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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第2章 ミシュバットの妖精王編(全40話)
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第 86 話 別動隊

「……それで?」


 エルグレドは、何かを考えるように口元を押さえていた右手を緩めると、目の前に立つ篤樹に語りかけた。まだ誰も起き出していないリビングで、2人は立ったまま話をしている。


「えっと……その後は学校生活の思い出話を少ししてたら……急に天井の灯りが赤くなって……。何かの合図だったみたいで、遥はすぐにどこかに行かなきゃって……。それで、僕はここに降りて来たんです。彼女は窓から出て行きました」


「そうですか……。ガナブが妖精達の集団だったとはうかつでした。まさかこの大陸にそれほどの数の妖精が戻って来ていたとは……」


「あの……だから……僕の『あの時』の秘密はこれで全部です……」


 篤樹は、かなり真剣な表情で考え込むエルグレドを覗き込むように語りかけた。エルグレドは何かを決断したように頷くと、組んでいた両手を解いて微笑む。


「思ったよりも早く『その時』が来ましたね。……近々、私の秘密をアツキ君に話す『その時』も来ると思いますよ。……座りましょうか?」


 窓の外を見ると、庭木の色が見分けられるくらいの明るさになっている。


 篤樹は結局、あの後も眠気が来ないままリビングに下りていた。ほどなくして早起きしたエルグレドが1階に降りてきたので、篤樹は法暦省で遥と再会した件と、屋根裏部屋での会話を全て話すことにしたのだった。

 2人はテーブルを挟み向かい合う形で椅子に腰掛けた。


「そのハルカさんという方は、本当に私に全てを話しても良い、とおっしゃったんですよね? 間違いないですか? 何かは黙っていて欲しいとかはありませんでしたか?」


 エルグレドは、今聞いた話に対する疑問をすぐに出してきた。篤樹は少し考えて答える。


「……はい。確認しました。ホントに全部話しても良いのかって。遥は何かを企んでる雰囲気はありましたけど……でも、ガナブの事も何もかも全部話して良いって……むしろエルグレドさんには全部を話して欲しいって言ってました」


「そう……ですか……。法暦省の人間……大臣補佐官という、いわば彼女達の『敵』であるはずの私に……全てを……」


 篤樹はエルグレドが意味深に考え込む姿を見て意を決した。


「あの! エルグレドさん……。遥をあの身体に……心意転移魔法とかを使って別体転移させた人物っていうのに……心当りがあるんじゃないですか?」


 ずっと気になっていた核心部分をハッキリと訊ねる。


 さあ、エルグレドさん……今が『その時』なんじゃないですか? 教えて下さい!


 ……しかしエルグレドは篤樹をしばらく見つめ、首を横に振る。


「今は『知らない』としか答えられません。……かなり……複雑な事情があるんですよ……。あ、でも1つだけ……いや……やっぱり今はやめておきましょう」


「やめないで下さいよ!」


 篤樹はエルグレドの意味深な引っ張りに身を乗り出して抗議した。エルグレドは笑いながら答える。


「冗談ですよ。……そうですねぇ……うん!……私は今、決心しました。私もアツキ君に近い内、私の全ての秘密を語りましょう。今まで……数百年間黙っていた私の秘密を、ね」


 え?……聞き間違えた? 今、エルグレドさん『数百年間黙っていた』って……あれ? 人間……だよね? エルグレドさんは……


「ほら。こんな1つの情報だけでも理解に悩むでしょ? 複雑な事情なんですよ、私の秘密は……。ま、その時が来るまでは……無論、語った後もそうであって欲しいですが、変わらずにお付き合い下さいね。……ただ……皆にはまだ黙っていて欲しいんです。お願いします」


