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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第4章 陰謀渦巻く王都編(全63話)
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第 200 話 王国宝物庫

「スレヤー……アツキの仕上がりはいかが?」


 会食の間での食事が終わると、ミラが唐突にスレヤーに尋ねた。


「上々……とまでは流石にいきませんですがね、ま、大丈夫でしょ? 昨夜と今日一日で、普通の新兵ならとっくにくたばる位の訓練はつけましたから」


 篤樹はスレヤーに向かって驚きの目を向けた。


 「初級の子どもが町修練場でやるレベルだ」って言ってたクセに……え? どっちが嘘なの?


「アッキーはこっちの事を知らねぇから『ほんのちょっとだけ』しか手ほどきを受けてないつもりでしょうがねぇ……俺なりにかなり厳しく特訓はやったつもりです」


 篤樹の気持ちを読むように、スレヤーは重ねて答えると篤樹にウインクを見せた。


 そう……だったんだ……よかった……。やれるだけはやったってことか……


「明日の御前試合、私たち王妃にも観覧の (めい)が届きました。頑張ってね、アツキ」


 ミラは笑顔を篤樹に向ける。


「……はい……頑張ります」


「心配なのは……」


 スレヤーが口を開く。


「アッキーは超が付くくらい甘っちょろいトコがあるんですよねぇ……。サーガを倒すことさえ 躊躇(ためら)っちまうぐらいの……」


「それは……」


 篤樹は思わず口を挟もうとするが、明確な理由を言い表せずに口籠る。


「何か理由があるの?」


 反論に窮した篤樹に向かい、ミラが尋ねた。


 理由って……誰かを倒すこと……殺すことを 躊躇(ためら)う理由? そりゃ……「何でだ?」って聞かれても……


「んじゃよぉ……」


 スレヤーが質問を切り替える。


「明日、敗けられねぇ理由は?」


「それは……」


 壁際で控える侍女たちの中に並び立つアイリと目が合う。アイリは「ハッ!」として視線を下げた。篤樹はスレヤーに視線を移す。


「……大事な友だちを守るため……正王妃の理不尽な言いがかりを……間違いだと知ってもらうためです」


「だったら 躊躇(ちゅうちょ)すんなよぉ? たとえオメェの一撃で相手が血を流そうが、くたばっちまおうが、全力で剣を打て! 向こうは3士級の剣士……お前ぇを ()るつもりで打って来るんだからよぉ。無士級のアッキーが手加減なんかすりゃ……何にも守れやしねぇぞ?」


 スレヤーは優しく笑みを浮かべながら、厳しい覚悟を (さと)す。


「アッキーが全力でやって、そんでもたまたま敗けたってんなら俺も諦めがつくがよぉ……手ぇ抜いて敗けたとなりゃ……泣くぞ?」


「まあ。伍長の泣き顔とやらも見てみたいものですわね」


 スレヤーの軽口に応え、ミラもひと言挟む。


「いずれにせよ……明日に備えて今夜は英気を養われるよう、少し気を落ち着かせましょう。チロル……」


 ミラはチロルを呼んだ。


「宝物庫の件は?」


「ルメロフ王よりのお許しはいただいております。兵たちにも話を通しておりますので、いつでも……」


「宝物庫ぉ?」


 二人の会話を聞きスレヤーが尋ねる。


「ええ。本当は昨日アツキを案内するつもりでしたが、このような事態になりましたので……チロルに今夜予約を……ね」


 ミラは篤樹に目を向けて微笑む。


 そうか……明日の結果次第じゃ、宝物庫見学なんか出来ないかも知れないしな……


「ありがとうございます!」


 篤樹は素直に喜びを笑顔で伝えた。スレヤーも事情を察した様子で笑みを浮かべる。


「ほう! 王室宝物庫なんざ、一生縁の無ぇ場所と思ってましたぜ。俺も同行してよろしいんで?」


「もちろんよ。私の大事な客人なのですから」


 ミラが動き出そうとする気配だけで侍女たちはサッと動きだし、それぞれの椅子を引く。ミラとスレヤーは侍女との呼吸もピッタリと合って自然に座を立つが、篤樹はまだ慣れない。アイリが椅子を引くタイミングと篤樹が立ち上がろうとする力のタイミングが合わず2回も座り直してしまった。アイリは篤樹の耳横に口元を近づけると小さな声で呼吸を合わせる。


「いいか……引くぞ……1・2の……3!」


 まるでテーブルクロス引きのようにタイミングを合わせ、ようやく立ち上がれた。まさかそんな動作で手間取っているとミラたちも思わず、一同は会食場の扉まですでに移動している。少し遅れた篤樹とアイリは足を速めた。


「ありがとなアツキ……俺も信じてるからな……」


 移動しつつ、そっとアイリが篤樹に語りかける。篤樹は顔を向け、笑顔で応じた。


「アイリのマッサージ効果で、すっかり身体も楽になったよ。ありがとう……絶対に……多分……勝つよ……きっと……必ず」


 まとまりきれない気持ちをアイリに伝え、篤樹は自分の気持ちを整理する。


 そうだよ……やってみないと分からないけど……でも……敗けない!……勝ってみせる!


