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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第4章 陰謀渦巻く王都編(全63話)
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第 177 話 動き出した計画

「スレイが王宮兵団を嫌ってた理由はこれ?」


 3人の兵に囲まれ 謁見宮内(えっけんきゅうない)に入ると、レイラが小さな声で尋ねた。


「嫌っちゃいねぇですよ。むしろ気持ちの良い連中です。ただ……少し勝手が違うもんで苦手なだけでさぁね」


 スレヤーも周りの兵に聞こえないように返事をする。先頭を歩く兵士……小隊長のムンク軍曹は心なしか足取りが軽やかにも見える。


 ミゾベとの生産性の無い言い争いに声を荒げていたムンクの (もと)に、シルバに連れられ篤樹たちは顔を出した。シルバがスレヤーの同行をムンクに伝えて以降……王宮兵達の態度が一変したのだった。但し、ミゾベに対しての態度は何も変わる事は無かったのだが……


「スレイって王宮兵団にも人気者だったんだね?」


 エシャーもスレヤーに語りかける。その声は斜め後ろから随行しているシルバの耳にも入った。


「俺たちジン・サロン剣士隊にとっちゃ雲の上の存在さ、スレイさんは」


「でも……軍部と王宮兵団は全く別の組織なんでしょ?」


 シルバの反応に篤樹が問い直すと、もう1人随行していた兵士が答える。


「組織は別だが、真の戦士に組織は関係無いさ。スレイさんは隊長のジンさんと同じくらい尊敬できる真の戦士だ。軍部の伍長なんかってレベルじゃないよ、この人は」


「軍部の三隊連長を指揮されていた間は諦めてたけど……今度こそは王宮兵団に入っていただきたいもんだ」


「入らねぇって言ってんだろ?」


 シルバたちの会話が耳に入っていたのか、スレヤーが苦笑しながら小声で答える。


「あっ……すみません……でも! 自分だけでなくジン隊長以下、我が隊全員の正直な思いですから……」


「人気者だねぇ、伍長」


 聞き耳を立てていたミゾベが皮肉たっぷりにスレヤーに言う。


「ホントに人気者なんだね、スレイ!」


 仲間が称賛される様子を素直に喜ぶエシャーも声をかけた。


「さて……ボチボチ私語をお控え下さい。謁見(えっけん)の間です」


 先頭のムンクが歩調を緩め注意を与える。


「我々の務めはここまでですが……自分もスレイさんの入隊を心より期待しています!」


 ムンクはスレヤーに向かって笑顔で最敬礼を示す。スレヤーもうんざりした苦笑を浮かべて返礼を表した。


「では……」


 シルバは大きな2枚扉をノックする。


「ルエルフ村探索隊メンバー、及び、国内情報調査即応部隊ミゾベが到着しました!」


 良く通る声で来訪を告げると、左右の扉が部屋の内側へ引き開かれた。ミゾベが先頭に立ち室内へ入る。続いてスレヤー、レイラ、篤樹とエシャーは並んで室内に進み入った。

 「謁見の間」という割には……結構狭いなぁ……篤樹はもの珍しそうに室内を見回す。学校の教室くらいの広さしかない。全面石造りの部屋で、正面には30cmほどの段差ステージが設けられている。その壇上中央に王座が在り、左右に2席ずつ王妃の席が設けられている。正面壁の左右には奥へ続く廊下が見えた。王族の出入はそこを用いるのだろう。

 王座前の壇下床上には、赤を基調とした5m四方ほどの織物絨毯(じゅうたん)が敷かれている。部屋の4隅と入口扉の左右に1人ずつ兵士が立っているが、謁見の間にはその兵士たちの他にも人影があった。


「お父さん!?」


 文化法暦省大臣ビデル・バナルと共に、エシャーの父ルロエが立っている。


「あら……」


 同時にレイラも短く驚きの声を上げた。ビデルとルロエから少し距離をおき、エルフ族協議会副会長のカミーラと随行する2名のエルフ……ミシュラとカシュラも立っていることに篤樹も気付いた。


