表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/85

最終章 17  勇者  対 ザーツ・シュザット

出来ました。


「……気を使わせてしまったな」

リシェル=ナーグごと壁から突き抜けた、ライを見送り、ザーツは呟く。


「そうね……リシェルじゃないっていっても、やっぱり私達じゃ、どうしても躊躇ってしまうわ」

ガインの攻撃を避け、こちらに向かってくる魔人を倒しながら、ミーザは相づちをつく。


「お前は、特にな」

そんなミーザに、ザーツは突っ込む。


「うっ……」

リシェル=ナーグが姿を現した時にさえ、リシェルが側にいても狼狽えたミーザは、何も言えなかった。


「まぁ、いいじゃないか。

ライの奴なら、そういう事に関しては、ああ見えてしっかりしているし、それに、あの相手なら、ライの望みは叶えられるだろうさ」

ガインは、父として、ライが、リシェルと戦いたがっていた事を知っていたし、その望みが本来叶う事がない事も知っていた。

そこに紛い品が現れたのだ、ライにとって喜ばしいものだった。


「ああ、アイツなら大丈夫だろう。

それより……思った以上に弱いな、コイツら?」

実は、三人にとって、ライの評価は高く認められていた。

それに対し、残された魔人達は、口だけの者が多く、魔人化した際の暴走した感情と能力の上昇によって、粋がっていただけだった。


よって、既に半数以上、倒された事で尻凄み、腰を抜かしていた。


「……おい、お前ら?

これ以上は、無駄だと思うなら降伏しろ。

魔人化からは、戻す事出来ないが、戦う事を忘れ、田畑を耕し生きるなら、魔族領で生活する事を……移住する事を認める。

少しでも、虐げられた恨みが薄れる事を願う。

まあ、恨みを忘れる事も出来ないだろうし、忘れろとも言わん。

そんなのお前達次第だからな」

腰を抜かしている者、手を握りあって怯えている者達などを見渡し、ガインは提案する。


「だが、まだかかってくるなら、そいつらには手を抜かん。

全力で倒させてもらう」

槍斧を再び構え直し、隙を作らない。


それを見て、ザーツは、相変わらずこういう奴等を見過ごす事は出来ないんだな、と思った。


いい例が、レイやランの様な闇属性で捨てられた子供達、サウルの街……いや、街になる前の村、怪我や、心が折れ、荒ぶれた傭兵達を公正させ、街に発展させた事が過去がガインにはある。


(ああいう奴等をほっとけないんだな、結局アイツは……)

ザーツは、ガインを見て微笑む。


だが……


「戦う気がない者は退場してもらうよ!」

と部屋に声が響き、次の瞬間、部屋の中を液体が襲う。


液体は部屋にいる者、全てを襲った。


ガインは少しでも側にいる魔人達を助けようと動くが、ザーツと、ミーザが止め、ミーザは三人を囲む結界を張る。


また、神霊ミカエルが、目を覚まさないリシェル、レオハルトを同じく守る。


だが、ガイン達が倒した魔人達、戦意を失くした魔人達を飲み込みんだ。


その後は液体が現れた場所に逆戻りする様に引いていく。


引いた後、その場に魔人達全て存在しなかった。


「役にたたない奴等は、少しでも私の力になってもらわなきゃね?」

液体が全て引いた場所、謁見の間へ向かう為の扉の前にいた少女……〈変幻妖〉スランだった。


「……お前、魔人達はどうした?」

ガインは、スランを見据え問う。

その気配は、普段温厚なガインとは違う、重く、凍りそうな魔力を含んだ気配だった。


「もちろん……美味しかったです!」

てへっ、と悪気もなく、あっけらかんとスランは答えた。


「ッ!」

ガインはキレた。


「落ちつけ!