 篤樹はアイリにガッツポーズを見せる。そのポーズの意味は分からないまでもアイリも同じポーズを見せてニカッと笑った。



―・―・―・―・―・―・―

  


 王城の地下に、大きな両開き扉に塞がれたエグデン王国宝物庫は在った。ミラを挟み、篤樹とスレヤーの3人は扉の前に立つ。その扉の重厚な造りは、まるで映画に出て来る「地下の秘密基地」の鉄扉みたいだ。扉の雰囲気に圧倒されている篤樹の表情を見てミラは静かに笑みを浮かべる。


「さあ……どうぞ」


 ミラは両手で扉の中央に軽く触れた。法術による開錠システムで閉ざされていた扉がミシミシと音を立てながら内側へ開いていく。連動しているのか、宝物庫内が明るく照らされる。スレヤーは短く口笛を鳴らし、感嘆を表した。


「スゲェなぁ……」


「さ……行きましょう」


 ミラの先導で一行は宝物庫内へ進み入る。体育館ほどの広さがある室内には、金塊が何ヶ所にも (うずたか)く積まれていた。様々な色の宝石類、金や銀の装飾品が所狭しと並べられた棚を左右に見つつ一行は奥へ進む。


 綺麗だし高価なものだとは思うのだが……篤樹はそれらの「宝」には、それほど魅力も関心も感じない……興味が無いのだ。ネックレスや髪飾りなどの装飾品や器類を見ても「母さんには似合わないよなぁ」とか「映画のセットみたい」という感想しか浮かんでこない。始めこそ驚きを示したスレヤーも、10mも進まない内に興味を失い篤樹にちょっかいをかけ始める。


「……お2人は財宝類に興味は無くて?」


 部屋の中ほどまで進むと、ミラが楽しそうに笑顔を見せてスレヤーと篤樹に尋ねた。


「あ……いや……別に……」


 篤樹はせっかく案内してくれているミラに対して失礼だったかなと、しどろもどろに答える。


「ん? ああ……どうせ俺のモンでも無ぇですし、自分のモンだとしてもこんなにゃ要らねぇモンですからねぇ」


 スレヤーは率直な意見を述べた。ミラはますます楽しそうに声を上げて笑う。


「そうよねぇ……私も興味無いわ……」


 ひと呼吸置き、ミラは静かに語る。


「こんな所に飾っておくだけの宝なんてゴミと同じよ……困窮する 国民(くにたみ)のために用いてこそ『国の宝』として価値あるものとされるのに……」


 同行する侍女たちからもミラに同意する空気を感じた。


 女王制かぁ……


 篤樹はスレヤーから聞いた「正王妃メルサによる女王制移行計画」を思い出しながらミラの横顔を見つめる。


 メルサさんよりも、ミラさんのほうが絶対に良い女王様になるだろうなぁ……


「なぁにミラ様を見つめてんだよ、アッキー」


 スレヤーが篤樹の視線に気付き、またちょっかいをかけ始める。


「ちょ……別に……そんなつもりじゃ……」


「さあ……着いたわよ。お二人さん」


 最奥壁の手前まで進んだミラは、じゃれ合う2人を楽しそうに見つめながら声をかけた。


「え?……っと……ここで終わり……ですか?」


 「着いた」と言われた壁を見ながら篤樹が尋ねる。


「財宝室はここで終りよ」


 ミラの返答に、篤樹は腑に落ちない表情を浮かべながら後ろを振り返る。目に映る全ての範囲に置かれている「宝の山」……すごく価値のあるものなのだろうけど……正直言ってこんなの見たってつまらないだけだよなぁ……


「もしも……」


 ミラは少し意地悪な笑みを浮かべながら口を開いた。


「ここへ賊が踏み入ったとしたら……ここにある財宝だけで十分満足出来るでしょうね。きっと大喜びで奪うだけ奪い、ここを立ち去ることでしょう」


「……そう……でしょうね……」


 篤樹は 曖昧(あいまい)な返事をする。しかしスレヤーは腕を組んでニヤニヤしながらミラに尋ねた。


「で、こんな『 国民(くにたみ)の役にも立た無ぇ財宝』は失ったとしても、絶対に失ってはならんような『本当のお宝』ってのも在るんじゃ無ぇんですか?」


「え?」


 スレヤーの推論を受け、篤樹はミラへ顔を向けた。ミラは楽しそうに微笑んでいる。


「さすが 赤狼(せきろう)ね。鼻が利くこと……。そうよ。エグデンの本当の宝……この国の歴史はこの壁の向こう……」


 ミラが石壁に組まれているいくつかの石を、左右の手でランダムに触れる。すると、壁の一部がガコンと音を立てて動き出した。「ゴゴゴ……」という重たい音が止まると、大人が2人並んで通れるくらいの通路が現れる。篤樹は呆れ顔でその「穴」を見、続いてミラの顔を見る。


