第18話 三人と相性
さっそく村を調べることにした一行。
だが、何を調べたらよいかの答えは無い。
なので、何を調べるかについて、各々探し回ることになった。
そして、調べるべき所を思い至ったら、操文が調べるという流れになった。
基本的に、3班に分かれて行動をする。
操文は、『なんでも屋』のマリナの家に待機をし、鑑定すべきことができたらその班について現地に向かうという方針を取った。
1班、姫とお伴。
2班、教会コンビ。
3班、冒険者という班分けだ。
村長宅にも向かい、この村の戸籍なども調べて見る。
しっかりとした、戸籍票みたいなものは無いが、ざっくりと、この村には200人弱くらいの人間がいると聞く。
さらに、お金を払いジョージを雇うという形で纏まったようだ。
お金で解決できるのであれば、急いでいるジャクリーン姫にとっては都合が良くなる。
ジョージの案内により、清銘、操文、紬、レベッカの4人は、まずは村のすぐそばにある薬草の群生地に行くことにした。
「レベッカさんその恰好で行くの?」
「まぁ、えっと村を回るのなら、冒険者のギルドの職員として恥ずかしく無い恰好をしないといけないですからね。まぁ、そんな危ないこともしないでしょうし、わざわざ冒険者スタイルにしなくても十分よ。貴方たちのほうこそ動きづらくない? その服装で大丈夫?」
「私はしょっちゅう着用してる服だから、着慣れてるから平気です」
「わらわも毎日着てたノ蛇」
「私もなのですわ」
「そう? なら大丈夫ね。行きましょう~」
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元薬草の群生地に到着した。
以前は花を付けていたが、付けなくなってしまったそうだ。
さらに、見て分かるように、部分部分が枯れていた。
操文が、そこを鑑定をしていく。
オリジナルの鑑定の仕方でも行う。
通常鑑定のほうは、全員の頭にウィンドウが発生する。
そんなこんな作業をしていると、枕のような大きな芋虫がゆっくりと近寄って来た。
芋虫といっても、さほど不気味な容姿ではない。
それの出現に対し、清銘も操文も紬も、何だあれっという感情はあるが、嫌悪感をさほどは感じてはない。
「ちっ、ペストグリーンキャタピラーか」
ジョージさんがボソッと漏らす。
「‥‥畑などを荒らす害獣ね」
レベッカが、よく分かって無いであろう三人に説明するかのように相槌をうつ。
レベッカとジョージはそれぞれ懐から投げナイフを取り出す。
ついでとばかりに、操文はペストグリーンキャタピラーにも鑑定を行う。
周りが行動してるのを気にしてか、清銘と紬もストーンバレットを打ち込もうと構えを取る。
紬は清銘の真似であるが。
「レベッカさん。私が試してもいい?」
「いいわよ。そうよね、道中、練習だけで実践は初めてだもんね。ちょうどいい敵だわ。溌剌ちゃん、やっちゃって。悠然ちゃんも、どうぞ~。でも、撃ち漏らしたらすぐに処理しますね~。少しは戦闘に慣れておかないと、それなりに危険だからね」
その返事を聞いて、両名ともストーンバレットを放つ。
大きさにして5センチほどの石の塊が、ペストグリーンキャタピラーに飛んで行く。
紬が先に放ち、一瞬遅れて清銘も放つ。
弾速は清銘の放った弾のほうが明らかに速く、先に清銘の放った弾が着弾する。
ドフッ、ドフッと、ペストグリーンキャタピラーにヒットはするが、石は地面に落ちる。
二つの石の塊は命中するが、さほど効いた感じでは無いように見える。
魔法を放った紬に対して、方向を変え、ゆっくりと移動をし始めた。
「こっ、こっちに向かって来ますわ……」
清銘も、紬もさらに操文も加わってストーンバレットを放つ。
またも、ドフッ、ドフッ、ドフッと、ペストグリーンキャタピラーにヒットはするが、ほぼ効いた様子は見せず、進んでくる。
効果が無いと分かり、行動を変える三人。
清銘は青銅の剣に持ち替えて構える。
操文は再び鑑定や、オリジナル鑑定を行う。
紬は狼狽える。
もう、いいかなって感じで、レベッカが短剣を二本投げつける。
ペストグリーンキャタピラーは、その小さな短剣が二本刺さっただけで動かなくなる。
「すごいですわ」
「あっさりと片づけるとはなノ蛇」
「ね」
その後、レベッカはペストグリーンキャタピラーの傍により短剣を回収する。
