5章 8 昔話り~魔王と翼麗姫~ 後編
出来ました。
お待たせしました。
昔語り、後編です。
長くなりました。
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「……えっ?
私、死んだのか?」
驚きのあまり、ミーザは、ソファーから、腰を上げた。
その為。
「わあっ?」
膝の上に座っていた、リシェルが、落ちた。
「あっ!
ごめん、リシェルっ」
慌てて、落ちたリシェルを起こし、座り直した自分の膝の上に、再び、座らせた。
「……何、やってるんだ?
リシェル、こっちに来るか?」
呆れた、ザーツが、リシェルに尋ねる。
「……ううん、こっちに居るよ。
ありがとう、おとうさん」
「そうか?」
少し残念そうに、頷くザーツ。
「それで、だな…ミーザ。
お前は、あの時、間違いなく、死んでいたよ」
「じゃあ、何で……って、いや、済まない。
今は、こう生きているんだ。
続き……話してくれるんだろ?」
「ああ、勿論だ」
ザーツは、コップの水を、一口飲み、話を続ける。
「……そうか」
フェザーの辛き声に、クレアは、未だ、胸元に刺された剣を抜かず、最後の気力を持って、ザーツ達に止められながらも、立ち上がり、フェザーの、ミーザの下へと、歩き出した。
近寄るクレアに、フェザーは気付き、睨む。
「……妾が、言うのはおかしいが、こうなってしまった責任は取る」
「何が、責任だ!
この子は、もう……死んでしまった」
フェザーは、動かないミーザを、抱き締め、涙を悔しそうに流す。
フレアも、フェザーも、集落の皆も、クレアが、狂気に暴走した原因は分からないが、クレアが、もう、精神的に危うく、何時、暴走するかは、魔王の下に赴いた理由、魔王との子を産む決意を手紙を送り知った、集落の長から、聞き及んでいた。
妹の幸せの為、集落の皆が処罰を受けない様にする為、魔王の下へ行き、クレアが、狂気を持って帰って来たのを、承知で受け入れた、故に、誰しもが、非難する事は無い。
無いが、次期長の娘の、死は重く、誰しもが葛藤の中、沈黙する。
クレアは、その全てを理解し、声を大に、宣言する。
「もうじき、妾は、死ぬであろう。
だが、それは、妾の胸に刺さりし、妾の愛し子、ザーツの剣で、死ぬのではなく。
妾の失態により、心臓が停まりし、妾の姪を、蘇らせる為!
これから、行う禁断の秘術!
死者蘇生による魔術を使う為だ!」
「何を、馬鹿な?
そんな魔術、聞いた事も無い!」
フェザーは、クレアが、狂気に侵され、妄想を告げていると思い、信じられず、否定する。
「……知らぬのも、当たり前だ。
この魔術は、神々から授けられるモノではなく。
この世界の意思ともいえるモノから、授けられた魔術。
故に、数十年に一人としか、使えるモノは居らぬ。
使えるモノが、使わぬ限り、知る事は無い。
例え、双子の妹であろうと、妾の愛し子であろうとな。
……さて、時間も失くなって来たの。
始めるか、フェザーよ。
そのまま、抱き抱えておいておけの」
クレアは、術を発動しようと、集中する。
揺れ動く、身体は止まり、身体に刺さっている剣の傷口から、流れる血も止まり、身体中から、高まった魔力が溢れ出す。
ミーザに向け、両腕を突き出す。
呟く呪文は、風に紛れ、上手く聞き取れないが、言葉が進むにつれ、魔力が、身体から、両腕に、更に、両手に集まる。
両手に集まった魔力を、手のひら同士を、向け合い凝縮し、魔力の塊にする。
魔力の塊が、ゆっくりと、ミーザに向かって、飛んで行く。
塊は、ミーザに、吸収され、ミーザの傷が、塞がっていき、やがて、停まっていた心臓が動き出した。
「……良かった」
放出した魔力とはいえ、元は、クレアの魔力。
ミーザに、吸収された魔力が、どの様に、作用したか、魔力を通じて理解した。
「目覚めるまでは、時間が掛かるかもしれないけど、もう、大丈夫。
では、次だ。
妾が、契約し、友でもある、大悪魔王サタンよ。
妾の最初で、最後の望みだ。
妾は、願う……妾との、契約を破棄とし、代わりに、妾の姪、ミーザとの契約を求む」
クレアの、呼び出しにより、サタンは、姿を現した。
「なっ、お母さん?」
クレアが、サタンの名を出し、サタンが、姿を現した事に、ザーツは、心の底から驚いた。
『何を、驚く?
