第11話 スライムも囁くのよ
本日も軽快に飛ばしていたゴーレム馬車であったが、何故かスピード遅くなって行き、止まってしまう。
異変があったのか? と、運転手であるオスカーは思い、まず外の様子を窺う。
これは問題有と判断し、報告の声を上げる。
「姫様、大変です、外に浮遊系のモンスターがおり、地面に大規模大魔法の魔方陣が展開中です!!」
「なっ、なんじゃと?」
全員とも外を確認しようとするが、ゴーレム馬車の壁を透過できる装置も止まってしまい、真っ暗になってしまう。
「誰か? ライトの魔法を使えぬか?」
返事は無かった。
光魔法に適性のある者はこの場にはいなかった。
「くそっ、そうじゃのう光魔法が使える者がこの場に来れている訳がない」
「姫様言葉遣いが……」
サフィアーがジャクリーン王女を窘める。
「それどころではない! オスカー、サフィアーなんとかせい」
清銘、操文、紬が無意識の内にポケットに手を突っ込み、スマホを取り出す。
「光魔法なのか? 火魔法じゃないよな? というかアイテムなのか?」
セリエが呟く。
「見える、見えるぞよ。オスカー、サフィアー出撃せよ」
「「はっ!」」
オスカーが、ゴーレム馬車の後部ハッチへと移動し、操作穴にハッチを開ける為の水晶を接着して魔力を通し、ハッチを開ける。
「む、ハッチが開かない、むうー!」
魔力をさらに込めてなんとかハッチが開く。
近衛騎士のオスカーとサフィアーが外に出る。
ハッチが開き、ゴーレム馬車の室内が明るくなったこともあり、状況を察した神殿騎士のセリエとスカウトのレベッカが後に続く。
さらに後に剣士の清銘と司祭のポエタも続く。
さらに、鑑定士の操文、プリンセスのジャクリーン、裁縫師の紬も外に出る。
そこには、何かが浮いていた。
それは、半透明の灰色の薄い直径1メートルほどの丸い物であった。
半透明であるのに、何故か固そうに見える、不思議なモノだった。
そしてその周りに、様々な種類の丸い30センチから50センチほどの何かがいた。
地べたを這っていたり、ぽんぽん弾んでいる丸い物がたくさんいたのだった。
そしてそれよりも目を引いたのは、浮遊系のモンスターの真下の地面を中心とした、半径40メートルほどの魔方陣が地面に大きく展開され、ゆっくりと回転していた。
それに対し、最初に出て行った前衛の4人が距離を取り、様子を見ている。
正確にいうならば、敵に仕掛けようとしているオスカー、サフィアー、を止める形でセリエとレベッカが両手で制する形で陣取っている。
オスカーとサフィアーは、イラついているようであるが。
「あいつに仕掛けちゃ駄目だ」
セリアが叫ぶ。
「ゴーストスライムはチャンピオン級のモンスターなので、取り巻きがおりますが、極めて温厚なチャンピオン種です。こちらからしかけなければ戦闘にならないでしょう」
「あいつ、チャンピオン級か? レジェンド級だろう」
セリアが付け加える。
「なっ、なるほど、仕掛けない方が良いのか。だとしても、この魔方陣は?」
サフィアーが理解を示すが、魔方陣が気になるようだ。
「無害なのか……。どうしたものか……。去るまで待つべきじゃろうか」
レベッカの発言により、状況を察したジャクリーン王女は、試案にふけった。
「姫様、来てしまったのですか? ウィンドバリアー! ん!? くっ、これしきのことでー!」
オスカーがジャクリーン王女にウィンドバリアーを掛けようとする、だが上手く掛からない。
しかし、力づくで掛ける。
さらに追い打ちとして、エアスクリーンの魔法もジャクリーン姫に無理矢理に掛ける。
さらに、ブリーズプロテクトもジャクリーン姫に掛ける。
「それらは、アレの傍にいる時は掛けない方が良いわ。ディスペルして。万が一があるわ」
レベッカがジャクリーン王女をちらりと見た後、オスカーに注意を促す。
「そうなのか!?」