気持ちは分かるが、今のお前では、奴に勝てん」

スランに向かいかける、ガインを止め、ザーツと、ミーザは、ガインの前に立つ。


「アイツらの相手は、俺達がやる」


「そう、スランの後ろにいる奴も含めて……ね?」


「……後ろ?」

ガインは、そこでスランの後ろいる勇者アベル・ノーマンに気づく。


「……勇者、か?」


「そうだ、あれの相手は俺がやる」

ザーツは剣を抜き、勇者を見る。


「……貴様が、私の相手をすると?

確か、名はザーツ・シュザット、だったか?」

三年前とは違う、存在感……まさしく、神と思わしき気配を放つ、勇者の言葉は重くのし掛かる。


「ああ、そうだ!

俺が、相手だ」

ザーツも、負けぬと気圧を込め、のし掛かる気配を打ち払う。


「ふむ?

それなりの胆力はあるか……しかし、リシェルは死んだのか?

ウリエルのつまらぬ策にはまるとは、なんとも情けない」

感心と、落胆。

その様な顔で、勇者は表情で息をはく。


「ミカエルも、結局はそちらについたか?

封じた力も戻っている事だしな?」


「いえ、私は見届ける為に、ここにいます。

どちらが、この戦いに勝つのか……それを知る為に」


「ふん、好きにするがいい。

リア、お前はどうする?」

ミカエルに、興味が無くなった勇者は、スランを、失った恋人の名で呼び尋ねた。


「とりあえずは、魔王かな?」

顎に人差し指であて、考え相手を魔王ミーザとするスラン。


「そうか、では、頼んだ」

謁見の間へ向かう扉から、勇者と、スランはザーツ達の元へ向かう。



「魔王、貴女の相手は、私だよ。

……ここじゃなんだし?

ついてきてもらうよ……私の戦場に!」

ミーザの前に対峙した、スランは、ミーザの腕を掴み転移した。


ザーツと、勇者は、スラン達が消えたのを見届けた後、睨みあう。


「ザーツ・シュザット……お前の得意なモノは剣術だったな?

ならば、私は、それに合わせよう。

だが、その前に……面白い事をしようか」

勇者は腕を振り、ザーツや、ガイン達に見える様に、ある場所を写した映像を見せる。


「……あれは、サウル?」

映像を見た、ガインは呟く。


その呟きに、ザーツは肩を軽く震わす。


「そうだ、そこにいるガイン……だったか?

その通り、写っているのはサウルの街だ」


「何をするつもりだ?」

ザーツは問う。


「こう、するのさ!」

勇者は、指を、パチンと鳴らす。


すると、映像に写るサウルの街上空から、巨大な雷がら、街を破壊する為落ちる。


「なっ?

貴様……何を?」

ザーツは、いきなり攻撃されたサウルを見て、驚きキレた。


「落ちつけ……今度は、お前が落ちつけ?

ザーツ。

サウルは、無事だ……向こうに残ったアイツらを信じろ!」

先ほどとは、逆にガインが、ザーツの肩を押さえ止める。


「ガイン!」


「大丈夫だ……勇者が、こう行動する事を、ランが読んでる。

そして、アミルが、ベルフェゴールの能力で集めた魔力で防いでいる。

……ほら、映像を見てみろ」

言われて、ザーツは映像を見る。


雷が落ち、街を覆う砂煙が晴れ、写し出されたサウルは無傷だった。

ただし、薄くなった砂煙で可視化している結界が割れ、次の攻撃には対処出来ない事も知った。


「それも、ランが読んでいる。

神の力を得た勇者だって、これほどの遠距離攻撃、二度は無い。

……そうだろ、勇者?」

ガインは、勇者を見る。


「……なるほど、ランか。

ああ、その通りだ。

流石に次は無い……面倒臭いしな?」


「だとさ……落ちついたか?」


「ああ、スマン。

もう大丈夫だ」

長いため息をはき、落ちつきを取り戻したザーツは、肩にあるガインの手を数回叩き、勇者を睨む。


「まあ、ちょっとした小細工だったんだが、失敗だったな?

それよりも、スラン達は気にならないのか?」

勇者は微笑みで、ザーツに返す。


「心配?

