最終章 15 魔人達の策略~もう一人のリシェル~
出来ました。
お待たせ? しました。
「結界が?」
「……消えたみたいだな」
ひたすら結界の迷路となった帝国城内の廊下を走り、罠を避け、勇者のいる場所までさ迷い続けた。
ザーツ、ミーザ、リシェルの三人は、突然、消えた結界の気配に足をとめ、辺りを見渡す。
「何かが起こった?
でも、これで先に進める」
ミーザが、新たな罠かと疑いながらも、ある部屋の扉を見る。
勇者がいる謁見の間の一つ前の部屋は、異様な魔力が漏れ、嫌な気配を感じる。
謁見の間に向かう前の部屋に入り、思っていたより広く天井も高いと思ったが、部屋の入り口から見渡す限りの黒いフードを顔半ばまで深く被った者達で埋め尽くされ、部屋の中は闇の魔力で魔力の判断がつかない程、混ざりあって空気が重い。
「……こんなにいたんだ?
闇属性の魔力を持つ人族って」
ざっと見て三十人はいるであろう、自分と同じ属性の人族。
とりあえず、三人は入り口から離れ、部屋の中央近くまで進む。
取り巻く集団の中から一人、群れから離れ、三人と対峙した。
「久しぶり、おとうさん、おかあさん」
そう言ってフードを取り除いた顔は……リシェルだった。
「リッ、リシェル?
どうして、リシェルがそこに?」
ミーザは、フードを下ろしたリシェルと、そばにいるリシェルを、瓜二つな二人を見比べ混乱する。
「わかった……貴方はナーグ・ハインドだね?
貴方の影魔法、真似変身……相変わらず私の姿を真似ているんだ?」
三年前、イルミア王国で行われた武闘大会、予選でリシェルが戦った相手の一人。
あの時も、ナーグは、リシェルの影から姿形、記憶、話し方、魔力の気配、戦い方等を写し、読み取り、真似られ焦り、リシェルは最初苦戦を強いられた。
今も、どこかで影から、現在のリシェルを写し取り、見分けがつかない程、全てが似ている。
「ふふ……何を言っているのかな?
私は、リシェル・シュザットだよ。
貴女こそ、ナーグ・ハインドでしょ?」
「はぁ~、……もういいよ、そういうの?」
「あはは、ごめんね?
……私を見て、焦っているの、おかあさんだけだね?
ちょっと、つまんないかな」
「……お前が、おかあさんって言うな」
リシェルはそう呟くと、リシェルの魔力で大気が震える。
「なに?
怒ってるの?
そういうところは変わってないね」
「……うるさい」
リシェルは、腰元にさしている剣、リュートを強いられた鞘から抜き、目の前のリシェル=ナーグに向ける。
「リシェル、落ち着け。
ミーザもだ、お前が焦るから、リシェルがこうなる」
「……わかってる」
「う、リシェル……すまない」
ザーツの叱責で、二人は落ち着く。
「しかし、あの時は観客席で見ていたが、見事に化ける。
でも、気になるのは、そこまでリシェルにこだわるというところか?」
二人の様子を確認し、ため息をはき、疑問をぶつける。
「ん~?
そんなの簡単だよ。
だって、私、おとうさん、おかあさんに負けない実力もってるし?
かわいいし?
最高じゃない、私!」
両腕を広げ、幸悦な表情でリシェルを讃える。
「……おとうさん。
私って、あんな感じに見えてる?」
「いや、安心しろ。
あれは、アイツ自身の元々の性格だ。
まあ、リシェルがかわいいのは激しく同意だが」
「ああ、その通りだ」
「良かった……でも、これでわかった。
ここにいるフード達、全員魔人化したんだね」
ザーツ達の親バカは置いておいて、リュートを向けたまま、回りにいるフードの者達を見渡し、部屋中に溢れ広がる魔力の意味を知った。
(でも……ナーグは何を待っている?
時間稼ぎしている理由は)
リシェルは、リシェル=ナーグが私達の後ろ、部屋の扉を、私達を通して見ている事に……何かを待っている事に気づいていた。
「それも、バレちゃているか?