オスカーはレベッカの助言を聞き入れ、すぐさまジャクリーン姫に掛かっている防御魔法を解除する。
「アイツの使ってくるガイデッドスピリットという魔法は、属性があると、何故かダメージを受ける。無属性だとダメージを受けないのだ。だから、防御を属性化にしないように心がけるんだ」
セリアが皆に助言する。
「‥‥それともう、分かっていると思いますが、魔方陣内では魔法の行使が難しくなっています」
さらに詳しくレベッカが説明を付け加える。
「そうなのか、通りで…………。で、どうすればいいのだ?」
オスカーがレベッカに質問する。
「通り過ぎるのを待つしか無いですね。攻撃もせず、傍に近寄らなければ、ほぼほぼ無害です。万が一を気にしないのなら、傍に寄っても平気なくらいのモンスターですね」
「ふむ。待つしかないようじゃの。皆の者、警戒しながら待機じゃな」
「「御意」」
「ちと、思ったの蛇ガレベッカさん。アレを鑑定してみても大丈夫、蛇ろうか? モンスターに鑑定を使うとアクティブ化するノ蛇ろうか?」
皆が皆、慌ててる中、操文がマイペースに、何かを思い立ったかのように、レベッカに質問をする。
「博士ちゃん、あれを鑑定するの? うん、鑑定はしてもアクティブにはならないから、襲ってはこないわ。‥‥貴方は暇さえあれば鑑定を使い続けてほしいわ」
レベッカは浮遊系のモンスターの方を向いたままだが、口調は優しく操文に説明する。
「了解なノ蛇。『Identify』ノ蛇!」
ここにいる9人全員の頭にモンスターの情報が浮かぶ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴーストスライム スライム族
Length 100
weight -10
火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:0
HP:80,634,934
MP:20,323,004
SkP: 850,000
StP: 4,227,934
平均ATK: 357,443
平均DEF:70,343,549
平均魔力:12,698,883
平均魔法防御:97,234,070
平均SPEED: 243,443
EXP:35,000,000
列伝:地方によっては氏神として崇められている
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「強いな……これほどだったのか……、ここにいる戦力じゃ絶対に勝てないよ。仕掛けなくて正解だった。まぁ、こんな強いのがアクティブモンスターだったら真っ先に討伐隊が組まれるだろうな」
と、セリアが感想をいう。
「ゴーストスライムは、見て分かる通り、異様な硬さを持っています。通常武器だとまったくダメージ当らないですね。まったくっというのが常軌を逸してる話ですが。どんな強い敵でも、物理的には、ほんの少しダメージが入るモノなのですが、ゴーストスライムには物理的な攻撃では、まったくダメージが入らないと言われていますね。おかげでアクティブ化する事故が起きにくいということになりますがね。それに万が一アクティブ化したとしても、私の『アンラーンヘイト』のスキルが効果がありますので、ノンアクティブに戻せます」
「スキルが効果がありますって、レベッカ、お前アレと戦ったことあるのか??」
セリアがレベッカに訊ねる。
「まあね、この辺にずっといるし、付き添っている低級な冒険者が、間違って仕掛けることも、間々あるからね」
「そうか、お前、ギルドの昇給判定員だったな。まぁ、安全が保障されているのなら、あれだけ強い敵なら、冒険者としては戦ってみたくなるよなぁ。魔法ならダメージを与えられるってことか……」
「ちょっと、セリア絶対に今はやめなさいよ。それに貴方は今、神殿騎士でしょ。冒険者じゃないわ」
ポエタがセリアを注意する。
