5章 8 昔話り~魔王と翼麗姫~ 前編
出来ました。
少し長くなったので、前編です。
三人が、水を飲んで一息入れた事により、丁度良い休憩となり、ザーツは、様子を見計らい、話を続ける事にした。
「最初のほうは、正妃エルザとか、母さん達に聞いた話を、纏めたものだから、どこか食い違いが有るかも知れないが、話を続ける」
ザーツは、遠くを見る様に、語らい出す。
「約百年位前に、先代魔王ブラッドは、先々代魔王のあまりにも民を、民とも思わない内政の為、下克上を起こし、成功し、魔王となって国を納め、暫くした、ある日の夜、ブラッドが、魔王城の寝室の、バルコニーで、険しい顔で、夜空を見上げていたのを、エルザは見つけたそうだ」
「ギバ?
どうしたのだ……そんな、険しい顔して、問題でも起きたか?」
エルザは、ふと、夜中に目が覚め、隣に寝ているはずの、夫、ギバの姿が無いのを不審に思い、辺りを見渡し、窓が開いて、カーテンが揺れているのを見て、其方に向かい、ギバを見つけ、声を掛けた。
「……エルザ、か。
いや、何、神が何を考えているのかと、思ってな?」
「神?
……主は、突然、何をいっておるのだ?」
隣に立ち、ギバの顔を覗き、首を傾げる。
「何、先程、頭の中に、神からの……神託と言うのか?
突然、聞こえてな……少し、考えておったのよ」
「ほぉ?
それで、神は、何て言って来たのだ?」
「ふん。
何やら、百年以内に、勇者が現れるらしいぞ」
「……それだけか?」
「それだけ、だ」
「そうか」
エルザは、ギバと同じく、夜空を見上げて、訪ねる。
「主は、どうするつもりだ?」
「……とりあえず、今の状況を考えてみた。
俺達は、先代魔王達に、下克上を起こし、敵味方、双方、多大の被害を出した。
まあ、当然だな。
ハッキリ言って、今の時点、戦力不足だ。
百年以内で、どれだけ回復出来るか、だな?
……百年以内、その時、俺が、魔王を続けているか、それとも、次の誰かが、魔王になっているか。
分からんが、その時の為に、種を蒔いておこうかと思う。
……それで、だな?
俺は、お前に誓った、約束を反故しようと思う」
「ほぉ……反故ね?
言ってみろよ」
「お前に誓った、約束……お前だけを、幸せに、大切にする、を、破らさせて欲しい」
「それで?」
「他種族の女達を、抱き、子供を作らす」
「言っている意味、分かって言っているのか?」
「勿論だ……禁忌だから、な」
「それを、分かっていて、主……ギバよ、どうするつもりだ?」
エルザは、ギバの胸元を掴み、引き寄せる。
「……憎しみを、全ての憎悪を、俺に、向けさせる」
「それで?」
「憎しみは……復讐心は、人を強くする。
恋人を、娘を、愛する者を奪われた者は、俺を殺そうと、体を鍛え、技を磨き、魔法の威力を増す努力をするだろう。
もし、俺を殺せる者達が現れたら、それは、それで良し!
だが、魔王の魅了に、屈指たのなら、戦力の一つにすれば良い。
それに、子供が出来た場合も、俺の血を引く者だ。
かなりの実力者となるだろう。
まあ、どんな奴が向かって来ても、そうそう、負けてやるつもりは、無いがな?」
「……本気、みたいだな?」
エルザは、はぁ、と、息を吐き、掴んだ胸元を離し、ギバから、一歩離れ、後ろを向いた。
「全く……神の奴め、余計な事をしてくれる。
折角、親子で、魔族領を纏めていこうと、思っておったのに……仕方がない!」
エルザは、再び、ギバに向き直る。
「その責、私も、半分、受け持とう」
「いや……何を言っている?
その前に、何て言った?
親子で?
