第13話 異世界とは ~馬車の中での対話篇 『承』~
~~? 何故~~
~~?? ~~って何
~~??? ~~を聞いたこともないので、聞き取れない。
「シンギュラリティ? 言葉くらいなら聞いたことありますわよ。最近ちらほら耳にしますわね」
「あ、私も知ってるよ。私が小さいころから、絵本でも読んでくれるかのように、お父さんがレイの本を分かり易く解説してくれたから」
「お? 清銘は知ってるのかレイの本。話が早くて助かるノ蛇」
「例の本ってなんですの??」
「まぁ、紬は知らんのじゃな。アメリカでけっこうヒットした本なの蛇ガ日本じゃあまり知られて無かったからのう。かくいうわらわも読んでは無いノ蛇。内容をお父さんに教えてもらったノ蛇」
「私だけ知らないのですわ……」
「まぁ、知らないと思いつつも、質問をしたの蛇ガ、たまたま清銘が知ってただけなノ蛇。で蛇、知らないと思っておったから、話を分かりやすくする為に、青ダヌキの話を予め出したノ蛇。それで蛇、技術的特異点の話に戻るぞよ。世間一般で言われている広い意味での技術的特異点では無く、『レイ』の言っている技術的特異点にしぼって話すぞよ」
「はっ、はい。お願いしますなのですわ」
「簡単に言えば、青ダヌキの道具で、『もしも』なんとかってある蛇ろ、あのボックスみたいなのにどでかい電話が入っているやつ」
「あ、あれですわね。分かりますわ。映像が頭に浮かびますわ」
「あ、その回の、青白い雪達磨の話、見たことあるかも。なんか言葉にすると、その通りに世界がそうなるやつだよね?」
「そうそれ蛇」
「あの隠喩、大きな電話は、大きさが高性能さを表すというのは分かりますけど、あのボックスは何の意味があるのかしらね?」
「え、大きな電話って、デパートとかに置いてない? 使ったことないし、なんであんなに大きいのかは分からないけど」
「そうなのでしたか。あれ、普通の電話ですのね。大きいだけの」
「だぁー。話が進まんから先にいくぞよ。昔は電話はああいう形、蛇ったノ蛇。わらわは駅そばの通る道に電話ボックスがあるから、気にならんかったノ蛇が……。えっと、どこまで話したかのぉ。で蛇、シンギュラリティというのは、あんな意味不明のアイテムを作り出してしまう時代のことじゃ、いや、時代と言うか時間というか、瞬間の事かもしれんがのぉ」
「えっと、『もしも』なんとかが生み出される時代ということであってますでしょうか?」
「うーむ、まぁざっくりと言うとそうなってしまうノ蛇が、まぁ、そうなノ蛇。青ダヌキのアイテムの中で一番のぶっ壊れ性能の物がその『もしも』なんとかなノ蛇が、それ以外のアイテムもすべて生み出せるくらいにという意味でのぉ。それくらい、なんでも作れてしまう瞬間がくるノ蛇」
「なんでも作り出せる時代……すごいですわねぇ」
「えっと、その『すごい時代になる』にはどういう手順でなるかを説明したほうがいいんじゃないの? ミサちゃん」
「うむ、そう蛇なぁ。自分よりも賢いモノを作れた時にそうなるノ蛇」
「えっ、どういうことですの?」
「自分より、賢いモノ作ったモノが、さらに自分より賢いモノを作れる連鎖が起きたとき蛇」
「はぁ…………?」
「ざっくりしすぎ、ミサちゃん。えっと、お父さんの説明だとね、すべてがオートメーション化された『工場1』があったとしてね、その工場1が工場1より、すごい『工場2』を勝手に作ってしまうようなことだって言ってた。オートメーション化のシステムもひっくるめてね。お父さん製鉄所に勤務してたこともあったから、こういう説明になったのかも。んでね、『工場2』って『工場1』よりもすごい工場なの。その『工場2』が今度は『工場3』を作り出すの。ついてこれてる?」
「ええ。まぁ、ですわ」
「でね、今度は工場2が工場3をって作って行くんだけど、工場1は工場2を作るのに60日、2カ月かかったとするじゃない。工場2は工場1より優れているから、工場2が工場3を作る時に30日、一カ月ですんだの。で、今度は工場3は工場4を作る時に15日、半月ですんじゃうの。この、次を作る時までが早いってのもポイントでね。世代交代で、すさまじく早く……速くなるんだ」
「なんかすごそうですわ」
「これがね、もうちょっと言うと『次の世代を作るには』の時間は、10世代目で3時間、20世代目で10秒、30世代目でね0.01秒くらいになるんだ、具体的に言うと、実感が湧くと思うんだけど」
「10世代目、2.8125、20世代目、9.887695313、30世代目0.009655952…………。すごいのぉ、清銘。計算あってるぞよ、どうやったノ蛇?」
「あ、分かり易い数字だから、憶えてるだけだよ。でね、今みたいな、次の世代が半分の時間でできるって計算だとね、最初60日じゃん、でもね、次の60日目って来ないの。ゼノンのパラドックスのアキレスと亀みたいだよね。でもあれってさぁ、無限じゃなくてプランク定数にぶつかるよね……」
「ちょっと、お二人が何を言ってるのか部分的に分かりませんわ……。日本語でOKですの……。ていうか、操文さんこそどうやって……。清銘さんの言う、ゼノンのパラドックスってプラトンの対話編の? 対話篇と言えば、私たちも今対話篇をしてるかもですわ……。と、そうじゃなくてですわ、えっと、例えば第5世代の工場は、第6世代の工場を何個も作るのかしら? あ、いえ、今はそれは関係無いのかしら、私ちょっと、すぐに関係ない事考えてしまう癖が……」
「ゼノンのパラドックス?? プランク定数?? まぁ、今の理論の話、蛇と第5世代の工場が、第6世代の工場を何個も作っても、10世代目ができる最短のタイミングは変わらないから、あまり関係が無いかもしれんのぉ。で、清銘が言ってくれた説明であってるノ蛇。その世代交代で、途方もないモノ、想像もつかないモノができあがるノ蛇。レイのいうところの技術的特異点は、人工知能によってもたらされるっていう話、蛇。自分より、賢い人工知能が作れるようになったらその時点あたりで、技術的特異点が来るノ蛇」
「人工知能の話なのですわね。今、とてもトレンドですもんね。でも、自身より、頭のいい人工知能なんて作れるのでしょうか? そもそも人工知能自体を作れるのでしょうか?」
「作らなくていいノ蛇。人間を模倣してしまえばいいノ蛇。コンピューター技術とアルゴリズム技術の発達で脳をフルスキャンして、シミュレーションしてしまえばよいの蛇。今のPC蛇できないの蛇ガ、15年後くらいには、1000ドルで買ったPCが一人の人間の脳をフルスキャンできるくらいの性能を持つのではないかと言われておるノ蛇。さらに、10年後には、全世界の人間、100億人近いのかのぉ、それをフルスキャンすることが可能だと言われておるノ蛇。ようするに、全人類の人間よりも1000ドルのPCのほうが上なノ蛇」
「えっと、難しい話ですわね……。人工知能を作らなくてもよいと。人工知能を作らなくて、フルスキャン(?)をしてしまえばいいと」
「そう蛇。フルスキャンするより、もっと効率の良い方法が見つかれば、15年後、25年後とは言わず、この話はより早くなるノ蛇が……」