「お控えを!」


 扉の横に立つ衛兵が厳しい口調でエシャーを注意する。ハッとしてエシャーは口に左手を当てるが、満面の笑みでルロエに右手を振った。ルロエも笑顔で軽く右手を上げ、再会の喜びを示す。


「第35代エグデン王国国王ルメロフ陛下と正王妃メルサ様、従王妃グラバ様、従王妃ミラ様が来座されます」


 宣告が響くと、前方左右に立つ衛兵がそれぞれの手にする槍を持ち上げ、石突きを床に3回打ちつける。ビデルとルロエ、カミーラたちは正面に向かい整列した。篤樹とエシャーはキョロキョロと周りを見て、スレヤーやレイラと同じように姿勢を正し王たちの入室を待つ。


 現国王のルメロフ王かぁ……どんな人なんだろう? それに……従王妃ミラさまって……


 篤樹は前方左右の石廊から響いて来る足音を聞きながら、だんだんと緊張が高まって来た。市役所見学に行った時、市長と会った時にはこれほどの緊張はしなかった。やっぱり「王様」っていうのは、その権威だけでもプレッシャーを感じるものなんだなとドキドキしてくる。


 それに……


 従王妃ミラに関しては、ミシュバット遺跡でエルグレドから聞いた情報からの先入観がある。

 エルグレドが入手出来る正規の王国体制情報とは別の指揮系統をもつ「あちら側」の勢力……それがどんな勢力なのか、何を狙っているのかはまだ不明だが……用心すべき相手なのだろうと理解していた。


 正面左右の廊下に響く足音がハッキリと聞こえ、先頭にそれぞれ衛兵2名、その後ろ、左の廊下からはルメロフ王が、右の廊下からは3人の王妃が姿を現した。一同が最敬礼の姿勢をとったのをみて篤樹とエシャーも真似をする。まず王妃達がそれぞれの席の前に立つ。整うとルメロフ王は中央の王座に座り、声を発した。


「待たせたな。楽にせよ」


 一同を見渡し、満足そうな笑みを浮かべ、皆に最敬礼を解くように促す。それを合図に、王妃たちも自分の席に座ったが……王座左手の王妃席は1つだけ空席のままだ。篤樹はその空席を不思議に感じたが……それよりも王も王妃たちも想像していたよりずっと若いことに驚いた。


 ルメロフ王は 顎鬚(あごひげ)こそ蓄えてはいるが、威厳の欠片も感じない若さ……幼ささえ (かも)し出している。言葉を選ばずに表現するなら「馬鹿っぽい王様」というのが篤樹の第一印象だった。

 ルメロフの右手隣席に座る王妃……恐らくこの人が正王妃なのだろう。こちらの女性のほうがよほど威厳と雰囲気を醸し出している。

 その隣、右手端に座っている王妃は褐色肌の女性だが、健康に問題がありそうな雰囲気を感じた。どこかオドオドとしていて、まるで1ミリでも正王妃から遠ざかりたいように身体を椅子の端に寄せている。


 どちらかがミラ従王妃なんだろうな……


 篤樹は王座の左手空席を挟み座っているもう1人の女性に目を向けた。正王妃がレイラのような「大人の女性」の雰囲気をまとっているのに対し、こちらの王妃はまだ10代後半くらいにも見える。篤樹は姉の綾香を思い出した。

 エシャーも同じような事を考えていたのか、困ったような表情で篤樹と目が合う。篤樹は軽く首を横に振った。何となく「誰が誰だか分かる?」と聞かれたような気がしたのだ。


「右がミラ様、左がグラバ様」


 2人の雰囲気を察したレイラが、サッと2人に小声で情報を与えてくれた。


 ああ……じゃあこっちが……


 王座から空席を挟んで座っているミラに、篤樹は視線を向けて再確認する。「美しい王妃」というよりは「綺麗なお姉さん」に見えるが、まるで人形のように作られた表情だと感じた。


