第6話 知らざるを知らざると為せ是知るなり
◇安心院 紬視点◇
ゴーレムバスを見送ったあと、さぁ出発しようかと言うときに、私は、ふと、気になっていたことを思い出したのですわ。
この町に降り立ってから、ここがどんなところなのか気になっていましたのですから、町を注意深く観察していたのですけど。
「オグマさんはこの町は、田舎町とおっしゃってましたが、とても豊かな町ですわね。裏路地も綺麗ですし、ペットも肥えてますわね」
「紬は、よく観察してるのぉ。どこぞの駐在武官のよう蛇わ」
「ほんと、ツムちゃんってよく見てるし、いろいろありがとうね。ペットの事まで考察してるなんてすごいよ! ペット以外にも、異世界(?)だから、珍しい動物とかもいるよね。ほら、上見て。空に鷲がいるよね。私、南米でしか見たこと無いよあんな感じの鷲」
「え? 鷲? 南米? 行ったことあるのかえ?」
「うん、あるよ、お父さんの生前に家族旅行とかで行ったよ」
うわ、やっぱり、清銘さんは本物のお嬢様なんですのね……。
私だって、6年前までは……。
あの、軽い言い方……、きっと色々な所に旅行っていて、何でもないことの一つなんでしょう……。
「さっ、さようでございますか、行ったことあるから、よくご存じですのね」
「なんか、紬のお嬢様語力が高まったのぉ……」
うっ、なにか変だったかしら……。
「うん、でも、鷲って嫌いなんだ。特にオウギ鷲。あいつらフタちゃんの天敵なんだ」
「フタちゃん? ってなん蛇ったかのぉ?」
「清銘さんの飼っているペットでしたっけ?」
そうでしたわよね、ナマケモノなんていう、ペットも飼ってらっしゃってるんですわよね。
確か、購入するには、それなりのお値段と、飼育するにも、それなりの環境の維持費が……。
「そう、うちで飼ってるフタユビナマケモノのフタちゃん。フタちゃんの天敵っていうか、ナマケモノの天敵なんだ。オウギ鷲は。…………。オウギ鷲ってねぇ、地球で現存するものの中では一番大きな鷲なんだ。それでね、ナマケモノを捕まえて、巣に持って帰って……」
「そっ……、そういえば、あくまで噂じゃが、人を攫う鷲が東南アジアのほうでいるって聞いたことがあるのぉ。まぁ眉唾な話じゃが、大きい獲物を持ってけることは確か蛇ろうなぁ」
「そうなんだよね。なんっていうか、私にとっては、憎き敵って感じなんだ」
「あ、あそこ、ゴーレムバスが止まってた駐車場の広場……。あそこに鷲が留まってる。やっつけたいなぁ……」
清銘さんが、何かを指で示しながら言ってますわね。
清銘さんはレベッカさんから預かったメモを見てますわ。
さきほど、みんなでメモを見せ合って確認しましたわ……。
現在扱えるスキル一覧が記載されたメモで、その中にストーンバレットという、土魔法の初級魔法があり、石つぶてを飛ばす魔法があるのですが、私達三人ともその魔法が使えるのですわ。
清銘さんが、ピストルを撃つ構えを、駐車場にいる鷲に向かってしている。
というか、やけに様になってますわね。
アメリカのドラマで見る、警官みたいですわ。
銃を撃ったことあるのでしょうか?
清銘さんが、慎重に狙いを定めている。
止めないと……。
「待ってくださいな。清銘さん。清銘さんらしくないです。この世界が……、この社会がどういう社会かが分かりません。ペットはたくさんいましたし、空にを鷲があれだけ、普通に飛んでいるということは、何か理由があり、駆除されて無いってことかもしれませんわ。もしかしたら、『生類憐みの令』みたいな物があるかもしれませんわ」
うーん、自分が言ってることが合っている確証は無いのですが、口だけは回りますわ……。
「『生類憐みの令』?? わらわは、そんなのがある異世界なんて想像できないぞよ…………」
「そっ……、そうだね。やめとくね。ありがとう、ツムちゃん。なんか冷静に慣れたよ。私も気が付かないところでストレスみたいなものが溜まっているのかも」
「あれまぁ……なノ蛇。わらわは気にせずに、街中にいる鷲はやっつけて良いと思うぞよ……。この3人では、今はわらわは少数派な考えになってしまったノ蛇」
「確証が無いというだけで、『町の中にいる鷲を殺さないこと』が正解だとは言いませんわ。とりあえず、情報が集まるまで、今はやめましょうということですわ」
またも……、自分が言ってることに確証が無い……、なのに、『口だけは回る』。
これは私が弁論同好会でディベート力を鍛えてしまったせいですわ……。
余計なことをしちゃったかしら……、差し出がましいことを……。
三人は場所を聞いていた教会に向かうことにした。
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「神秘的なところですわねぇ」
「うむ」
「人の行き来があるね。聖堂は出入り自由みたいだ」
そう言って、清銘さんは堂々と入って行きますわ。
こういう、いつも堂々としてるところは、本当にすごいですわ。
後に続く二人。
そこには大きなナマケモノの像があった。
周りにいる方々はナマケモノの像に対してお祈りをしてますのね。
「白い部屋で会ったナマケモノは、やはり神様でしたのですわね」
「だねぇ」
「蛇のぅ」
それにしても、なんか物々しく感じますわね。
重武装している、神殿の騎士っぽい人(?)、普通の騎士より白っぽい方達が、けっこういますわね。
「おい、あのお方達か?」
「いえ……、違いますね」
「そうか……」
なにやら、ぼそぼそと話声は聞こえますが……。
あら? 何をしてるのでしょうか?
