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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第4章 陰謀渦巻く王都編(全63話)
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第 174 話 生徒会長

 エルグレドが放った拘束魔法により固められたサレンキーとミゾベ、そして、流涙の跡を両頬に残したまま、食い入る様にエルグレドを見つめるマミヤ。その姿をポカンと眺めるエルグレド以外の4人は、互いに目配せで「この先どうなるのか」という不安を共有していた。


「そう……来ましたかぁ……」


 エルグレドの呟きをマミヤは聞き逃さなかった。


「どういう意味ですか? まさか……事実……」


 エルグレドは余裕の笑みを取り戻す。


「違いますよ、マミヤさん。私は『ガナブ』ではありませんし法暦省へ強盗に押し入った事もありません」


 確かに「強盗」には押し入ってはいないけど……でも色々と「盗み出して」たんだよなぁ?


 篤樹はエルグレドの言い回しに感心しながら、二人の会話を見守る。


「違うん……ですね?」


 マミヤの声に安堵が宿る。


「ええ。『ガナブ』ではありません。ですから安心して下さい」


 そう言うと探索隊メンバーにもサッと目を配る。つまり……エルグレドにかけられた嫌疑が「ガナブ」かどうかということなら……事実無根なのでいくらでも嫌疑を晴らす手は考えられる。だから安心して「作戦通り」に進めれば良いってことか? 篤樹は現状で自分が理解出来る形に解釈した。


「それよりも……」


 エルグレドはマミヤに真っ直ぐ向き合う。


「私はてっきりビデル大臣について何かの調査が入っているのかと……もしくは私達のチーム……ルエルフ村探索隊に関する何かの情報を調べられているのかと思っていたものでしたから……まさか『ガナブ』と疑われていたとは……」


 ここで先ほど「つい口に出した呟き」をしっかりと回収する。マミヤはエルグレドが本心から「馬鹿な話を……」と呆れている雰囲気を感じ取り、安心したようだった。


「良かったぁ……じゃあ、やっぱりエルさんは『ガナブ』とは無関係なんですね?」


「当たり前でしょう? 一体どうしてそんな話がデッチ上げられたのか……そういえばサレンキーが先ほど『調査には4隊も充てていた』と言っていましたが……その内の1つはボルガイルさんのチームですね?」


 マミヤは「えっ?」という表情を浮かべ、すぐに笑顔で頷く。


「さすがですね、エルさん。もう彼らの存在にまで気付いてるなんて」


「気付いたワケではありませんよ。彼らのほうから接触して来たんです。四日前に起こったミシュバ地方での大地震の夜にね……私達が野営をしている所へ来られたんです」


 エルグレドは要点をかいつまんでマミヤに説明した。


「……まあ、そんなことがありましたから、何らかの形での嫌疑が私かこのチームにかけられているのだろう、とは考えていたんです。でもまさか……私が『ガナブ』とは……内調の仕事としてはいささか強引かと思いますねぇ」


「私も……信じられませんでした……。だからハッキリした証拠を見つけようと頑張ったんです!……エルさんは『ガナブ』とは無関係だって証明出来れば、この調査も終わるだろうと思って……でも……」


 マミヤは一旦言葉を切った。その様子から、まだ何かの情報があると読み取ったエルグレドは会話を続ける。


「でも『これ』が出されたということは、私への嫌疑がかなり濃厚になったということなんでしょうね?」


 エルグレドは召喚状を手に持ち、振って見せた。マミヤは少し言葉を整理するように間を置き口を開く。


「エルさんのお父さま……エグザル・レイ氏が怪しいと……ボルガイルさんは考えているんです。でも……もう……ずいぶん前にお亡くなりになられてるんですよね?」


 マミヤの言葉に篤樹はグッと笑いを堪えた。


 エルグレドさんの「お父さん」って……


 篤樹以外の三人も、それぞれの方法で笑いを噛み殺している。


「ええ……調査の中でご存知だと思いますが……母を早くに亡くし、父とも幼い頃に別離して養父母の下で育ちましたので……その村もサーガや盗賊に 蹂躙(じゅうりん)された挙句に廃村となりました。 成者(しげるもの)となった私は学費を貯めて魔法院に17歳で入学しましたから……父とは20年以上会っていないんです。そもそも存命かどうかさえ私は知りません」