俺が、ミーザの心配?

くっ、あっはははーー……はぁ。

お前、魔王であるミーザを知らなすぎだ。

お陰で、少し残っていたモヤモヤ感は、完全と消えたぞ」

勇者の言葉に、腹を抱え笑うザーツは、ミーザを思う。


「お前は、ミーザの事を……魔王を舐めている」


「へえ?

まあいいさ……ところで、ザーツ・シュザット?

魔族一の剣術の使い手だって聞いている。

その腕前、見せてもらおう」

勇者も、腰元から剣を抜き構える。


「ガイン……下がっていてくれ。

出来れば、リシェルのもと……いや、全員もっと下がってくれ」

勇者を見据えながら、ガインに指示を出す。


「……それほどか?」


「ああ、頼む」


「わかった」

ガインは、ザーツ表情と、気配で言われた通り下がり、ミカエル達も一緒に下がらした。


「もういいか?

じゃあ、いくぞ」

勇者は、間合いを詰め、剣を振る。


それを避け、ザーツは反撃する。


お互いの攻撃は避け、弾き、時には流され、隙を見つけて反撃しても、有効打一つなく、かすり傷もない。


二人のレベルは、既に剣聖を越え、〈零の極致〉は剣を握り集中すれば、当たり前に使える技術。


「なあ、神霊さんよ?」

ガインは、ザーツ達の攻防から目を離さず、ミカエルに声をかける。


「……もしかしなくても、私の事ですよね?

私の事は、ミカエルとお呼びください。

それで、何か?」

ミカエルも同じく、目を離さず聞き返す。


「いや、俺にはアイツらの剣が、ちっとも見えんのらだが……ミカエル、あんたはどうだ?」


「いえ、私にも、既に見えておりません。

もう私達では、あの戦いに割り込む事など出来ないでしょう。

……一人を除けば」

ミカエルは、レオハルトが抱きかえている、リシェルを横目で見る。


いまだ、リシェルは目を覚まさない。


「それは、目覚めればって話だな?」


「……そうです」


その間も、二人の攻防は変化しない。



「面倒臭いな……次の段階にいくか」

勇者は、変化しない攻防にあきたのか、〈刹那の零撃〉を使い出した。


「ふっ!」

ザーツも、勇者が〈刹那の零撃〉を使った事に、即座に気づき、ザーツも使い繰り出した。


ギキィキキィィンキキキキキィンキィーーーーー

二人の動きは構えたまま、止まった様に見えるが、なのに、剣が重なりあう音だけが、部屋に響く。


二人の速さについていける者なら、気づいたはずだ。

少しずつ体がブレ、違う体勢をとり、〈刹那の零撃〉を使い始める前の攻防と同じく、剣を避け、弾き、受け流している事に。


突然、二人は後ろに跳び、距離をとり、肩で息をとった。


「互角か……話に聞いた通りの実力だ。

もう一つ、最後の零も、使えるんだろ」

長い息をはき、口角を上げ、勇者は問う。


「……まあな」

ザーツも、剣を一旦下ろし、鼻でゆっくり息を抜き、目を瞑る。


通常、〈刹那の零撃〉を使えば、相手は反応出来ず敗北するのだが、使用し、実力も近ければ、残りは体力勝負


「精神の〈零の極致〉、身体の〈刹那の零撃〉、そして、魂からなる……魔力の〈零の制止〉。

最後のは、使い勝手が難しいが、これが無くては、その先にいけないからな」

ザーツは、目を開き、溜めた魔力を爆発させる。


〈零の制止〉は使用した魔力を瞬間的に千倍に増幅する事で発動し、魔力の量により発動時間は変わる。

発動すれば世界の時間が止まり、発動した者と、その者に触れている者、同じく発動出来る者だけが、その世界を体験し、話す事しか出来ない世界。


三つの零の、その先……三つの零を同時発動させる、全ての武による最高の技術。

その名も〈神に近づく零〉。


ザーツは、再び剣を構え、勇者も魔力を爆発させ、ザーツに備え構えた。


世界は、止まった。



「……これは?」

神霊ミカエルは、なんとか動かせる目で見渡せる範囲を見渡し、心境が声に出る。


「ほう?