「あれ? エルグレドはどこだ?」


 ルメロフが驚いたような声を上げる。


「王様。此度あの者は反逆の嫌疑を受けて収監されたと……」


 正王妃メルサが隣のルメロフに静かに答える。ルメロフは「え?」という表情をメルサに向けた。


「内調からの『召喚要請』に同意なさいましたでしょう?」


 メルサが優しい口調ながら、感情を抑えた冷たい声でさらに説明を加える。


「え? あれって……そういう事なの? なんだ……エルグレドを王宮に招くお手紙だと聞いていたのに……」


 ルメロフは残念そうに呟いた。その様子を見ながら篤樹は確信した。この王様は「馬鹿っぽい」んじゃなくて「馬鹿」なのだと。


「お 手煩(てわずら)いをお掛け致しまして、まことに申し訳ございません」


 ビデルが頭を下げて発言する。


「この度は私の補佐官エルグレド・レイの国家反逆加担という、有るまじき不名誉な嫌疑を晴らすべく、王には最高法院にての裁定をお願いすることとなっております」


「ん? そういう事なのか?」


 ルメロフはキョトンとする。


「王よ。ビデルの申し立ては少々語弊(ごへい)がありますゆえ修正いたします」


 カミーラが口を挟んできた。


「え? そうなんですか?」


 ルメロフは発言の続きを聞こうと身を乗り出す。


「エルグレド・レイ補佐官には、国家反逆罪の疑いがかけられております。ゆえにその嫌疑を内調にて取調べることとなりました。調べられた内容を元にエルグレド・レイが嫌疑通りに反逆者であるのか、それとも嫌疑そのものが誤りであるのか、その判断を最終的に下すのが此度の王の務めにございます」


 カミーラも正王妃と同じような口調でルメロフに説明する。


「ふうん……じゃあ、エルグレドが悪いやつか良いやつかを(われ)が裁判長のように決めればよいということですか?」


 何を基準にしているのか分からないが、ルメロフはカミーラに対し敬語混じりで確認する。


「いかにも……ただし、裁判長の『ように』ではなく裁判長『として』、王自らの判断をもって裁定を下していただくことになります」


 ルメロフは理解してるのかどうか、よく分からない不思議な動きを見せながら口を開く。


「まあ……エルグレドは良いヤツだしな……会えないのは残念だ……」


 そう呟いたあと、「ハッ!」と気付いたように声を上げた。


「では、この者達は何なのだ?」


 ルメロフは視線を篤樹達に向け、驚いたように目を見開いている。


「エルグレドが率いる『ルエルフ村探索隊』のメンバーにございます」


 ビデルが物腰柔らかく説明をする。


 これが……エグデンの王様?


 篤樹は完全に呆れてしまった。幼そうに見える顔立ちだが、それでも「大人」には違いないはず……しかもエグラシス大陸のほとんどを治めるエグデン王国の現王が……こんな「馬鹿」で良いのか? 篤樹は胃に何か酸っぱいものを感じるような吐き気を覚えた。


「エルグレドの配下の者達か……なかなかに 不憫(ふびん)なものだなぁ。主人が捕まってしまうというのは……」


 そんな吐き気を覚えるほどの相手から「憐れみ」の言葉を受け、篤樹は苛立ちを感じる。うつむいて横を見るとエシャーは怒った顔をしていた。しかしレイラもスレヤーも、その他の「大人たち」も皆、何も違和感を覚えない表情を見事に作り出している。


「そこで……」


 ビデルが話を進めるために口を開く。


「探索隊隊長であるエルグレドの裁定を下していただきますまでの間、この者らの処遇についての許可をいただきたく、今宵は王の謁見をお願いさせていただいた次第です」


「ん? この者らの処遇? そんなこと、勝手にやれば……」


「王の!」


 ルメロフが面倒臭そうに話し出した言葉を遮るように、正王妃メルサが語り出す。


「このルエルフ村探索隊は『王の』特別直轄機関としてビデル大臣が組織したもの。ですので、隊長たるエルグレド・レイが欠格となっています今、全ての決定権はルメロフ王陛下にのみ在りますゆえ。ですね? ビデル大臣」


