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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第4章 陰謀渦巻く王都編(全63話)
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第169話 2つの部隊

「お帰りなさい」


 レイラは (おこ)し終えたばかりの焚火を見つめたまま、背後から近づいて来たスレヤーに声をかけた。スレヤーは鞘に収めた剣を頭の後ろに両手で掴み持つ。


「お? もう火熾し終わってたんですか? すいません。ちょっと向こうの連中を助けに行ってたもんで……」


「スレイ、エルは?」


 焚火を囲み、腰を下ろしていたエシャーが尋ねる。


「ん? 大将は多分……向こうのキャンプのほうの助っ人に行ったんじゃねぇかな? 二手に分かれたからよぉ……」


「不用心ですわよ、二人とも」


 馬車も引馬も荷物も置きっ放しのまま姿を消していたエルグレドとスレヤーに対し、レイラは戻って以来ずっと文句を呟いていた。篤樹とエシャーはそんなイライラしているレイラに恐れを感じ、ただ黙って相槌を打つだけだった。


「あっ……すいません……つい……」


 スレヤーは素直にレイラに詫びを入れつつも、篤樹とエシャーに「どしたの?」とでも言いたげな視線を向ける。何も事情が分からなければ確かに「怒り過ぎ」な態度に感じるのも無理はない。やっぱりアイツのせいだよなぁ……



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ぼうや? どうして私の名前を知っているのかしら?」


 レイラは笑みを消さずに全身からただならぬ殺気を漂わせつつ、ピュートと名乗った少年を問い詰める。篤樹とエシャーは不審な少年と殺気に満ちたレイラの傍から数歩後ずさった。


「ん? 名前は間違ってないだろ? ドュエテ・ド・カミーラ・シャルドレッド高老大使の娘ドュエテ・ビ・レイラ・シャルドレッドさん」


 そう語るピュートからは敵意も殺意も好意も感じられない。ただ自分の知っている情報を確認しているだけ、という感じだ。


 ピューン!


 突然、レイラの右手人差し指から攻撃魔法閃光がピュートの足元に突き刺さる。ピュートはその法撃に一切反応を見せず、意にも介さぬ様子でジッとレイラを見つめていた。


「変なオバサンだ……自分の名前を呼ばれただけで動揺し、怒りを表わすなんて……」


 ピュートが語り終える前に、今度はオレンジ色の閃光がレイラの右手から発せられた。威嚇軌道ではない。今度の法撃は真っ直ぐピュートの身体に突き刺さるが、ピュート自身は残像を置いて姿を隠してしまっていた。


「出て来なさい! 何を狙ってるの!」


 レイラはピュートの姿だけでなく、気配まで見失ったことで完全に戦闘モードに切り替わる。口元にはもう偽りの笑みも無い。タフカと 対峙(たいじ)していた時と同じく、全身に法力充填による薄っすらとした 陽炎(かげろう)のような光さえ漂わせている。


「結構戦闘力も高いな。さすが大使の娘だ……」


 最後に聞き取れた声の発元を狙い、レイラは木の上に向かって3発の攻撃魔法を連射した。だが手応えは無く、打ち抜かれた枝葉がパサリと落ちて来ただけだった。


「レ……レイラ?」


 攻撃を外したままの姿勢で、樹上を睨み上げるレイラに、エシャーが恐る恐る声をかける。


「あいつは……何だったんですか?」


 篤樹も周りを注意しつつ問いかけるが、レイラの顔を見てハッと息を飲む。


「ふざけたガキねぇ……」


 口元に笑みを戻し、怒りに燃える眼光を放つレイラに、篤樹とエシャーはもう何も語りかけられなかった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「そりゃ、ふざけたガキですねぇ!」


