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最終章 16  ライ 対 リシェル=ナーグ 決着

出来ました。

お待たせしました。


「お前達、行くぞ!」

 ザーツは炎の結界の外、どうにかして突破しようとしている魔人達を、見据えて声を出す。


「……ザーツさん、頼みがある」

 ライは、炎の向こう、こちらを見てニヤニヤとリシェルでは、ありえない笑いかたをするリシェルを指さす。


「アイツの相手は、俺がする」


「それは、いいが……大丈夫か?」


「何が?」

 心配するザーツに、ライは首を傾げる。


「いや、あれはリシェルじゃないが、リシェルと同じ実力を持っているぞ」


「何、言っているのさ?

 ザーツさん。

 あれがリシェルじゃないのは見てわかるし、そんなの願ったり叶ったりだ……三年越しの願い、やっと叶う」


「そう……だったな。

 だが、気をつけろよ?

 今のアイツは、あの姿の通り現在のリシェル、そのものだ」


「わかってる。

 だから、いいんだ。

 俺だって、三年前とは違うさ」

 右手を握りニカッと笑う。


「それより、父ちゃん」


「ん?

 何だ、突然?」

 黙って話を聞いていたガインは、息子に問う。


「父ちゃんが、他の奴らを相手したら?

 父ちゃん、向こうでも結構戦って来たんだろ?

 魔王様と、ザーツさんは、勇者と戦うんだ。

 力、温存したほうがいいと思うんだけど」

 ライの提案に、ザーツ達三人は驚いた顔で、ライを見た。


「……何?」

 そんな三人に、ライは燻しがる。


「いや……ライも、成長したなっと思ってな」

 ミーザが、感心した顔で頷く。


「ひどいよ!

 魔王様……て、みんなそう思ってるのか。

 はぁ、俺だって頑張ってるんだよ」


「くっく……まあ、せっかくライがこう言ってくれてるんだ。

 ミーザ、俺達は、ガインがこぼした奴を相手しようか?」

 ザーツは笑いながら、ミーザを見て、ガインを見る。


「そうね?

 ガイン、頼める?」


「まあ、もとより、そのつもりだ。

 ……しかし、俺の相手は、こんなのばっかりか?」

 ため息をはき、ガインは苦笑する。


「ん?

 向こうも、そうだったのか?」


「ああ、レイと、ランが相手だった」


「そうか……取り戻せたんだろ?」


「ああ、本当はランと来るはずで、ランが持ってた勇者の魔法具で転移したんだが、途中で、勇者に強制的にサウルに戻されたみたいだ」


「無事だといいな」


「まったくだ。

 さて、こうもしていられないか……魔王、頼む」


「わかった。

 二人とも、任せた……解くぞ!」

 ミーザが腕を振り、結界を解く。


 結界に阻まれ、中に入れなかった魔人達が、一斉にかかって来る。


 ライと、ガインはそれぞれの武器、棍と槍斧を魔力を乗せて振り抜き、魔人達を吹き飛ばす。


「んじゃ、行ってくる」

 ライは、振り抜いた後の構えを崩し、リシェル=ナーグに向かって歩く。



「俺達の話、聞こえていただろ?

 お前の相手は、俺だ」

 棍を向け、ライは宣言した。


「ライが、相手か~。

 私に勝てると思ってる?」

 少し腰を折り、下から覗く様に伺うリシェル=ナーグ。


「勝てるさ。

 それに、ザーツさん達に、お前を戦わせるのは、やっぱり違うだろ?

 だから、俺が適任」

 向けた棍を反転させ、肩に乗せ、やれやれジェスチャーをする。


「まあ、いいけど?

 ……あの子、死んでないの?」


「いや、死んだ。

 でも、生き返る……蘇ったら、なんと神様だってさ?」


「……なにそれ?

 言っている事、わかんない」

 理解はしたが、それを許さないといった表情で、ライを睨む。


「俺を睨むなよ?

