最終章 7 終着、サウルでの戦い
出来ました。
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11月19日、11~14ス話、スペース、改行を増やしました。
「〈脱落〉50~60パーセント……実行強制終了、っと」
アミルは手をかざしていた、複合魔石から手を退かせ、〈脱落〉の発動を終わらせた。
「終わったのか?」
そう言って戻って来たガイは、右腕にランを乗せ、左腕をレイの胴体にまわして運んでいた。
「ええ、ガイさん……その人達は?」
ガイの声に振り返り、アミルが見た、ガイの状態に驚き、ガイが運んでいる二人をたずねた。
「ああ、コイツらは俺の子供達だ。
ようやく、勇者の野郎から取り戻せた」
静かに二人を降ろしながら、ガイはため息を吐きながら答えた。
既に、勇者の洗脳はルイが契約能力で支配を取り除き、二人は自由になっていた。
「そう、なんですか?」
アミルは、ガイが戦った相手が、ガイの子供という二人と知り、ガイがサウルで戦う事を望んだ理由に気づいた。
「アミル、ルーはどこに行ったんだ?」
キョロキョロと辺りを見渡し、ガイは尋ねた。
「アミルちゃんは、タイタンさんの戦った場所へ向かいました」
ルーが向かった方向に顔を向け、アミルはルーを思い、複雑な表情をしている。
「そうか……やはり、惜しいな」
タイタンが既に戦いを終え、契約のもと、この世に存在しない事を、アミルの言葉で知り、目を瞑り黙祷する。
「しかし……そうなると」
ガイは、アミルに顔を向けた。
「アミル、すまないが俺を帝国へ送ってくれないか?」
「えっ?
帝国、ですか?」
アミルは突然の申し出に驚く。
「そうだ。
無駄足でもかまわない。
……もし、間に合うなら、今からでもザーツ達と合流し、戦力になりたいんだ」
「それは……そうですね」
アミルは、ガイの提案に納得した。
「それでは……」
「駄目だ!
今、父さん達がサウルから離れては……」
〈転移〉を使おうとしたアミルを、レイは慌てて大声で止めた。
驚いたガイ達は、レイを見る。
「どうした?
レイ、何故、そんなに慌てているんだ?」
ガイは、レイに近寄り目線に合わせ、尋ねた。
「父さん!
まだ、戦いは終わっていない。
むしろ、勇者はサウルに攻撃を仕掛ける筈だ!」
近寄ったガイの腕を掴み、レイは震えながら話す。
「でも、攻めて来た貴方達は、全員無力化に出来ましたし、これといった脅威も感じません……勇者は何を仕掛けるというのです?」
アミルは、レイの心配を払拭するように、言い尋ねた。
「それは……わかりません。
でも、勇者は、送り出した僕達を元々信用してません。
必ず、何か……」
まるで聞き分けのない子供のように、レイは首を振り、更にガイの腕を強く握る。
「父さん、私もレイの意見に賛成よ」
レイの傍らで座るランも頷く。
「……レイ」
「何……父さん?」
「まずは落ち着け。
俺は、お前達を信じる……だから、落ち着いて、お前の意見を聞かせてくれ?」
ガイは自分の腕を握る手を、上から更に握り、レイを安心させるように頷く。
「でも、ガイさん。
さっきまで、敵として戦ってきた相手ですよ。
信用出来るんですか?」
アミルは、洗脳され戦ってきた相手を……レイ達を、まだ信用出来なかった。
「アミル……大丈夫だ。
アミルの心配もわかる。
でも、俺は子供達を信じる。
ルイの能力で、洗脳は完全に解かれているし、なによりも、いなくなって三年以上も勇者を見てきた、レイ達の意見は信じられる。
それに、ザーツの教えで身につけた戦況の予測で、勇者の行動を予測しているんだ。
レイ、ラン……どうして、そう思うのか、勇者の考えも含めて教えてくれないか?」
前半はアミルとルイに、後半はレイとランに言い、ガイはレイ達に説明を求めた。
アミルは意見を求めるように、ルイを見る。
ルイはアミルに大丈夫というように、頷き微笑む。
「わかりました……ガイさんが、そこまで言うなら」
