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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第4章 陰謀渦巻く王都編(全63話)
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第 183 話 血まみれの熱弁

「死……死罪って……え?」


 篤樹はフロカに目を向けた。フロカは両拳をギュッと握り、斜め下をジッと凝視している。


「フロカも覚悟の上での行動なのでしょう?」


 ミラがフロカに静かに問う。


「……お……仰せの……ままに……」


 フロカが答えた。


 いや……ここで「仰せのままに」は違うでしょ!


「ちょ……ダメですよ! そんなの! え? 死刑なんですか、今のケンカくらいで? やめて下さいよ! 僕なら全然平気ですから、ホラ!」


 篤樹は両手両足をバタバタとその場で動かし見せる。


「全然……なんのことはないですって! 被害無いですから!」


 ミラは一瞬笑顔を見せそうになった表情を改め、それを押し隠すようにスッと真顔を見せた。


「『あなたの世界』とは違うのよ、アツキ。……王国の規律は……守られなければならないのよ!」


 ミラが声を荒げ篤樹に告げる。口答えを許さないという強い威厳の籠った声だ。


 でも……


「いいえ! それは間違ってます! たとえ違う世界でも……そんな横暴なこと……人の命をこんなことくらいで奪うなんて……そんなのダメです!」


 篤樹は必死で力説する。


 こんな……こんな意味不明な殺人行為の原因になんか……絶対にされたくない!


「大体……原因は僕のせいなんでしょ? フロカさんを怒らせたのは……だから僕がお詫びするのが筋ですよ! その……本当に僕が悪いんならですよ? そりゃ、いきなり殴って来たフロカさんだって悪いですよ、でも、死刑にするほど悪い事はしてないんだから……」


 必死に訴える篤樹の言葉を皆が呆然と聞いている中、ミラは堪りかねたように吹き出し、大声で笑い始めた。


「な……なんですか……それ……」


 急に爆笑し始めたミラの姿に篤樹も呆然とする。


「ああ……もう……本当にあなたときたら……」


 ミラは指で笑い涙を拭いながら篤樹に視線を向けた。


「はぁ……もう……分かったわ。はいはい、そうね。今回は赦しましょう」


「えっ?」


 篤樹は思わずミラの言葉を聞き直すように驚きの声を上げる。


「フロカ……それにあなたたちも覚えておいて。アツキは『この世界の人間』ではないそうよ。私の客人だけど『この世界』の人間で無いのだから、王室規律も適用外ってことで今回は収めましょう。それで良いかしら? アツキ」


 何だか理由はよく分からないけど……とにかくフロカさんの反逆罪とか死刑とかってことが無いんなら……


「はい……すみません……ありがとうございます」


 ミラはフロカに視線を向ける。


「フロカ……あなたこそ言動には自重をもってお願いね。アツキに『この世界』での規律は求めないであげて。何も知らないのだから。皆も、アツキに対しては『いつもの賓客とは違う扱い』を心掛けてね。いい?」


 フロカは目を大きく見開きしっかりとミラを見つめた。すぐにその場に両膝をつくと、右手を左胸に当てた姿勢で応じる。


「申し訳ございませんでした! この命は従王妃ミラ様にお捧げしたもの。以後、心に刻みます」


 ミラは優しく微笑むとフロカの頭に軽く手を載せる。


「本当に……あなたまで失う事になったら……」


 あなた「まで」?


 篤樹はミラの言葉に引っ掛かりを感じた。しかし、そのことを尋ねられる空気ではない。


「さあ、もう夜も更けてるわ。それぞれの場へお戻りなさい。アイリ、チロル、アツキを部屋へ。早くその血を何とかして上げて」


 血? あっ、そう言えば……


 篤樹は鼻に手を当てる。


()ッ!」


 手で鼻に触れると、途端にツーンとした痛みが走る。痛みで顔をしかめると、その動作で今度はズキズキと鼻骨が痛む。


 あちゃ……これって……折れた?