どうやら、ミカエルだけが、この世界を関知出来たみたいだな。

神に順する神霊なだけはあるか?」

ザーツを見据えたまま、静かな世界に響いたミカエルの声をとらえ、感心した。


「だが、神霊のミカエルでさえ、この状態だ。

……ザーツ・シュザット。

貴様は魔族であり寿命が人族の倍以上あるとはいえ、ここまで来た事に称賛する」

勇者は、ゆっくりと間合いを詰める。


「そりゃ、どうも。

それは、神としての感想か?」

ザーツも詰める。


お互いが、既に剣の届く位置まで来た時、二人の身体がブレ、再び攻防が始まった。


「そうだ。

例えば、今、私が使っている剣は、三年前と違う物だ。

前の勇者の剣……聖剣は、私が、勇者の力を万全に身につけ、創造神の力も全て手にいれた事で、その力に対応しきれず消滅した。

新たに創造神の力で作りし、この剣、まさに神の為の剣。

神剣……なのだが、貴様の剣、確かに人が作りし物でも、見事な業物。

それを、貴様は詰め込めるだけの魔法で強化し、更に、今も、剣に魔力を込め続けている。

恐らく、その剣を手にした時より、魔力を与え続けてきたのだろう?

素晴らしい魔剣となって耐えている」


「……」

ザーツは黙って、剣を振り続ける。


「そして、貴様だ。

ザーツ・シュザット。

まさしく、魔族最強の戦士だ。

故に、ここで殺すのが惜しいな」

そう言った勇者は、ザーツとの攻防で、少しの躊躇いが出た。


ザーツは、ほんのわずかな隙を見逃さず、勇者の剣を大きく打ち払い、勇者は剣を持った腕が後ろに反り伸びきった。


「ここだ!」

素早く引き戻した剣を、鋭く勇者の首に目掛け、剣を振った。


ーパキィン


ザーツの剣は、勇者の首に当たる直前、見えない何かに遮られ、当たった部分が砕け折れた。


今度は、ザーツが剣を振りきった状態で、動きが止まり、勇者が伸びきった腕を強引に、上段からの切り落としを行った。


ザーツも、それに気づき左に跳ぼうとして、体勢を崩し、勇者の剣が、ザーツの右腕、肩と肘の半ばから切り飛ばされた。


ザーツの切り落とされた腕は、後方に血が飛び散りながら飛んでいき、ガイン達がいる場所前に落ちた。


落ちた衝撃で、握っていた剣は離れ、飛び散った血はガイン達に振りかかった。



ここで、時は、再び動き出す。


ガイン達は、ミカエルを除き、目の前にある場景が信じられなかった。


気づいた時には、ザーツの右腕は自分達の前に落ちていて、ザーツが傷を押さえ膝をついている。


そんなザーツに、勇者は剣を突き付けていた。


「ザーツが、負けた?

おい、ミカエル?

あんた、何があったかわかるか?

気づけば、ザーツが腕を……」


『それは……』

ミカエルは、時が止まった世界であった事をはなした。


それでもやはり、ガイン達は、この状況を信じられなかった。

それほどに、ガイン達は、ザーツの強さを知り、信じていたからだ。



「……」

ザーツは失くなった腕を押さえ、魔力で止血する。


「これが、神にいどんだ人の末路だ。

例え、神に近づく実力を持とうが、人が、神を殺す事など出来ない。

……だから、ここまで神に対抗出来た時点で、称賛すると言ったのだ。

ザーツ・シュザット……終わりだ」

勇者は突き付けた剣を振りかぶり、ザーツの首、目掛け剣を振った。


睨んでいたザーツは微笑む。


時間を稼いだかいがあったと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