「そういえば、そうだったな」
「まぁ、ざっくりと言いますと、あのモンスターはスライム族の親玉ですね。スライムの中である方向に最上級に強いモンスターで、それで取り巻きにあんなにたくさんスライムがいるのですね。スライムも同じ種族として崇めてるのかもしれません。うじゃうじゃ群がってて面白くもありますね。20匹以上いますでしょうか。まぁ、今は取り巻きのスライムに、弱いのしかいないので何も心配はなさそうですね」
レベッカが引き連れているモンスターの説明もして、現状の安全性を皆に伝える。
「ということは、もし、ゴーレム馬車で、ゴーストスライムに追突してても大丈夫だったってことになるのですか?」
運転をしていたオスカーがレベッカに尋ねる。
「そうなりますね」
レベッカが肯定する。
「ねね、ツムちゃん、ミサちゃん、スライムって何? 豆? それとも、動画なんかで見る、お風呂に入れて浸かるやつ?」
「清銘さん。それはちょっと違いますわね」
「丸くて可愛らしい、初期モンスターと思っておけば大丈夫なの蛇。あの取り巻きは弱いらしいし、あれらが標準的なスライムと思ってればよいかと思うノ蛇」
「なるほど。一つ教養が増えたよ。ありがとう」
「教養なのかしら……?」
紬が不思議がる。
「レベッカさん、さっきの話蛇ト魔法でならダメージが入るってことなのかえ?」
操文がレベッカに聞く。
「そうなるわね。博士ちゃん。魔法防御が高いけど、最低ダメージが入って、HP1を減らして、アクティブ化するわね。これは普通のことね。むしろ、物理でまったくダメージが入らないのが、昔からの謎とされてるわ」
「そうなのか。ありがとうなノ蛇。それにしても、鑑定では表面上のステータスしか、まだ見られないのぉ、違う見方で見るかのぉ」
操文が何度も魔法を唱え始める。
「『いどころ いこーる ねっとユーザーエージェント・ヒューマンGPS』なノ蛇」
「さらに、ぷりぺあー『セレクト、米、フロム、モンスターデータ、ふぇあー いどざひょう >いどみに? あんど いどざひょう <いどまっくす? あんど けいどざひょう >けいどみに? あんど けいどざひょう <けいどまっくす?』なノ蛇」
「そのうえ、ばいんど『いどみに? いこーる いどころかっこゼロ まいなす 50』」
「ばいんど『いどまっくす? いこーる いどころかっこゼロ ぷらす 50』」
「ばいんど『けいどみに? いこーる いどころかっこイチ まいなす 50』」
「ばいんど『けいどまっくす? いこーる いどころかっこイチ ぷらす 50』なノ蛇」
「そして、最後に『エグゼキューと』なノ蛇」
「なにやら、緻密で複雑な事をやってるな……。すごい魔力操作だな」
セリアが操文の魔力の操作の仕方に感心する。
「はうぁ、たくさんいるから分からんノ蛇。そう蛇!! さらに むむ、高さはY座標か。 『Y座標 オーバー0.5』」
「なにやらすごいわねぇ……」
よく分からないが感心するレベッカ。
「ふむむむ……これは……。レベッカさん、属性って6種類しかないのかえ?」
「えっ? 属性の種類? そうよ。火水風土光闇の6種類よ。他には無いわ」
「そうなのかえ…………。うむ、魔力が尽きて来たノ蛇。休憩するノ蛇」
「操文さん大丈夫ですの? いきなりは、無理はしないほうが良いと思いますわ」
紬が操文を気遣い、介抱の為に体を支える。
「そうじゃのぉ、こんなところで貴重な鑑定士に倒れられても困るのぉ。あまり無理はせんでくれなのじゃ。それにしもて素晴らしい魔力操作なのじゃ。これは期待できるのじゃ~」
ジャクリーン姫のセリフを機に、レベッカ、セリエ、サフィアーの三人を残し、後の者は休憩に入る。
しばらく時間が経つとフラフラしていたゴーストスライムも離れていき、ゴーレム馬車が動かせるようになった。
ちょっとしたイベントがあったが、またパンドラ村へ向けて旅は続く。