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「3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~」【 完結作品 】   作者: カワカツ
第3章 エルグレドの旅編(全62話)
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第143話 回復の時

「フィリー……」


 エグザルレイは 樹化(じゅか)したフィルフェリーの幹に触れ、目を閉じた。心の中にフィルフェリーが語りかけているような気がする。


 これは本当に君の声? それとも私の妄想か……


「そろそろ行くぞ、王子さま!」


 少し離れて立っている4人の輪からタフカが声をかけた。


 彼はね……何度言っても理解しないんだ。私を目の仇のようにして挑んでくる。でも……ここで出会った良き友だよ。ありがとう……フィリー


 フィルフェリーの樹が静かにざわつく。エグザルレイの声をしっかりと受け止めているかのように……


「遅いぞ! 王子」


 4人の輪に近付いたエグザルレイに、タフカが再度苦情を述べる。


「いい加減にしてくれタフカ。お前の挑発に付き合うのは、もう飽きてるんだよ」


 ミツキは2人のやり取りを微笑みながら見つめ、次いで女性陣に目を向けた。


「さて……バルファ、ハルミラル」


「はい?」


「何でしょうか?」


「エルくんとタフカくんの仕上がりは、僕の想定以上になった。普通のサーガ達程度なら何体でも問題なく対処出来るだろう。ベルブという黒エルフのサーガも、そいつが生み出した法術使いのサーガにだって恐らく……ね。だから君達はあちらに戻った後、2人とは別行動をとったほうが良い」


「別行動……?」


 ハルミラルが不満気に聞き返す。しかしバルファは素直に応じる。


「足手まとい……もしくは弱点にならないように……って事ですね?」


「うん、そうだ。今のこの2人に君達がついて行くのは危険だし……それ以上に邪魔になる。ここに残ってくれていても良いんだけど……ちょっと『時間』の流れがまた変わり始めてるみたいだから……」


 ミツキは「森」の状態が変わり始めているのを感じ取っていた。


「『浦島太郎』にしてしまうのも申し訳ないしね。外で安全に身を隠す事が出来る場所はあるかい?」


「……東海上に村の者達が船上避難しています」


 バルファからの返答にミツキは頷く。


「では、君達はここを出たら船上に避難しなさい。エルくんとタフカくんは……」


「目的を果たす!」


「ベルブを倒します」


 ミツキは即答した2人を疑念に満ちたジト目で見つめる。


「……いいね? とにかく約束……僕の言葉を忘れないでくれよ? あ、それと……」


 外套の中からミツキは小さな皮袋を取り出した。


「エルくん……これを君に……」


 エグザルレイは受け取った袋の中を確認する。小さな装飾品……ミツキの「賢者のボタン」が入っていた。


「これは……」


「『お守り』ってワケじゃないけど……まあ預けておくから、次に戻って来た時にでも返してくれるかい? 君たちが無事に戻って来るための『約束の印』ってことで」


 エグザルレイは皮袋を自分の外套の中に納める。


「……では、お預かりしておきます。ヤツを倒したら……すぐに戻ってきます」


 ミツキはにこやかに頷くと、フィルフィリーの樹に顔を向けた。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「三月が……エルグレドさんの魔法術の先生だったんですね……それでボタンを……」


 篤樹は薄々と気付いていた「友人との格差」が確定し、何とも言えない劣等感を感じていた。


 ……卓也も三月も……何かズルイよ!


「それで? アルビの大群行はその後……」


 スレヤーは「最強法術士」になったエルグレドの、その後の戦果が気になって仕方が無い。


「ミツキさんの森を出て10日ほどの間に、私とタフカで数百体のサーガを排除しました。アルビ大陸に元からいたサーガとベルブが『引き連れて来たサーガ』をね……。そう……私達は大事な点を見落としていたんです」


「大事な点?」


 レイラが聞き返す。


「水生種族のサーガはいません。鳥人種のサーガもいますが……極僅かです。でもベルブは『引き連れて』大陸間の海を渡って来たんですよ」


「海を渡ってって……船で? あっ!」


 エシャーが声に出してまとめる間に、全員が「大事な点」が何か気付く。エルグレドは頷いた。


「私もタフカも、ミツキさんからの戒めを心の中で冷静に受け止め行動してはいました。そんな『手抜きの戦い』でも、余裕の戦果を挙げ続けていたんです。その内、ベルブ自身も私たちの前に再び姿を現わしました。初めは奴も私達を甘く見ていたようですが、すぐに私達の戦闘能力の変化に気付いたんです。わずか数週間の間に自分が絶対優位者では無くなってしまっているという事実にね。それで……劣勢を感じた奴は……『妖精王の妹ハルミラル』を人質にとる作戦に出ました。タフカの最大の弱点が『妹』であることをどこからか知ったんです。東海上で船上避難していた獣人族の船団を……こともあろうかサーガの船が襲い……多くの犠牲者が出ました」


