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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第2章 ミシュバットの妖精王編(全40話)

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第 79 話 疑心暗鬼


 篤樹は法暦省の職員らに付き添われ、明かりの戻った庁舎へ帰って来た。

 遥の提案通り、ホビットのような姿の不審者を追いかけていて道に迷ってしまった、と篤樹は職員らやエルグレドに説明をした。


「……だから深追いはダメだと言ったでしょう?」


 当然ながら、エルグレドからの注意を受ける。しかし篤樹はその注意を上の空で聞いていた。


 ……遥が言ってた特に気をつけるべき相手……部屋ん中におった「ヤツ」って……エルグレドさん? でも35~36年も前なら……まだ生まれて無いよなぁ? この人22~23歳くらいだし……


「迷子になっても泣き叫ばなかっただけ、それなりの成長はしたようだね」


 ビデルがぼそりと嫌味を言うが、その言葉にも篤樹は上の空だ。


 この人……50歳ちょっと位だっけ? 遥が「殺された」時は20歳前位か……でも文化法暦省の責任ある立場に抜擢されたのは、つい数年前だって言ってたよなぁ?


「あの……スミマセンでした……夢中で追いかけたもので……」


 大臣とエルグレドに頭を下げてお詫びをしながらも、篤樹の頭の中は「どちらが遥をあんな姿に変えたのだろうか……」という疑問に満ちていた。謝罪の頭を上げると、ジッと篤樹の目を見ているエシャーに気付く。


 なんか……ヤバイ……


 篤樹は思わず目をそらした。


「とにかく……」


 ビデルが声をかける。


「私は明朝早くには王都に戻る……君らの探索ルート変更の件は了解した。タクヤの塔になにがあるのか、私もその場に行ってみたい気もするが……まあ、まずはルロエのためにも必ず『エルフの守りの盾』を持って帰って来るように。探索隊だけで難しい時には、軍にも動いてもらう手はずを整えておくから……必要あればすぐに連絡をするように」


「はい。ご配慮、ありがとうございます」


 エルグレドが一礼をし、篤樹とエシャーにも挨拶を促す。篤樹は大臣の前に立ち、改めて「この人が……」と思いながらも退室の挨拶をする。

 エシャーはルロエと二言三言交わした後、ギュッと抱き合い再びの別れを惜しんだ。


「さ、エシャー……」


 ルロエに促され、エシャーもビデルに一礼をして部屋を出た。扉が閉められる。


「ふぅ……アツキ君……とにかく、無茶な行動だけは避けて下さい。あなたの身に何かがあれば、タクヤの塔に行く意味も無くなるだけでなく、ルエルフ村への手がかりも無くなってしまうかも知れないんですから」


「あの……ホントにスミマセンでした……これからは気をつけます……」


「さあ、早く『家』に戻りましょう! もう9時前になってます。レイラさんとスレイがお待ちかねですよ」


 エルグレドは廊下を早足で歩く。後ろをついて行く篤樹の背中をエシャーがバンッ! と叩いた。


「痛ッ!……なんだよエシャー!」


「アッキー……あとで話がある」


 エシャーは微妙な笑顔で篤樹にそう告げると、サッサとエルグレドの背後に追いつく。


 エシャーって……勘が鋭いなぁ……


 篤樹はこの時「エシャーには今夜、遥と出会った事を話そう」と早くも観念していた。



◆   ◆   ◆   ◆   ◆



「これ……本当に2人でやったんですか!」


 篤樹達は「家」に帰り着き、目を見張った。伸び放題だった庭の草木がきれいに刈り揃えられ、外壁に無秩序に這っていた蔓も、キチンと整えられている。

 家に入ると、石壁の隙間の埃まで払い落とされており、家具類などの木工品は光を反射するほどに磨かれていた。リビングも、まるで高級なレストランを思わせる趣に変わっている。


「そりゃ数日泊まることになるんですから、最低限このくらいは片付けておかないとね。鍵が合わない屋根裏部屋以外は全て完璧よ。スレイが良く動いてくれて助かりましたわ!」