 それより、さ」

 ライは、全身に魔力を纏い、姿が一瞬ブレた。


「外で、戦おうぜ!」

 リシェル=ナーグの顔を左手で鷲掴みし、部屋の壁に向かって、押し出し突き抜け中庭に出て、ライは突き放す様に離し距離をとった。


「……痛いな~?

 ちょっと無理やり過ぎない?」

 頭と背中を擦りながら、文句を言うリシェル=ナーグ。


「ここの方が、戦いやすいだろ?

 お互い。

 しかし、ノーダメか……はぁ」

 ため息をはき、頭をかきながらも足を一歩踏み出し、剣を振る様に棍を振る。


「おっと……いきなりだね?

 卑怯と思わない?」

 リシェル=ナーグは、後ろに飛び棍を避けた。


「それにしても、さっきの壁へ突きつけたり、今みたいに不意打ちって、あの子にもそういう事してるの?」


「はぁ?

 アイツにするわけないだろ?

 というか、絶対にやらない。

 ……お前、俺が、お前をリシェルと間違えるとか思ってない?

 馬鹿だろ、お前。

 どんなに、完璧にリシェルの姿を写し取っても、その時点でお前はリシェルじゃない、別物だ!」

 今度は、棍を突き出し、戻した腕を、腕や手首の力と柔軟を利用し、棍を鞭の様にしならせ上下左右に打ち込む。


 リシェル=ナーグは、それをゆっくりと軌道を見据えて、紙一重で避け続ける。


 零の極致


 今、リシェル=ナーグは、ライの攻撃がゆっくりと見えている。

 そして、棍が通過するより、少しすれすれに避けただけだ。

 普段、リシェルが練習で避ける仕草……リシェルにとって零の極致は、すでに基本の一部でしかなかった。

 リシェルは、次の段階に来ている。

 すなわち


「刹那の零撃」

 リシェル=ナーグは、手に魔力剣を作り出し、ライには、いつ切られたのかわからない傷が、胸元につき血が滲む。


「あれ?

 もしかして、避けた?

 ……零の極致じゃないよね……どうやって?」

 この一撃で切り殺していたはずのライの傷を見て、リシェル=ナーグは首を傾げる。


「……リシェルなら、アイツなら、俺がどうやって避けたか、理解しているはずだぜ?」

 ライはニヤリと笑い、リシェル=ナーグを馬鹿にする。


「……いちいち、むかつく。

 絶っ対に殺す」

 リシェル=ナーグの表情が落ち、殺意をライに向けるが、ライは傷口を確認し、問題無しと判断、再び魔力で全身を纏い強化した。


「いい事教えてあげるよ。

 前に、あのリシェルに指摘された欠点。

 魔力まで真似が出来ていなかった事。

 そんな事は、勇者に疑似堕天使の核をもらって、十分な程、あの子と変わらない程の魔力を得る事が出来た。

 今の私に欠点は無い!」

 ライの魔力強化を見て、見せつけるかの如く、魔力を高めた。


「確かにリシェルに近いか……ますます、いいな?

 そうでなくっちゃ、面白くねぇ。

 〈雷魔法、雷纒〉」

 雷纒は、身体の神経、筋肉に雷を纏わす魔法。


「さーらーにー!

 〈雷身変化〉!」

 さきほど、身体を魔力で強化した、魔力を雷にかえ、雷纒と混じり、ライの身体は雷化した。


 そして、その意味は……


「……何それ?

 そんなの、そんな事出来るの知らない!」

 ライの変化を理解したリシェル=ナーグは、得意気だった顔を青ざめ、恐怖し、癇癪を起こす。


「……気づいたみたいだな?

 これが、リシェルに勝つ為に考え、作り出した魔法。

 〈雷魔法、雷身変化〉……これは、身体強化と雷纒の二つを混ぜ合わせ、肉体、血管、神経、骨等、俺を構築する全てを雷に変える魔法。

 単一魔法の雷使いの俺だけが使える、雷の精霊化魔法。

 単純だが、効果はトンでもない代物!