 スレヤーは大袈裟なくらい、レイラに同意を示した。


「ホントに……あんな可愛げのないガキは初めてよ!」


 レイラも改めて怒りを表す。ただ、林の中で見せていた殺意に満ちた攻撃姿勢はすでに解かれている。篤樹もエシャーもレイラが「いつもレベル」に戻りホッとしていた。


 スレヤーさんが聞き上手で、ホントに良かった……


「でもレイラさん……」


 ようやく話しかけやすくなったレイラに、篤樹が尋ねる。


「ん? なぁにアッキー?」


「いや……確かに……アイツが何でレイラさんのフルネームを知ってたのかも気になるんですけど……その……強かったんですか? あいつの……魔法力とか……」


 篤樹は昨夜聞いたエルグレドの過去話を思い出していた。同級生の 杉野三月(すぎのみつき)がエルグレドの「魔法術の師匠」だと聞いた時に感じた劣等感……まあ、自分より何千年も前に「こっち」に来て、色んな事があって身に付けた特別な力なのだから、今の自分と比較して優劣を考えるのも馬鹿らしい話……そう割り切っていたのに、さっきの少年「ピュート」は、篤樹と大差無い背格好と年齢に見えた。にもかかわらず、レイラと互角かそれ以上に渡り合った姿を見て、何となく気になってしまったのだ。

 レイラは一瞬「ムッ!」とした表情を浮かべたが、首を軽く傾げて問いに応じる。


「さあ? どうかしら……。最後まで私より『少しだけ弱い』法力量を発してはいたわよ」


「ずいぶんとなめた真似をしますねぇ……」


 レイラの返事を聞いたスレヤーが、舌打ちをしながら答えた。


「え? それって……どういう……」


 篤樹の問いにスレヤーは答える。


「そいつはレイラさんより少しだけ『弱いふり』をしてたってこったよ! まあ……レイラさんが本気の本気になりゃ、そんなふざけた真似もできねぇだろうけど……」


 スレヤーは自分の回答がレイラの気分を害していないか、様子を伺う。


「そうね……もちろん100%では無かったわよ」


 レイラはニッコリ微笑む。


「……その寸前まではいってたけどね」


 笑顔の裏に、再び怒りの表情が浮かび上がっているのを感じ取り、エシャーは思わず話題を変える。


「ね……ねぇ! エルはまだかなぁ? 遅くなぁい?」


「お……おう……ホントに……大将が手こずるような奴ぁいなかったみたいだけどなぁ?」


 スレヤーもエシャーの話題変更に乗っかった。レイラは炎が落ち着き始めた焚火に枝を挿し足しながら、深く息を吐く。


「まったく……どこをほっつき歩いてるんだか!」


 レイラの怒りの沸点は相変わらず低いままだ。ふと、何かの気配を感じたように顔を上げる。


「噂をすれば……あら?」


 レイラが向けた視線の先に、篤樹達も目を向けた。薄い月明かりの中、街道からこちらに向かって歩いて来る人影が4つ見える。前に二人、後ろに二人……前方の内一人はエルグレドだが……


「ああ、エシャーさんも戻ってましたか?」


 会話が届く距離まで近づくと、エルグレドが声をかけて来た。自然な響きの声だが決して「安心感」に満ちたものではない。むしろ警戒を促すような空気を帯びている。それは、同行している三人への警戒を促すものだろう。


「ちょっとお客さんが来られましてね。少し話をしていたんです」


「不用心ですわよエル。荷物も馬も置きっ放しなんて」


 レイラも自然な様子で言葉を返し、探るような鋭い視線を向ける。


「そちらの方々は? どちらさまですの?」


 笑顔のレイラから殺気が漂う。篤樹とエシャーは、3人の同行者の姿がハッキリと見えてくると驚きの声を洩らした。


「あっ!」


「あら? あなたは先ほどの?」


 驚く二人の声を掻き消すように、レイラは先手を打って語りかける。外套をまといフードを被った三人の同行者は足を止めた。


「ああ、お話は伺いましたよ」


 エルグレドは焚火のそばまで歩み寄り、三人に振り返る。


「ピュート君にはもう会ったんですよね?」


 エルグレドに名前を呼ばれたピュートがフードを下ろす。他の2人も同じようにフードを下ろした。2人とも40代半ば位の男性で、一人は左目に茶革製の眼帯を着けている。


「初めまして。私はボルガイル。こっちはベガーラです」


 紹介された眼帯着きの男ベガーラがあからさまに攻撃的な表情を浮かべているのに対し、ボルガイルと名乗った男は親し気な笑みを浮かべた。しかし焚き火に照らされるその眼光は、ベガーラ以上に敵対心の色を帯びている。


