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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第4章 陰謀渦巻く王都編(全63話)
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第 206 話 偽る者と見抜く者

「そんなことになっとったのか……」


 ウラージは近況の報告をカミーラから聞き終わると、新たに入った情報を自分の思考の中で整理し再構築する ()をとった。


「なるほどな……」


 やがて自分なりに納得のいく理解をまとめたのか、顔を上げてビデルとカミーラを見る。


「まあ良い……人間種やルエルフ族がどうなろうと知った事ではないが……ガザルが動き出したのなら、我らエルフ族や大陸全土……世界に災厄が及ぶやも知らぬ状況か……必要な協力は已むを得まい……。受け容れよう」


「長老……」


 カミーラが驚いた表情でウラージを見る。ビデルは満面の笑みを (たた)えつつ最敬礼を示して口を開く。


「ウラージ長老大使自らの御決断、まことに感謝申し上げます! では渓谷橋の復旧事業に関しましては、引き続きカミーラ高老大使との協力体制の下で速やかに取りかからせていただきます……ところで……」


 ビデルはエルフ族でなくても分かるほどの好奇心に満ちた目をウラージに向ける。


「長老大使は100年以上もの間ブラデン山脈に留まられ、渓谷よりこちらへ足を踏み入れられておられなかったと聞き及んでおりましたが……この度はまたどのようなことが? 先日の地震や大群行の件で何か緊急の協議が必要ということでしたら、文化法歴省大臣の私が窓口となることもあるかと存じますが……」


 ウラージはこの「情報屋もどき」をどうあしらってやろうかと意地悪な表情を見せたが、ふと思い直したように口を開く。


「人間種に助力を求める必要など我らエルフ族には何も無い。此度もユーゴの連中から助力を乞われて下りて来たに過ぎん」


「ユーゴの……というと魔法院評議会から?」


 ビデルは驚いたように尋ね、カミーラにも確認するように視線を向ける。しかしカミーラも同じく初耳の情報だった様子で驚きの表情をウラージに向けた。


「長老……そのような要請は私どもの耳には……」


「カミーラよ……」


 ウラージは視線をビデルから離さず、強い口調でカミーラの発言を断ち切る。


「人間との窓口はお前が担当だ。好きにせよ。だが私の行動をいちいちお前が管理する必要は無い。連中もそう判断したからこそ、お前を通さず直接私の下に助力を乞うて来たんだろうよ。分をわきまえろよ、副会長」


「は……失礼しました……」


 カミーラは歯を食いしばり叱責を受け入れると一歩下がる。ビデルはその様子にさえ笑みを浮かべたまま尋ねた。


「ヴェディス大法老からの御要請でしたか。ということは魔法院の関係で?」


「魔法院とも関係は無い。ただの『証人』として大法院法廷に協力して欲しいというふざけた要請だ」


 ビデルの顔から笑みが消え言葉を失う。その様子を見たレイラがルロエの背後から一歩進み出た。


「エルフ族長老を人間の裁判ごときの証人に召喚するなどおこがましい限りですわねぇ」


 ウラージは発言者の顔をチラッと見るとニヤリと笑みを浮かべる。


「なんでも、嫌疑をかけられておるのはユーゴの連中が長年追っていた大罪人である可能性が高いらしい。だがそやつを捕えはしたが、その証言を裏付ける確証が何も無いと来た。そこで最も信頼のおける『エルフの眼』を通し、そやつの弁明の真偽を調べて欲しい……とな」


「まあ、本当にふざけた要請ですこと。もちろんお断りに?」


 レイラは微笑みながらウラージに尋ねる。


「そのつもりでおった……まあ、もののついでに先ごろの大群行や地揺れの情報も 見聞(けんぶん)しがてら、ミシュバの駐在者に断りを告げようかと下りて来たわけだが……」


 ウラージはボルガイルたちが姿を隠した木立に目を向ける。


「……なんとも人間たちが面白いことをやってる様子じゃないか。久しぶりに『新しい情報』をもう少し見聞したくなった。丁度良い『足』も手に入るようだし、私も王都まで同行することに決めた。良いかね? 文化法歴省大臣くん」


 有無を言わせぬ威厳の籠った声でウラージから尋ねられたビデルは、姿勢を正し答える。


「は……はい……光栄です……長老大使……」


 大法院法廷って……エルの裁判よね……


 レイラは目を細めて微笑みを浮かべたまま、ウラージとビデルのやり取りを見つめる。


 あらゆる偽りの言葉を見抜く「エルフの眼」を通せば……言い逃れは出来なくてよ……エル……



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ヤツの弁明はどうだった?」


 サレンキーは王城地下の一室に入りマミヤに尋ねた。しかしマミヤは目線を合わせようともせずに応じる。


「……私はエルフじゃないわ……」


「いや!……そりゃそうだけどよ……その……感触だよ感触! アイツはまだ嘘をついてるのかどうか……」


「だから分からないって言ってるでしょ!」


 ようやく視線を合わせてくれたマミヤの眼は、怒りと悲しみに潤んでいる。今度はサレンキーがその視線から目を背けた。


「そ……そうか……アイツは嘘が上手いからな……お前でも見抜けないか……」


「どういう事なの?」


 マミヤは両手でサレンキーの頬を押さえ、視線を自分に向けさせる。


「な……なにがだよ……」


「あの時、『アイツら』が私に何をしたのかは分かってる……自分の身体なんだから……。でも!……自分が何をされたのか、何をしたのかの記憶は全く無いわ……気づいた時……あなたとエルさんがいた……。あなたがあの盗賊たちを殺した……私を助けるために……そう教えられて来たし、そうだったんだと信じて来た! あなたに申し訳ないと思いながら……でも心から感謝して来た! なのに……あれは……嘘だったの?」


