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第 57 話 戦う者たち

 来る!


 篤樹はドラゴンの口から、再びあの大きな炎がはなたれようとしているのを肌身はだみに感じる。しかし……体が動かせない!

 全ての神経がフル稼働かどうして身体を動かそうとしているはずなのだが、「見ているスピード」と「物理的な行動スピード」にズレが生じている。まるで悪夢の中、意識はハッキリしているのに身体が動かせない状態……そんなもどかしさを感じながら、迫り来る火炎を見つめていた。


「エイッ!」


 草むらで立ち上がったエシャーは、今まさに篤樹に向かって火炎を吐きだしたドラゴン目がけて攻撃魔法を放つ。ドラゴンの頭部に衝撃しょうげきが加わり、なんとか「火炎放射口」の向きを変える。

 

「アッキー! 立って動いて!」


 まるで、バーベキューコンロの上に顔を近づけたような熱気を一瞬だけ感じた篤樹は、その熱源が自分から離れたのだとエシャーの叫び声で理解した。意識と運動力のズレが元に戻る。篤樹は急いで立ち上がり、ドラゴンとの距離をとった。


 思わぬ方向からの衝撃を受けたドラゴンは、その攻撃者を探すために首を回しエシャーを見つける。

 ドラゴンは、再び現れた敵と目の前にいる新しい敵……どちらに向かうべきか考えるように「グルル…」と低くうなった。


 ふと、エシャーは草むらに隠れている女の子に気付く。ドラゴンが攻撃相手を迷っている隙に、そっと女の子に近づいた。


「ねぇ、えっと……アイちゃん? それ、お姉ぇちゃんのなんだ。返してくれる?」


 やさしく微笑ほほえみながら、アイの腕にはめられているクリングを指差し、手の平を広げた。アイはコクンとうなずくと、自分の腕からクリングを外しエシャーに渡す。


「ありがと。もうちょっとでおうちに帰れるからね。もう少し待ってて」


 そう言うと、アイの頭を優しくでる。


「よしっ!」


 エシャーはクリングを握ると、ドラゴンの背後に回りこむように駆け出した。篤樹はエシャーの動きを確認する。


 いいぞ、エシャー! 2方向にバラけていれば、ドラゴンもどっちを狙うかもっと迷うはずだ。


 篤樹は成者しげるものつるぎの刃を最大まで出し叫ぶ。


「エシャー! はさちだ!」


 エシャーも了解している。あとは……どうやって戦えばいいか、だ。……とにかくドラゴンのウロコはかたい。エシャーの攻撃魔法は2回とも「表面に衝撃を与えるだけの効果」しか出せなかった。


 でも成者の剣ならどうだろう? 今の形はカッターナイフみたいだけど……性能は全く違うはずだ! 刃をって交換こうかんするような工作道具ではないし……強度は抜群ばつぐんだ。これなら恐らくあのウロコにもさるだろうし……切りくことも出来るかも知れない。ただ……


 篤樹はにぎめている成者の剣を改めて見る。とにかく短い!


 ドラゴンの懐に……いや、背中に乗ることが出来れば……あとは上から攻撃できるとは思うが……さっきみたいに上手く上れるか?


 クリングを取り戻したエシャーも、戦いあぐねる。試しに攻撃魔法を乗せてクリング攻撃をしてみたが、結果は同じだ。硬いウロコにはじき返されてしまう。ドラゴンのウロコにはかない……ドラゴンのウロコにも通用する魔法具は……

 

 ドラゴンの前方で動く篤樹の姿をエシャーは確認する。成者の剣が握られている……アッキーがあれを使えばコイツも倒せるはず……だけどそのためにはアッキーがコイツの背中に乗らないと……


 エシャーはドラゴンの背中に視線を移す。持ち手のいなくなった手綱たづなと乗竜台……その後ろに、盗賊から手に入れた多くの荷物とそれを載せている荷台。荷物を固定しているロープ……


 よし!


 ドラゴンとの距離を詰めるエシャーに気付き、篤樹は「何かをやるつもりだ」と感じとり、「その時」に備えて注意を払う。ドラゴンは前後で動く目障めざわりな人間とエルフにイラついている様子だ。


 エシャーがクリングを投げた。


 何が起きる?