何やら、操文さんが怪しい行動を取ってるように見えますわ……。
「ミサちゃん?」
「ねっとユーザーエージェント・ヒューマンGPS…………なノ蛇」
操文さんが謎の言葉を吐いた後、単語帳にをメモを取ってますわ。
まぁ、操文さんのことだから、何か意味がある行動なのでしょうが、大丈夫でしょうか…………。
「そっ、そろそろ帰りましょうかですわ、皆さん」
ちょっと、なんか、怖いので早く帰った方が良い気がしますわ。
大勢いる見張りの一人が操文の方へと近づいて来た。
腰に帯いている剣の鞘へと、手を持っていく。
そのまま剣をスチャリと抜き、振りかぶり切りかかる。
え?
「グエー」
ええ?
「操文さん!」
操文の傍にいた、鷲が切り殺された。
「お嬢様方、最近は結界の不備により、スモールイーグルが町に入り込んでおります…………。あの鷲の傍にあまり近づかれては危のうございます。お気を付けを」
そう言い残し、見張りは持ち場に戻って行く。
そして……、私たちは三人は宿屋に戻ることにしましたわ。
宿に戻り、また色々話し合いをすることになりましたですの。
「教会についてなのですが……、やけに見張りの人数が多かった気がしますが、どう思いますか?」
「普段が分からぬ故、あんなもんじゃなかろうか」
「ていうか、ミサちゃん、さっきのは何なの?」
「ああ、あれは、現在座標を求めるオリジナルスキルなノ蛇。あるコンピュータ言語にある関数をモデルとしてるが、まぁ難しい話はおいておいて、あれをやると現在の座標が分かるノ蛇、ちょっと教会の座標を知っておきたかったのでなぁ」
「うーん、ミサちゃんってやっぱすごい~!」
私も操文さんはすごいと思いますわ。
清銘さんが手放しに褒めるのも、とても分かりますわ。
「あ、そういえば、あの鷲ってやっぱりやっつけてよかったんだね。というか、やっつけないと駄目なモンスターっぽいよね。ミサちゃんの予想は正しかったね。ごめんね。ミサちゃん」
こういう所が、清銘さんのすごい所なのですわ……。
自分が率先して間違えた訳でも無いのに、操文さんに謝ることが出来るのですわ…………。
本来、私があの鷲を殺さない方が良いと、主張してたので、謝るべきは私ですのに………………。
「わらわは、この世界に来てから『覗秘』のおかげで勘が鋭くなっておる。蛇から当てられたノ蛇。ただ、そんなことより、敵で無い可能性がある限りは、無暗に攻撃しない。その態度や気持ちが大事だと思うぞえ」
さらに、少し考え込んだ後、話を続ける操文さん。
「そして、禁止したこと。その後に、『それが禁止すべきで無い』となった場合に、開始もしくは再開するのが大事なノ蛇。『あの時禁止にするって言ったじゃん』みたいに、不貞腐れたり、意固地になったり頑固になったりするのは、未来を見て無いノ蛇」
「開始してよいとなったら、再開すべきなノ蛇」
「そうだね。柔軟さは大事だねぇ」
なんか、操文さんが大人すぎる考えで、ついて行けないレベルにすごいですわ…………。
その後、スキルをチェックしたり、またいろいろ話あってその日は宿で過ごしたのですが……。
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カポーンなのですわ。
「なんか、修学旅行に来てる気分ですわ~って、修学旅行に来てたのでしたわ」
「あはは、わらわも、同じこと考えてたぞよ。そういえば修学旅行でスカイツリーに来てたの蛇ったな」
この二人と一緒に修学旅行だなんて、とっても嬉しいですわ。
「私は、ちょっとした集まりの前に時間があったから、あの思い出の場所にいたんだよね。そして、気がついたら二人と修学旅行に来れちゃったんだよねーお父さんの導きかなーなんちゃって。でも、ほんと、ツムちゃんとミサちゃんと来れる修学旅行なんてめちゃくちゃ嬉しいな~」
私は、なんか……感極まっちゃって……お二人に抱きついちゃいました。
「あわわ、危ないノ蛇」
「わっ、わっ、ツムちゃん、こんなとこで抱きついたら危ないよ。溺れちゃうよーー」