第16話 村のホットステーション
クレッセントタウンの町を出発して、四日目の昼の時間になるころ、村が見えて来た。
ゴーレム馬車で、そのまま村には入らず、村から少し離れたところに停車しておくこととなった。
村に到着した清銘達一向は、冒険者ギルドの看板が見えたので、そこへ話を聞きに行くことにした。
「こんな小さな村に冒険者ギルドがあったのね」
「えっ、貴方冒険者ギルド職員なのに知らなかったの?」
ポエタさんがすかさずツッコミを入れる。
「知らないわよ。たぶん最近できたばかりの、試験的な支部だと思うのよ」
遠くから見てると、武器屋のようにも見える。
近づいてみると、そこは雑貨屋だった。
「いらっしゃいませー。何でもありますよ~」
小学校の中学年くらいの女の子だろうか。
店の前に立って店番をしていた。
「ここは看板が出てるが、冒険者ギルドなのか?」
「はい~、冒険者ギルドもやっておりますよ~。こちらのドアからお入りください~」
その少女は、そう言って一つのドアを示す。
清銘達一行がそのドアから入ると、なんとか9人が入れるくらいの部屋だった。
そしてカウンターが一つあった。
「はい~。お待たせしました~。御用件は~」
別の入り口からカウンター側に入った、さっきの少女が、受付として再び出て来た。
「そなたが受付なのか?」
「はい~。そうですよ~」
「えっと、貴方、冒険者ギルド職員の資格持ってるの?」
レベッカがなんの責任感も持たない顔で質問をする。
「え? 四角ってなんですか?」
「‥‥あっ、そう」
レベッカは何も興味が無いというような応答をする。
「えっ? それでいいの?」
ポエタがちらりとジャクリーン王女を見たあと、レベッカに質問する。
「‥‥いいんじゃないの?」
その返事を聞き、ポエタが複雑な顔をする。
「ふむぅ、用件というか、少しここら辺の事情を聞きたくてなぁ。詳しく話せる者はおるか?」
ジャクリーン王女が、その少女を諭すように質問する。
「私は、詳しいですよ~」
「ふむぅ…………。 では、そちに聞こう。この村で最近、病人は出ておるか?」
「びょっ、びょっ、びょ、びょっ、病人は出てないですよ!!」
少女は一生懸命答えた。
怪しいと全員が思った。
「何故、隠すのじゃ?」
「かっ、かっ、かかか、かくか、隠してなんかいませんよ、せんよ……………………うわーん、ううあん、うわーん」
「なっ、泣くでない。泣き止まんか、ほれ」
「ちょっと、ちょっと、ジャクリーン姫、小さい子に、そんな言い方じゃ何にもならないよ」
いつの間にか、ジャクリーン姫の隣に来ていた清銘は、そう言って、その少女の頭を撫で始めた。
少女はビックリした顔で、清銘の顔を見るが、撫でられていることに対して抵抗はしない。
「ひっぐ、ぐすん、ひっぐ、ぐすん」
最初は驚いていた少女であったが、徐々に落ち着きを取り戻していった。
「あれって、あんたの役割じゃないの?」
レベッカがポエタに突っ込む。
「でっ、出遅れました……それに……」
と、ポエタはちらりとジャクリーン王女を見る。
「うーん、なんか大変ねぇ、教会と、王家の力関係」
レベッカが何も考えてなさそうに、ぼそっと言う。
「えっ、ていうか冒険者ギルドって、王家の直轄じゃないのか?」
セリエがすかさず突っ込む。
「あっ、ね。そうかも」
レベッカが、はやり何も考えてなさそうに答える。
「お前、やっぱすげぇなー」
セリエが感心したように言う。
「そこ、感心するとこじゃ無いでしょ」
ポエタがセリエを窘める。
「お三方って、本当に仲が良いのですわねぇ。羨ましいですわ」
紬が、感心したように独り言を言う。
「いやいや、羨ましがる必要無いから……」
オスカーが紬にツッコミを入れる。
そうこうしているうちに、村の冒険者ギルドの少女は泣き止んだ。
「じゃぁ、いろいろ聞かせてね?」
「うーーーん」
「私は、清銘っていうんだ。 貴方の、お名前はなんていうのかな?」
「えっ 私の?」
「うん、貴方の名前を教えてね」
「うんっと、私の名前はマリナです」
「すごいなぁ、マリナちゃんは。ちゃんと礼儀正しく、名前が言えるなんて~」
清銘が、誰しもが褒められると嬉しくなるような、その惹きつける顔をして、褒める。
「えっ? えへへ? そう?」
・
・
・
「うっ、ひっく、えっぐ」
「紬、ちょっと泣きすぎ蛇ないかのぉ?」
「だって、だって、まだ、こんなに小さいのに、半年前に、お父さんを亡くして……。それで、家族を……お母さんを支えようと、頑張って、頑張って、でも、いろいろあって……自分を追い詰めてしまっていて…………。可哀想で、可哀想で、うっ、ぐすっん」
「もう、向こうは泣き止んでおるのに……」
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「そうなんだ。マリナちゃんは馬に乗るのと、雷が苦手なんだ」
「そうなんです。どうも苦手で。なんとかしようと思ってるんですけど、どうしょもできなくて……」
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「だいたい知りたい情報は知れてしまったのじゃ。清銘殿は魔法使いなのか?」
ジャクリーン姫が感心したように言う。
「そんなことないでしょ。ちょっとカウンセリングとかに慣れているだけだよ、下級生相手にカウンセリングよくしてたんだよ。日本もこれすればいじめ少なると思うのに」
「ふむぅ、そなたの国も大変なのじゃなぁ」
「ゲホン。ゲフッ。ゲホン。すいません。ゴフッ。御対応できずに。ゴフっ。ゴフっ」
「あっ、お母さん、寝て無きゃ駄目だよ。店番は私がするって言ったでしょ」
店の奥からよろよろと一人の女性が出て来た。
マリナの母親らしい。
ギルド職員の資格を持っているのは、母親だそうだ。
身重のその母親は、咳をし、体調が悪そうだった。
見かねた祖父達は薬草を取りに行っているそうだ。
「なんというありさまじゃ。教会は何をやっておる…………。そうじゃった……」