ベルゼブブと、契約せし、少年よ』
サタンは、チラリと、ザーツを見て問う。
「……大悪魔サタン、そんな気配、一度だって、お母さんから、感じた事無い」
『当たり前だ……クレアとは、契約したが、コヤツ、一度も、我が力、使った事も無ければ、頼られた事も無い。
契約した時の、望みも、一度だけ、好きな時に使うと言った限りだからな?
契約とも、言えぬがな?』
サタンは、クレアを見て、口角を上げ笑う。
『さて、クレアよ?
先程、言った事が、お前の望みか?』
「ああ、そうじゃ……妾の望み。
妾の、次に、サタンと契約するのは、ミーザであると、言ったのじゃ」
『それを、我が、守ると思うか?』
「ああ、守る!
妾を、通し、お主も見たであろう……未来視を?
並ば、分かるであろう。
お主は、やがて、ミーザと契約する。
間違いなくな!」
『ふん!
まあ……あの通りなら、そうなるな?
まあ、良い。
その時になれば、契約してやろう。
但し、気に入らなければ、その願いは無効だ。
それで良いな?』
「ああ、構わない。
……これで、心おきなく、逝ける。
ザーツ……達者でな。
こんな、母で済まなかった……愛しておるぞ」
「……お母さん」
ザーツは、涙を流す。
「去らばだ」
「お母さん!」
「姉さん!」
クレアは、微笑み、その美しき姿は、白い灰になり、風に乗り、霧散し、存在を無くした。
『さて、我も、その時まで、魔界に帰るか』
サタンも、姿を現した時の様に、今度も、姿を消した。
そして、残された者達は、涙を流し、クレアの死を、悲しんだ。
「……おば様に会った事は、覚えている。
だが、当時、おば様に殺された事も、助けられた事も、覚えていない」
「当たり前だな、お前死んで、意識無かったし、当時も、その事に対して、覚えていない。
後、お前に、忘れる様に、フレアさん達で、記憶操作したからな……と、いっても発狂した母さんに、殺された事も、忘れさせたにも関わらず、どうやっても、母さんの事は、トラウマになって、恐怖するみたいだかな」
「……それで、か。
おば様の事を、思い出そうとすると、身体が震えるのは」
「そういう事だ……いい加減、克服出来たら良いのにな?」
「いや……私は、此れで良いと思う」
「……お前が良いなら、良いけど」
「ああ、良いんだ。
思い出しては、震えるけど……おば様の事、嫌いじゃないからな」
「そうか」
「そうだ」
「なら、話を続けるぞ?」
「頼む」
数日後、ミーザが目覚めるまでは、ザーツも、与えられた家に滞在し、目覚めた後は、集落の外れに、簡素な家を立て、其処に移り、寝食を取る事にした。
と、いっても、ザーツは、色んな場所に出向き、集落に居る事を、なるべく避けた。
クレアの残したモノは大きく、集落の者達の、ザーツに対する扱いは、腫れ物を扱うが如くであり、ザーツも、分かっているので、数日に一度という形で、集落に顔を出す事にしていた。
ミーザが、目覚めてから、暫くして、ザーツは、魔王城に赴き、魔王ブラッドに、母、クレアが死んだ事を話した。
「そう、か、クレアが……逝ったか」
事情を聞いた、ブラッドは、目を瞑り、クレアの事を思い、感謝した。
「ああ、それだけを、アンタに言いたかった」
「態々、済まなかった。
報告、感謝する」
「気にするな」
ザーツは、そう言い、ブラッドの執務室を出た。
それを見届け、ブラッドは、以前より、考えていた事を、実行する為、傍らで、仕事を手伝い、ザーツの話を聞いていた、オズマに伝えた。
「十年後、ザーツ、ミーザを含む、有望な若者を集め、魔王候補として、育てられる環境を、場所を作る様に、進めてくれ。
責任者は、オズマ……お前に、任命する」
「分かりました。
では、その様に……しかし、十年後、ですか?