 エルグレドは淡々と説明を続ける。


「ハルミラルが捕らえられたことで……タフカは動きを封じられました。たとえ殺されたとしても転生する2人ですが……目の前でサーガ共に生きたまま蹂躙される妹の姿に我を忘れ、怒りと憎しみを爆発させた時……タフカに隙が生じてしまったんです。ベルブはその隙を見逃さず襲いかかり、タフカは戦闘不能な状態になりました。そして私も……『友』とその妹への蹂躙を目の当たりにし、怒りと憎しみに自分の全ての『力』を明け渡しました。妖精の森近くに追い込んだベルブとの戦闘の中、腰に下げていた長短剣を抜きました。法力増幅素材で作られた特別な剣に……全ての怒りと憎しみを乗せ……全ての法力を注いで……」


 エルグレドは自分の両手に目を落とし、ギュッと拳を握りしめた。


「……そこで……仕留めたんでしょ?」


 言葉を切ったエルグレドを促すようにスレヤーが尋ねる。


「自分でも……まさか……あんな攻撃になるとは……」


 エルグレドは首を横に振り応えた。


「いえ……自分の能力とあの剣の特性を冷静に理解し、コントロールしていれば良かったんです。でも……私は怒りに任せ……全ての力でベルブを……奴の細胞の全てを粉々に打ち砕いても昇華される事の無い、憎しみの全てを解き放ったんです。その結果……奴は跡形も無く消し飛びました。奴だけでなく……妖精の森も……アルビ大陸の四分の一程の大地も……跡形も無く消し飛ばしてしまったのです……」


 篤樹達はあまりにスケールの大き過ぎる話に言葉を失った。大陸の四分の一を消し飛ばす威力の攻撃って……


「壮絶な戦い……大き過ぎる被害・損失です。私の怒りと憎しみは……ミツキさんが心配されていた最悪の結果を生み出してしまいました」


「あ……妖精達の森が消し飛ばされちゃったら……」


 ようやくエシャーがポツリと呟く。


「ええ……ミツキさんの森……フィリーの元へ帰る道を……失ってしまったんです。ベルブから聞き出すべき情報さえも私は……自分自身の手で打ち砕いてしまったんです……」


「情報って……あ!『面白い素材』ってやつ?」


 エシャーが問いかける。エルグレドは自分の過ちを嘲笑うように口元に笑みを浮かべ、話を続けた。


「ええ……おかげで今もまだ、その答えを探し 彷徨(さまよ)う羽目になってます。どういう意味なのか……とにかく、アルビ大陸の大群行はベルブ消滅により終わりました。そして……生き残った者達により、それぞれの種族は自分達の生活を新しく築き始めました」



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「行くのか? エル……」


 ベルブとの戦いで失った左腕と左足がまだ生え切れていないタフカは、ハルミラルに支えられて辛うじて立っている状態だった。エグザルレイは妖精王兄妹に寂しそうな笑みを浮かべ詫びる。


「すまなかった……君たちの森を……アルビの大地を……」


「言うな!……ミツキの戒めを先に破ったのは私だ……お前の『怒りの原因』となってしまった自分の不甲斐なさを……思い出させるな……」


 タフカは自分を支えているハルミラルの様子を伺う。


「せめてもの救いは……こいつがこの記憶を引き継がないことだ。恐れや怒りの感情は次も持つだろうが……まあ、相手はサーガだからな。誰もが抱く程度の感情で済むことを願うさ」


 ハルミラルは酷い 蹂躙(じゅうりん)を受けたショックで、言葉と感情を失っていた。妖精王の妹としての転生により、きっといつかは回復するのだろう。だが今の命の間は……


「気にするな。こいつは俺の妹だ。次の転生までの間も俺がしっかり支えになる。じきに『子ども達』も生まれて来るだろうし、このアルビで新しい森を探すさ。それよりお前は……」


「ミツキさんの森の中にフィリーはいる。それは確実だ。きっとミツキさんもあの洞が通じなくなった事に気付いてるだろうから……世界のどこかにまた新たに出入口が創られるはずだ……探すさ」