と、ジャクリーン王女は反射的にポエタを見るが、何かを思い出したかのようにうつむいた。
「あのうぅ、司祭様。お金……、お布施なら後でいくらでも払います。お母さんに、お母さんに、治癒術を施していただけませんか?」
「あっ、えっと。私は……、私は……」
うろたえだすポエタ司祭。
「‥‥『いくらでも』払いますってやっぱり、教会は暴利をむさぼってるのね」
レベッカが悪気もなさげに言う。
だまってしまったポエタの代わりに、セリアが苦悩の籠った声色でいう。
「それは無理なのです……。我々二人は、教会から派遣されて来ているが、二人とも神聖魔法が使えないのだ」
その答えを聞いた、懇願主のマリナは、部屋にいる全員の顔を見回す。
その懇願主の顔には、他に出来る人はおりませんか、お願いしますと、書いてあるかのようであった。
「ステータスを調べる水晶は、ゴーレム馬車の中に置いて来たノ蛇。操文殿。すまんが、室内にいる全員に全員の属性を見せて行ってもらえんかえ?」
「可能なノ蛇。情報量多くなると脳が処理しにくいだろうから、簡易の属性だけ表示させるぞよ」
「ふぉーいーち『Identify』、カラムス1、2、7、8」
操文が室内全体に向けて手を広げ、鑑定の魔法を使う。
「複数の対象を同時に出来るものなのですか?!」
ポエタ司祭が驚きの声を上げる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ジャクリーン 14
156.5 47.2
オスカー 26
171.2 59.4
サフィアー 27
173.4 60.0
ポエタ 24
152.3 58.0
セリエ 24
165.0 54.5
レベッカ 24
158.7 50.6
清銘 14
141.8 44.2
操文 14
165.5 46.2
紬 14
147.8 47.2
マリナ 9
133.4 29.5
エリカ 33
156.4 55.0
NULL -0.1
46.2 2.5
NULL -0.1
46.3 2.5
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「「「「ん?」」」」
「‥‥あ?、デブ」
「え?」
「やっぱ、そのダブダブとした司祭服は、その為だったのかぁ」
「操文さん、痩せすぎでは? もっと食べないとですわ……」
紬は操文のウエストに抱き付き、体でウエストのサイズを計りながら言う。
「そうですね~。博士ちゃんも、あのファッティな司祭を見習ったほうがいいですよ~」
レベッカは追撃を行う。
「風評被害です…………」
「すまんの蛇カラムスの番号間違えたノ蛇。もう一度! ふぉーいーち『Identify』、カラムス1、4、6、9」
再び操文は室内全体に向けて、鑑定の魔法を使う。
全員の頭の中に、二枚目のウィンドウが浮かび上がる。
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ジャクリーン ニート
781,934
火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:1
オスカー 魔法剣士
423,332
火:0 水:1 風:1 土:0 光:0 闇:1
サフィアー 剣聖
423,332
火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:1
ポエタ 司祭
314,252
火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:1
セリエ 神殿騎士
554,835
火:2 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:1
レベッカ スカウト
530,232
火:0 水:0 風:1 土:0 光:0 闇:1
清銘 錬金術師
1,003,437
火:0 水:0 風:0 土:2 光:0 闇:2
操文 鑑定士
1,111,002
火:0 水:0 風:0 土:1 光:0 闇:3
紬 針子
993,230
火:0 水:0 風:0 土:1 光:0 闇:2
マリナ 雑貨屋見習い
611,543
火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:0
エリカ 女将さん
8,048
火:0 水:0 風:0 土:0 光:1 闇:1
NULL pending approval
undefined
火:0 水:0 風:0 土:0 光:2 闇:0
NULL pending approval
undefined
火:0 水:0 風:0 土:0 光:2 闇:0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「見て、分かる通り……、光属性でない我々は、回復魔法がつかえんのじゃ。というか、あれ、エリカ殿は光属性もあるのか。それに、さらに光属性の者があと2人ほど、おるぞな。誰じゃ?」
「NULLさんって誰?」
レベッカが質問をこぼす。
「確認なんだけど、マリナちゃんのお母さんってなんて名前って『エリカ』であってる?」
清銘がマリナに尋ねる。
「はい。私はエリカと申します」
代わりに、エリカ本人が答える。
「一番下の二人は何者じゃ?]
「『サーチ・アピリング・ヒート!』」
すかさず、セリエが隠れている敵をあぶり出す魔法を使う。
花火が打ちあがる音、それを鈍くしたような音が発生する。
小さい火の玉が何個か現れ、部屋の中を高速でうろうろする。
「だれも、おらんな」
オスカーが辺りを窺い、誰もいないことを確認する。
「ねね、こちらいるんじゃない?」
清銘が、エリカの傍に近づき、司会者が『入場者がこれから現れます』と表現するかのように両手を差し伸べて、エリカのお腹を示す。
「「「「「「なるほど」」」」」」
「ゲホンッ、ゲホッ、ゲホン」
みんなの納得の気持ちとは裏腹に……エリカの咳の音が木霊する…………。