宜しければ、理由を聞いても?」
「……ふん、まあ、良いだろう。
クレアが、逝った理由にも繋がる。
ザーツが、言っていたろう?
ミーザを、未来視で見て、発狂し、一時、死なせたと。
恐らく、その時に、未来が変わったのだ。
ザーツではなく、そのミーザが、俺を殺し、新しい魔王になったと」
「それで、発狂したと?」
「ああ、クレアは……アイツは、ザーツが、俺を殺し、魔王になる事を、楽しみにしていたからな」
「成る程」
「そして、十年間で、ザーツ、ミーザ以外にも、実力者が現れば、面白いではないか?」
「分かりました。
では、その間に、新たな練習場所や、寝泊りする施設等、用意する様に、手配致します」
「流石、オズマ……理解が早い。
宜しく頼む」
「はっ」
オズマは、一礼し、執務室を出た。
見届けた、ブラッドは、立ち上がり、窓に向かい、何時かの様に、空を見上げ、涙を流した。
「まあ、俺や、ミーザ、ガイン、ダグド等が、魔王候補に、集められる間に、昨日と、今日の会議で話に出た、アルテの事情や、ザンバイン達の事情といった事や、スランの六魔将の参加等が有ったが、その辺は、省くぞ?」
「ああ、そうだな」
「うん、私も、それで良いと思う」
二人は頷く。
「と、なると、次に、話す事といえば……あれ、だな」
「あー、ザーツ?」
「何だ?」
続きを決めたザーツに、申し訳なさそうに、ミーザが、声を掛ける。
「話してもらっているのに、悪いんだが、どうしても聞きたい事が有るんだ」
「何が、聞きたいんだ?」
「さっき、私が死んでいた時なんだが」
「もしかして、サタンの事か?」
「そう!
それだ……先の話だと、私の前の契約者は、おば様だったという事なのか?」
「……俺も、あの時まで、知らなかったんだがな。
当時、ベルゼブブに尋ねたら、知っていたらしいが、別に、俺や、ベルゼブブに、害は無いと判断したから、言わなかったらしいな」
「そうか……サタンも、今まで、そういう事は、言ってくれてないな。
まあ、分かった。
話を中断させて、悪かった。
続き、頼む」
「ああ、でも、俺からも一つだけ。
母さんは、お前を、殺したくて、殺した訳ではない。
だから、もう、お前は、何も、母さんに対して、恐れる事は何も無いからな。
少しずつで良い……お前から、トラウマが消えていって欲しい」
「ザーツ……そう、だな。
お前の言う通りだ。
頑張るよ」
「頼む」
二人は、見つめ、微笑み合う。
それを見て、リシェルも、嬉しく思い、微笑む。
「ん、んんっ……で、だな?