もしかして?」
エルザは、ニヤリと笑い、言った。
「そうだ。
私の、腹の中に、稚児が居る」
「何時、からだ?」
「ふん、下克上を起こす前ぐらいから、変だなと思っておった。
……分かったのは、つい、最近だな?
何時言って、驚かそうか、考えておった。
驚いたか?」
「……驚いた」
ギバは、両膝をつき、エルザの手を取り、額に当て、涙を流す。
「済まん!
俺は……俺は!」
「気にするな。
言ったろ?
半分、受け持つと。
主の、苦しみも、喜びも、半分だ」
「済まぬ、エルザ……愛している」
「分かっておる」
数日後、ギバは、行動を起こし、他種族から恋人を持つ者や、実力者の娘を呼び出し、抱いていった。
暫くして、抱かれた女は、魅了が解け、正気に戻っては、発狂し、また、子供が出来ては、発狂し、自殺していく。
エルザは、裏で、死んでいった女達の供養をし、表で、家族に遺体を返す時、「役に立たなかった」と告げて、遺体を返した。
愛する者達を、奪われた者達は、予想通り、ブラッドを憎しみ、恨み、実力を上げ、ブラッドに挑み掛かっていった。
大半は、魔王の魅了に負け、涙を流しながら、従い。
大半は、挑み、負けて、恨みながら、命を落とした。
そうして、数年後には、ブラッドの計画通り、実力者が増え、魔族領は、先代魔王の全盛期に負けぬ程、全種族の底上げは、成功した。
また、六魔将として、向かい入れた老将オズマの介入した事で、軍の実力、統率力、行動力等が、向上し増した。
ブラッドは、新たに、魔角族の女性を、呼び出した。
魔角族で、大事に育てられた姫。
〈小鬼姫〉キキ・ハワード。
二メトルを超える、大柄な体躯を持って産まれる、魔角族の中で、稀に、小鬼と呼ばれる者が、産まれる事が有る。
小鬼は、その体躯にして、周りの者に引けを取らない腕力に、圧倒的な素早さで動く事が出来るが、その能力を制御出来無いが故、早死にする為、大事に育てられる。
キキは、その数少ない稀な存在の中、整った容姿に加え、額から空に向かう一本の角、何事にも染められず、腰元を越える長く、真っ白な美しい髪を持って、特に、大事に育てられた為、〈小鬼姫〉と呼ばれた里の娘だった。
更に、キキは、生来、声を出す事が出来なかったが、魔角族にしては、魔力が多く、魔術の念話にを得意とし、望めば、その者の心の奥底の声を、知る事が出来た。
呼び出され対峙した、キキは、その能力で、ブラッドの思惑を知る。
『そういう事でしたか……分かりました。
私も、貴方の、その思惑に乗り、抱かれ、子を宿しましょう』
「……一つ、聞きたい。
お前には、魔王の魅了は、効いていないのか」
『……効いていますね。
しかし、魔角族の中でも、魔力が多い、私は、常に状態異常に対して、対応出来る様に、魔力で防壁を張っているので、少しは』
「ふむ……対応出来ていると?
それは、良い事を聞いた。
次からは、お前の様な力を持った者を、呼び出すとしょう」
『そうですか……早く、貴方の本当の望みが、叶うと良いですね』
「ふん、それも、覗いたか?」
『ええ、それでも、やはり、最終的には、恐らく、私も狂い、死ぬのでしょう』
キキは、目を瞑り、寂しく微笑む。
「済まん」
『いえ、貴方の思惑に乗ると言った以上、覚悟は出来ています』
「……そうか」
この時、キキは、ブラッドは、無表情を保っていたが、心が、懺悔の気持ちで一杯なのを、読み取っていた。
キキのお腹に、赤子が身籠り、大きく膨らむに比例し、キキは、狂いそうになる感覚が縮まっていくのを、耐え苦しんでいた。
その中、ブラッドは、新たに魔翼族から、話題が上がっている双子の女性を、呼び出していた。
が、現れたのは、片割れの姉、一人。
〈翼麗姫〉クレア・シュザットだった。
クレアは、麗しい黒い髪と、翼を持ち、魔翼族らしい多大な魔力と、たまに、見える予知現象で、集落を導いて来た。
「……呼び出したのは、双子、両方だった筈だが?」
玉座に着く、ブラッドは、苛正しい表情で、膝まつかず、正面きって立つ、クレアを睨む。
「悪いが、妹は、これからの我が黒翼衆の柱になって、貰わなれけばならないでな!
