表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/85

5章 7 〈変幻妖〉スラン 後編

出来ました。

ブクマ登録、ありがとうございます。

では、スラン、後編です。

 城門の前に立つ、スランは、魔獣達の楽園の方角を見ている。

 兵士からの報告によると、後、一時間程で、自分の半身で有る、暴走しているダークスライムの私は、進行方向を此方に、向かっているという。

 間もなく、向こうの私の大きさであれば、姿が見え始めるだろう。


「報告します。

 スラン隊長、我ら、妖魔隊、各部隊、配置を終えました」

「……ソウ、ゴクロウ、サマ、デス。

 どりゅーね」

 スランは、背後に立つ、妖魔隊副隊長のドリューネに、振り返り、向かい合う。

「スラン隊長……先程の、仰有った事は」

「エエ、ソノ、ママノ、イミ、デス。

 ワタシハ、ゲンジ、テンデ、ロクマショウ、ノ、セキヲ、オリ、マタ、ヨウマタイ、ノ、タイチョウ、モ、ジ、シマス。

 どりゅーね、イマカラ、アナタ、ニ、ヨウマタイ、ノ、タイチョウ、ニ、ニンメイ、シマス」

「……スラン隊長」

 ドリューネは、ドライアドとしては若く、姉の様に信頼している、スランに、不安と、悲しみを混ぜ合わせた顔で、スランを見る。

 スランは、そんな、ドリューネの顔を見て、ドリューネの後ろに控えている、妖魔隊、各部隊長の三名に、ドリューネの指示に従う様、また、支える様に命令する。


「スラン、今、良いか?」

 その時、同じく、自身率いる隊の配置を終えた、ギバ、ダグド、ザンバインが、スランの下に集まり、声を掛けた。

「エエ、イマ、チョウド……ダイジョブ、デス。

 コチラ、モ、ハナシ、タイコト、アリマス。

 イマ、ココニイル、ドリューネニ、ヨウマタイ、タイチョウヲ、ニンメイシマシタ。

 アナタサマタチ、サンメイノブタイ、フクメ、ヨンブタイデ、コノアト、カンゼンナル、ワタシノ、トウバツヲ、オネガイシマス」

「分かった、後は任せろ。

 だが、スラン。

 お前も、頑張れ……頑張って、戻って来い!」

「フフ、ソウ、デスネ。

 ……デハ、ヨロシク、オネガイシマス」

 スランは、頭を下げ、その大きさにより、姿を見せ始めた、黒いスライムに、向き直り、歩を進めた。



 お互いが、手を伸ばせば、触れ合う程近い位置で、スラン達は進行を止めた。

 スラン達は、その姿を、溶ける様に体を崩し、お互いに向け、伸ばし、少しずつ混ざり合う。

 完全に一つとなった、スランの意識に、封印していた間、完全に対処出来なかった、此の世界の悪意に加え、先程、吸収した女性の深い憎悪が、襲い掛かる。


(そんな……これ程とは……)

 此の世界を作った神々の悪意が、魔族の中でも、妖魔族……世界から、魔力素を吸収して知恵と、心と、姿を持って誕生したスライムに、スランに、知恵と、心を奪い、魔獣として退化させようと苦しめる。

 更に、女性の憎悪が、神々の悪意を、暴走させる。

「アアアアァァァァァァーーー……………」

(皆様、ごめんなさい、これ以上は……もちません)

 スランは、一心に抵抗し、悪意を、憎悪を浄化するが、少しずつ、知恵を失い、心が本能剥き出しになり、堕ちそうになる。

 スランは、魔獣となり始める前に、心を守る為、今、最後に使える全力の魔力で、悪意と憎悪を包み込み、自我と共に封印し、白い核となった。

 一つの希望を、残して。


 その場に残った、黒いスライムは、この時点で、一匹の魔獣となり、魔族、人族の敵となる。

 黒いスライムは、再び、魔王城に向け、魔族を滅ぼす為、前進し始めた。




「来るぞ!

 各部隊、全力でスライムの進行を止め、向かい撃つぞ!」

 妖魔部隊、隊長ドリューネは、念話で聞いた、スランの苦しみ、無念、此方への思慮を受け、涙を流しながら、一時、四部隊を率いる隊長として、命令を出す。

「先ずは、死魔部隊は、攻撃範囲に入り次第、魔法を放て!

 獣魔部隊は、自軍、及び、目標の攻撃を避けつつ属性魔法を乗せた物理攻撃を打ち削れ!

 魔蟲部隊は、目標からの攻撃を、魔法、物理、何でも良い、自軍を全力で守り通せ!

 最後、妖魔族は、臨機応変に、各部隊の攻撃、防御を支援し、目標を……目標を討伐せよ!

 此れは、実戦だ!

 気を締めて、掛かれ!」

(此れで……此れで、良いんですよね?