話の続きだが、魔王ブラッドは、俺や、ミーザが十五歳くらいになった辺り、ブラッドの政略通りに魔王候補として、その実力の見込みの有る者達が、集められた」
リシェルの、視線に気付いた、ザーツが誤魔化す様に、無理矢理に、話を始めた。
「それから、何年後か、ある日、ミーザは、自分が、十分と実力を着け、サタンと契約する決意を決めた」
「その話なら、私も出来るな。
ある日、私は、私の中に、密かに隠れ、様子を伺う様にいた、サタンの存在に、気が付いた。
まあ、サタンが言うには、遅かったらしいが、それでも、サタンは、契約を求めてきた。
……条件付きだったが。
その条件とは、サタンと戦い、実力を示せと言って来たんだ。
私は、ザーツに相談して、ザーツに見守ってもらいながら、サタンと、勝負した。
結果は、今の状況を見れば、分かると思うが、何とか、契約出来た」
「ミーザ……誤魔化すなよ」
ザーツは、呆れた顔で言う。
「うっ……わ、分かっているわよ」
ミーザは、罰が悪そうに、顔を赤らめ背けた。
「当時の、私一人では、サタンに及ばなかった。
結局、ザーツの援助がなければ、認められなかった。
今だったら、一人でも、大丈夫だけど……あの時は、どうしても、サタンとの契約が、必要だったから」
「……どういう事?」
「ブラッドが、ミーザを、女として、寝床に呼んだんだよ」
「なっ?」
リシェルが、ミーザの方に、顔を向ける。
「勿論、おば様の事も知っていたし、それ以前の問題だ。
だから、即座に断り、魔王の座を掛けて、勝負を挑んだ。
だが、その時点で、私が勝つ見込みは無かった。
だから、サタンとの契約を急ぎ求めた」
「その三日後、ミーザと、ブラッドは戦い、ミーザが勝ち、魔王交代となった訳だ」
ザーツは、纏める風に、話を終わらせた。
だが、ミーザは、此処で、話を終わらせるつもりは無かった。
「ザーツ」
「……何だ?」
「お前、私に言ったな?
誤魔化すな、と。
お前こそ、話して無い事、有るだろう?」
「……どうして、そう思う?」
「あの、魔王が、あの時、お前の助言とは言え、一撃で、倒せる訳無いだろ!」
「倒せたじゃないか?」
「お前が、裏で何かしたんだろう!
教えてくれ……頼む!」
「……はぁ、分かった。
話すよ」
ザーツは、実に、面倒臭そうな顔で、頭を掻き、「覚悟しろ」と、二人に聞こえない様呟き、話し始めた。
ミーザ達の、勝負が始まる前、ブラッドが、オズマのおっさんを引き連れ、試合会場となる、訓練場に向かう途中に、俺が、立ち塞がった。
ブラッドに、問いたい事が有ったからだ
「おう、どうした?」
そう言いながらも、ブラッドは、ザーツが来る事が分かっていたのか、ニヤニヤと、笑っている。
「聞きたい事が有ったからだ……何で、今更、ミーザに、声を掛けた?」
「んー?
何の事だー?」
「チッ、良いから答えろよ」
「あー、分かった、分かった。
答えてやるよ。
あの娘が、気に入ったからだ」
「へぇ」
ザーツの気配に、殺気が加わり、辺りの空気が変わった。
そんな、ザーツの態度に、ブラッドの、口角が上がった。
「何だ、お前?
あの娘の事が、そんなに、大切何のか?
だから、此処に来た、と?」
「……だったら、どうする?」
「ふん、拍子抜けだな?」
ブラッドは、ため息を吐き、右手を、顔の前で左右に振った。
「何?」
「大切な女を、奪われそうになっても、その相手に、態々、会いに来て、理由を尋ね、あげく、大切な女に頼まれ、鍛え、自分からは何もしない。
かつて、お前の母、クレアが、俺の前に、単身で、現れ、未来視で、俺を殺すのは、自分の産みし、子供だと、言っておったが……腑抜けが!」
「……言いたい事は、それたけか?」
ザーツは、影から、剣を取り出し、鞘から、剣を抜いた。
「……ほう、剣を抜いたか?
