最終章 19 神となったリシェル
出来ました。
リシェルと、勇者の戦いが始まります。
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「ザーツ・シュザット……終わりだ」
腕を切り落とされ止血したザーツは、勇者が突きつけた剣を振り下ろされた。
腕を切り落とされた事で、ザーツは虚脱感を全身に感じて、立つ事さえ出来ない。
瞬間、長年見届けた最愛の娘の目覚めの気配を背後で感じ、微笑んだ。
時間を稼いだかいがあったと。
カキィーーン
「なっ?」
神剣で腕を落とし、魂ごと傷つけ、ザーツの動きを封じた、勇者は剣に魔力を込めず、身体強化もせず、単に技術だけで振り下ろした剣は、いつのまにか張られていた障壁に跳ね返された。
勇者は、後ろにたたらを踏み、即座にミカエル達がいる方向に目を向けた。
「えっ……あ?」
ミカエルは、勇者のその目線を追うと、レオハルトが抱き抱えるリシェルが、上半身を起こし、勇者と、ザーツを寝ぼけた眼差して見据え、右手を向けていた。
「馬鹿な……本当に蘇ったのか?」
勇者は、驚き叫ぶ。
向けた右手を、顔にかかったザーツの血を指で拭い、落ちているザーツの右腕を見て、ゆっくりと動く。
「あ、おい?」
レオハルトの心配する声も耳に入らず、ふらつきながらも、落ちているザーツの右腕の元にたどり着き、膝まついて腕を拾い、大事そうに抱き締める。
リシェルが、大好きな父親の腕に抱きつく様に。
「……おとうさん」
リシェルは、そう呟いた。
リシェルは、姿が見えなくなる程に光輝き、光が消えた時には、リシェルの姿が様変わりしていた。
十五歳のリシェルは、少し成長し、背が伸び、更に美しさが増して、大人の女性となり、背中には、魔翼族の様に、三対六翼の黒い翼が広がっている。
ザーツが、勇者と戦い結果、腕を切り落とされた事を、腕から読み取り、神剣で、魂ごと腕を切られ、元に戻らない事も知った。
だが、リシェルには関係ない。
今度は、ザーツの元に行き、切られた腕の部分に触れ、魔力を通し、腕を元に合わせ引っ付けた。
「これで、腕は治ったよ。
……少しリハビリは必要だけど」
「そうか……ありがとう、リシェル」
確かめる様に、戻った右腕を動かし、手のひらを握ったり開いたりとするザーツ。
「それと、おとうさんにお願いがあるんだ」
「何だ?」
空間から、リシェルは一本の槍を取り出した。
「おとうさん達に十二の誕生日貰った、この槍……おとうさんが、おかあさんにあずかった時の、最初の状態に戻せるかな?」
「……ああ、そういう事か。
簡単だ、直ぐに出来るぞ」
「本当?」
「勿論…………ほら、出来た。
どうだ?」
ザーツは、槍に触り、かつて槍の能力を押さえる際、工夫した細工を取り払った。
「……うん、流石、おとうさん」
「ああ」
満面の笑顔で、ザーツに笑うリシェルは、どんな存在、姿になろうと、ザーツにとって、リシェルはリシェルだった。
「信じられん……魂ごと、治しただと?」
リシェルが目を覚してから、勇者は何度驚けばいいのだろう?
それは、ミカエル達も同然だった。
「何を言っているの?
私だって神になったんだよ。
神が切ったなら、神が治した……ただ、それだけだよ。
あー、でも、創造神の力を得たからといって、私は創造神とは言えないかな?
……う~ん。
あえて言うなら……属性神、そう、属性神だね!」
リシェルは、思いついた事にスッキリしたのか、満面の笑顔を浮かべた。
「属性神……だと?」
逆に勇者は、理解出来ないと顔をしかめる。
「そう、属性神」
リシェルは、ハッキリとそう言い、死んだ後の事を思い返す。
あの時、リシェルの胸から、刺突剣の刃が背後から突き抜けた瞬間死んだ。
死んだはずのリシェルが目を開け、意識した場所は、真っ白な空間だった。
「久しぶりだね、リシェル」
名を呼ばれ顔を向けた場所に、ルシファーと、リュートがいた。
「ルシファー……それに、リュート?