 篤樹は状況の変化を見逃さないよう、目をらす。ドラゴンの背の荷台から荷物がドサドサと落ちて来た。


 どういうつもりだ? エシャー……


 篤樹はエシャーの計画を必死に考える。あの荷物でドラゴンの足を止める? いや、あんなものコイツなら踏んづけて終わりだ。それじゃあ……


 エシャーはもう一度クリングを投げた。今度は荷台がズルズルと動き出している。


 そうか! あの荷台なら大きくて丈夫だ!


 荷台はドラゴンの動きに合わせ、ズルズルと背中からずり落ち、一端が地面に着いた。しかし、ドラゴンの身体との連結帯はまだ効いているため、完全には外れることはないまま引きずられている。荷台を引きずるドラゴンの動きが鈍って来た。今だ!


「アッキー!」


 篤樹の判断とエシャーの掛け声はほぼ同時だった。


 ドラゴンは自分の右後ろ足のそばで起こった違和感を気にしている。腹の下に入り込んだ荷物のせいで足がちゅうに浮き、上手く身体を動かせずに必死で浮いた足を動かし続けた。まるで、石の上に乗っかってしまった亀のようだ。


 周囲の敵への注意がそれ、動きが止まったドラゴンの左正面から篤樹は駆け寄って行く。その勢いのまま左前足をみ台代わりにし、一気にドラゴンの後頭部……山賊が座っていた乗竜台まで駆け上がると、成者の剣の刃をドラゴンの後頭部に向ける。


 刃の長さは短いけど……要は「突き通せば」いいはずだ!


 篤樹はそのまま、成者の剣を手から離した。成者の剣の刃はドラゴンの後頭部のウロコにスッと突き刺さる。「選ばれし者」ではないドラゴンの身体は、剣を受け止めることが出来ない。剣はまるで水の中に沈むように、ドラゴンの体内を突き進み、篤樹の視界から消えた。すぐにドラゴンは白目をむき、動きがにぶくなる。


 ズン、ドサァ…


 ドラゴンはそのまま、地にし絶命した。篤樹はドラゴンの体の動きが完全に止まったのを確認すると、乗竜台から飛び降りる。ドラゴンの首元近くの地面に落ちている「カッターナイフ」のような成者の剣を拾い上げ、カチカチカチっと刃を戻した。


「アッキー!」


 エシャーが駆け寄って来る。半ば放心状態だった篤樹は、駆け寄って来たエシャーからギュッときしめられ、段々、勝利の実感が湧いて来た。


「倒せた……ね。なんとか……」


「うん!」


 草むらに目を向ける。盗賊の村から連れ去られてきた少女アイが、驚いた表情でドラゴンの死体を見ている。


 大丈夫だよ……もう、終わったんだ…さあ、帰ろう……


 篤樹はエシャーの肩を指で軽く叩きアイを指差す。エシャーは「あっ!」という感じで篤樹から離れ、アイに駆け寄る。


「お待たせ! さ、アイちゃん、お家に帰ろっか?」

 

「うん!」


 笑顔で語りかけたエシャーに、アイも笑顔で答えた。


 よし……これで、心置きなく、本当に脱出だぁ……


 篤樹も、エシャーとアイのそばへ歩み出す。


 バサー! バサー!


 突然、大きな羽ばたきの音が聞こえた。3人は橋を落とした谷に顔を向ける。谷向こうの……先頭を進んでいたドラゴンがこちらを向いていた。その背に……「羽」のようなものが見える。首後ろに座っている山賊一隊のリーダーは、ジッとこちらをにらみつけていた。


「なんで……翼なんか……無かったのに……」


 篤樹は呆然ぼうぜんと声を洩らす。


「イーヤッホー!」


 男の掛け声と同時に、ドラゴンが谷に向けて駆け出して来た。橋が落ちた15mほどの谷間を、広げた羽を使ってドラゴンは飛び越え、こちら側にズシン! と着地する。山賊隊のリーダーが手綱を操作すると、ドラゴンはその羽を折り畳んだ。


「そ……んな……」


 男は篤樹たちがドラゴンの「羽」に驚いていることに気付くと、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ドラゴンにはよ、飛翔種ひしょうしゅと歩行種ってのがいてなぁ……空を飛ぶヤツらってのは、まぁ、なかなか手に入んねぇ。賢いし、獰猛どうもうだし……なんてったって稀少きしょうだからなぁ。でも、歩行種も良いもんだぜ? 馬より強いし、火はくし、ウロコもかたい。それに、あの位の谷間なら跳び越えることも出来る。つばさとは呼べねぇバッタみてぇな羽だけどな」


