異世界は突然に
歓声が鳴り響く。
懐かしい舞台。俺が、世界チャンプから転落したあの日。もう二度と俺はボクシングのリングには上がらないと思っていた。
しかし、どんな風の吹き回しか分からないが、、、
今俺はまたリングに上がろうとしている。
どうせ恥をかく。
もうあのころのお前じゃない。
何度も言われた。
けれど、1度立ったら忘れられないんだ。あの景色は。
この試合で世界中に思い知らせてやるぜ…
あのころの俺は死んじゃいねぇ!
俺はロープの間をくぐりリングへと上がる。
ジャリ
ん?おかしい。リングに上がったはずなのに、まるでむき出しの地面にでもたったかのような…
歓声が鳴り響く。
右手には剣、左手には盾。
目の前には虎。
「、、、。」
虎が勢いよく襲いかかってくる。え?虎?動物園でしか見た事ないし、猫という可能性も……ない?
虎の鋭い爪が俺の頭をめがけて振り下ろされる。
「危なっ!!」
間一髪で避ける。ボクシングやってなかったら死んでるぞ!まじで。
よくわからない状況。しかし、分かることもある。
「逃げなきゃ殺されるぅーー!」
とにかく逃げ続ける!その中で少しずつ状況が呑み込めてくる。なぜここにいるのかは分からないが、どうやらコロシアムっぽい場所のようだ。映画とかで剣闘士が戦っている所を見たことがある。そして、観客らしき人間が大勢座っている。
どうやらこれば見世物のようだ。さしずめ俺は猛獣と戦う剣闘士ってやつだ。
気に食わない。俺が命懸けで逃げてるのにあいつら笑ってみてやがる。
あの日、世界チャンプじゃなくなった日を思い出す。
俺がリングに倒れたのをみて、笑ってたヤツらもいたっけな…
ムカつくぜ。
どうせこいつらも、俺がこのまま食われるとでも思ってるんだろう。こちとら今に世界チャンプに返り咲く男だぞ!虎の1匹や2匹ノックダウンしてやるぜ!
逃げる足を止め剣を投げ捨てる。虎の足音がズタズタと荒々しく近づいてくる。
「今だ!!」
飛びかかる虎。完璧なタイミングで放ったカウンターが虎の顎を砕く。虎は脳震盪を起こし、その場に倒れる。
会場が静まりかえる。
剣を投げ捨てた男が素手で猛獣を倒したのだ。あまりにも現実離れした状況に理解が追いつかないのだろう。
俺もこの状況に理解が追いつかない。
とりあえず、勝利の雄叫びや!
「うおおおおおおお!」
すると俺の雄叫びに答えるように再び会場の歓声が響き渡る!
出口に向かい歩き出す俺の背中にはたくさんの歓声。
懐かしいぜ。まるで、世界に初めて俺が認められたあの日見てぇだ…!
歓声が、気持ちいい!
これはきっと夢だ。夢だとしても、今はこの騒々しさに溺れていたい気分だ。