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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第7章 それぞれのクエスト編(全84話+エピローグ)
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第 394 話 降り注ぐ黒矢

 突然現れた黒魔龍の攻撃により、一瞬の内に200人以上の戦士たちは命を奪われた。そのあまりにも強大な力を目の当たりにし、和希たちは言葉を失い呆然と立ち尽くす。


「北と東からサーガの群れ! およそ500体ずつ!  賢飛鼠種(けんひそしゅ)も飛んできます!」


 誰かの叫び声で、シャデラは我に返る。視界がひらけている平野の陣内には、西の森へ向かわなかった戦士がまだ100人近く残っていた。


「残っている者は5人1組でサーガの襲来に備えろ! 黒魔龍からの攻撃にも注意しつつ、10メートル間隔で一旦迎え撃て! その後、隙を見て各組でまとまって森の中へ逃げろ!」


 半数の戦士が一気に失われた状態では、もはやこれまでのような駆逐作戦は取れないと判断し、シャデラは迎撃即時離脱の指示を出す。戦士たちに指示が伝わり始めたのを確認し、シャデラはメシャクへの伝心を試みる。しかし、メシャクからの応答は無かった。


「シャデラさん!」


 幕屋の入口前に立つ和希が叫ぶ。


「一樹と豊は動けません!……ボクらはここに残ります」


「無茶だ!」


 和希たちの選択に、シャデラは怒声を発する。


「北と東から、合わせて1000ものサーガが押し寄せてるんだぞ!? 何より、黒魔龍が先ほどの攻撃をここに放ち出せば……」


 サーガの群れと戦士たちの攻防が前線で始まったらしく、あちこちから悲鳴にも似た叫び声が響き渡って来た。シャデラは上空の黒魔龍を改めて確認し、舌打ちをすると幕屋に駆け寄る。


「2人を置いてお前たちだけでも……」


 シャデラは提案の言葉を和希に向けたが、途中で言葉を飲み込み細く笑みを浮かべた。和希はふわっとした笑みをシャデラに向けている。


「そんな真似、ボクらがすると思います?」


「……そうだな。分かった。無理強いはしないよ。……ここまで、よく戦ってくれたな。感謝している」


 幕屋入口に下がる仕切り布の隙間から、シャデラは中に居る康平たちにも視線を向けた。


「メシャクとの伝心が通じない。私が残っている者たちに指示を出さねばならない。何とか……お前たちも生き延びる方法を考えろよ?」


 全員の決意在る笑みとうなずきを確認し、シャデラは幕屋を離れて行く。


「……一樹たちの様子は、どう?」


 仕切り布を下ろし、和希は幕屋内に入り美月に尋ねた。一樹と豊は、地面に敷かれた毛皮の敷布上で横になったまま、まだ意識を失っている様子だ。


「頭が爆発しなくて良かったよ」


 康平が2人を見下ろし、苦笑いを浮かべて呟く。


「もし……」


 まだ軽い頭痛が残る洋子が、右手をこめかみに当てたまま語り出した。


「私がサーガにつかまって逃げられそうに無い時は……ためらわずに私を殺してもらえないかなぁ?」


 意識のある3人はギョッとした表情で洋子を見る。だが、すぐに真意を理解し、薄い笑みを浮かべた。


「喰われながら死んでくよりは、一気に……ってことだよね?」


 康平が洋子の気持ちを代弁する。美月もうなずいた。


「私もお願いね、田中くん。あんなバケモノに……変な事されたくないし……」


 和希は一瞬、眉間にシワを寄せ首を横に振る。


「小林さん……うん!……その時は、ボクが必ず」


 覚悟を決めて笑顔を向けた和希に、美月は嬉しそうに微笑みを返した。


「じゃ……じゃあ! 小平さんは僕が!」


 康平が上ずった声で宣言すると、洋子は驚いた顔で目を大きく見開きコクリとうなずく。


「あ……はい……じゃ……その時は……」


 外の騒ぎが近くなって来るのを感じつつも、和希は笑みを3人に向ける。


「一樹たちには悪いけど、まあ、意識が無い内にやられたほうが苦しまなくて良いかもだね」


「確かに!」


 4人は声を出して笑った。


「全員逃げろー! また黒魔龍の口が開いたぞー!」


 天幕の外から、誰かが叫ぶ声が聞こえる。先ほど見た、黒魔龍の攻撃をそれぞれが思い出す。


「……仲間が居ても御構い無しに放って来るんだ……」


 サーガの群れが押し寄せ、陣内は敵味方混在での戦いになっている。そこに向けて、あの雨のように無差別な黒矢を放とうとしていることに、和希は呆れ声を出した。


「それならそれで良いんじゃない? やっぱり……サーガに喰われ死ぬよりはラクかもだよ?」


 康平の言葉に、和希たちは同意の笑みを浮かべる。


「みんな……そばに集まっておこうか?」


 和希の提案で、横たわっている一樹と豊のそばに4人は座った。自然に和希と美月、康平と洋子がそれぞれ隣同士で腰を下ろす。次の瞬間、無数の矢が空気を切り裂く甲高い音が遠くに聞こえたかと思うと、幕屋上部にみぞれが降り注ぐかのような衝撃音が響き渡った……



―――・―――・―――・―――



「シャデラ!」


 耳に飛び込んで来たガイムの声に反応し、シャデラは駆けている途中で思い切り右に飛び退き身を転がす。勢いのままに地面を転がりながら、自分が直前まで駆けていた地面に3本の槍が突き刺さって行くのを確認する。