「そうだったんですか……」


 マミヤは自分の持っている情報とエルグレドの証言を頭の中ですり合せて聞いているようだ。この話法が彼女の調査方法なのだろう。


「公証記録では『お父さまのエグザル氏』は、ロイス村のペチル御夫妻にエルさんを預けた後、南方のグラディー山脈東部鉱山での事故でお亡くなりになったとありましたから……ご存知なのかと……」


 エルグレドは真っ直ぐマミヤを見つめながら、少し驚いた表情を見せる。


「そう……でしたか……。父は……事故で……。知りませんでした……残念です。まあ……しかし、私は今、エルグレド・レイという1人の人間として生きていますし、この先もずっと変わりません。『父の死』をこのような形でうかがっても……肉親の死という実感は沸き起こりません。すみませんね」


「いえ……すみません! 余計な情報でしたね……」


 マミヤは今の会話を打ち消すように首を横に振る。


「忘れて下さい。とにかく……尋問や公聴会ではお父様と共謀し、ガナブとして活動を行って来た……という嫌疑で責められると思います。でも……事実でないなら大丈夫ですよね?」


「それは私に聞かれてもなんとも……担当の皆さんが私の証言に耳を傾けて下さるかどうかまではわかりませんからね」


 エルグレドはマミヤの心遣いを喜ぶように笑顔で答えた。


「そうですね……この件は特にボルガイルさんも個人的な感情が働いてるみたいですし……サレンキーも……」


 マミヤが意味深に語る。


「サレンキーは……まだ『あの時のこと』を?……まあ仕方ないですね……マミヤさんは?」


 エルグレドの問いかけにマミヤは笑みを浮かべて頷いた。


「私は大丈夫です!」


「そうですか……良かった」


 エルグレドも笑顔でマミヤに頷きを返す。


「さて……ではボルガイルさんという方はなぜ私……というか『ガナブ』に執着を?」


「噂なんですけど……昔、ボルガイルさんのお兄さんが勤めていた王室機関にガナブが侵入したらしくって……大事なモノが盗み出されたそうなんです。そのせいでお兄さん方職員が責任を取らされたとか……お兄さんはその後すぐにお亡くなりになられたらしく、事故なのか自死なのか……ガナブの一件が関係してるのかも知れません。少なくともボルガイルさんは、ガナブの一件でお兄さんが死んだのだと思われているらしいです」


「それで……『ガナブ』を……」


 エルグレドは神妙な表情で頷きながら話を聞き、答えた。


「御身内の死の原因を作った犯人であれば私怨が働くのも分かります。……とはいえ……さて、困りましたねぇ……」


 そう言うと拘束魔法で固めたままのサレンキーとミゾベを見る。


「……ミゾベさんの『情報』というのはあれでしょ? ミシュバット遺跡襲撃犯と私の関係がどうとか……」


「はい……御承知でしたか?」


「ミゾベさんと私と『ガナブらしき襲撃犯』との接点はそこしか無いですからねぇ」


 エルグレドの自然な会話に、マミヤも応えて語る。


「お互いの名前を呼び合っていたとか……その……襲撃犯はエルさんを『王子』と呼んだとか……」


「王子? なるほど……ねぇ……」


 あっ! タフカが軍馬車の中から出て来て兵士達に絶対死の攻撃魔法を繰り出した時の……あの会話を聞かれてたんだ!


 篤樹は、タフカと最初に対峙したときの様子を思い出した。


「お互いの名前を……ですか? ふうむ……一体なぜそんなことを……まあ、それは……公聴会でキチンと説明しなければならないでしょうね……分かりました。とにかく一旦は王都に戻らなければなりませんねぇ……みなさん」


 エルグレドは探索隊メンバーに顔を向けた。


「ということで……すみませんが少しお付き合い下さいますか?」


「隊長さんの御用事なら、ついていくしかないでしょ?」


 レイラは席を立つとエシャーに声をかける。


「さ、エシャー。荷物を取りに行きましょ」


「んじゃ、俺らも準備して来ます」


 エシャーを促しレイラが2階の宿室へ向かう。それを追いかけるように、スレヤーと篤樹もホールを後にした。


「じゃあマミヤさん。私も荷物を取ってきますので少しお待ち下さい。2人の拘束は……面倒なのでゆっくりと解除するようにしておきますから、うまくなだめておいていただけますか? ちゃんと無抵抗で連行されて行きますから」


