第 63 話 サガドの町
すっかり中年夫婦となっていた同級生の牧田亮と高木香織から、部活仲間の高山遥が『過去に殺されていた』という事実を知らされショックを受ける篤樹。
それぞれの『出口』を目指して歩む事を確認し、篤樹は二人と分かれ次なる目的地『ミシュバット遺跡』を目指す。
2000年前に突如滅び、その後も『呪われた町ミシュバット』と恐れられ人もサーガも近寄らない廃墟と化していた遺跡だったが、数十年前から『文化法暦省』による調査が入り始めていた。しかし、その調査には文化法暦省大臣補佐官のエルグレドにさえ隠されている秘密がある事を篤樹達は知る。
ルエルフ村への入り口を探す『探索隊』の前に見え隠れするエグデン王室内の怪しげな動き。軍部から送り込まれた『新しい仲間』。文化法暦省を狙い暗躍する『ガナブ』と呼ばれる謎の組織。篤樹の前に『変わり果てた姿のあいつ』が姿を現し、エルグレドは意味深な言葉を篤樹に告げる。
誰が敵で誰が味方なのか疑心暗鬼になる篤樹。そんな篤樹の前に凶悪な敵タフカが立ちはだかる。ミシュバットの町が突如滅亡した秘密が明らかになる中で『飛ばされて来た同級生達』の新たな情報を得た篤樹はタフカとの戦いに臨むが……
『3年2組ボクらのクエスト』第2章~ミシュバットの妖精王編~は物語前半の大きな山場として構想した章になります。19世紀初頭のヨーロッパの街並みやカッパドキアの遺跡群をイメージしつつお読み下さい!
その日、探索隊の馬車は夜8時頃まで歩を進めた。安全に野宿出来そうな、見晴らしの良い小高い丘でようやく止まると、4人は手分けをして手早く野宿の準備を終える。
「……とにかく無事で何よりでした。ホントに肝が冷えましたよ」
焚き火を囲む食後、馬車の移動中には詳しい話が出来なかったせいか、エルグレドが改めて語り出した。
「すみませんでした。僕らも状況がよく分からなかったんで……相手に従うしか無かったから……」
「それで? その『山賊達』は、なぜ馬車を狙わずにあなた達だけをさらっていったのかしら?」
レイラがエシャーに尋ねる。エシャーは篤樹を見た。馬車に戻る直前に「『盗賊』や亮と香織の事は内緒にしててね」と篤樹が頼んだからだ。
「……なんか……法力を測れる道具を持ってたみたいで……。僕らはそれぞれ……別々の場所で捕まっちゃって……で、盗賊の1人が馬車の中にいるエルグレドさん達の法力を調べたみたいでした。そうしたら……何か2人とも、ものすごく高い数値が出てたみたいで『仕方無い、諦めてコイツらだけでも』って話になった感じでした」
エルグレドはクスッと笑いながら火に薪をくべる。
「まあ、失礼ね! その時に呼んでくだされば、そんな恐ろしい相手ではないと分かってくださったかも知れないのに」
「人は見た目で判断するより、データで判断したほうが間違えない場合もある……ってことでしょう」
エルグレドは長めの枝をポキポキと折っていく。
「それで? ドラゴンライダーまで扱うような『山賊』から、よくお2人だけで脱出出来たものですね?」
エルグレドは2人が何かを隠しているという事に、早い段階から気づいているようだ。しかし篤樹とエシャーの証言を「嘘」と断じる事はせず、さまざまな情報を聞き出しながら自身の中で「事実整理」を進めている。
「閉じ込められてた倉庫の土を掘って……壁を抜けて、山の中に逃げ込んだんです。で……道に出たから……道に沿って歩いてたら、後ろから三体のドラゴンライダーが追いかけて来たんです。橋を渡った後にエシャーの魔法で橋を壊したんですけど、谷間を飛び越えて来て……無我夢中で1体と山賊1人は倒したんですけど、残りの2体には勝てないって思った時に近くの盗……えっと、村の人達が助けに来てくれたんです。ね? エシャー」
篤樹は「この話で合わせて!」という感じでエシャーに同意を求めた。
「え? あ……うん。そうそう! すごく優しい『村』の人達だったよ。だけど山賊からいつも酷い目に遭わされてるって……ね?」
エシャーは「ゴメン! 言い過ぎた?」と聞くように篤樹をみる。篤樹は首を軽く振り話を合わせた。