ここは、いったい?」
リシェルは、何故二人がいるのか、自分は死んだはずなのに……いや、死んだからルシファーがいるのか?
ならば、リュートがいる意味は?
「リシェル。
リシェルは、確かに死んだけど、生きてるよ」
リシェルの質問に、リュートが答える。
「僕が〈死者蘇生〉で、蘇らせたから」
「〈死者蘇生〉?
それって……じゃあ、リュートは」
「うん、もう直ぐ消える」
リュートは頷く。
「そんな……」
「ああ、リシェル。
そんな悲しい顔しないで」
リュートは、リシェルを抱き締め、そう呟いた。
「でも」
「あのね、リシェル。
この世界は、リシェルに死んで欲しくなかったみたいなんだ。
だから、僕に〈死者蘇生〉を与えたんだ」
「私は、願っていない」
「うん、でも、僕は世界と同じ気持ちだった。
だから、この力をもらった時、嬉しかったよ。
リシェルは、僕を大切にしてくれたから」
「……リュート」
「うん……そろそろ、時間かな?」
抱き締めるリュートの姿が薄れていく。
「リシェル、大好きだよ。
頑張って生きてね」
リュートの姿が完全に消え、抱き締められていた感覚がなくなった。
「リュート?」
リュートがいなくなった姿を探す様に、リシェルは至るところを何度も見渡す。
「……リュート」
そして、気配さえも感じられなくなった、リシェルは、その場に崩れた。
「……リシェル」
そのリシェルに、ルシファーは優しく声をかける。
「……ルシファー?」
声に反応し、顔を上げるリシェル。
「リシェル、私との契約が消滅した」
その声は、どこまでも優しい。
「どういう事?」
「リシェルが死んで、私が目覚めた」
「うん」
「でも、リュートの〈死者蘇生〉で、リシェルは蘇った。
その普通ならあり得ない現象の為、契約が誤差をおこし、契約が消えてしまった」
「じゃあ、どうなるの」
「そうだね……既に、私の大半の力や、記憶は、リシェルに移ってしまっているから……私は、私の全てを、リシェルに渡そうと思う。
リシェル……これ見て」
ルシファーは、手に黒く輝く玉を取り出した。
「それは?」
「リシェルの死んだ時に、リシェルから出た魂だよ」
「え?
じゃあ、私は……そうか」
「そう、今、リシェルが生きているのは、リュートの魂で、だから」
「リュート……」
胸元で両手を握り、リシェルは、リュートを思う。
「後、ライにも……感謝するべきか?」
「ライ?