 スラン様ぁ)

 命令を出した、ドリューネは、うつむき、崩れそうになるが、踏ん張り、顔を上げ、黒いスライムを睨む。

 その顔には、もう涙は流れてなかった。


「今だ!

 各自、攻撃開始!

 守備の者は、随時、戦局を見て、行動を!」

 黒いスライムが、攻撃範囲に入り、ドリューネの号令の下、戦いは始まった。


 戦いは、数時間をもって、苛烈を極り、放たれた魔法は、スライムの体を削り、焼き、魔法を付与した物理攻撃は、動きを阻害し、ダメージを与えた。

 ダークスライムの攻撃は、溶解液を放ち、数多い触手を振り回しで、死者や、負傷者を出したが、守り続けた。

 ギバ、ダグド、ザンバインは、スランの提案、魔王ミーザからの命令に従い、負傷し、魔力が切れ、崩れていく部下達を、歯がゆい思いで後方で見ていた。


 山の様に、大きかったスライムは、時が経つにつれ、小さくなり、弱っていった。

 高さが十メトル程になった頃、スライムの動きが変わった。

 魔獣となった本能で、身軽になった体を、素早く動かし、此方に向かって来る。

 目的は、妖魔部隊、水妖隊……つまり、スライム達だった。

 魔獣スライムは、水妖隊を殺し、吸収し、少しずつ、弱った体を戻していく。

 ドリューネは、スライム達を拡散、避難の命令を出し、岩妖隊、ゴーレム達が溶けるのを我慢しながら、隊列から追い出すが、かなりの被害を受け、無理に押し出した場所は、城の方面であった為、隊列を突き抜けた状態になってしまった。


 此れを好機に、ダークスライムは、後ろからの攻撃を牽制しながら、城に進行を再開した。



「……此れは、仕方がないな?」

「ああ、そうだな」

 ダークスライムの進行上を、ギバ、ダグド、ザンバインは、立ち憚り、参戦を決めた。

 ダグドの右肩には、スランから預かった、ピュアスライムが乗っている。

 そして、この時点で、部下達による実戦は終了となってしまった。

「思ったより、善戦したが、被害が多いか?」

 ギバは、部下達の状況を見渡し、感想を述べる。

「だが、三年後の時には、此処まで、突飛つした者はいないだろう?

 考えられる状況は、多数、隊列の合戦になるんじゃないか?」

 ダグドは、三年後の予想を立てる。

「かもしれん。

 今後の事を考えるに、どの様な状況でも、戦える様に、鍛えていくしかないだろう」

 ザンバインが、締める。

「んじゃ、始めるか。

 おーい、お前ら、此処までだ!

 負傷者を連れて、撤退しろ!

 此処からは、俺達がやるから、サッサと、この場を離れろ」

 ギバが、大声で叫び、各部隊に命令を出す。

「……すみません。

 私が、至らないばかりに」

 部隊が、撤退しているなか、ドリューネは、ギバ達の下に合流し、頭を下げた。

「おう、来たか、じゃあ、俺から行くぜ!」

 キバは、身体を魔力で纏い、ダークスライムに向かって行った。


「ウオオオオッ、〈光爪大連撃こうそうだいれんげき〉!」

 キバは、両手を広げ、各指に、一メトルの光の爪を出現させ、ダークスライムを、何度も引き裂き、ダークスライムの体を削り取ってゆく。

「次だ!

 〈雷獅子らいじし波動襲撃はどうしゅうげき〉!」

 先の連撃を終え、一旦、後ろに飛び、ダークスライムの反撃を避けかわし、両手に溜めた光の魔力を雷に変え、ダークスライムに向け、両手を突き出す。

 二メトルを超す、雷の獅子が両手から、飛び出しダークスライムに襲い掛かる。

 襲い掛かり、接触した場所は、ダークスライムを大きく抉り、弾け飛ばした。



「あ、あの?」

 ドリューネが着いた時点で、キバが飛び出し、ダークスライムに、単独で戦い向かったので、良いのかと、狼狽え確認した。

「彼奴の事は気にするな……元々、今回の実戦は、コイツ相手に、何処まで出来るのかの確認と、戦いの経験を増やす為の実戦だ。

 ドリューネは、この後、今回の死者数、並びに、負傷者の数等、状況報告を各部隊で調べて、兵士達に休息を……ドリューネ、お前もな」

 ダグドが、ドリューネを労い、指示を出す。

「了解しました、ありがとうございます。

 ……ダグド様、一つ、質問をしても宜しいでしょうか?」

「何だ?」

「その……肩に乗っている、スライムは、何でしょう?」

「ん?