黙って置いてきたわ!
その分、私が相手になってやろうぞ!
……不服か?」
「貴様!
魔王陛下に、何という、言葉使いだ!
無礼であろう!」
魔王に対しての、決しぬ態度で挑み立つ、クレアに、魔王の後ろに立つ、六魔将……現在三人しか居ないが……の一人、〈嵐刃〉のアギが怒鳴る。
「……何ぞ?
ああ、茶翼の所のアギか、相変わらず五月蝿い奴よの。
お主には、関係無いであろう?
黙っておれ」
「関係無くあるか!
私は、魔王陛下の六魔将の一人だ!」
「ふん、六魔将……のう?
ひー、ふー、みー、くくっ、三人しか居らぬではないか?」
「くっ、だ、黙れ!」
「お前こそ、黙れ……アギ」
今にも、態度を改めぬ、クレアに、飛び掛かろうとする、アギを、ブラッドは、威圧で抑え、動きを強制的に止める。
「っ、ま、魔王陛下……しかし」
「黙れと言っている」
「ぐはぁ」
更に、威圧が乗し掛かる。
完全に、黙ったのを見て、ブラッドが、クレアに、面倒臭そうに、話し始める
「……噂通りの奴だな。
噂通りなら、お前、何処まで見ている?」
「さて、何の事なのかの?」
クレアは、口角を上げ、惚ける。
「予知で、何処まで見た、と、言っている」
「……ふん、詰まらんの」
クレアは、ブラッドが何処までも、平坦で、冷静な態度で、対応するので、ため息を吐き、相変わらず、頭は下げないが、先程とは、少し違う、侮る様な態度を止め、答える。
「そうよの、魔王……お主が、何故、妾のように、幾人もの、女子を呼び出しておるのも、先の魔角の〈小鬼姫〉が身籠っておるのも、お主の行動、また、心理も見ておるわ」
「ほう」
ブラッドは、続きを促す。
「安心するがよいぞ!
お主の望みは、これから、妾が宿す、お主の子が、叶える」
「ほう」
ブラッドは、ニヤリと笑う。
「だから、小鬼姫は、子を産んだら、子と共に、里に返してやるが良い。
まあ、戻って、直に、小鬼姫は死ぬであろうがな……」
「……そうか。
お前が、妹と共に、来なかった事は、不問とする。
また、その態度もな」
「それは、有難いのう」
ブラッドと、クレアは、笑いながら、睨みあう。
「その子供を宿させるぞ?
妹の分も、しっかりとな。
……ああ、もし、その子供が産まれなかったり、育たなかった場合は、全て、何倍もの罰を与える。
此れから、存分に、覚悟しろ」
「妾の予知に、間違いは無いぞ」
「では、その子供の名は、何と名付ける?」
「ザーツ・シュザット」
「そうか、楽しみだ」
「アハハハーー」
「ワハハハーー」
二人の笑い声が、謁見の間に響き渡った。
後に、小鬼姫キキは、魔角と、闇属性の魔力を持った、男の子を産み、クレアの言った通り、里に帰らせ、数日後に、長い間、耐え通した心労で、眠る様に息を引き取った。
赤子の名は、ガインと、名付けられ。
母に似て、魔力が多く。
母とは違い、既に、抱き抱えるのも、大変な、大きな赤子だった。
ガインは、物心がついた頃には、両親は亡くなったと教えられ、キキの代わりに、里の者達に、大切に育てられた。
何時も、読んで頂き、ありがとうございます。
頑張って、書いていくので、よろしくお願いします。