 マミヤの目から溢れた涙がこぼれ落ちる。サレンキーは返す言葉が見つからず 狼狽(ろうばい)した目を泳がせた。


「……あなたは嘘が下手ね、サレンキー……。それなのに……あの事件のせいでこんな仕事に就くことになってしまった……自分が起こしてもいない強盗団殲滅(せんめつ)の『実績』のせいで……」


「いや……だから……俺は……」


 サレンキーは返答に窮しながら、必死に言い訳を考えようとするが咄嗟には浮かんでこない。マミヤはそんなサレンキーを涙を流しながら見つめつつ頬を緩める。


「……エルさんは……自分が嘘をついていることを、私に分かりやすく示してくれたわ……そうでもしてくれなきゃ、私も確信することは出来なかった……」


「え? ってことは……」


 マミヤの返答の意味を一瞬遅れて理解したサレンキーは確認するように尋ねる。


「……ガナブではないという弁明は真実……でも……エルさんの経歴には多くの偽りがあるわ……」


「そうか……」


 サレンキーはそう呟くと、見る見る表情に怒りの色が浮かぶ。


「……やっぱりあいつは、とんだペテン師だったってことか! クソッ……」


「サレンキー……」


 マミヤはサレンキーの右手を両手で包むように握った。


「どんな事情でエルさんが私たちに嘘をついていたのかは分からないわ……でも、それは私たちを傷つけるためでは無かった……むしろ私たちを本当に大切に想ってくれている……それも事実よ」


「あいつの想いがどうだろうが……嘘で塗り固めてる奴と『友だちごっこ』なんか出来やしねぇよ!……とにかく、今のアイツは国家反逆を企てる犯罪容疑者だ。証言だけじゃなく証拠を揃えないと……」


 サレンキーはマミヤの手を解くと、背を向け大きく深呼吸をした。


「フー……よし! こっから私情は抜きだ! 奴が経歴を偽って国家中枢に潜り込んでいるなら、その動機と目的を暴く……この国の平和のために!」


「そうね……」


 マミヤは微笑み、サレンキーの「やる気」に応じる。


「2人でエルさんを負かしちゃおう! ぜ~んぶ調べ上げて『参った』って言わせようね!」


「お? おう! そうだな! あの余裕の塊を、全部丸裸にしてやろうぜ!」


 マミヤのヤル気モードにサレンキーも気を取り直し笑顔を見せた。マミヤも応えるように頷く。


 そう……私たちがエルさんに追いつけば……エルさんが安心して全てを語ってくれるくらい、私たちが強くなれば……その時はきっとまた3人で……



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「やっぱり『アレ』って、お化けの仕業だったのかなぁ……」


 夕食の席でサレマラがエシャーに語りかけて来た。


「ホ……ホント……不思議だったよねぇ」


 エシャーもドキドキしながら話を合わせる。

 王城の湖北岸の森の中……サレマラと年少のソリアとドペス、それにエシャーは「階段のお (うち)」前で意識を取り戻した……という事になっている。当然エシャーはそのフリだけを演じているのだが……


「絶対に私たちはあの階段を下りたはずよ!……それなのに……あれ以上先に進めなくなってたなんて……あそこは『すだれ根』だったはずよね?」


 サレマラが確認するようにエシャーに問いかける。意識を取り戻した3人はエシャーの制止を聞かずに「もう一度確認しよう!」と階段を下りて行った。しかし階段の途中に在った「すだれ根」を通過しようと何度も試したが、そこは「普通の木の根」がびっしりと壁のように張り塞ぐ行き止まりになっていたのだ。もちろん、オスリムが法術を施したのだろうとエシャーは気付いていたが……


「……私……よく覚えていないんだぁ……。階段を下りたって記憶も無くなってるんだよねぇ……」


 エシャーはとにかくあの「地下廊」とナフタリたちの情報を何も知らないという(てい)を貫くことに決めていた。サレマラは深く溜息をつく。


「……私一人だけの記憶じゃ、なんだか自信が無くなって来ちゃうなぁ……。ソリアもドペスも曖昧な記憶しか無いし……やっぱりあの階段にはお化けの呪いがかけられてるのかなぁ……」


「……うん。そうかもね……でもさ! みんなで生きて帰って来れたんだから、良かったよ! ね? もうあんな危ないとこに行くのはやめようね?」


 納得のいかないサレマラの気持ちを切り替えるように、エシャーが提案する。


「そうねぇ……でもさ……」


 サレマラは2列離れたテーブルで盛り上がって話しているソリアたちに視線を向ける。


「あの子たちは絶対にまた行くつもりだと思うなぁ……」


 エシャーは低学年たちのテーブルに目を向た。ソリアとドペスが、周りの子たちに熱弁を振るっている姿を見て苦笑いを浮かべる。まあ仕方が無い……地下廊に潜んでるあの2人が、子どもたちに見つかる前に早くどこかへ移動するしかないだろう。とにかく、今日の件に関してだけエシャーは責任をもって「しら」を切り通す気持ちを固めた。

 

 それはいいけど……

 

 エシャーはオスリムからの情報を思い出す。

 

 アッキーが王様の前で剣術の試合って……どういうことなんだろうなぁ……誰かと戦うんなら、スレイのほうが強いのに……。アッキー……大丈夫かなぁ……

 

 エシャーは食堂の窓に目を向けた。月明かりに照らされた1本の庭木に、ボンヤリと篤樹の姿を想い重ね見つめる。


 アッキー……大怪我しなきゃいいけどなぁ……


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