 ビデルはうやうやしく頭を下げる。


「そうか……それなら……仕方ないな……」


 ルメロフはメルサの声に 気圧(けお)されたように頷く。


「では……どうしようか?」


 内容は理解出来たが、どうすれば良いのか分からず、ルメロフは助けを求めメルサに顔を向けた。


「腹案はお持ちなのでしょう?」


 メルサはビデルに向かい尋ねる。こんな形式だけの茶番手続きは早く終えたいという思いで一致しているように、すぐにビデルは答えた。


「はい。エルフ族協議会よりのメンバーであるレイラ殿には、一旦、カミーラ高老大使の下にお戻りいただきます。スレヤー伍長は現在、軍部に所属部隊は御座いませんので王都軍学校に短期出向をと考えております」


 ビデルの提言を、スレヤーもレイラも軽く頷きながら聞き入れる。ビデルは続けた。


「ルエルフのエシャーは……こちらのルロエの実の娘でもありますが、例の『 宵暁裁判(しょうきょうさいばん)』の判決に従い、現在、私と行動を共にしておりますルロエと一緒に行動するワケには参りません。ですので、こちらのカガワアツキとエシャーの2名は文化法暦省所轄の公営学舎に短期入学し、寄宿舎へ入寮する許可をいただきたく願います」


 公営学舎って……学校だよなぁ? どんな学校なんだろう?


 篤樹とエシャーは顔を見合わせ首を傾げた。ビデルの提言途中から、メルサ正王妃に何かを耳打ちをされていたルメロフ王が口を開く。


「ああ。大体は分かった。しかしスレヤーとやらについては軍学校ではなく、王宮兵団の剣術指南役としてここに残ってもらおう……でよいか?」


 ルメロフはメルサに内容が正しいかを確認するように横を向いた。メルサは静かに頷く。


「という事だ。スレヤー伍長。良いか?」


 ビデルからの問いかけにスレヤーは一瞬ピクッと反応した。しかしすぐに姿勢を改める。


「仰せのままに……」


 そう答えると、うやうやしく頭を垂れ、拝命を受け入れた。


「レイラも良いな?」


 カミーラがレイラに確認する。


「ええ。もちろん『仰せのままに』」


 そうか……『仰せのままに』作戦だったな……


 篤樹はエシャーと目を合わせ、宿でエルグレドから託された作戦に従うしかないと頷きあった。


「そこの男……カガワアツキなる者は我が元に預かりとうございます、陛下」


 唐突に、これまでのやり取りを仮面のように無表情なまま見ていた従王妃ミラが口を開いた。一同の視線がミラに集まる。


「え? あ……うん? なんだってミラ王女?」


「従王妃にございますよ、陛下」


 驚いたように問い直したルメロフに、ミラは無表情のまま訂正をいれ、言葉を続けた。


「その者……カガワアツキなる者の報告に目を通し、興味を抱きました。チガセ伝説に関係する者だとか……退屈しのぎに傍に置きとうございます」


「チガセ? 退屈しのぎ? そ、そうか。うん……よいぞ。よいな?」


 ルメロフは何だか嬉しそうにミラに答えると、最後は篤樹に確認するように顔を向けた。突然の御指名を受けた篤樹は言葉を失い周りを見るが……ビデルは「 我関(われかん)せず」というように目を (そむ)けていた。レイラとスレヤーは頭を垂れたまま、口元に思いっきり笑みを浮かべている。エシャーは……一瞬首を横に振ったが、すぐに思い直したように小声で「仰せのままに……だよ」と呟いた。


「どうした? 何かあったか?」


 篤樹の返答が遅いことに機嫌を損ねたわけでもなく、ただ返事が遅いことを不思議がるようにルメロフが尋ねて来た。


 そうだ……作戦なんだ……ちょっと……イレギュラーだけど……


 真っ直ぐに顔を上げると、篤樹はしっかりとした声で返答をする。


「仰せのままに……」


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