第9話 本物の偽物
円陣を組む少女達。
少女達、会議中。
「えっと、どういたしましょうか? みなさん」
「うーん、特に問題無いようだし、依頼を受けちゃっていいんじゃないかなぁ?」
「そうですわねぇ」
「ねね、あのお姫様の隣にいる騎士さん達かっこいいよねぇ、美人だし、宝塚の人みたい」
「確かに美人ですわ。でもかっこいいのは鎧のおかげではないでしょうか? 鎧を脱いだら普通の綺麗な女性に見えるだけで、カッコよさは無くなるかもしれませんわ? 髪も女性らしく綺麗ですし」
「あはは、そうかも。ツムちゃん見る目あるねぇ」
「いえいえ、そんなことないですわ。それよりも何か質問とか、無いのでしょうか?」
「うーん、別に無いけど」
「あのぅ、操文さん。さっきからあまり喋らないようですが、どうしましたのでしょうか? 何か心配事でもおありでしょうか?」
「あっ、あっ、うむ、うん」
「ミサちゃんどうしたの?」
「あ、あのう……。実は、喋り方があの、お姫様と被ってて、『ノ蛇』って言うの止めた方がいいのかどうか……」
「うーん「やめちゃ駄目ですわ!」
「相手がどんな相手だろうと、本物のお姫様であろうと、自分のアイデンティティを崩しては駄目なのですわ。それに相手は髪の毛がドリルですわ。ドリル、ドリッてるですわ。日本を初めて空襲したのはドーリットルの指揮ですわ。それに対する大本営陸軍報道部の発表は、『指揮官はDo・littleだが、実際の被害はDo・nothing』ですわ! 負けちゃ駄目なのですわ!!」
「なんか、ツムちゃん迫力あるし、いつもに増してだね……。うん、でもツムちゃんの言う通り、相手がどうでも、ミサちゃんはミサちゃんのやりたいことをやらないと駄目だよ。その喋り方ってミサちゃんのお父さんが好きだったんだよね?」
「う、うむ」
「じゃぁ、崩しちゃ駄目だよ!」
「その通りですわ!」
「分かったノ蛇。このまま続けるノ蛇。ありがとうなノ蛇二人とも。お父さんとの絆をわらわの中で保ち続けられるノ蛇」
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「私たちは、この依頼を受けることにしました」
「おお、受けてくれるのじゃな」
「はい」
「さっそく出発したいのじゃが……。移動手段はこちらで用意してあるが、すぐにとは無理そうじゃのぉ。二時間後に町の南門の外で集合で良いかの?」
清銘がちらりとレベッカの顔を見る。
レベッカが頷く。
「はい。大丈夫です」
「うむ。分かった。では後程じゃな」
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「貴方たちって貴族じゃなかったのね?」
レベッカが清銘達に質問をする。
「ごめんなさい、何か勘違いさせちゃったでしょうか?」
清銘が、ちょっとショボンとして謝る。
「あ、そんな畏まらないでいいのよ。私の勘違いだったみたいだから。とりあえず、依頼を受けるという手続きと、パーティを組んでもらうわね。だからパーティー名を決めてもらっていい?」
レベッカが清銘達に説明をする。
「はい。分かりましたー。うーん、どうしようか?」
清銘がレベッカに返事をした後、他の二人を見る。
「レベッカさん。質問なの蛇ガ、ギルドランクってあるのかのぉ?」
「あるわよ。まずはEランクからスタートで、少しずつ上がって行くわね」
「どうやれば上がるノ蛇?」
「まぁ、実績とテストね。 ギルドの昇給判定員が同行して依頼をこなしてもらい、次のランクでも大丈夫かどうかの評価をして合格点なら、ランクが上がるってケースもあるわね。 テストっていうのは、そんな感じかしらね。依頼内容の結果がはっきりしてる場合は昇給判定員が同行しないかしらね。ちなみに、私はギルドの昇給判定員だから、私が同行してってケースもあるわよ~」
「合格点をとればいいのかぁ~。よし満点とるぞ~」
「‥‥うふふ、そうねー。溌剌ちゃん、頑張って~」
「で、どうしましょうか? パーティー名? 何か良いお名前ありますでしょうか?」
と、紬が質問をする。
「うーん、すぐには出てこんのぉ」
「あっ、じゃぁ、こんなのどう? bon classe。 フランス語で良いクラス、階級っていう意味なんだけど。classe自体の意味は、クラスとか階級とかグレードっていう意味。bon は良いっていう意味だね」
「あら、いいんじゃないのでしょうか?」
「あっ、盛り上がってるとこ、ちょっとごめんね。絶対の決まり事ってワケじゃないんだけど、まぁ今回、受けた依頼がスロッス教がらみの依頼だからってのもあるんだけど、パーティー名の最初と、最後に『ス』って言葉を使うのって、余り良くないのよね。まぁ、この辺の風習だと思って欲しいんだけど」
レベッカが少しだけ、申し訳なさそうに言う。
「えっと、それでは、ボン・クラーズと濁してはどうでしょうか? レベッカさん、『ズ』は大丈夫なのでしょうか?」
「うん。『ズ』なら平気よ」
「じゃぁ、まぁ三人ですし、文法的には正しくないのかもしれませんが、英語の複数系のような、音感という感じで、最後を『ズ』にして、ボン・クラーズでよろしいのではないでしょうか? みなさんどうでしょうか?」
「いいんじゃないかなぁ~」
「む、むむむ、なんか良い響きなノ蛇。昔、何かの遊戯用のプログラム名がそんな感じの名前で、かっこいいなぁって思っておったノ蛇。もちろん、お父さんに教えてもらったノ蛇。こっ、この名前はお父さんのお導きなノ蛇」
