第17話 間接的信用
10歳の女の子=マリナ
マリナの母 =エリカ
マリナの祖父 =ジョージ
マリナの祖母 =サブラ
二人の老人が窓から覗いて来た。
「今帰ったぞ」
ぶっきらぼうに言う爺さん。
「あんれまぁ、なんか客人が多いわねぇ」
言葉の内容は慌てた風に言っているが、口調は一切慌てた様子を見せないように言う婆さん。
「あ、お帰りなさい。ゲホッ、ゲホッ。カハッ」
「おい、なんで寝てないんだエリカ。おいサブラとっとと、それを煎じちゃってくれ。まったく、人が来るとは……。こんなことならサブラは残して、俺一人で行って取ってくれば良かったよ」
「はいはい。すぐに作りますよっと。それに、あんた一人で行ってたら怪我してたよ」
そういって老婆は店の奥の方へと入って行く。
老婆が奥へ行くのを見計らってから、老人が言う。
「まったくもって、大勢で来やがって」
そして、ちらりと、ポエタ司祭を見た後、続ける。
「また、嫌がらせに来たのか……。いい加減にしてくれんか!?」
「え? ええ?」
理由が分からずにポエタは狼狽えて、おどおどし出す。
「‥‥‥‥‥‥やっぱ、食い占め? 全部食べる気? だから、あれほど、人の物まで食べるなと……」
空気を読まずに、茶化しにかかるレベッカ。
「ちょっと、さっきから、人のキャラクターに対して変な方向付けしないでちょうだい」
だいぶキレ気味にポエタはレベッカに突っ込む。
「コホンっ。失礼しました。何をおっしゃってるのか、分かりませんが。私たちは貴方たちに何かをしに来た訳ではありません。少し、この村の近況を聞きに来ただけなのです。どうぞ、ご協力をお願いします」
一周回ってか、冷静になったポエタは、威圧して来た老人に凛として答える。
「協力か……」
老人はちらりと、清銘と手を繋いでいるマリナを見る。
「なるほどな。ただ、そちらの話も聞かせて貰おうか……。それに条件がある。お前たちに、コモンセンスを掛けさせて貰おう」
「くっ、無礼な。そのようなことを許せるはずが無かろう!」
オスカーが激昂して、老人に言い返す。
「よせ、オスカー。実害は無いのじゃ」
「姫様……。御意にござります」
「それよりも、時間が惜しい。さ、御老公よ、我らも掛けてたもれ」
老人は、別室へと全員を招き入れ、9人全員にコモンセンスを掛け、会話を行う。
・
・
・
「そうか……都会の方も、そんな感じなのか……。町の教会からの巡回の治療師が来ない訳だ……」
先ほどよりは、だいぶ打ち解けたように話す老人。
その名をジョージと言う。
マリナの祖父であり、エリカの父である、ジョージは渋い顔で言う。
「ですね、ここはまだマシなほうです。クレッセントの町では、大勢が病で苦しんでおります……」
ポエタ司祭が難しい顔で答える。
「いや…………、あれでクレッセントタウンもまだマシなほうなのだ。王都のほうは、それはもう……」
怒りを含んだ語勢で、苦虫を噛み潰したような顔でサフィアーが説明を付け加える。
そこへ老婆――セブラがやって来る。
「さぁ、これをお飲み」
「ありがと。お母さん」
椅子に座り、上着を被せて貰い、無理をして会話に参加していたエリカがありがたそうに、その薬湯を飲む。
エリカが薬湯を飲むとエリカの体が一瞬光ったように見えた。
エリカの顔色も大分よくなり、咳の数が明らかに減った。
「お薬ってすごいんだねぇ……やっぱり不思議な世界だ。良かったねマリナちゃん」
清銘が感心したように、感想を漏らす。
そこが定位置になってしまったのか、椅子が足りないからなのか、清銘は、自身の膝の上に座っているマリナの頭を撫でながら言う。
「はい、でも…………。お爺ちゃん、もうあまり材料となる花が取れないって言ってたよね?」
「うむ……、そうなんだ。日に日に激減しててな……。次あたり……行っても取れないかもしれん……。もっと遠くに足を運ばんと、見つからないかもしれん。前は、いくらでもあったんだがなぁ……」
「これは、この辺りだけの問題では無いのじゃ……。わらわも最近知ったのじゃが、王国全体で産出量が明らかに減っておってのぉ、様々な種類の薬草、ポーションが無くなっていってるのじゃ……」
「姫様、それは、国家機密なのでは……」
「いや、もう、ことこの段階では、それらを隠し、王国民の動揺を無くすようにする段階を超えてしまっておる……。性急に解決策が必要な段階なのじゃ……。だから姉上も……。秘儀を使って……Beポイントを使ってまで、今回の予言を行ったのじゃ。わらわは姉さまの意志を継ぐのじゃ」
「「御意」」
「Beポイントをか…………事情は、分かった。村長には俺からも伝えておくが、あんたたちからも伝えておいてくれ」
そう言った後、さらに、清銘の膝の上にいるマリナを見て、
「実害はなさそうだし、村を調べてくれ。俺もできることがあったら協力する」
マリナの祖父は最後には、そのように申し出てくれた。
話は、そのように纏まり、村を調べることとなった。
「気になったんだけど、マリナちゃんって、自身の祖父のこと『お爺ちゃん』って呼ぶんだね。私は自分の祖父の事ファーストネームで呼ぶから、何か違和感感じちゃった。ミサちゃんや、ツムちゃんはなんて呼ぶの?」
「うっ、うちもファーストネームで呼ぶんですの…………」
「二人とも珍しいのぉ。うちは『じぃじ』と呼ぶの蛇」