レベッカがペストグリーンキャタピラーの傍に近づいた時に、黒い粒子が極少量だが、ペストグリーンキャタピラーの体から抜け出て、レベッカの腕に吸い込まれて行った。
「あっ、見えた! ホントだ。 ミサちゃん。黒いの見えた」
「私も」
「二人とも見えたかぇ」
「え? ‥‥‥‥え? え?」
その言葉に反応したレベッカが何故かスカートを抑え、ちらりとジョージを見た。
ジョージは何も気にせずにペストグリーンキャタピラーを掴み引っ張っていく。
「えっと、ジョージさん。それってどうするんですか?」
相変わらず、清銘は誰に対しても物おじせず会話をする。
「埋める。畑の肥料にするんだ」
「「「なるほど」」」
「まぁ、ペストグリーンキャタピラーは何の素材にもならないからね。普通は無視するか、倒して放置ね。畑の肥料にするというのは、私もあまり聞いたことがなかったわね」
薬草地帯の調査も終わったので、ペストグリーンキャタピラーの死骸を持ち戻ることとなる。
「ねね、レベッカさん。私の使えるストーンバレットって魔法って弱いの?」
「そんなことは無いかな、相性があるし。土属性の魔法は、土属性の敵に効きにくいのよね」
「そうなんだ。レベッカさんも攻撃魔法って使えるの?」
「私も一応使えるわよ。ウィンドカッターという魔法が使えるわね。あまり使うことないけど」
「あまりってことは使うんだね。どんな時に使うの?」
「うーん、沼地のそばで、強めのスライムと戦うときかしらねぇ。沼地にいるのは、ナイフでの攻撃が効きにくいのよね。でもウィンドカッターだとスパっといくわ。あ、もちろん草原にいるようなスライムには使わないわよ」
「ふーん。レベッカさんっていろんなことできるんだ~。一緒にいて頼もしいなぁ」
「草原にいるスライムには、ウィンドカッターは効くのかのぉ? それとスライムの属性はなんになるん蛇?」
「あら、博士ちゃん。もちろん効くわよ。でもやっぱり使うまでもないから、短刀でさくっとやっちゃうわね。スライムはたいていは水ね。道中にゴーストスライムの周りで一緒にたくさん出て来たのもほとんど水だったんじゃない?」
「確かにそう蛇った。では、ペストグリーンキャタピラーにはウィンドカッターで倒せるのかのぉ?」
「あ、それは、無理ね。土属性の敵にはウィンドカッターはまったくって言っていいほど効かないわね」
「教えてくれてありがとうなノ蛇。ふむぅ、なるほどなの蛇。そういう世界なん蛇なぁ。やはり……」
何やら考え事をする操文。
「でも、良かったですわ。唯一使える攻撃手段が、なんの役にも立たないとなったら、私達ってけっこう危険かと思ったのですが……。あ、いえ、三人が同じ魔法しか使えない以上、さっきのように相性の悪い敵が出て来たら、危険なのですね。三人ともが同じ属性で、同じスキルを使うって、問題有なのでしょうか……」
「まぁ、そのうち、他の属性が伸びるかもしれないし、魔法では無く武器を使って戦うっていう選択肢もあるわね。溌剌ちゃんは剣が使えるしね」
「近接で戦うのですか……できますでしょうか……」
紬が不安げに呟く。
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村に昼に付き、一日かけて村を調べ、夕食を取る為に『なんでも屋』の食堂を借りている。
マリナの一家に対する、ここ何日かの費用を前金で、もうジャクリーン姫が払いを済まし話を付けている。
とにかく、時間を気にしているジャクリーン姫であった。
夕食をしながらの会議を行う。
今日一日での結果報告会を行うことにした。
「ふむぅ、フィールドワークが必要なのだと、分かっておれば、もっと専門家を雇って来たのじゃがなぁ。フィールドワークに詳しい者は、このメンバーではレベッカだけなのじゃ。アンナ姉さまの予言は、この町に鑑定士を連れて来て鑑定させよとのお告げじゃったが……。この後どうすればよいのか、ようわからんのじゃ。考えたらずだったのであろうか……」
「姫様……おいたわしや……」
「でじゃ、わらわの思いつくことは、こんなもんじゃ、他に何か情報や意見があったらじゃんじゃん聞きたいのじゃ。質問も認めるぞよ」
「一つ、よろしいですか??」
「なんじゃ? 申してみよ紬殿」