 べるんだ……


「……まあ、あんなにいきなり橋が落とされたんじゃ……すぐには跳べなかったろうけどよ。着水したって出て来れらぁな」


 リーダーの乗ったドラゴンの後ろの谷から、大きな影が飛び出しズシン! と音を立て道に着地した。橋ごと落とした2体目のドラゴンだ。乗竜台にはズブ濡れの山賊が乗っていた。


「こいつらかぁ? あんなイタズラしやがったのは!……おいおい、なんだ? 1匹やられてるじゃねぇかよ! あれ? リックは?」


 ズブ濡れの山賊が、道に倒れているドラゴン、そして篤樹たち3人を見回しながら状況確認をする。


「リックはコイツラのせいでドラゴンに焼かれちまったよ。笑えるぜ!」


「ああ? リックがぁ? はっはぁー! なんだよ地獄の業火ごうかより先に、ドラゴンの火で焼き殺されちまったかぁ! やっぱ、奴は極悪人ごくあくにんだぁ!」


 な、なんだこの人たちは? 仲間が死んだのに……笑うなんて……


 2人のやり取りに、篤樹は嫌悪感を抱く。一緒に山賊として生きてきた仲間じゃないのか? それが良いとか悪いとかじゃなくて……一緒に生きてきた仲間じゃないのかよ!


「……で、コジ。コイツらどうする?」


 リーダー格の山賊にズブ濡れ男が尋ねる。


「ふん……どうしてやろうかねぇ……見てたけど、エルフは魔法も使えてたなぁ。男はドラゴンをなんかの武器で倒しやがった。使えねぇのは……ガキだけだな」


 コジは女の子を見てニヤニヤと笑う。


「お前は何が出来る? 言ってみろ」


 エシャーの背後に隠れているアイが素直に答える。


「こ、子守と、りょ料理……」


「はっはー! 子守は要らねぇ! 要るのは子作り出来る身体だけありゃいい! 料理なんざ食えりゃなんでもいい! って事で役立たずはやっぱりガキだけか。よし!」


 コジは篤樹をにらみつけ、語りかけた。


「お前、ドラゴンを倒したさっきの武器でそのガキを殺せ。そうすりゃテメェら2人は助けてやる。テメェはリックの代わりに俺の手下、エルフはお頭のオモチャ。どうだ? いい条件だろう」


 ふざけるな……


「ああ? なんか言ったか?」


 篤樹が発した怒りのつぶやきを、コジは聞き逃さなかった。しかし篤樹は構わずに続ける。


「ふ……ふざけるな! 誰がそんなハナシなんかきくもんか!」


 頭に来た! なんだこの「大人」は! どう見たっていい年をしたおじさんが……なんてひどいことを言うんだ? 許せない、こんな奴……許せない!


「んじゃあ、チャンスタイムは終了だ……3匹まとめて消えろ!」


 コジが手綱たづなを動かすとドラゴンが口を開く。のどの奥から、炎の赤い光が口の中に集まってくる。


 クソ! 許せない! こんな奴……やっつけたい! でも、どうしようもない……


 篤樹は両手を広げて立った。背後に居るエシャーとアイを、ドラゴンの火炎から防ぐには全く役に立たない「壁」かも知れない。だけど……こんなくさったヤツの悪意に満ちた攻撃を、この2人に直接()びさせることはしたくない!

 自分が出来る最後の抵抗だと覚悟し、篤樹は両手を最大限に開き、エシャーとアイの盾になる。背後からエシャーの両手が伸び、篤樹の首筋にギュッとしがみ付いて来た。腰にはアイが両手でしがみついている。


 エシャーと俺の間に隠れたのか……怖いだろうな……ごめんな。お家に帰して上げられなくて……


「アッキー……」


 耳元でエシャーの声が聞こえた。


「ありがと……」


 ドラゴンの口の中の赤い光は、今はもう「溶岩ようがんかたまり」のような、ドロドロした火炎のたまに変わっている。


 あれが吐き出される時……俺たちは焼き殺されるんだろうな……


 篤樹はどこかさっぱりとした気持ちで、真っ直ぐにドラゴンの口を睨む。やるだけやった……打つ手が何も無くなるまで……途中であきらめないで、最後まで戦った。


 だからもう……


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