「操文さんも異論は無いみたいですわね」
「うん、いいんじゃないかなぁ。それで。よし、ツムちゃん、ミサちゃん、私、三人で、満点よりも、よりも、よりも、良い点取れるくらい、頑張るぞ~」
「「おー」」
こうしてパーティは結成された。
「うーん! 漲ってキマシタワー。こういう時って、決め台詞を言わなきゃいけない気がしてキマシタワ」
「まだ、さらに何かあるのかのぉ?」
「私たちは、生まれた日は違えども、兄弟の契りを結んで、心を合わせ助け合い困窮する者を救うのですわ。上は国家……王家かしら? に報い下は民を安んずることを誓うのですわ。同年、同月、同日に生まれることは出来なったのですが、同年、同月、同日に、一緒に死ねることを願うのですわ」
「なるほどのぉ……。それは言いたかったわけ蛇なぁ。下は民を安んずるとか、人を下に見るのはよくないの蛇ガ、この世界がどういう世界かは分からんからええのかのぉ」
「同年、同月、同日に、一緒に死ねるとかダメ。死んじゃダメ。絶対ダメ。三人とも生き残るの。ツムちゃんのお父さんだって、ツムちゃんに死んでほしいなんて絶対思ってないよ! それと、」
「まぁまぁ、清銘、ここは、一つの流れというモノでなぁ……」
「ダメ、ゼッタイ。そういうことは口にしちゃダメなの。危ないから。『言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから』だよ! だから、口にしちゃ駄目なの。ツムちゃんに死んで欲しくないの!」
「ううう……。うわーん、ごめんなさーい」
「別に、謝らなくもでいいんだけど、死んでほしく無いだけなんだよ。 あとね、いきなり抱き着くのは危ないって、前にも言ったじゃん」
「ほらほら、元気出すの蛇。美味いモノでも食いに行くの蛇。レベッカさん、この辺で美味しいモノがサクッと食べれるとことかあるかのぉ?」
「あるわよ~。ていうか、そうね、貴方たちの装備も整えないとね。武器屋や、防具屋に行って、見繕って、軽く食事して、待ち合わせ場所に向かうのが良さそうね」
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こうして、清銘達はパーティー名を決定し、必要な物資を買いに行く。
レベッカがいろいろと見繕ってくれている。
武器は、弓は使えそうに無いので、やめておき、操文も、紬もショートソードとナイフを購入しておく。
防具は全員、胸当てなどの軽鎧と、羽織るフードを購入した。
さらに、宿屋を引き払った。
「もう、あまり時間が無いわねぇ。軽く露店でなんか買って食べちゃいましょう。あそこの串焼きがとても美味しいわよ」
レベッカの勧めで、冒険者ギルドの傍の露店で買うことにした。
「あら、小銭が足りませんの。操文さん、ちょっと10ブロンズ貸して下さらない?」
「うむ、構わぬが。返すのはゆっくりでええぞ。それと、トイチで貸してやるノ蛇」
「トイチってなんですの?」
「十日に一割の利子なの蛇。しかも福利なノ蛇。まぁ、一カ月しても10ブロンズが13.31ブロンズにしかならんがの」
「ミサちゃん、なんかそれ、おもしろそうだねぇ」
「まぁ、操文さん、ぜんぜん構いませんよ。むしろ約束って感じですわね」
「うむ。約束なノ蛇」
そんな、こんなの会話をし、食事を済ませ、一行はクレッセントタウンの南門へと向かった。
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「この町って、すごい外壁があるのですわね。高さも3メーターくらいありまして、まるで要塞のような……。堅固な作りですわね」
「おや、悠然ちゃん分かるのね、そうなの、この町は魔物のスタンビート対策に作られた町なのよ。町の北におおきな川があって、東西にこう、流れているでしょ。 昔はいろいろあったみたいなのよね」
レベッカが身振りを交え説明してくれる。
「防衛の為に作られた町なのですわ。街中に走る異様に広い道……合点がいきましのですわ……」
「詳しいわねぇ、悠然ちゃん。そう、それでその大きな川に橋が架かってるじゃない? で、その先にこの町があるって状態なのね。はい、地図」
「ちょっと、一般人には見難い地図かもだけどね」
「すいません、ありがとうございますですわ。ふむぅ……これは……」
「ねね、スタンビートってなに?」
「モンスターがどわーっと大量に後から後から襲ってくるやつなノ蛇」
「なるほど」
「でっ、出丸なのですわ……。この町」
紬がレベッカの説明を聞き、自分の考えを話す。
「出丸って何? ツムちゃん」
「真田丸とか聞いたことありませんでしょうか?」
「サナダマル? なん蛇ったかのぉ」
「お腹の中にいるやつ?」
清銘が自分の下腹部を指しながら言う。
「いやいや、いない蛇ろ」
操文は清銘の下腹部を触りながら、なにやらぶつくさ詠唱をし、調べる。
「ほら、いないノ蛇」
「え? それって触って分かる物なのかしら? って、そうじゃなくてですわ……。えっと、出丸というのは、うーんと、ざっくりと言うと、攻撃的な防御の為の出っ張りなのですわ」
「「ふむふむ」」
「お! お姫様一行はあちらにいるみたいね」
レベッカさんが話に割り込んで、発見の報告をする。
会話をしながら、南門を抜けると、なにやらでかい物が見えて来た。
「これから、出丸の説明が面白くなるってとこなのにですわ。って、え? あっ、あのゴーレムバス?」