 篤樹は自分の鼻がどんな形になってしまったのか、考えるとゾッとした。


「見せて」


 目の前に少女……アイリと呼ばれた侍女が立ち、篤樹の顔を覗きこむ。


「手をどけて!」


 少し苛立ったような指示をされ、篤樹は慌てて手を顔から離した。


「……大丈夫です。折れてはいません」


 アイリは振り向き、ミラに報告する。


「では後をよろしくね。アツキも良い夢を」


 ミラはアイリの報告に頷くと、2人の侍女を従え室内へ入っていった。


「おい!」


 部屋の扉が閉まると、すぐにフロカは立ち上がり篤樹に近づいて来る。一瞬、篤樹は身構えた。


「……ミラ様のお言葉だ。もうお前を殴りはしない」


 フロカはムスッとした表情でそう言うと、床の上に落としていた自分の装具を拾い上げる。


「……だが、ミラ様に危害を加えようものなら躊躇無く殺すからな? 覚えておけ!」


 なんなんだよ、この 女兵士(ひと)は……


 何事も無かったようにミラの部屋の扉前に戻り立ったフロカを見つめ、篤樹は困惑していた。


 大体……何を怒ってんだろ?


「行くぞ、アツキ」


「へ?」


 アイリとチロルが階段に向かって歩き出した。


 あれ? 今……この ()……何気に俺を呼び捨てにしなかった?


 先を行くアイリの背を追い急いで後に従うが、思い出したように立ち止まり振り返る。


「あの……フロカさん……すみませんでした……」


 階段の手前でフロカに顔を向け、篤樹は軽く頭を下げた。フロカはただ黙って睨んでいる。


 あ……ダメか……


 篤樹は就寝前に仲直りが出来なかったことを残念に思いつつ、階段を下り始めた。アイリとチロルは階段の踊り場から階下へは下りず、真っ直ぐ続く階段を上り始める。篤樹もその後を追って階段を上った。


「やりすぎた。すまん……」


 2、3段上ったあたりで、背後からフロカの声が投げかけられた。ハッとして篤樹は振り返る。しかし、もうフロカは横を向いてしまっている。代わりに、横に立つもう1人の女衛兵が篤樹に目線を合わせ、ニヤリと笑顔を見せてくれた。


「あ……お休みなさい!」


 篤樹は2人の衛兵に顔を向け挨拶をすると、一気にアイリとチロルに追いつく勢いで残りの段を駆け上った。


 こちら側はミラの居室前と違い、廊下が奥まで続いている。普通サイズの装飾の無い扉が左右に6つずつ、計12枚有る。


「一番奥の部屋だからな」


 篤樹が背後に近付いたことを確認したアイリが行き先を告げる。侍女は2人とも篤樹より頭1つ分ほど背が低い。中学1年生か2年生って感じの顔立ちだ。子どもでも大人でもない「特別な年代」の顔立ち……「同級生・同年代」の見慣れた雰囲気をもつ侍女たちという事もあり、篤樹としては珍しく「話をしたい」という気分になっていた。もちろん、「情報収集」のために……


「鍵はこれ」


 廊下の突き当り右手の部屋前に立つと、アイリがエプロンのポケットから1本の鍵を取り出した。それはいかにも「古い鍵穴に似合う鍵」だ。アイリはその鍵を扉の鍵穴に差し込むと……すぐに引き抜いた。


「えっ? それで開いたの?」


 鍵を「回すもの」と思って見ていた篤樹は、想定外の開錠方法に驚き声を上げる。


「鍵の開け方も知らないのか?……どんな世界から来たんだよ……」


 アイリはブツブツ呟きながら扉を押し開き中へ入る。連動するように天井に埋め込まれている板が白い光を発し、部屋を照らした。


「ほら、こっちに来な」


 アイリはぶっきらぼうに篤樹を部屋に招き入れる。広さは十分……というか広過ぎるくらいだ。和室で10畳間くらいはありそうな室内の右側に、大きなベッドが1つ置いてある。篤樹サイズで3人は余裕で寝れそうな広さだ。ソファーセットも置かれており、部屋とは別にトイレと沐浴スペースまである。