 そりゃ……エシャー達に何て話せばいいかも分かんないし……


「……分かりました……言いません。誰にも……あ、でも1つだけ教えて下さい」


「何ですか?」


 エルグレドはまるで、自分の手品が上手くいった少年のような得意顔で篤樹を見ながら問い返す。


「あの……エルグレドさんは……人間……なんですよね? 何歳……なんですか?」


 やっぱりその質問ですか、とでもいうような余裕の笑顔をエルグレドは浮かべた。


「はい。生まれも育ちも『人間』ですよ。ただ途中で複雑なワケありになっただけです。歳は……さあ……? 数えることをやめたのも随分と昔のことですから……あ、でも実はレイラさんよりはずっと年上なんですよ。……ま、その辺はまだ秘密という事で!」


 そう答えるとニヤッと笑う。ちょうど2階から物音が聞こえ始めた。


「……ではアツキ君。この話はしばらくお互いに一切他言無用でお願いしますね。遺跡への同行については私からみんなに説明します。アツキ君は何も知らないフリで私に話をあわせて下さい」


 エルグレドが語り終えると同時に、リビングへ入ってきたのはスレヤーだった。


「お? 大将とアッキーに先を越されたかぁ……。早起きですねぇ。すぐにメシの用意をしますからぁ」


 スレヤーは前掛けをすると、いそいそと台所へ入って行く。エルグレドと篤樹は顔を見合わせた。


「人は見かけによらないってことです」


 エルグレドは楽しそうに微笑んだ。


「とにかく、朝食後のミーティングで私達2人が別行動となる件は皆さんに了解していただきましょう」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 朝食を済ませると、エルグレドは2人の兵士を同席させたままリビングで朝のミーティングを始めた。篤樹はエルグレドの言動をずっと気にしている。何せ話を合わせなきゃならないのだから……


「さて、では今日の動きについてですが……」


 全員が食卓を囲んで座ったのを確認すると、エルグレドが口を開いた。


「昨夜お話ししたように、私は昨日の遺跡事故……間違いなく事件ですが、そちらの調査と救助へ同行する事になっています。今日は皆さん、ゆっくり休養されて明日からの探索に備えて下さい。……ただ、アツキ君は私と一緒に同行していただいてもよろしいですか?」


 え? そんなストレートな……?


 篤樹はギョッとしてエルグレドを見た。


「えー! ずるい! アッキーだけぇ? 私も行く!」


 即座にエシャーが反応する。他のメンバーはエルグレドに何か考えがあるんだろう、というくらいの反応しか示さない。


……そっか……要はエシャーさえ了解すれば「隊長命令」ってことで問題無いんだ……。とにかく話しを合わせて……


「え? ぼ……僕ですか……」


 こんな感じで良いのかなぁ?


「ええ。是非。エシャーさんはスミマセンがレイラさん達と一緒に待機でお願いします」


 さあ、エシャーはどう出る?


 篤樹はエシャーの反応を見た。エシャーと視線が合う。最初は「もう! せっかくの休みなのにねぇ?」とでも言う様な、篤樹を擁護する視線だったが……何がいけなかったのか「ん? 何でアッキーはそんなに冷静なの?」という疑いを生じさせたらしい。篤樹はエシャーから視線を外し、極力自然な動作でエルグレドに視線を戻す。


 何かヤバイ気がする……


「……アッキー? エルと何か話がついてるの?」


 ほら! この子の観察力は侮れないんだよなぁ……


 篤樹は聞こえないフリをすべきか即座に言い訳すべきか、思考をフル回転させる。


「はは! さすがエシャーさんですね。実は今朝、アツキ君と話しをして、以前から約束していた『学習』をかねて一緒に行きましょうと私からお誘いしたんですよ」


 エルグレドが自然な素振りで返答する。だが、エシャーはあからさまに不機嫌な表情を見せた。


「ほら! やっぱりズルイ! 私も色々と勉強したいから一緒に行くー!」


「そうね。エシャーも行ってらっしゃいな」


 レイラが無責任な助け舟を出す。これにはさすがにエルグレドも慌てて反論する。


「いや、レイラさん。馬の都合とか……色々あるんですよ。アツキ君1人なら私の馬に同乗出来ますけど、2人は無理ですから!」


「じゃあ、もう1頭お借りして下されば私がエシャーを乗せて同行しますわよ。ねぇ? エシャー」


「やったー! レイラ大好きー!」


 エシャーは隣に座っているレイラに抱きついた。


「いや、ですから……法暦省だって今日は軍部と一緒に多数現場入りしますから、借りられる馬は……。そんなに無理を言えませんし……」


 エルグレドが焦り始めている。


 あれ? これは演技? それとも計画の内?