何で、ライが?」
リシェルは、思わぬ名を聞き、顔を上げた。
「リュートが〈死者蘇生〉を行った時、ライ達も到着したらしく、その時、これをリシェルの為に使用したらしい」
先程とは、違う手に、青色の玉と、朱茶色の玉を取り出した。
「これは、私とともに、創造神から造り出された神霊、水のガブリエルと、土のウリエルの神核。
おそらく、サマエルから話を聞いて、集めていたのだろうけど」
「どうして、そう思うの?」
「他に、火のミカエルと、風のラファエルがいる」
「ん?」
「かつて、創造神に戦いを挑んだ時、創造神から、火と風の、二つの神核を、私は奪った。
そして、私は、二つの神核……光と、無で造られていると言えばわかるかい?」
「……ああ、そういう事なら、うん、ライだったら集めるだろうね」
リシェルは、ライらしいと納得した。
「……本当は、わかっていたんだ。
リシェルの力を得て、創造神に挑めば勝てたが、創造神の力を得た、勇者には、私は勝てない事を。
……だから、お願いです。
リシェル。
私が始めた、この悠久と思われた戦いを、貴女の手で終わらせて下さい」
ルシファーは頭を下げ、涙を流す。
「ルシファー……頭を上げて?」
リシェルは、ルシファーに近づき、両手を包む様に、両手で挟み握る。
「……リシェル」
「任せて!」
ルシファーは、涙を拭い、決意を瞳に宿し、言葉を紡ぐ。
「今、この時、七つの神核を用いて、人から神へと進化する。
その名は、リシェル・シュザット。
七つの魔法を自在に操る、属性の神なり。
新たなる神が、この地に、この世界に、この大いなる宇宙に望まれ誕生する瞬間が、今ここに!」
ルシファーは、至る次元の彼方まで聞こえる様に、高々と声を発し宣言した。
ルシファーの手に持つ三つの神核が浮き上がり、ルシファーの姿が四つの神核……白、赤、緑、無色の神核に変わり、先の三つと合流し、リシェルの回りを均等に間を明け飛び回る。
やがて、七つの神核は、輪を縮めながら、一つの光となって、リシェルに入り込む。
リシェルは、最初何も変わらぬ変化に戸惑うが、突然、途轍もない力が身体中から溢れ、身体中を駆け巡る、何とも言えない複雑な力が、細胞の一つ一つを弾け変え、身体を、精神を、魂を書き換えていく。
「あああぁぁぁ…………?」
嬉しいのか、悲しいのか、苦しいのか、楽しいのか、生きているのか、死んでいるのか、表す感情がわからない。
天に昇るのか、地に堕ちるのか、前後左右、全方位に引っ張られているのか、身体が千切れそうだ。
あらゆるモノ……空や海、大地に、光と、空気、人や植物、魔物といった世界の意思や、心、魂が、リシェルの魂の中に入ってきてパンクしそうになるが、その魂も、どこまでも広がっていき、全てを受け入れる。
白い空間にいたリシェルは、いつの間にか、星々が輝く宇宙にいて、リシェルが生まれた世界を見下ろしていて把握する。
魔王城で、洗脳された人族の勇者軍と戦っている、魔王軍。
その中で、ひたすら動き回り、圧倒する血のつがらない妹、アルテは一生懸命で可愛く、頑張っている。
サウルの街では戦いが終わり、皆安堵しているが、最後に勇者の一撃があり、アミル、ルー、ルイ達が街を覆う結界で防ぎきり、今度こそ街にいる全員が喜びの声をあげていた。
帝国の城下町では、ギバが一服の紫煙を吐きながら、帝国城を見ている。
ライは、帝国城の庭園で、戦いを終えたのか大の字で寝ていて、横に、サマエルが控えている。
まさに、今のリシェルは、世界を現在、過去、未来、時間列関係なく、見下ろしている。
そのリシェルを現実と、身体に引き戻したのは、勇者が、ザーツの右腕を切り飛ばし、飛んだ右腕が撒き散らす血が、リシェルの顔にかかった熱さだった。
「勇者アベル・ノーマン」
リシェルに、名を呼ばれた勇者は肩を震わす。
「……何だ?」
「悪いが、私は、もう戦いに、あまり時間をかけるつもりはない。
抵抗するならしてもいいが、無駄な足掻きとしれ」
勇者を見る、リシェルの目は、どこまでも冷ややかだった。
「何を……馬鹿な事を!
この私は、創造神の力を得た勇者だぞ!
本当に、貴様が、神になったとしても……なったばかりの貴様に、私に敵うと思っているのか?
思いあがるのも大概にしろ!」
勇者は、魔力を爆発させ、三つの零……〈神に近づく零〉を発動させ、リシェルに剣を振り下ろす。
「……愚か」
リシェルは、槍で神剣を受け止めた。
「馬鹿な!