それで、どうする?」
「ふん」
ザーツは、ブラッドに向かい、歩き、通り過ぎた。
「何だ?
お前、何をしたかったんだ?
……ーーぐあっ」
ブラッドは、不信に思い、振り返る。
振り返る際、腰を捻った為、突然、腹に激痛が走り、ブラッドは、膝を着いた。
「な、切られただと?
何時の間に……それに、この傷、腐っているだと?
オズマ……お前、ザーツが、剣を振ったのを、見えたか?」
「……いえ、残念ながら」
「そうか。
しかし、この傷は?」
「俺は、アンタと同じ様に、大悪魔と契約してい。
ベルゼブブと契約した際の、能力。
〈腐食〉
その傷は、俺が通り過ぎ、切ったと、同時に、その能力を発現し、腐らせた。
……これから、アンタが、訓練場に着くまでは、出血なんかで、死んで貰いたくないのでな?
……アンタを、殺し、魔王になるのは、ミーザだ!
俺じゃない……母さんが、最後に見た、未来は、そうなっている」
そう言って、ザーツは、オズマに、幅広く、長い帯布を、放り投げた。
「巻いてやれ。
その傷は、回復魔法も、薬も、効かん。
それを、強く巻けば、少しは、もつだろうさ」
オズマは、頷き、ブラッドの傷口に、巻いていく。
「ぐうっ」
巻く際の、痛みが響き、唸り声を出したが、巻き終える時には、確かに、痛みはマシになり、ブラッドは、立ち上がった。
「くっ、くくくっ、見たか、オズマ?
俺は見た……いや、ザーツの剣は見えなかったが、ザーツの実力は、見た!
赤子の時から、才能溢れる奴だが……此処までとは?
しかも、まだ、発展中だときた!
……俺は、もう悔いは無い」
その言葉を聞いた、ザーツは、眉間にシワを寄せ、尋ねた。
「もしや……アンタ?
俺の実力を、見る為に?」
「……何の事だ?
そろそろ時間だ。
行くぞ、オズマ」
「はっ」
二人は、訓練場に向かった。
「チッ、そういう事か……ミーザには、最初に、最大の魔法をぶちかます様に、助言してやる。
さっさと行って、楽になってこい。
…………糞親父」
舌打ちし、ブラッド達と、逆の方向に向かいながら、最後の言葉を、小さく言って、姿を消した。
「くっ、くははっ?
オズマ、聞いたか?
彼奴、最後に、親父と言ったぞ?」
ブラッドは、歩みを止め、オズマに尋ねた。
「糞が、付いてましたけどね」
「それでも、だ!
初めてだぞ、そう言ってくれたのは」
「良かったですね」
「ふん、行くか」
ブラッドは、痛みで、顔を青くしながら、笑顔で歩き出した。
「待たせたか?」
ブラッドは、訓練場に立つ、ミーザの前で足を止め、腕を組み、尋ねた。
「ああ、この時を、待っていた!」
ミーザは、剣を、ブラッドに向け、叫ぶ。
「そうか……並ば、全力で掛かって来い!」
「始めっ!」
二人の、気迫に、審判を行う六魔将のアギが、勝負の号令を掛けた。
「はあああーーーーっ!」
ミーザは、始まる前に、ザーツから助言を受けた通り、全力の単一火魔法を放つ。
途轍もなく極大で、全てを燃やしきる高温で、ブラッドは、一瞬で、熱いと感じた時には、燃え尽きた。
正に、消滅であった。
残ったのは、ブラッドが居た場所、其処だけが黒く地面を焦がした跡だけだった。
「なっ?」
アギは、ブラッドの姿を、探した。
姿も、気配も、魔力も、見当たらない、感じない。
どこにも、ブラッドの存在が無い。
「勝者、ミーザ・エスクード!」
アギは、目を瞑り、大声で、勝負の幕を降ろした。
「やったのか?」
ミーザは、今だ、信じられなかった。
この時、ミーザは、焼けた臭いに混ざり、微かに甘い臭いを感じた。
だが、その臭いの元は消え、疑問も消え、今度は、勝利を、少しずつ覚え、右腕を上げた。
「私が、魔王だ!」
ミーザは、叫ぶ!