 篤樹はどう話を合わせれば良いのか分からなくなってきた。


「よし。んじゃ俺らも同行しますよ、大将! 馬車で行けば全員乗れますからね」


 スレヤーも「しょうがねぇなぁ」という感じで話に参加して来た。上官の命令なら従いますよ、とでもいうようにムドベとサキシュも頷いている。


「いや……だから……まだ安全かどうかの確認も出来ていませんし……」


 エルグレドは新たな言い訳を展開しようとしてハッ! と口を閉ざした。明らかにこれは失言だったようで、レイラからの口撃を受ける事になってしまう。


「エル? あなた何を動揺していますの? 論理崩壊していますわよ。昨夜は『危険だから自分1人で視て来る。自分の身に何かあったら、ここの調査は諦めてアツキを連れてタクヤの塔へ』なんて遺言命令までされましたわよねぇ? そんな危険な場所にアツキを同行してのんびりと学習タイム? それに、あからさまに他のメンバーの同行を拒んでいますわね?」


「いや……ですから……」


「アッキー! ハッキリ言いなさいよ! 何を隠してるの?」


 まずい! 弱いほうを攻めちゃダメだってエシャー!


 篤樹はもうどうすべきか分からない。


 エルグレドさん助けて!


 すがるように視線を向ける篤樹に、エルグレドは軽く首を横に振って見せると、食卓に両手をついて立ち上がる。


「分かりました! すみません。今は言えませんが、とにかく、今日はどうしてもアツキ君に同行していただかないとならない状況になってしまったんです! 戻って来たら全てお話しますから!……これで納得して下さい!」


 丁寧ながらも語気を強めて語るエルグレドの姿に、一同は唖然として言葉を飲み込む。だが、すぐにレイラはニッコリ微笑むと、エルグレドに穏やかに語りかけた。


「……あら? 初めからそうおっしゃっていただければ素直に了解いたしますのに」


 レイラの表情に、篤樹は「勝者の余裕」を見た。


「何か事情がおありになって、アッキーとエルの2人で別行動したいということなんでしょ? でしたら事後報告で構いませんわ。どうぞ行ってらして下さいな」


 レイラは「大人の事情ね」と了解を示し席を立つ。


「じゃ、私は今日は町をお散歩して、新しい本でも手に入らないか探して過ごしますわ。エシャーもどう? 勉強なら教えて差し上げてよ」


 エシャーは腑に落ちないという表情で篤樹を睨みつけながら席を立つ。


「……うん……じゃあ、そうする。……アッキー、帰ってきたら2人で『ゆっくり』話そうね!」


「じゃ……じゃあ、俺らは軍部庁舎にでも行って、何か目新しい情報でも無いか調べておきますよ。あ、馬車出しますから、行きだけでもレイラさん達もご一緒に……」


 席を立ってさっさと食堂から出て行こうとするレイラとエシャーに、スレヤーが背後から声をかける。


「じゃあ、それぞれの準備が終わったらお願いしますわ。そこの『別動隊』のお2人も、何をされるつもりか存じませんが、お気を付けて行ってらっしゃいな」


 突き放すようなひと言を投げかけ、レイラはリビングを後にする。レイラについて部屋を出るエシャーは振り向くと、篤樹に「ベーッ!」と舌を出し階段を駆け上っていった。

 何となく話を合わせてスマートにという形では無くなってしまったが、一応、当初の予定通りにエルグレドと篤樹の2人でミシュバット遺跡に向かうということを皆に了解させることは出来たようだ。戻ってからの報告がどうなることやら……


「……さ、さあ! 我々も準備をしましょう。もうじき職員が馬を引いて来てくれる時間ですから……」


 篤樹にそう告げて立ち上がったエルグレドの顔には、まるで一日の労働が終わったかのような疲労がうかがえた。


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