……みんな、そろそろ始めようか?」
リシェル=ナーグはわざとらしいため息をはき、魔力で剣を作り構え、部屋中のフードの者達はフードを取り去り、武器を持ち出した。
「狙いはリシェルだよな……やっぱり」
「そうね。
ねぇ、ザーツ……この人族達は、元に戻れないのよね?」
ミーザは、リシェルの前に庇う様に立ち、手に火を灯し、魔力を大気から集め、炎に変え威力を増していく。
「ああ……残念だが」
「そう……〈火属性、単一火魔法、炎龍咬舞〉」
ミーザは炎を持つ手を上げ、更に、炎を鬣を持つ巨大な蛇に変え、深紅の炎の龍と化し、部屋の上空を支配した。
とてつもなない魔法に部屋にいる者は、皆、上を向き、龍を見る。
リシェル=ナーグも、魔人達も、ザーツも、そして、リシェルも顔を上に向けた。
「可哀想だけど……死になさい」
ミーザは、炎の龍を仕掛ける為、腕を下ろそうとした。
その時、部屋の扉が開き、ライ、ガイン、レオハルト、ミカエルが姿を現す。
「……ライ?」
リシェルは、扉が開いた気配で後ろを向き、ライ達に気づく。
「ぐっふ?」
ライの姿に気を取られ、リシェルの足元の影から、魔人と化した少女が飛び出しに気づかず、手に持つ剣で、リシェルの心臓を後ろから突き刺し、リシェルの胸元から剣が突き出る。
「「「リシェルっ?」」」
上を向いていたザーツは驚く。
部屋中に広がる魔力に、リシェルの影に潜んだ魔人の少女に気づけなかった事に。
ミーザは、解き放とうとした龍は、リシェルの状況に驚き、意識が途切れ、龍は消えてしまった。
ライ達は、目の前の現状に驚き固まる。
「……くそっ!」
リシェルが握っていた剣、リュートが顕現し、自身の分身剣で、少女を切り殺す。
少女は、笑いながら床に倒れた。
「リシェル、しっかり?」
ゆっくりと崩れる様に倒れるリシェルを、リュートは抱きとめた。
「今だ、かかれ!」
リシェル=ナーグはこの好機を逃さない。
魔人達は一斉に攻撃を仕掛ける。
「リシェル!」
硬直がとけたライ達は、リシェル達の元に走り、ザーツ達の援護をする。
「リシェルが……死んだ」
リュートは呟く。
「「「?」」」
ザーツ達は、リュートの呟きに動きを一瞬とめた。
更に、増す魔人達の攻撃。
「くっ、〈火魔法、炎結界〉」
ミーザは、散った魔力を再び集め、自分達を炎の結界を半球で囲み時間を稼ぐ。
「おい、リュート!
リシェルが死んだって、嘘だろ?」
ライは、リュートの左肩を掴み揺さぶる。
「嘘じゃない!
このままじゃ、ルシファーが目覚める。
……させない!
リシェルを死なせてたまるか!
スキル発動、死者蘇生」
リュートが、リシェルの死を否定する為、ある日、リュートが成長した際、突然宿ったスキル〈死者蘇生〉を発動した。
かつて、リシェルが、サウルの街を旅立ち、修行の旅に出てから、リシェルと共に成長し、ランクの高い魔獣を倒していく内に、リュートの中で吸収した魔獣の能力の他に、現れたスキル。
当時は、伏せ字どなっていたスキルだったが、三年前、リシェルが、ミーザと一緒に、ザーツから聞いた、先代魔王ブラッドと、ザーツの母親翼麗姫クレアの話を聞いた、次の日、リシェルが触れたリュートの伏せられたスキルは解放し、リュートにだけ理解した。
前の死者蘇生の使い手、クレアが死者蘇生の得る条件を知った時と同じ様に、リュートも知った。
また、リュートが、リシェルに尋ねても、リシェルには、伏せられた状態のままだったが。
死者蘇生は世界の意思。
ならば、リュートが望む、今だからこそ、リュートは使う。
ザーツが、サウルの街の鍛冶師に作らせ、ザーツが〈幻夢魔法、分身〉を付与し、リシェルが名付け、使い続ける事で、リシェルの分身として意思を持ち、成長したリュート。
今、魂を得た自分は、リシェルの為に、その魂を使う。
ライは、リュートが使った死者蘇生を、サマエルから聞いていた。
使用した者は、自身の存在全てを使い、死んだ者を生き還させる禁断の魔法。
使える者は誰かわからない。
わかっているのは、突然、世界の意思により授けられ、その時がくれば使う事になるという事。
それとともに、サマエルから聞いていた。
これも、今使うべきだと!