「そうそう! そう言ってたよね。山賊共には困ってるって!」
「そうですか……。いや、確かにあの地域ではかなり極悪な山賊が縄張りを持っているらしい、との情報も軍部から来てました。まさかドラゴンライダーまで持っているとは……。次の町に着いたら軍部に連絡しておきましょう! お2人の情報から山賊共の根城が大体分かりましたし、速やかに対処してもらいましょう。お2人がお世話になった村の方々のためにも……」
エルグレドの提案に篤樹とエシャーは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。エルグレドはその笑顔から「山賊に苦しめられている村」は実在している、と確信する。
「ところで、あの近辺での被害報告は独特でしてね……」
エルグレドは「ついでに」という感じで話し始めた。
「被害状況が極端に違うんですよ。大部分はまるで素人の盗賊によるやっつけ仕事のようなもので……物品の被害は多いですが人的な被害はほとんど無い。有ってもちょっとした擦り傷程度。かと思えば、幼い子どもや老人までが無残な遺体となっていたり……。まるで『穏健なグループ』と『非道なグループ』が存在しているような、そんな報告が出てるんですよねぇ……。お2人は何か感じませんでしたか?」
明らかに確信をもって探りを入れて来たエルグレドの言葉に、エシャーは「私知らなーい」というように横を向く。篤樹は「もう無理」と観念した。
「えっと……僕らを助けてくれた村なんですけど……実はその村の人達が『盗賊』だったんです……。って言うか!……山賊達から無理矢理に盗賊をやらされていたんです!……そりゃ、悪い事をやってしまってるのは事実だと思います。だけど、あの村の人達は捕まえないであげて欲しいんです! お願いします!」
篤樹はエルグレドに向きなおり、正座のまま頭を下げた。
「大丈夫ですよ。私は『北の山の山賊』の件だけしか軍部には通報しません。山賊共に無理矢理やらされていたのであれば、山賊がいなくなればその村の人々も盗賊の真似事などせず、これからは穏やかに暮らせるんでしょうから」
「……すみません。ホントに……お世話になった人達なんで……。お願いします!」
エルグレドは大体の「事実確認」は終わった、というように満足の笑みを向ける。
「さて……もうそろそろ休みましょうか? 明日は何とか陽がある内にサガドの町に着きたいと考えています。日の出と共に出発しますよ」
話を終えると、エルグレドから始まる夜番の順を決め、篤樹とエシャーとレイラはほろの荷台に乗り込み床を整えた。
亮、高木さん……軍部が山賊の討伐に行くまで無事に過ごしてくれよ!
篤樹は「あの頃」の姿の2人をまぶたに思い浮かべながら眠りについた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そろそろサガドに着きますわよ!」
御者台からレイラの声が聞こえた。エルグレドはほろの荷台で座ったまま眠っていたが、スッと目を開くと、向かい合って座っている篤樹に声をかけた。
「アツキ君、そろそろだそうですよ。起きて下さい」
野宿明けの旅の前半は、エルグレドと篤樹が御者台に座っていたが、昼を過ぎたあたりに「暇だから」という理由で女性陣が御者台に移っていた。
「どの辺りですか?」
エルグレドは立ち上がると、前方のほろの開きに近づき場所を確認する。
「もう見えてますわ」
前方に大きな建物が建ち並ぶ町の姿が見えた。
「うわぁ……人がいっぱい!」
エシャーは前方に見える人々や馬車の往来に驚きの声をあげる。篤樹も御者台傍まで近づき、辺りの様子を見渡した。
道の端や草地を歩く人々。道は馬車が3~4台並んで走れそうな広さになっている。一応の交通ルールはあるようで、基本「左側通行」のようだ。馬車は前を追い抜きたい時だけ中央に寄って追い抜く、という感じの流れになっている。
「あの……あれって……さっきからなんて書いてあるんですか?」
篤樹は通りの左右の草地に時々立てられている看板を指差し尋ねた。