「そして……こいつはピュート」


 ボルガイルに紹介されてもピュートは微動だにせず、ただ焚き火の炎を見つめていた。


「あ……さっきは……変なトロルを……ありがと……ね」


 ピュートに向かい、エシャーはおずおずと先ほどの礼を述べる。


「あれはトロルじゃない。大型のゴブリンだ……そうか……トロルと思っていたから、あんな無駄な法撃をしたのか……」


 エシャーは何となく馬鹿にされた気がしたのか、少し語気を強めた。


「そんなの……知らないよ!……暗かったし……あの大きさのサーガだったから……」


「エシャーも『珍しいサーガ』に当たったみたいですね」


 エルグレドが会話に割って入る。


「私が向こうのキャンプで出会ったサーガの中にも『今まで』見たことも無いタイプのモノがいましたよ」


 世界中を数百年も渡り歩いたエルグレドが『今まで』見たことが無いと言うからには、よほど珍しい種族のサーガだったのだろう。スレヤーも話しに加わる。


「俺が倒した2体も、何かちょっと違ったなぁ?」


「はい。新種のサーガが出てきたという情報がありましたので……それで私達が調査に……」


 ボルガイルが話を引き取るが、すぐにレイラが遮る。


「お名前は分かりましたわ。で? 所属を教えて下さいな。出来ればあなたがたの目的も」


「ああ、これは失礼しました。申し遅れましたが、我々はエグデン王国国内情報調査即応部隊の者です。以後お見知りおきを、ゼル・レイラさん」


 ボルガイルはそう自己紹介をすると、仰々しい挨拶の姿勢をとった。レイラはあからさまに不快な表情を浮かべる。


「ボルガイルさん、エルフ族の女性に対して『ゼル』は失礼ですよ」


 エルグレドは穏やかな口調ながら、かなり本気の怒りを込めて忠告する。


「おお! これはまた失礼しました。敬意を込めたつもりでしたが……」


 明らかに小馬鹿にしていながら、一応の謝罪だけは済ませる。そんなボルガイルをスレヤーは嫌悪に満ちた目で睨みつけた。


「……国内情報って……『内調』かよ……」


 ボソリと呟く。その呟きをボルガイルは聞き逃さずに顔を上げる。


「ああそうだよ。ウィルバル・スレヤー伍長。ちなみに内調においての軍階級置換ではピュートが大尉、ベガーラが少佐、私は准将だ。分かったかね? 伍長」


 スレヤーは苦々しく表情をしかめながらも、軍隊式敬礼の姿勢をとって応じた。


「失礼いたしました、准将殿!」


 ボルガイルは満足げな笑みを浮かべる。その様子を見てエルグレドが穏やかに口を開く。


「我々のような『特殊な作戦』に就く者には、便宜上の階級置換が付与されていますからね。ちなみに私の今の階級は『大将同等』となっています。御存じですよね?」


 ボルガイルの顔から笑みが薄れていく。


「まあ、もっとも……あくまで便宜上の置換階級ですから、それ自体には大した意味も無いと私は考えていますし、この探索隊でも適用していません。スレイも軍規に束縛される関係ではなく『特殊作戦従事者同士』として接するようお願いしますね」


 エルグレドはスレヤーに注意を与える (てい)で、ボルガイルの階級支配を禁じる。スレヤーもその意図を汲み、敬礼を解いてニヤリと笑みを浮かべる。


「了解です。ではお言葉に従いまして……という事でさぁね。どうぞ宜しく、ボルガイルさん!」


 ボルガイルも「軍大将同等」の置換階級をもつエルグレドからの指示に従わないわけにはいかない。精一杯の皮肉を込め、エルグレドの指示に応じた。


「ええ、了解しました。まあ私も軍部出身ではないので、軍規縛りなんかどうでもいいんですけどね。ウチの部隊も特に階級縛りは無いですし……。ただ、こちらの特命部隊がどのように上下関係を築いているのか不明でしたので、一応の情報としてこちらの置換階級をお伝えしたまでです」


「この隊に上下関係はありません」


 エルグレドが即座に答える。


「我々は『この(クエスト)の仲間』ですから」


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