 帰って来た3人の驚く姿を、腕を組んで満足げに見ているスレヤーにレイラが語りかけた。


「レイラさんが指示してくれた通りにやっただけでさぁ。いや、ホントに御3人がここまで驚いてくれるんなら、やった甲斐があります!」


「それにしても、この布や食器類まで……どこで調達されたんですか?」


 エルグレドが尋ねた。


「家の裏に物置があって、そん中から見つけたんですよ」


 スレヤーが事もなげに答える。


「みなさんお帰りが遅かったから夕食も準備しておきましたわ。法暦省の方が食材を差し入れて下さったの。そろそろ仕上がる頃ね……」


 レイラが台所へ入っていく。


「あ、手伝います!」「私も!」


 篤樹とエシャーも台所へ入っていく。エルグレドは台所の入口から中を見た。


 なるほど……このレベルを要求されていたのならダメ出しも当然ですね……それにしても……


「いや、スレイもこんなに綺麗好きだったとは……意外でした」


 エルグレドはスレヤーに語りかけた。


「俺ぁどっちでも良いんですけどね。レイラさんが喜んでくれたし、みんなも喜んでくれるってんでやっただけでさぁ」


 嬉しそうに答えるスレヤーの表情は「ほめて、ほめて」とジャレつく子犬のように、屈託の無い笑顔だった。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 夕食を終えて食器も片付け終わり、全員がリビングに集まったのを見計らうと、エルグレドは法暦省庁舎で起こった出来事をレイラとスレヤーにも報告をする。


「……あら? そんな事が起こっていましたの? それで3時間もかかられたんですのね」


「お待たせしてすみませんでした。アツキ君も不審者の追跡で道に迷ってしまって……」


 レイラに向け、エルグレドが改めて遅宅を詫びる。


「さて、大臣には当初の探索ルートからの変更を正式に承認していただきました。ミシュバット遺跡の『結びの広場』からルエルフ村へ入る手がかりがつかめなければ……その後、タクヤの塔を目指します。もし村へのルートが分かれば、盾の回収を優先し、タクヤの塔へはその後向かう事にします」


「じゃあ、遺跡で手がかりが見つかれば、私はタクヤの塔までは遠慮するわね」


 レイラが答える。


「俺も『エルフの守りの盾』の探索隊としての同行だから、レイラさんと一緒だなぁ……」


 スレヤーも残念そうに答えた。


「仕方ありませんね……エルフ族協議会も軍部も『盾の回収』が目的で御2人を同行させておられるのですから……」


 エルグレドもその事は了解せざるを得ない。


 そうか……盾が見つかったらレイラさんともスレヤーさんともお別れなんだ……


 篤樹は3人の会話に寂しさを覚える。しかしそれ以上に……


「えー! ヤダッ! レイラもスレイも旅の仲間なんだから、最後まで一緒にいようよぉ!」


 エシャーがふくれっ面で要請の声を上げた。


「そういうわけにもいかないのは分かるでしょ? エシャー」


 レイラがたしなめる。


「じゃあさ、遺跡でさ、もしも村への道が分かっても黙っておくってのはどう?……で、タクヤの塔に行って、帰りにまたここに寄ってから盾を取りに行くの!」


「……そういう話じゃないんですよ、エシャーさん」


 エルグレドが呆れたように笑いながら答える。


「私達はそれぞれ『任務』を帯びてこの旅をしているんです。それはつまり、それぞれの属している組織からの『信頼を受けて選ばれた』という事です。最優先事項は『盾の回収』である事は君も分かっているでしょう? ルロエさんを一刻も早く自由の身にして上げたい、とおっしゃっていたじゃないですか?」


「そりゃ……そうだけどさぁ……」


 エシャーは納得いかない表情だ。


「任務を任された組織の信頼を裏切る事は、自分自身の正義を失う事にもなるんです。分かって下さい……まあ、とは言ってもミシュバットの遺跡にある『結びの広場』が、そもそもいつの時代まで使われていたのか、今も使えるのか、使えるにしても方法が分かるのか……今回のルエルフ村へのサーガ襲撃による影響が有るのか無いのか……いくつもの課題はありますから、結局はこのメンバーでタクヤの塔までを目指す可能性は高い、とは思いますがね」


 エルグレドの説明にエシャーは何となく納得する。


「……早く村に行って盾を回収したいって気持ちと、タクヤの塔までみんなで一緒に行きたいって気持ちと、なんだか複雑ぅ……」


 エシャーが呟いた正直な気持ちに篤樹も同意し頷く。


「さて……と。とにかく明日からの調査で何が見つかるのか、それとも見つからないのか……一応、ここでの調査は最長で1週間と考えていますから、明日からはしっかり探索に励みましょう!」