「ほとんどが『ガラス練成魔法法術士募集』の広告ですわ。後はガラス製品の紹介や広告……さすが『ガラス練成の町』ですわね」
レイラが楽しそうな口調で答える。
そうか……ここが……
篤樹はテリペ村の老人、自称ガラス練成魔法の発明者であるベルクデじいさんを思い出した。
ミッツバンとかいう弟子に術を奪われたって言ってたけど……
「アツキ君、この道……」
ちょうど差し掛かった交差点で、エルグレドが篤樹に声をかけた。
「この交差している道が『王都への街道』です。右に……つまり東に向かって真っ直ぐ行けば王都につながっています。西に向かえば大陸の西海岸沿いに大陸を南下しています。この国の主要街道ですよ」
篤樹は「街道」と言われてもピンと来なかった。そこはまるで大きな広場のようで、人も馬車も無秩序に入り乱れながら行き交っている。色んな出店も立ち並んでいて、まるでどこかのお祭り会場のようだ。
「何かのお祭りなんですか?」
「いや、いつもこうですよ、ここは。『ガラス練成魔法』が確立して以来、大陸中の商人や法術士が集まるようになりましたから。昔は『主要都市』とは言え、ここまで人はいなかったはずです」
エルグレドは、外の騒ぎで聞き取りにくくなって来た会話を成立させるため、大声で説明をする。
「宿はどこなの? 隊長さん」
レイラが尋ねる。
「町の西街区に在る法暦省庁舎に向かって下さい!」
「はーい」
エシャーが応じると、レイラは巧みに馬車を操作し、人混みと他の馬車を避けながら町の中へ進んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もう陽も沈んだ時間だが、サガドの街路は明るかった。あちらこちらにガス式の街灯が立てられている。建物の窓もほとんどがガラス張りで、室内の灯りがキラキラと反射し、街路を照らしている。
「きれい……」
エシャーは初めて見る「夜でも明るい街並み」に感動して声が漏れる。篤樹も、自分の世界の夜の明るさに比べれば大したことは無い、と頭では思いつつも、こちらに来て初めて「暗くない夜」を体験して感動を覚えた。夜も明るくて当然、という概念が薄れつつあったのだ。
「いやぁ……さすがに……すごいですねぇ。以前立ち寄った時以上だ……」
エルグレドも驚嘆の表情で周囲を見回している。
馬車は町に入ると西街区方向を目指し、中心街から離れていった。次第に辺りも暗くなって来る。
「中心街を離れたら急に暗く感じますわ。道が見辛くって……」
レイラは馬車の速度を緩めた。
「あ、レイラさん。次を右に……」
エルグレドがレイラの背後から法暦省庁舎への道を指示し始めた。もう近くのようだ。ほどなくしてエルグレドが声をかける。
「そこです。その建物の前に停めて下さい」
馬車は3階建てのレンガ造りの建物の前に止まった。
「何かの手続きですの? 時間がかかるのでしたら、先に私達だけでも宿に行っておきたいのですけど……」
馬車から降り立とうとするエルグレドにレイラが尋ねた。エルグレドはニヤッと笑う。
「今夜はここの宿舎に泊めていただきます。さ、必要な荷物を降ろして下さい」
「え? お役所の……宿舎……」
レイラが絶句する。
「良い宿も考えていたんですけどね。予算が厳しいので削れるところは削らないと……さ、降りて下さい」
篤樹とエシャーは「乗降り時用荷物セット」を手早く抱え、荷台から降りる。
「レイラぁ、行くよぉ?」
御者台に座ったままのレイラにエシャーが声をかけた。レイラは仕方無いとでも言うように、ノロノロと御者台を降りながら「はぁ……」とタメ息をつく。
「……ここは良い宿に泊まって観光するってのがフツーでしょ……。なんで行政宿舎なんかに……何よあのケチんぼは……。男がチマチマとお金の遣り繰りなんか考えるから……」
ブツブツと聞こえるレイラの呟きを背後に聞きながら、篤樹とエシャーは顔を見合わせる。
「……エシャー。ここってお酒は置いてないよね?」
「お役所だから大丈夫じゃない?」
「有っても絶対に飲まれないようにしような」
2人は一抹の不安を覚えつつ、エルグレドの背を追い、法暦省庁舎の中へ入っていった。