その声に、勝負を観客席で見ていた兵士、審判をしていたアギ、応援していた魔王候補の者達、全員が、膝を着き、ミーザに、頭を下げた。
こうして、ミーザは、この時、瞬間、魔王となり、魔族全員に、認められた。
「やったな、ミーザ!」
ザーツは、ミーザの勝利を祝い、ミーザの肩に、手を置いた。
「ああ、ザーツのお陰だ!
ザーツ……此れからも、私を、支えてくれ」
「分かったよ……よろしくな?」
二人は、笑い合う。
だが、魔王となったミーザに、頭を下げぬ、ザーツに、怒りを覚え、数年後、全ての理由を知っている、オズマに、ザーツを守る為、人族のイルミア王国に、忍び込ませる様、指示を出し、ザーツは、長年、魔族領に戻って来なかった。
「と、言う事だ」
ザーツは、今度こそ、話を終わらせた。
「そっか~、おとうさん。
大好きな、おかあさんを、守りたかったから、先代魔王に、剣を振ったんだね」
リシェルは、ザーツの気持ちを知り、喜んだ。
「そっか~、私は、実力で、魔王を倒したんじゃなかったのか~」
逆に、ミーザは、凹んでいた。
二人の感想が、真逆で、面白がっていたが、ミーザの、あまりにもな凹み具合に、声を掛けた。
「おい、ミーザ?
言っておくが、お前、あの時、俺が介入しなくても、勝ってたからな?」
「……どういう事だ?」
ミーザは、俯いた顔を上げ、ザーツに問いた。
「そのまんまの意味だ。
ブラッドを、弱らせなくても、最終的には、お前が勝ってたよ!
あれは、ブラッドが悪いんだ!
お前が、凹む理由も、弱気になる理由も、一切無いんだ!
分かったか?」
「いや、しかし?」
「分かったか!」
「……はい」
ザーツは、頷く。
「俺としては、リシェルが言った様に、お前に照れて欲しかったんだが」
「……リシェル、何て、言ったんだ?」
ミーザは、ザーツの言葉に、首を傾げ、リシェルに聞いた。
「そっか~、おとうさん。
大好きな、おかあさんを、守りたかったから、先代魔王に、剣を振ったんだね、って言った」
「うっ!」
リシェルが繰り返した言葉に、ミーザは顔を赤らめた。
それを見た、リシェルは、笑顔で。
「おかあさん、可愛い!」
「なっ?」
ミーザは、益々、顔を赤らめ、俯いた。
ザーツは、そんな二人に、笑いが込み上げた。
本来、入れたかった部分。
ブラッドは、痛みで、顔を青くしながら、笑顔で歩き出した。
「ベルフェゴール、聞こえるか?」
歩きながら、ブラッドは、大悪魔に声を掛ける。『……何だ?』
「もう、分かっているだろうが、俺は、間もなく死ぬ。
故に、お前との契約を、解約し、解放したい」
『ふん、そうか……良いだろう』
「出来れば、次に、契約出来る者を見つけて、息子達に力を貸してやって欲しい」
『……一応、候補は、見つけてある』
「そうか、早いな?
因み、相手は……聞いても良いか?」
『……数年前、貴様が、処罰した、ザンバインの孫娘だ』
「……ああ、ギバの奴が、連れ戻したとか、言っていたな?
それか?」
『そうだ』
「そう、か。
よろしく頼む」
『……ふん、さらば、だ』
「ああ、さらばだ」
以上です。
ザーツの、語りだから、入れられなかったんです。
だって、ザーツは、知らない話だから……