 エルグレドの一言でミーティングは終了となる。


「お風呂もすぐに準備出来ますわ。女性陣から先に入らせていただいてもよろしいかしら?」


 レイラの提案通りに女性陣からの入浴となり、スレヤーはお湯を沸かすために裏庭の焚き場へ向かった。リビングには篤樹とエルグレドの2人だけが残る。


「……アツキ君」


 手持ち無沙汰に室内の装飾品を見ていた篤樹に向け、エルグレドが椅子に座ったまま声をかけた。


「え? あ、はい。何です?」


「『ガナブ』と接触しましたよね?」


 エルグレドはいつものように丁寧で穏やかな口調ながら、かなり鋭さの込められた声で質問してきた。篤樹は不意打ちの質問に動揺しつつ口を開く。


「あの、今夜の?……ええ、見ましたよ。しばらく追いかけたから後姿はハッキリと……ホビットのような体型で……」


「アツキ君!」


 エルグレドはピシャリと篤樹の言葉を遮った。


「何を隠しているんですか? ヤツ……もしくはヤツラは犯罪集団ですよ? 法暦省の人間としては放っておけない事件なんです……正直に話していただけませんか?」


 篤樹を見つめるエルグレドの視線は、今までに見たことの無い厳しさを帯びている。嘘や誤魔化しは通じない。篤樹は覚悟を決めた。


「ゴメンなさい! でも言えないんです! まだ……」


 遥が気をつけろと言っていたのが……ビデルさんなのか、エルグレドさんなのか判断がつかない今、もし、遥の事を全て正直にエルグレドさんに話したらどうなる? 遥を「殺した」犯人がビデルさんなら……エルグレドさんは真相解明に協力してくれるかも知れない……でも、もしエルグレドさんが遥「殺害」に関係していたとしたら? 遥を再び命の危険に陥れてしまうかも知れない……


「僕……今はまだ言えません」


「アツキ君……」


 エルグレドは椅子から立ち上がる。


「……法暦省はね……軍部よりも強力で残忍な拷問の設備と技術を持っているんです。隠されている情報を明らかにするために……ね」


 篤樹は近寄ってくるエルグレドの視線に飲まれ、身じろぎも出来ない。


 こ……怖い! 遥が気をつけろって言ってたのはやっぱり……


「ですから……」


 エルグレドは篤樹の目の前まで歩み寄ると、口端を上げて笑む。


「『言えない』ではなく『知らない』と言い続けることが大事です。『言えない』と答えれば訊く側は『こいつは何かを知っている』と確信し、いつまでも拷問を続けます。でも『知らない』と言い続けておけば、訊く側も自分が無駄な尋問をしているのではないか? と疑いを抱き、結局は訊くのを諦めるものです……まあ、結果的には諦めて解放するか、諦めて殺すかとはなりますが……」


 エルグレドは自分の口に指を当て、微笑みウインクをする。


「『今は』というのであれば『いつか』話して下さい。それまでは誰に聞かれても『知らない』と答えるのが賢明です。良いですね?」


「……あ……はい……すみません……」


 ん? エルグレドさんは「ガナブの件を俺が黙っている」のを容認してくれたって事か?……やっぱりエルグレドさんになら……


「あ!」


「どうしました?」


「いや……さっきの件ですけど……」


 篤樹は「何かを隠している」ことがエシャーにもバレてる感じだとエルグレドに告げた。


「そうですか……エシャーさんは同族以外の心情にも敏感なようですからねぇ……ただ、もしも何かあった時に、エシャーさんが『事実を知っている』となると、彼女が狙われる可能性も出てしまいます。上手く誤魔化せませんか?」


「うまくって……今みたいな感じだと……ダメでしたか?」


 篤樹は自分がエルグレドに示した精一杯の抵抗の評価を尋ねた。エルグレドは苦笑する。


「あれじゃダメです。かえって何をどれだけ隠してるのか、根掘り葉掘り聞き出したくなる最悪な誤魔化し方ですよ、あれでは。……私だって本当なら今すぐにでも真実を知りたいですし、そのために問い詰める尋問術も身に付けています。それをあなたには行使しないだけです。でもエシャーさんは……頭で考えずに感情の勢いのままにどんどん矛盾をついて来るでしょうから……そうですね。全体の6割ほどは事実を語り、絶対に語れない部分だけは意識的に除外して、当たり障りの無い『秘密』を考えておき、追求された時にその『秘密』を語る。これでどうですか?」


「なんか……難しいです……でも、考えてみます!……あの、ホントにすみません」


 篤樹はエルグレドを疑い、エルグレドに疑われる関係になってしまった事を心苦しく感じつつ改めて詫びる。


「仕方ありませんよ。人に言えない『秘密』は誰もが持つものです。私だって皆さんに秘密にしている事はたくさんありますよ……ま、秘密があることを隠していると、お互いに疑心暗鬼になりますが……秘密をもっていることをお互いに理解した上で、それでも尚一緒に過ごすことが出来るのが仲間です。『いつか話せる秘密』なら、その時を待っておきますよ」


 エルグレドはそう言うと台所へ入って行った。


……やっぱり……エルグレドさんには信用して話しても良いかなぁ……でも……


 篤樹は悶々としながらその場に立ち尽くす。


「上がったわよー。男性方もどうぞー」


 浴室からレイラの声が響いた。

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