何故、何もしていないのに……〈神に近づく零〉を発動せず、動ける?」
勇者は、顔色を青くしたり、赤くしたりと、信じられない表情で怒鳴る。
「する必要がないから。
……確かに、死ぬ前は三つを合わせて、発動させる事が出来なかった。
でも、今の私には、発動して時が止まろうが、止まらなくても、関係ない。
それが、超絶した存在……神でしょ?」
対して、あくまでも冷静なリシェル。
「そんな訳あるか!
創造神の記憶には、その様な力を持つ神なんていなかった!」
「そんな事、知らないよ。
私は、それが出来る……ただ、それだけの事」
「信じられん……ならば、これはどうだ!」
勇者は、魔法を繰り出す。
その魔法は、光、火、風、水、土、無の六つの極大魔法。
それらを同時に発動、リシェルに向かって放つ。
「……本当に、愚か」
リシェルも、魔法を繰り出す。
その魔法は七つ。
リシェルの持つ七つの属性を全てで発動。
ただし、勇者の極大魔法に対して、手のひらサイズの魔法だ。
「何だ、その程度の魔法で……っな?」
明らかにサイズの違う魔法で、それぞれ同じ属性の魔法を相殺。
更に、残った闇属性の魔法が勇者に向かって飛んでいく。
「くそっ!」
勇者は、神剣で、闇の魔法を切った。
「ぐあっ?」
が、思いのよらぬ威力に、勇者は吹き飛んだ。
「……な、なんて威力だ?
それに、闇属性の魔法だと?」
「今さら、それに驚く?
闇の魔法は、元々、私の属性だし。
それに言ったはずだよ……私は、属性神だと」
勇者の反応に、リシェルは、ため息しか出なかった。
「闇は、私が死んだ時、ルシファーが確保した私の魂を元に、闇の属性の神核を作った」
「……う、嘘だ!
ルシファーに、神核を作れるはずが」
「ない訳ないでしょう。
ルシファーは、創造神が作った神霊……大悪魔で、時間も幾らでもあったのだから」
リシェルは、勇者の言葉を被せ答えた。
「そ、それは……」
「リュートの魂が、私を生かせた。
創造神が、ルシファーを造った際、使用された神核二つ。
ルシファーが、創造神に戦いを挑み奪った神核二つ。
そして、ライや、ガインおじさんが集めた神核二つ。
私の魂を含め、合計七つの属性が集まった。」
リシェルは両腕を大きく広げ
「七つの属性を取り入れ、ルシファーと、私が完全に融合し、今の私がある」
広げた両腕を縮め、両手のひらを胸元にもってくる。
「私は、この世界に関わった存在が造り出した……神。
勇者アベル・ノーマン。
世界は、創造神の力を得た、お前の消滅を望む」
リシェルは、勇者に指先を突き付け、宣言した。
「馬鹿な!
私は……俺は、勇者だ!
俺は、神だ!
正しいから、選ばれたんだ!
勇者は、正義だ!
正義はーーーーーーっ!」
勇者は、再び、時間を止め、剣を振りまわす。
「……愚かだね」
リシェルは、止まった世界を解き放ち、勇者の剣を払い弾き、時折、突く動作で、剣の動きを止め、焦れた勇者は、大振りで剣を振り下ろす。
「ふっ!」
振り下ろされた剣は、リシェルの槍捌きに巻き込まれ、勇者は体勢を崩し、リシェルは槍で巻き込んだ剣を払い飛ばし、勇者は離れていく神剣を目で追った。
「これは、三年前、お前が手駒にした、人族の英雄、槍聖アーク・ジルベスタに教わった、槍の基本技術〈六つの動作〉だ」
リシェルは、油断なく構え、槍を勇者に向けた。
祝え!
新たなる神の誕生を!
……なんちゃって(^^)
仮〇ライダー ジ〇ウのウォズ、気に入ってました。
ので、ついついと
連日で出せない遅筆で、お待ちして頂いている方。
申し訳ございません。
頑張りますので、よろしくお願いします。