 ああ、此れは、スランが、ここに来る前、会議室で預かった、ピュアスライムだ」

「スラン様か?」

「ああ、私も会議室を出た後、付いてきて、その後は、ずっと肩の上に乗っているんだ」

「そう、ですか」

 この時、キバの攻撃が極り、ダークスライムの動きを止め、深刻なダメージを与え、ダークスライムの体に、白い核が姿を現した。


「ピィーーー!」

「なっ?」

 突然、ダグドの肩に乗っている、ピュアスライムが鳴き、ダグドの肩から飛び出し離れた。

 ピュアスライムは、何度も跳ねながら移動し、最後に、光ながら大きく飛び跳ね、ダークスライムの体に、出現している白い核に、体当たりし、入り込んで姿を消した。


「おい、ダグド。

 あのチビ、何で、急に飛び出して来たんだ?」

 それを見た、ギバは、一旦、ダグド達の下に戻り、疑問を、ダグドにぶちまけた。

「いや、私達も分からん……突然、鳴いたかと思ったら、止める間も無く、この状況だ?」

 ダグドがそう言い、顔を見合せ、とりあえず状況を見守った。


 ギバの雷で麻痺し、動けないダークスライムは、白い核から筋の様な、ひび割れが起こり、そこから光が幾つも漏れ、やがて、白い核全体が光出し、それを包むかの様に、スライムの溶体が動き、二メトルくらいの黒い球体になり、再び、動きを止めた。


 黒い球体が、光り輝き、闇で染まったスライムが、次第に、薄い白の半透明になり、光が収まった。

 どうやら、ピュアスライムの光は、闇を払い消す、浄化の光だった様だ。

 完全に、光が収まった時、半透明のスライムの体の中に、一人の白く長い髪の少女が眠って、漂っていた。


 暫くすると、球体は弾け、横たわる少女に、半透明のスライムの溶体は集まり、少女の身体の中に、全て吸収して、最後に残ったのは、眠っている少女だけだった。


 数分後、少女は目を覚まし、身体を起こして、キョロキョロと辺りを見渡し、ダグド達が居る方向で、首は留まり、笑顔を見せた。


「スラン様?」

 ドリューネは、そう少女を見て呟き、よろよろと、少女の方に、歩いて行く。

「ドリューネ、心配掛けたね?」

 後、数歩という所で立ち止まった、ドリューネに対し、少女は立ち上がり、ドリューネの名を呼び、首を傾げ、呟いた。

「……スラン様」

 ドリューネは、涙を流しながら、少女の名を呼ぶ。

「うん、ただいま、ドリューネ」

「スラン様ぁ~」

 ドリューネは、少女……スランに抱き付き、何度も、スランの名を呼んだ。


 その状況を見て、ダグド達も、スランの下に近寄った。

「……本当に、スランなのか?」

 ギバが問う。

「ええ、そうです。

 キバ様」

「その、姿は?」

 ザンバインが問う。

「私も、よく分からないのですが……どうやら、封印を解いた者達……勇者の連れていた女性の姿を元に、作り出した身体ですね」

 そう、ギバ達は知らないが、ダークスライムが、吸収した女性、リアの一部を元に作られた身体。

 故に、どことなくリアの面影を持った姿だった。

「お前の封印を解いたのは、勇者だったのか……それより、あのピュアスライムは何だったんだ?」

 ダグドが問う。

「あのピュアスライムは……保険、でした。

 暴走した私を、何処かの時点で、再浄化出来ないかと思いまして、ダグド様に預けたのです。

 預けたピュアスライムは、ギリギリまで成長させていました。

 もし、最初に、私がダークスライムを浄化出来、浄化する必要が無かった場合、また、完全に悪意に飲まれた場合は、新たな人生?

 いえ、スライム生を送らせるつもりでした。

 だけど、保険は効きました。

 ギバ様の攻撃で、ダークスライムの体から、白い核が見えたと思います。

 白い核は、私に襲い掛かる悪意や、憎悪を、私の最後の悪足掻きで、封した物でした。

 あれが、露出した時、ピュアスライムに、信号を送り、再浄化して、今に至るという事になります」

「成る程な」

 ダグド達は、一応、納得はしたが、疑問は残った。

「しかし、何故、勇者は、お前の封印を解いたんだ?」

「……私も、よくは分かりませんが、女性の記憶からは、どうやら手札の一つにしたかった様ですね?」

「ふむ、詳しくは、魔王様達に、報告をしたほうが良いな」

「そうだな。

 ……ドリューネ、とりあえず、スランから離れて、兵士達の指示を頼む」

 ザンバインが、スランの話を聞いて、意見を言い、ダグドが同意した。

「はい……ぐすっ、了解しました」

 ドリューネが、涙を拭き、城に戻って行った。

「さて、私も行きますか」

 ドリューネを見送った後、ダグド達も城に戻った。

後編、少し長くなってしまいました。


ミーザは、ダグド達を信じて、城で仕事をしてました。

ミーザは、結構忙しいんです。

魔王だから


と、思ってください。



何時も、読んで頂いている方、ありがとうございます。

そして、ブクマ登録、ありがとうございます。

とても嬉しく、喜んでいます。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