来を防ぐための拠点としての役割も担っていた。ゆえに堅固かつ魔法防御を施したそびえたつ城壁によって周囲をぐるりと囲まれているのである。
「それではそろそろ別れましょうか。お2人はミラーに乗ってください。この馬車はお借りしてもよろしいですか?この辺りまで盗賊に襲われることもないでしょうから幻影騎士団も消してしまいましょう。」
「わかりました。では一度馬車を止めましょう。バルトロ!馬車を止めてくれ!」
「では姫様、パーカーさん、この手紙をお持ちください。」
「ワイバーンはいずこに?」
「カモフラージュの魔法をかけていますからね。今解きます。」
「あら!こんな近くにいたのね!すごいわ!」
「ミラー、お2人を屋敷までお連れしてくれるかな?」
「後でスクエアボアの丸焼きを頼むぞ。2人は連れて行こう。」
「ちゃんと用意するから、くれぐれも安全に気を付けてよろしく頼むよ。」
「心配するな。ヨウイチロウの客人にけがをさせたりはしないさ。」
「では、姫様、パーカーさんミラーの背中にお乗りになってください。」
「すごいわ!おとぎ話で読んだことが本当になるなんて!ひんやりしていて、それに固いのね!」
「姫様、はしゃぎすぎです。落ち着いてください。」
「あら。そうね。ちょっとはしゃぎすぎちゃったかしら。ミラーさんよろしくお願いね!」
「この姫様、なかなかいい子じゃないか。」
「ミラー殿、わたくしも乗せていただきたい。よろしくお願いする。」
「この老人はなかなか紳士的だな。うん、2人はちゃんと屋敷まで送り届けるよ。」
ミラーの声はパーカーさんとリリアン姫には聞こえていない。だが、まあ、大丈夫そうだ。
「では、快適な空の旅をお楽しみください。ミラーはお2人の言葉を理解しておりますので、何か要望があればミラーに声をかけてください。」
「わかりましたわ!さ、行きましょう!」
「では行ってらっしゃいませ。明日にでもお会いしましょう。」
「ユカワ様、ありがとうございます。お先にお屋敷に参らせていただきますが、必ずこのご恩はお返しいたします。」
「パーカーさんもお疲れでしょうから、屋敷についたらしっかりお休みになってください。」
「それでは行くぞ!」
2人を乗せたワイバーンのミラーは大空へ羽ばたいていった。馬車の護衛に着けていた幻影騎士はもう魔法を解除したからいない。あとはバルトロとラガドに乗り込むだけだ。ラガドの街の城壁が徐々に迫ってきていた。
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