「アツキは素直だなぁ…… (うたぐ)り深いスレヤーさまとは大違いだな」


 背後からアイリが声をかけて来た。篤樹は振り向き尋ねる。


「まだ……何か隠してたりする?」


「無いよ! ほらっ!」


 アイリは笑いながら篤樹の向きを変えるように押し出した。スレヤーとミラが並んで通路に入っていく後を篤樹も追いかける。

 トンネルの様な通路を5mほど進むと、再び開けた部屋が現れた。


「うおッ!すげぇ……」


 先ほどの財宝室よりは小さい部屋のようだが、先に進んだスレヤーの声には先ほど以上の驚きが込められている。数歩遅れて部屋に入った篤樹も、目の前の光景に目を見開いた。


「う……わぁ……」


 学校の教室4つ分ほどの部屋で先ず目に付いたのは、何種類もの盾や鎧、様々な形状の武器類だ。剣や槍も、篤樹がこちらの世界で見たことの無いものがほとんどだ。武器や防具類だけでなく巻物や本、美術品等も大量に保管されている。

 財宝室の「お宝」よりも、断然こちらの部屋のほうが篤樹とスレヤーの興味をそそるものばかりだ。ミラに案内されるよりも先に、篤樹とスレヤーは吸い寄せられるように「お宝」を 見聞(けんぶん)し始める。


「一応、こちらから奥に向かって各年代毎にまとめられてるわ」


 予想以上に関心を示す男性陣を満足気に見つめ、ミラは説明する。


 すごい……。これが……エグデン王国千年の歴史……


 篤樹はゆっくりと歩を進めながら、左右の陳列物をじっくり眺め歩く。


「スレヤーさま……丁寧にお取り扱いを……」


 チロルからの注意を受け、スレヤーは恥ずかしそうに手にした剣を鞘に収め元の場所へ戻す。


「王や貴族らの武器や装具の他、文献や肖像画……美術品類が収められております」


 侍女としての務めを始めたばかりのユノンは、先輩侍女からの耳打ちを受けながら説明する。篤樹は妹を見るような優しい目でユノンを見つめた。


 あ……そう言えばここに在るんだよな……初代エグデン王の像が……


「いやぁ……こりゃ話に聞いた名高い名剣ばかりじゃ無ぇか……まだ実戦で使えそうだなぁ……」


 気が付くと、スレヤーは性懲りもなく飾られている剣を鞘から抜いて刃具合を確かめている。


「スレヤーさま!」


 再びチロルの声が飛び、スレヤーは苦笑いを浮かべながら剣を元に戻す。


「お! こりゃなんだ? 木製の模擬剣か?」


 アイリと並んで進んでいた篤樹はその声に反応し、スレヤーが手にしたモノに目を向けた。


「面白ぇ作りだなぁ……お? でも……なかなか……」


「!? それ……」


 篤樹の驚いた声に、ミラとスレヤーは振り返る。篤樹は目を見開き、ポカンと口を開いていた。


「ああ? どしたよアッキー、 (ほう)けた(つら)して……」


 スレヤーが手にした「模擬剣」を見つめる篤樹は、問われた声も耳に入っていない驚きの表情を浮かべ、ゆっくりスレヤーに近づいていく。


「……初代エグデン王が 御子弟(ごしてい)に与えられた練習用の剣と伝えられているものよ」


 明らかに様子の変わった篤樹に目を向け、ミラが説明する。


 初代……エグデン……王? なんで……


 スレヤーの腕を掴んだ篤樹は、その「剣」をゆっくり奪い取るように自分の手につかむ。


 竹?……じゃない……細い木を束ねて……でも……この形は……


「…… 竹刀(しない)?」


「ああ? シナイ? なんだそりゃ?……おい、アッキー! どうしたんだ?」


 篤樹はスレヤーに両肩を揺すられながら、手にした「剣」を凝視する。材質は違うが、明らかに竹刀と同じ作り・形状だ……篤樹はふと前方に立つ像が目に入った。


「あれ……は?」


 スレヤーの手からすり抜けるように、篤樹は「剣」を持ったまま立像へ歩み寄る。上半身裸体の男性を模した白色の石像だ。


「あ! そちらは初代エグデン王の若き日を (かたど)った像です。元々は絵に描かれていたものを王の死後に石像とし……」


 ユノンが覚えたばかりの情報を棒読みで説明するのを上の空で聞きながら、篤樹は石像の顔をマジマジと見つめる。


「江……ぐ……ち? お前……が?」


 自信に溢れ、勇ましき笑みを浮かべる若き日の初代エグデン王の石像……その顔は、篤樹の同級生…… 江口伝幸(えぐちのぶゆき)の笑顔そのものだった。

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