「はい……一応……言っておきます」


 エルグレドはマミヤに後を頼むと、宿室に向かって歩き出した。階段を上ると、廊下で待機していた4人とすぐに合流する。


「どうなるんです?」


 スレヤーが早口で尋ねる。


「しばらくは分散行動になります。私は2週間後に裁判です。嫌疑が晴れるまでは拘留されるでしょう。ミゾベさんの情報は (くつがえ)せます。『父』の件は……どこまで調べられているのかがカギになります」


 エルグレドも必要事項だけをサッと伝える。


「『仰せのままに作戦』開始です。うまくやって下さいね。作戦変更時には必ず連絡をしますから」


 4人はエルグレドの指示に無言で頷くと、マミヤに怪しまれないようにタイミングを調整し、それぞれ荷物を持ってロビーへ戻って行った。


「エルグレドー!」


 拘束魔法から完全に解放されたサレンキーの叫び声を階下に聞いたエルグレドは、一瞬、このまま逃げ出しても面白いかも、と考えながらニヤリと笑った。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「……王都まで、あとどれくらいかかるんですか?」


 篤樹は前方を進む軍馬車の動きをボンヤリ眺めながら、手綱を握るスレヤーに語りかける。しかしスレヤーが答えるよりも先に、後ろからミゾベの声が返ってきた。


「軍馬車の速度ならあと2時間もあれば着くんだがな……。こんな民製貨車を ()いてるんじゃあ、どんな立派な法力馬でも5時間はかかるだろう。ま、陽が沈み切る前には着きたいところだ」


 ミゾベの返答に、篤樹はウンザリと溜息をついた。エルグレドは前を進む馬車に乗せられ、サレンキーとマミヤに監視されている。探索隊の馬車には監視者としてミゾベが乗り込んできたのだが……コイツがとにかくうっとおしい!

 最初の内は何の自慢話か知らないが(そもそも誰も興味も無い話ばかり)自分の半生をペラペラと喋り続けていた。いい加減嫌気がさし、誰かが別の話題を仲間にふれば、その話題を横から奪ってまた自分の話をベラベラと喋り出す。


 エルグレドや探索隊の不利になるような情報を聞かせるわけにはいかないので、結局、4人はミゾベが喋り疲れて黙るのを待ち、自分達も話題を提供しないように努めるしかなかった。こんな退屈な移動は始めてだ。

 手綱を握るスレヤーも同じ気持ちなのだろう。篤樹に目配せをすると「やれやれ」という表情を見せる。口を開けばミゾベが乗っかってくる。ならば口を開くことも出来やしない。


 あと5時間かぁ……退屈だなぁ……エルグレドさんはどうなのかなぁ?


 篤樹はまたボンヤリと前方の軍馬車の背を見つめる。


 エルグレドさん……エグザルレイという名と人生を隠してユーゴ魔法院に入ったんだよなぁ……17歳だっけ? いったいどんだけサバ読んでるんだよ。……前後10歳の変装は簡単かぁ……俺なら……上は25歳? 見えるかなぁ?……下は……絶対に無理だよなぁ。


 5歳児に変装した自分の姿を想像し、篤樹は1人で苦笑した。


 同期生かぁ……よくバレずに過ごせたよなぁ。俺のクラスに25歳の大人が紛れ込んだりしたら……すぐバレると思うけどなぁ。……でもバレずに「同級生」と数年間を過ごしたんだ。……じゃあ……それなりに「友だち」なんだろうな、前の3人は……


 エルグレドとサレンキーとマミヤの3人が、馬車の中で楽しく魔法院時代の話をしたりトランプをやって遊んでいる光景をイメージする。


 なんだか……修学旅行みたいで良いなぁ……。生徒会かぁ……


 マミヤから聞いたエルグレドの院生時代情報を思い出した。


 エルグレドさんが生徒会長でサレンキーさんが副会長、マミヤさんが書記かぁ……


 篤樹のイメージの中の3人は、すでに学生服と女子制服に着替えていた。


 何かイメージ違うなぁ……やっぱり生徒会って言えば江口たちだよなぁ……


 イメージの中のエルグレドたちの顔が、篤樹の同級生たちの顔に変わっていく。


 生徒会長は江口、副会長は1組の大田、書記は4組の佐藤さん……うん、やっぱりこの面子のほうが生徒会らしいや!


 生徒集会で堂々と壇上で語る同級生の姿を思い出しながら、篤樹は馬車に揺られ続けた。

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