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おしどり夫婦へ〜2人は今〜

作者:


孝介と美咲のその後を書いています。



 葉山孝介(こうすけ)……24歳。普通のサラリーマン。景気のいいときに就職したため、それなりの会社の内定をもらうことができた。

 普通の家系に生まれ、普通にすくすくと成長し、普通に30代で結婚し、普通に死んでいくと思っていた………僕が彼女に出会うまでは。


            ▽


 いよいよ今日で帰れるんだ……

 会社の研修で京都に出張になってから半年。今日、ようやく研修を終えてはれて我が家に戻ることができる。

 半年間、家族や友達に会えないのはとても寂しかった。何度もメールのやり取りや電話をかけたが、それでもやっぱり会えないことに変わりはない。まるで遠距離恋愛でもしているかのような気分になった。


「みんな元気にしてっかなー…」


 次々に浮かぶ顔ぶれ。大学時代の友達の三田や、会社の同僚、両親や妹、それから―――半年間、遠くからずっと支えてきてくれた妻と子供の顔が浮かんだ。


 僕は大学在学中に学生結婚をした。相手は最悪な出会い方をした、怪力で男勝りな美咲という人だった。彼女には性悪な婚約者がいたのだが、僕は半ば強引に彼女を奪った。語るなら簡単だが、ここまでとても長い苦労と出来事があったような気がする。そして、1年くらい前に待望の子供、(ひかる)が誕生した。


 僕はマンションの自室の前に立つ。たった半年といえども、我が家の前に立つとさすがに緊張してきた。美咲には今日帰ると伝えてあるからきっと待っていてくれるだろう。


「ただいまー」


 鍵を開けて入る。懐かしい匂いが鼻こうをくすぐる。しかし、すぐにその異変に気づいた……返事がないのだ。


「ただいまー……いないの?」


 家の中はもぬけの空だった。子供用ベッドに光の姿もなかった。キッチンには夕飯を作っていた形跡があるのだが、肝心の主がいない。

 嫌な予感がしてきた。いろいろな可能性が頭の中でぐるぐると回る。


 と、そのときだった。

 がちゃっと玄関の扉が勢いよく開けられた。


「ああぁぁぁ………やっぱり帰ってる――」

「…美咲?」


 待ち望んでいた再会は意外にあっけないものだった。黒髪で綺麗な女性――美咲がこっちを見てくる。


「駅まで迎えに行ったんだけど、バスが遅れて…間に合わなかった」

「そうなんだ……ごめん、先に帰ってきちゃった」

「ううん、こっちこそごめん。びっくりさせようと思ってたんだけど」


 そう言って美咲は腕に抱いている光と共に笑顔になった。そして言った。


「おかえり」


 僕が1番望んでいた言葉を。この瞬間、半年間の疲れが吹っ飛んだような気がした。


「ただいま」


            ▽


 この半年で変わったことといえば、光の成長だ。最後に見たときはまだミルクを飲んでいたはずなのに、今は離乳食になっていて、さらに壁につかまって歩くようになっていた。とても愛嬌(あいきょう)のある女の子で、めちゃめちゃかわいい。


「親バカなんじゃないの?」

「違う!光は絶対日本で1番かわいいよ。俺たちの子だもん」

「いやー…世界で100番目くらいだよ」


 美咲と僕とではどちらが親バカかわからない。ちなみに、周囲に両親のどちらに似ているのか聞いてきたところ、大多数が美咲だと答える。僕に似ているところといえば、人懐っこいところだと言われた。僕は自分が人懐っこいとは思えないが。

 そんな光は今すやすやと眠っている。

 やっぱり家が1番落ち着く。一緒にいられることで安心感がわくのだろうか。


「この半年…1人で光の面倒をみさせてごめんな」

「……光がいたからちゃんとやれたんだ」


 美咲は無意識なのか巨大な抱き枕を抱えソファの上でうずくまる。僕はその隣に座った。


「寂しかった?」

「べっ、別に寂しくないし!」

「俺は寂しかったよ?美咲にも光にも会えなかったから」


 苦笑して言うと、美咲は悲しい表情をした。素直じゃないからすぐになんでもないような顔をするが僕にはわかる。ここでサゾ心に火がつく。


「また会社で研修があるかもしれない。でも俺がいなくても大丈夫そうだな」

「えっ……またあるの?」

「かもだよ、かも」


 今のところそんな話はないけど、あえてそれを通してみる。美咲はそれを真正直に信じて不安な表情になる。その様子があまりにも真剣だからちょっと申し訳なく思えてきた。正直にそんな話はないと話すと、美咲の右ストレートを一発くらった。久しぶりの感覚だ。


            ▽


「ほんとにもう研修はないんだよな?」

「ないよ……あれー、寂しくないんじゃなかったの?」

「さっ、寂しくなんかないって!」


 美咲はきっと僕を睨むように見たが、やがてふいっと顔をそらした。そのまま寝ている光の様子を見る。僕はその態度が気になってしまった。しかし、僕の視線が気になったのか、彼女は先にベッドの中に潜り込んだ。


「――美咲?」


 僕がベッドに入ると、美咲に腕をつかまれる。


「光がいたから頑張れた……けど、やっぱり孝介がいないのは―――寂しい」

「………やっと素直になった」


 苦笑すると、美咲は真っ赤になってしまう。あいかわらずウブだ。

 僕は美咲の上に覆いかぶさる。これから僕が何をしようとしているのか美咲も理解しているのか、仰向けになった。

 そして、ゆっくりと唇を重ねた。


            ▽


 ベッドの上。光を起こさないようになるべく音をたてないようにしているが、ようやく再会できた喜びのせいか互いの荒れた息や声を止めることができなかった。僕が美咲と唇を合わせるたびに静かな部屋に音が響く。呼吸をするのも忘れた。

 美咲の白い肌や胸は僕の理性を奪っていった。僕は美咲の全てにキスをした。乳首を口に含むと耐え切れないように彼女は声をもらした。

 僕はぼんやりと2人目の子供のことを考えた。近い将来、光に弟か妹ができるかもしれない。なんかいいな…こういうの。


「美咲……」

「ん……?」


 僕の腕の中で頬を紅潮させている美咲はゆっくりとこっちを見る。僕はこつんと額を当てた。


「――愛してる」

「私も…大好き……孝介と結婚してよかった」


 普段はこんなこと恥ずかしくて言えない。今だからこそ言える言葉だった。


            ▽


 そして、翌朝から半年前と同じ生活が始まる―――


「忘れ物はない?」

「大丈夫だよ」


 美咲は光を抱いて見送ってくれた。僕は光に手を伸ばす。その小さな手が僕の指をぎゅっと握った。そして、笑顔で手を振る。


「お父さん、頑張ってくるぞー」


 僕は顔を上げた。美咲と目が合うと、彼女は少し照れたように笑った。昨日のことを思い出して僕も恥ずかしくなった。

 これからもこんなふうに日常は過ぎていくんだろう。「いってきます」で始まり、「ただいま」で終わる毎日。大好きな家族と一緒に過ごすことのできる幸せな人生。一生続いてほしいと心からそう思った。


「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」


 笑顔でそう言った。



THE END.

読んでくださりありがとうございました。

文体変えてみました。

この2人は楽しんで書くことができたので満足です。

またどこかでお会いしましょう!


――廉――

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