アミルは頷く。
「すまないな……レイ、頼む」
「ありがとう……父さん」
レイは一つ大きく深呼吸をし、落ち着いたところで話を始めた。
「勇者が、僕達の前に現れた時は、今ほど狂っていなかった」
「なっ、勇者が狂っているだって?」
レイのいきなりの勇者の状況に、アミルは驚き聞き返す。
「ええ、現在の勇者は狂っています。
……死にかかっているランを直す代わりに、勇者の駒としてついてくるように言い、僕を洗脳し、僕とランは、お互い人質として勇者の元にいました。
僕は、ランの状態を直してもらう為洗脳し覚えた魔術を奪われ、直ったランは、洗脳された僕を心配して取り戻す為、勇者の言いなりでした。
勇者は、何故か闇属性の人族を集めていたんだ。
力の大小、関係なくね。
そして勇者には、勇者が愛したリアという女性がいた……闇属性の人族で、でも、ほとんど魔力を持たず、魔法魔術が使えない女性で、産まれたあとの育てられた状況、待遇で人々を憎んでいた。
そんな状況から救い出した勇者に惚れ、勇者もお互いに思い合っていた。
三年前のある日、勇者は、リアと僕達を連れ、封印された魔物を手駒にする為、魔獣達の楽園に入りました。
封印された魔物を解き放ち、現れたのは真っ黒で、巨大なスライムでした」
「三年前、スライム……ああ、あの時のか」
話を聞いたガイ達は、三年前のスランが戦い取り戻した、スランの分身の事と気づき、その時の状況を思い出した。
「父さん達、知っているのか?」
レイは、ガイ達の顔を見て驚く。
「ああ、知ってる……が、今は続きを話してくれないか?」
「え、ああ、わかった。
……僕達は見てるようにと言われ、待機してたんだけど。
勇者はリアを連れ、魔法魔術を使えないリアの新しいというか、なんというか……人々を憎しむ事で、対象に憎しみを写す〈呪い〉で、スライムを使役しようとしたけど失敗し、逆にスライムは、リアを取り込んだ。
勇者は、リアを取り込れた半ばで救出出来たけど、リアは死んだんだ。
その時から、勇者は狂った。
元々、世界を恨み、滅ぼそうとしていたけど、リアを失ったその時から、更に拍車がかかったよ。
サウルにいる人達以外の人族を洗脳し、兵として育てた、捨て駒とする為に、ね。
だから、勇者は誰も信用していない。
創造神の神霊達も、何もかも。
だから、僕達がサウルを攻略しても、しなくても、何らかの行動を移すと思う」
レイは言いきった。
「レイは、勇者は何をすると思っている?」
ガイは尋ねる。
「たぶん、勇者は帝国を動けないから、巨大な魔法でサウルを打ち滅ぼす……かと」
レイは自信なさげに答えた。
「魔法……か。
アミル、結界で何とかサウルを守れないか?」
ガイは、アミルを見て聞いた。
「……一度くらいなら、今ならいけるかも?」
自信はないが、アミルは答えた。
「本当か」
「ええ、これ」
そう言って、〈脱落〉で使った混合魔石を、アミルは示した。
「この魔石は、今〈脱落〉で二千人の生命力が集まっているの。
これを使って結界を張れば……」
「いけるか?」
「たぶん、何とか……二発も受けれないかも、だけど」
アミルは、自信がなく悩んでいる。
「あの……僕達を信用してくれるんですか?」
レイは、アミルを見て不思議そうに尋ねた。
「本来なら、信用はしない。
でも、考えられる事、出来る事はしないと……わかっていて、やらなくてサウルが滅びたら意味ないでしょ?
それに、貴方の話を聞いて、別の心配事も出来たし」
アミルは、拗ねたように首を横に向け、そう答えた。
「……スランの事か?」
ガイが、アミルに問う。
「ええ、あの時から、スランさん、女性の姿とっていますよね?」
「ああ」
「うーん……ねぇ、貴方達、もしかしてリアっていう女性ってこんな感じかしら?」
そう言って、アミルは、近くにいた死霊人形に、〈写し身〉という魔術をかけ、スランの姿を現した。
「えっ、と?
似てかも?」
「ああ、そうです!