 活用時間は三分……その間は、無限に近い力が使える」


「……そんなの、人の限界を……超えている」

 リシェル=ナーグは後退り、勝てるはずがないと思い、逃げようとし、ここで、気づく。

(さっき、三分と言った?

 ならば、三分の時間を稼げば、私の勝ち?

 それに、アイツは変化してから、べらべらとはなして一分は経っている)

 ニヤリと口角をあげ笑う。


「〈光魔法、閃光〉!」

 リシェル=ナーグは魔法を発動し、中庭全域に光が爆発する。


 そして、リシェル=ナーグは、光が収まる前に、ライから背を向け逃げようとした。


 ドスッ!


「かはっ?」

 背を向けた瞬間、リシェル=ナーグは大量の血をはいた。

 リシェル=ナーグは胸元を見る。

 胸から腕が飛び出している。

 飛び出した手には血に塗られた、淡く黒く輝く水晶玉が握られていた。


「今の雷の精霊化している俺に、光で目を潰せると思うなよ?

 それに、三分と聞いて勘違いしたな?

 三分逃げきれば、この術が解けると思っただろ?

 違うね……正確には、三分を過ぎたら人に戻れなくなるだけだ。

 さっき、お前も言ってたろ?

 人の限界を超えているって……その通りだよ。

 まあ、五分までならどこか異常が出るだけで、なんとか戻れるみたいだけど、どうせ戻るなら完全に人の方がいいだろ?

 だから、三分って言ったんだよ。

 どうして、そんな事がわかるかって?

 この術を編みだし、初めて使った時、何でか理解出来た、というか、頭で直接、そう浮かんだんだよ。

 この世界の理に触れる術だったらしい」

 ライは術を解き、元の姿に戻り、長たらしく説明する。


「こんなに話しても二分と少し……やっぱり余裕だったな」

 手にした水晶玉を握り潰し、腕を引き抜いた。


 リシェル=ナーグは膝から崩れ、前向きに倒れる。


「心臓の位置にあった水晶玉……あれが疑似堕天使の核だろ?

 終わりだ……死んだ後、暴走しても困るし?

 〈雷魔法、雷牢滅〉」

 ライは、魔法を唱え、リシェル=ナーグを雷の玉の牢に閉じ込め、空高く、帝国城の更に遥か上空へ飛ばし、魔力を増やし、込め、リシェル=ナーグの肉体全てを雷の熱量で焼き、血の一滴、骨の欠片も残さず消滅させた時、上空で雷の牢は輝き散った。


「ふう……終わった。

 疲れたーーー!」

 ライは、上空で消滅を見届けた後、芝生に寝転び、大の字で手足を伸ばした。


「ナーグ・ハインド……アンタには感謝してるんだぜ?

 これでも。

 ……リシェルとは、もう本気で戦う事なんて出来ないしな。

 しかし、あの術だったら、リシェルでも勝てる見込みあるのが、わかって良かったけど。

 リシェルが目覚めたら、もう通用しないんだろうな~?

 あ~も~、まったく!

 トンでもない奴に惚れたもんだよ、チクショウ!」

 手足をじたばたさせ、ライは愚痴る。


『それでも、私は、神に近づく程の術を編みだしたライを尊敬するよ』

 突然、現れたサマエルは、寝転んだライを上から覗く様に見て微笑む。


「……そうか?」


『ええ……本当に人というのは、神にとって驚く存在です。

 ……ライ、もう少しで、全て終わります。

 頑張ってください』


「わかっているさ……でも、少しだけ、このままで」

 ライは目を瞑り、しばらくすると軽い寝息が聞こえた。


『……仕方がありませんね?

 少しだけですよ?』

 幸せそうに眠るライを見て、サマエルは笑った。



ブクマ登録、ありがとうございます。


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