「そうか……」


 タフカは穏やかな表情でエグザルレイの決意を聞く。


「以前……ハルミラルがお前の事を『弱過ぎて強過ぎる』と言っていたな」


 タフカの問いかけにエグザルレイは笑みを浮かべ応じる。


「戦闘能力としての強さの話かと思ってたけど……違ったようだね。怒りと憎しみの『強さ』を見抜いていたのかな……それに……その感情に支配される『弱さ』を……」


「こいつは初め、お前がこの大陸と俺達に災厄を招くのではと心配していた」


 感情を失った表情のまま兄を支え立つハルミラルの頭を、タフカは右手で軽くポンと叩く。


「これだけの真似をしたんだ。ハルミラルの『予言』も的外れとは言えんだろう。もう……ミツキの言葉を忘れるんじゃないぞ? 冷静に……自分自身を治め、操る者になれ、エル」


「お前のほうこそ……」


 エグザルレイは微笑みながら頷いた。


「そうだ……この剣は君に返すよ。私には……過ぎた代物だったようだ」


 そういうと、エグザルレイは長短2本の剣をタフカの前に置く。


「そうか。分かった。では……必要な時……お前が自分を制御出来るようになったら取りに来い。それまで預かっておいてやろう」


 タフカはエグザルレイの言葉と思いを受け止める。その目には、自分自身の内に宿る「強過ぎる力」と「弱過ぎる力」に苦しんでいる友を (おもんばか)る温もりが込められていた。


「エルー! 準備が出来たってよ!」


 バルファが坂道を上って来ながら声をかける。


 獣人族の船団がサーガの船団に襲われた時、難を逃れた数隻の内の一隻に彼女は逃れていた。バルファの後に続き、年老いた狼獣人族の男も坂を上って来る。一族の長老だと紹介されていた男だ。


「すみません長老……お世話になります」


「お気になさいませぬようにエル殿。 此度(こたび)の戦いでは、ウチの『小僧』も世話になったとのこと。御身への協力を惜しむことなど出来ません」


 長老がにこやかに頷いてみせるのが、エグザルレイには心苦しかった。


「ウィルは……残念でした……私の力がいたらないばかりに……」


「エル!」


 バルファがいさめるようにエグザルレイの名を呼ぶ。


「エル殿……」


 長老も、バルファの思いを受け取るように言葉をかける。


「あやつも戦士として……グラディーの狼獣人族の 末裔(まつえい)として十分に生きた上でのこと。あなたがその責任を負うものではございません。共に戦い……先に逝った戦友として誇っていただくことが、あやつにとってもわしらにとっても慰めとなり、励ましとなります」


 長老は笑顔のままだが、小刻みに震える拳を固く握りしめている。


「それにあやつの名を覚え、その思いを受け継ぐ命も残されておりますしな」


 そういうと長老はバルファに目を向けた。バルファも笑顔で頷き応じる。


「ま、あんだけの事があったのに順調に育ってるよ。父無し児なんて狼獣人族じゃ珍しくも無いし、一族みんなの希望にもなってる。あの馬鹿にしちゃ、良い仕事を最後にやり遂げてくれたさ!」


 語る途中から零れる涙を拭いつつ、しかしバルファは笑顔を絶やさない。


「今さらじゃが……本当に行ってしまわれますか? 共にアルビの復興に立っては下さらんか?」


 長老が最後の確認をエグザルレイに投げかける。エグザルレイが困ったように返答にまごつく間に、タフカが代わって応じた。


「こいつの気持ちは変わらんさ。色々と探さなきゃならんモノが出来てしまったんだからな。黙って行かせてやれ」


 タフカの心遣いに感謝し、エグザルレイも長老に顔を向け直す。


「そういうことです。すみません……アルビの大地をこんなに荒らしておきながら……」


「失った以上のモノを生み出せば良い」


 再び自責の言葉を続けそうになるエグザルレイの言葉を遮り、長老は口を開く。


「怒りや憎しみの力は強力な起爆剤となる。その者が持つ破壊の力を100パーセント引き出すほどにのぉ。それをあんたもワシらも、アルビ中の誰もが見た。その力に比べりゃ……夢や希望の力は弱い。しかし夢や希望は他の者と共有出来る。そこが独りで抱える怒りや憎しみとは違うとこじゃ。大丈夫! 失われた分の大地を埋めてなお有り余るほどの夢と希望をわしらは共有し、アルビの民は1つとなってこの地を建て直そうぞ!」


 それはエグザルレイに対しての励ましというより、タフカやバルファ、周りにいるアルビの民、何よりも自分自身を 鼓舞(こぶ)する宣言のようだった。長老の言葉に反応するように、感情を失っていたはずのハルミラルが、タフカにギュッと抱きついた。もう……回復の時は始まっているのだ……

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[気になる点] 1.「ハルミラルは捕らえられ……タフカは動きを封じられました。たとえ殺されたとしても転生はするんですが……目の前でサーガ共に生きたまま蹂躙される妹の姿に我を忘れ、怒りと憎しみを爆発させ…
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