「キーーーッ!」


 空に5~6体の人影を確認しつつ、シャデラは片膝立ちで体勢を整えた。直後、2体の賢飛鼠種が目の前に落下して来る。


「ガイムッ!」


 さらに賢飛鼠種1体を両脚で掴み殺したまま、ガイムが空から舞い降りて来た。


「メシャクはどこだ!」


 シャデラの呼び掛けに、ガイムが厳しい声で尋ねる。


「前衛に向かったまま伝心が届かない! お前こそ空から見かけなかったのか?!」


(うるさ)いコウモリ共を相手にしていては、下の様子など気にかけてなどおられん! マズいぞ! このままでは陣内全ての戦士が……」


『シャデラ!』


 ガイムの切羽詰まった言葉の途中、突然、シャデラに伝心が響いた。その表情の変化に、ガイムも口を閉ざし推移を見守る。


『メシャク! 探したぞ! 今どこに……』


『タナカたちはどこに居る?!』


 シャデラの応答を遮り、メシャクは一方的に情報収集を優先して来た。


『チガセは全員、指揮幕屋の中に居る。カズキとユタカが動けない状態だ! それよりメシャク! お前は今……』


『分かった! 良いか、陣内で「人間種」に出会っても攻撃をするな! すぐに全員に伝えろ! 人間種を見かけても攻撃はするな! 味方だ! 時間が無い、急げ!』


 早口でまくし立てられた上、急を要する指示であることを感知し、シャデラはガイムに内容を共有する。


「どういうことだ?」


「分からん! とにかく急げ!」


 シャデラからの言葉を携え、ガイムはすぐに飛び立つ。シャデラはエルフ族への集団伝心を行い、上空に目を向けた。


 しまっ……


 シャデラは南の空で鎌首を上げる黒魔龍と、目が合ったような気がした。


「全員逃げろー! また黒魔龍の口が開いたぞー!」


 誰かの叫び声が聞こえる。だが、圧倒的な恐怖により瞬時に縛られ、シャデラは動き出す事が出来ない。


 黒魔龍の口は大きく開かれ、その口中に黒い霧のような影が集まり始めている。やがてその黒い霧が全て、黒魔龍の口の中に吸い込まれたように見えた。一瞬、黒魔龍の口中が青白い光に包まれたかと思うと、次々に「黒い矢」が形を成して行く。


 その一連の動作は数秒の出来事だったが、シャデラにはもっと長い時間のように感じられていた。やがて、黒魔龍の口中で形を成した無数の黒矢が、甲高い音を立てて空気を切り裂きながら一気に放たれて来る。


 シャデラは訪れる「死」に対し目を閉ざすよりも、しっかりと目を見開き、降り注ぐ黒矢の雨中に「活」を見出そうと構えた。意識をもって急所さえ外せば、あるいは瞬殺による死を免れるやも知れないという一筋の希望を持ち、降り注ぐ黒矢を見上げる。


 ?! 何だ……あれは……


 黒魔龍の口から放出される無数の黒矢―――しかし雨のように降り注ぐ矢の束が、空中で弾かれている空間をシャデラは目にした。数メートル四方ほどの「矢を弾く見えない壁」が空中に10数ヶ所現れ、その延長線上の地上に居る者たちには黒矢が届かない。


「あれは……一体……」


 空中に現れた「見えない壁」による安全圏下にシャデラも立ち尽くし、呆然と空を見上げ改めて声を洩らした。数十秒間の黒矢の雨が止み視界が開けると、黒魔龍が南方に向かって飛び去って行く姿を目撃する。


「負傷者の手当てを急げ! サーガの残党にも気を付けろ!」


 「見えない壁」に守られなかった範囲には、黒矢が数センチの隙間も無いほどに突き刺さり、犠牲者も出ていた。シャデラは周囲の戦士たちに指示を叫びつつ、指揮幕屋に向かい駆け出す。その途上、視界の端に数人の「見慣れない人間種」を目撃した。だが、メシャクからの伝心と関連がある「味方の人間種」であると認識し、幕屋への到達を優先して駆け続ける。


 どういうことだ……まさか……これが……チガセの力……


 指揮幕屋のそばまで辿り着いたシャデラは、駆ける速度を自然と緩める。見慣れない人間種が3人……その内の1人はまだ年端もいかない幼い子どもだ。そして、見慣れた男と見慣れない女が1人……どちらからも「チガセ」の波長を感じる。


「ユウキ!? 生きていたのか?! これは、どういう事だ!」


 幕屋に顔を向けていた神村勇気は、驚いた表情で振り返り、シャデラを確認すると笑顔になった。


「あっ! シャデラさん! お久しぶりです!」


 ちょうど同じタイミングで幕屋の仕切り布が開かれ、中から和希たちが顔を出し、外の様子を確認する。


「あ、みんなも! 良かった間に合って。無事だった?」


 和希たちとシャデラに挟まれる形になった勇気は、顔をキョロキョロと動かしながら嬉しそうに声をかけた。その隣に立っていた女も、幕屋から出て来た洋子たちに向かい嬉しそうな声を上げる。


「うわぁ! ホントだ! 小林さんと洋子さんも居た!」


「え……と……えーーー!」


 突然名前を呼ばれた洋子と美月は、勇気に向けていた視線をずらし、声をかけた女を確認し驚きの声をあげる。


「か、川尻……さん?」


「なん……で……」


 目を見開く2人に向かい、川尻恵美は満面の笑顔を向けると、両手を開いて抱きついていく。


「……どういうことなワケ?」


 事情はまだ不明だが、勇気と川尻恵美との「再会」に和希は笑みを浮かべ、首をかしげ勇気に尋ねた。


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