「今回の騒動は、王都ではどんな状態なのか、もっとお聞きしたいのですが」
「そなたらは、この国の状況に対して詳しく無かったの。オスカー、説明したもれ。すべてを話して良いのじゃ。短い付き合いじゃが、能力も信頼も十分じゃ。わらわが許可するのじゃ。ポエタ司祭殿、何か付け足すことがあればどんどん付け足してたもれ」
「分かりました」
ポエタは返事をした。
「では、王都の状況についてだが、多少は聞いていると思うが、流行り病が蔓延していてだな、まず、直撃を食らったのが教会関係者だ。今回のこの問題。人によっては『魔王の呪い』や、隣国である『ハーレス国の謀略』だのと言われている。未だ原因が何であるかの結論は出ていないというか……おそらく出ないだろうというのが、元老たちの話だ。元老たちはやはり長く生きてるだけあって、歴史についてよく知っている。その元老たちが言うには、こういう時には首謀者がいたとして、それが何者なのか判明するのは、何年も経ってからなのだ、と。なので、ひとまずは首謀者については置いておく」
清銘たちは、神妙に頷きながら、話に聞き入る。
「なので、具体的に何が起こっているかについて着目して、話をして行きたいと思う。まぁ、今回の問題自体に名称が無いと不便なので、通称としては『魔王の呪い』という言葉を用いている。この名称は教会関係者が嫌がるかもしれないが……。何か良い呼び名があれば言ってくれ」
「あ、いえ、特にはありません。そのままでお願いします」
余り気にしてませんよという態度でポエタ司祭が答える。
「うむ、では続けよう。『魔王の呪い』の為に、まず直撃を受けたのが教会なのだ。どういう手口なのかは分からないが、高位の聖職者、ヒーラーほど、この病に倒れていった。もう亡くなった者も少なく無い。首都の教会関係者から聞いた話なのだが、真っ先に倒れたのが当代の聖女様なのだ。いや、今は、当代では無いのか……」
「はい。聖女様は御逝去なさりました……。他にも多くの方が入寂されました。王都でも、クレッセントタウンでも同様です……」
ポエタさんが、うつむき加減に明言する。
「もちろん、聖女様を救う為に多くのヒーラーが頑張ったのだが、ヒーラーも次々に病に倒れて行き、ポーションもできる限り使ったが、王都の教会は崩壊して行った。要するに『魔王の呪い』は的確に我が国――スウェル国の治療機関を狙って来たのだ……」
「ポエタさんやセリエさんは、御無事で良かったですね」
清銘が勤めて明るく言う。
「はい……。私は、最近司祭になったのです。本当になったばかりでして、今回の件で多くの司祭様が亡くなりました。いろいろな業務が滞るようになりまして、無事だった私が、……も司祭になりました。私は、その……司祭ですが、回復魔法が使えません。闇属性ですので。もともと私は聖歌隊の所属だったのです……」
「私も、最近神殿騎士団に入隊したのだ。状況は、ポエタとそう変わり無い。いや、もっと教会から遠い立場にいた。私は、教会関連の仕事をよくする冒険者だったのだ。だが、神殿騎士団の人間が多くが病に倒れ、亡くなっているので、人数が足りず、入隊したのだ……。だから、神殿騎士団に所属していながら、まったく光魔法が使えないのだ…………。私も同じく闇属性だからな……。まぁ、アンデットのモンスターには、火属性は良く効くので、正直、困ったことはないがね」
「なるほどなノ蛇。闇属性の者は回復魔法が使えないの蛇な。ふむぅ…………。ここにいる全員そうなるの蛇な……」
「そのようですわね……」
オスカーが説明を続ける。
「でだ、クレッセントタウンでもそうだが、基本、人が大勢集まる都市には結界を張る。我々はそうして、モンスターからの身を守って国を築いて来たのだ。だが、結界を張るには大勢の聖職者の力を必要とする。今、その人員が足りず、結界を再び張ることが出来ない。王都の周りには、ほぼモンスターがいないが、クレッセントタウンなどは、大変なのだろうな……」
そう言って、オスカーはレベッカとセリエの方を見る。
二人とも、その通りだと頷く……。
「そして、『魔王の呪い』は、今は一般市民にもその刃を向けている。いや、現状は、教会が寄能してないので、正直、止めようがなところまで来ている。製薬業社だよりなのだが、どこまで持つかということなのだ……」
場に思い空気が流れる……。