「結構……広いね」


 篤樹は部屋を見渡しながら感想を口にした。


「従王妃の来賓客間ですので……」


 すぐ後ろに立っていたチロルがボソッと答える。篤樹はアイリが返事をするものと思っていたせいで一瞬ビクッ!となった。


「あ……特別な客間なんですね……」


 イメージしていた侍女とは大違いの「タメ口」で話すアイリに対し、チロルはイメージ通りの丁寧な ()のようだ。だが、そのチロルにアイリは注意を与える。


「チロル! ミラ様の言われたこと聞いてなかったのかよ」


「えっ?」


 アイリに咎められたチロルがキョトンと返事をした。


「アツキは『別の世界の人間』だから『いつもの賓客』のように接するなって言われただろ? なあ?」


 最後の一言は篤樹に向けられたものだ。


「えっと……あれってそういう意味だったの……かな?」


「オレたちがいつもやってるような『お客様への御奉仕』の態度をすんなってことだろ? 友だちみたいに仲良くやれって事だ……と思ったんだけど……違うのか?」


 急にアイリが困ったようにチロルを見る。


「多分……何か……違うかも……」


 そのまま目線が篤樹に向く。


「いや……僕はどうでもいいよ。アイリ……さんがやりやすい方法で……」


 アイリはしばらく考える素振りを見せ、急に頭を掻きむしる。


「ああ! なんだ? オレはてっきりアツキと『友だちになれ』って言われてるのかと思ったからさぁ……」


 それで「タメ口」だったんだ……ってか、この ()、元が言葉遣いの荒い ()ってことか?


 篤樹は呆気に取られしばらく間を置いたが、笑みを浮かべてアイリに語りかけた。


「良いよアイリはそれで。その代わり俺も普通に話をさせてもらうよ?」


 アイリがパッと笑顔になる。


「おお! もちろん! なぁんだ、やっぱりこれで良いんじゃん。ほら、こっち……」


  沐浴場(もくよくば)の前でアイリが手招きをする。


 ま、いっか……


 篤樹は招かれるままに近寄ると、壁に鏡が掛けてあることに気づいた。そこに映った自分の顔をマジマジと眺める。


「うわっ……汚ねぇ……」


 顔中が血で塗りたくられたようになっている。思っていた以上の血まみれ顔だ。


「こりゃ、ミラさんも笑うわけだ……」


 篤樹はしみじみと呟く。


「でもよぉ、アツキィ……」


 アイリは沐浴場の手桶に水を張り、手拭いを準備して篤樹の傍に寄る。


「あんな真似……他の王族の方の前でやっちゃ、絶対にダメだからな!」


「あんな真似?」


 冷たい水で濡らした手拭いで、アイリは篤樹の顔を拭おうとしながら語り掛けるが、篤樹はそれを拒むように手拭いを受け取り、鏡を見ながら自分で顔を拭く。

 室内のチェックをしていたチロルが口を開いた。


「ミラ様の決定を覆すような発言をなさったでしょ?」


 え? そんなことしたっけ……


 篤樹はキョトンとして顔を拭く手を止め、チロルを見る。


「ミラ様が私にフロカの入牢を命じられた時に……『ダメです』って……」


「あっ……あれは……だってさ……」


 アイリは篤樹の手から血で汚れた手拭いを奪うようにとると、手桶で絞り直しながら語る。


「王族……王様とお妃方のお決めになった事には全て『仰せのままに』と従うが規律なんだよ。口応えは反逆罪だ。お前が『この世界』の人間なら、あれで死刑にだってなるんだぜ? ミラ様だからお目こぼし下さっただけなんだからな……他じゃ気をつけろよ」


 そう言うと絞り直した手拭いを篤樹に渡す。しかし篤樹は納得できない。


「でもさ! あの時ミラさん、フロカさんを死刑にするって……」


「言われないわ。そんなこと……」


 チロルがベッドメイクを始めながら篤樹の言葉を否定する。


 え? 言ったよ……な?


「頭を冷やすために牢に連れて行けとしか言ってないだろ? それをお前が口答えなんかしたから、ミラ様が『本来の規律』を教えて下さっただけじゃないか」


 死罪に値するって……あれ? 死刑にするって……言っては無かった……か?


「それをさ……ミラ様のことも知りもしないお前が勘違いかなんか知らないけど、あんなに熱く口答えしやがって……どうなることかとハラハラしたぜ」


「そう……だったの? あ! だから……あんなに楽しそうに笑いだしたりして……」


 篤樹は先ほどのやり取りを冷静に思い返しながら段々と恥ずかしくなって来た。


 こんな鼻血(まみ)れの顔で……俺……どんな熱弁振るってんだよ……


「そもそも、何があってもフロカを死刑にするなんてはずはないんだよ、ミラ様は……」


 手が止まっている篤樹を見かねたように、アイリはもう一枚の手拭いで篤樹の顔の血を拭い取りはじめた。


「フロカは……ミラ様の本当に大事な友なんだからさ……」


 アイリはそう呟くと、右手からほのかな黄色い光を発し、篤樹の鼻を包み込んだ。

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