その人がリアです!」
レイは自信がないのか、ランを見て、ランは人形の姿は間違いないと答えた。
「そう……ガイさん」
「ああ、ますます、帝国に向かわなくてはな?」
「ええ、スランさんが何を考えているのか……そうなると、サウルに向かうといったガイさんと素直に代わったのも……」
「意味がある、か?」
「ええ」
ガイと、アミルは悩む。
「……父さん、僕達も気になる事があったんだ。
今まで、忘れていたんだけど」
レイが、気まずそうに言う。
「……何だ?」
「リシェルって、ずっとザーツさん達といたよね?」
「どういう意味だ?」
ガイは、レイの質問の意味がわからず、逆に尋ねた。
「あれは……いつだったか?」
「さっきのスライムから、しばらく経ってからかな?」
レイが、ランにいつの事か確認し、ランが話し始める。
「突然、私の前に、勇者がリシェルを連れてきたの。
驚いて、色々と話をしたわ……あの時の事も謝ったりしたし、普通に話もした、受け答えもおかしな事なかったわ。
でも、不思議でなかった。
リシェルが、ザーツさん達から離れる訳ないし、勇者の下に来ると思わなかったから」
ランの話に、ガイ達は再び顔を見合せる。
「いや、リシェルは……常に、魔王城にいたが」
「そうね……色んな所に顔出していたし。
ルイくん、ルイくんはどう思う?」
アミルは、ルイを見て尋ねた。
「俺か?
……俺は、二人程、あの娘の事、よく知らないからかも知れないが、確かに俺の所にも、顔を出していたけど、逆に長い間見ない事もあったからな」
ルイは、思い出しながらか、言葉に詰まりながら答えた。
「……スランに続いて、今度はリシェルか?
まあ、リシェルに関しては、なんとなく裏がありそうだが。
やはり、帝国に行くべきか?
……ここにいても、俺は対人戦はいいが、対魔法はな……アミル、勇者の攻撃任せてもいいか?」
ガイが考えを言う。
「ええ……でも、ガイさんを送る手段が」
「それなら、ある」
ランはアイテムボックスから、何かしらの魔法具を取り出し見せた。
「それは……魔法具、なの?
見た事ない物ね」
アミルは、ランから受け取り繁々と見た。
「それは、勇者が作った魔法具で、私達が帝国からイルミア王国に転移して、それから、ここに来るのに使った魔法具よ」
ランは、アミルから魔法具を返してもらい、魔法具の説明を始めた。
「この魔法具は、一度行った場所に登録すれば、何度もその場所に行けるの。
ただし、使用者は登録している者しか使えないけど。
私とレイは使えるわ。
だから、お父さん……私が帝国に一緒に行ってもいいかな?」
ランは、ガイを見て懇願する。
「ふむ、しかし、さっきの戦いで負傷しているだろ?」
申し出は嬉しいが、ガイは、ランを心配し断ろうとするが……。
「大丈夫、ダメージは殆ど抜けてるし……もう動ける。
足手まといにはならない。
それに、勇者から取り返したいものもあるから……お願い、お父さん、連れてって」
ランは立ち上がり、もう一度ガイに懇願した。
しばらく、二人で見つめ合い折れたのはガイだった。
「はぁ……わかった。
だだし、無茶はするなよ?」
「ありがとう、お父さん」
ランは、ガイに抱きついた。
「こら、ラン……お前も、もういい年齢になっただろ?
恥ずかしくないのか?」
「……全然」
ランはそう答え、ガイはその答えにもう一度ため息を吐き、苦笑しながらランの頭を撫でた。
「と、いう事だ。
アミル達は、サウルの守りを頼む。
もし、別部隊が来たら……ルイ、お前がどうにかしろ」
「ああ、親父……任せろ!」
ルイは拳を握り、ガイに力強く頷く。
「その前に、〈脱落〉で動けない兵士達をどうしますか?
サウルも住人は他の場所に待機していないですけど、既に、八千人を捕らえて飽和状態になってますし……これ以上は」
アミルは、今はこの状態だが、時間が経てば回復し、洗脳が解けていない兵士が再び攻めてくる為、どうするか相談を持ちかけた。
「どれくらいで回復しますか?」
ランが、アミルに質問する。
「そうね……だいたい二、三時間で動ける者も出てくるかな?」
アミルは予想を伝える。
「……じゃあ、先に、私とお父さん、それに兵士達を連れて、イルミア王国に行って、それから帝国に向かいます。
そうすれば、兵士達もサウルに来るにしても、歩くしか手段がないですし、日にちもかかるから……どうでしょう?」
「うん……いいね。
それが、一番手っ取り早いかな?
うん、それでお願い出来る」
ランの提案に、アミルはお願いした。
「はい。
じゃあ、お父さん……行こう」
「ああ……じゃあ、あとは頼んだ」
ガイとランは、倒れている兵士の下に向かい、帝国を目指した。
これで、サウルの戦いは終わりです。
次回は、魔王城攻防戦。……にしょうかな?
さて、どうなるでしょうか?
その時の気分で……