「リュート!
これも使え!」
アイテムボックスから取り出した、水の神霊ガブリエルの核を、リュートに渡す。
「これは?」
「創造神の神霊、水のガブリエルの神霊核だ。
……本当は、土の神霊ウリエルの核も渡す予定だったけど、アイツ、全然見つからないんだ……サマエルが言っていたんだ。
リシェルが勇者に勝つには、これが、神霊核二つが必要だと……ちくしょう!
どこにいるんだ?
こんなことなら、ミカエルに一つ渡さなきゃよかった……」
床を殴りつけながら、悔しがるライ。
「……何で二つなんだ?」
ガインが、ライに聞く。
「……サマエルがいうには、リシェルが、ルシファーと完全に融合するには、神霊核二ついるって」
「そういう事ですか」
ミカエルは、ライの話を聞き、全て理解し意味を知る。
「……そういえば、何で、ここに帝王と、その守護神霊がいるんだ?」
ザーツは、得心したミカエルを見て燻しがる。
「それは……」
ミカエルは、地下牢に囚われていた帝王達を、ライに救ってもらい、戦いには参加しないが、場合によってはと、ともに行動している事を話した。
「いえ、今はそういう事を話している場合ではなく……ルシファーは元々、創造神様に神霊核を二つ使い作られた神霊。
反逆したルシファーは、魔界に落とされる前、創造神様から神霊核を二つ奪いました。
神々が、神として存在する為には、神霊核は六ついります。
創造神様は、私達神霊五体を作る時、六つ使っています。
本来、ルシファーは二つ奪った事で、創造神様は消滅し、ある意味、ルシファーの反逆は成功するはずでした」
「じゃあ、何で創造神は消えなかったんだ?」
ミーザは、皆が思った事を口にする。
「それは……」
「そうか、その為の、疑似神霊核か」
ザーツは、気づいた。
「……そうです。
創造神様は、その力、創造で、消える前に作りあげた事により、神として存在を保つ事が出来ました。
つまり、疑似とはいえ、創造神の力を持つ勇者に勝つには、六つの神霊核で神となったルシファーの力がいるという事です」
ミカエルは、ザーツの言葉を肯定し、話を続けました。
「……ガイン殿」
ミカエルは、ガインを見る。
「何だ?」
「貴方、持っていますよね?
ウリエルの神霊核を」
「「「なっ?」」」
皆が一斉に、ガインを見る。
「ああ、持っている」
ガインも、アイテムボックスから土の神霊核を取り出した。
「ならば、早くこっちに!
今なら、間に合う」
リュートが、叫ぶ。
「ああ、使え!」
ガインは、リュートに投げ渡す。
水の神霊核と、土の神霊核は、リシェルの中に消えた。
「よかった……ライ、これでリシェルは、ルシファーと融合して神になれるんだね?」
リュートは、光の粒子となりつつ、笑顔でライに尋ねた。
「……ああ、そのはずだ」
ライは、頷く。
「そっか……リシェル。
これで、お別れだけど……いつも一緒にいるから。
僕の魂は……リシェルと一緒に……」
そう言って、リュートは完全にその存在を消した。
もし、ザーツが同じように剣に、分身を付与したとしても、それはリュートではない。
新たな魔剣として存在する、別の魂だ。
皆、リュートの消滅に目を瞑り、勝利する事、リシェルを、世界を守る事を誓った。
「帝王……リシェルを預かってもらえるか?」
ザーツは目を開け、レオハルトに尋ねる。
「ああ、いいだろう」
「帝王を守護する神霊さんよ……帝王を守れよ」
「ふふ……そういう事ですか。
わかりました。
リシェルさんを守る、レオハルトを守るのは、私の仕事です。
お任せください」
ミカエルは、微笑みながら頷く。
「頼んだ……お前達、行くぞ!」
ザーツ達は、結界の外にいる魔人達向かい構えた。
『特殊能力:カード』はお休みして、こちらを最後まで書ききるつもりです。
頑張って書く予定なので、よろしくお願いします。




