5章 7 〈変幻妖〉スラン 後編
出来ました。
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では、スラン、後編です。
城門の前に立つ、スランは、魔獣達の楽園の方角を見ている。
兵士からの報告によると、後、一時間程で、自分の半身で有る、暴走しているダークスライムの私は、進行方向を此方に、向かっているという。
間もなく、向こうの私の大きさであれば、姿が見え始めるだろう。
「報告します。
スラン隊長、我ら、妖魔隊、各部隊、配置を終えました」
「……ソウ、ゴクロウ、サマ、デス。
どりゅーね」
スランは、背後に立つ、妖魔隊副隊長のドリューネに、振り返り、向かい合う。
「スラン隊長……先程の、仰有った事は」
「エエ、ソノ、ママノ、イミ、デス。
ワタシハ、ゲンジ、テンデ、ロクマショウ、ノ、セキヲ、オリ、マタ、ヨウマタイ、ノ、タイチョウ、モ、ジ、シマス。
どりゅーね、イマカラ、アナタ、ニ、ヨウマタイ、ノ、タイチョウ、ニ、ニンメイ、シマス」
「……スラン隊長」
ドリューネは、ドライアドとしては若く、姉の様に信頼している、スランに、不安と、悲しみを混ぜ合わせた顔で、スランを見る。
スランは、そんな、ドリューネの顔を見て、ドリューネの後ろに控えている、妖魔隊、各部隊長の三名に、ドリューネの指示に従う様、また、支える様に命令する。
「スラン、今、良いか?」
その時、同じく、自身率いる隊の配置を終えた、ギバ、ダグド、ザンバインが、スランの下に集まり、声を掛けた。
「エエ、イマ、チョウド……ダイジョブ、デス。
コチラ、モ、ハナシ、タイコト、アリマス。
イマ、ココニイル、ドリューネニ、ヨウマタイ、タイチョウヲ、ニンメイシマシタ。
アナタサマタチ、サンメイノブタイ、フクメ、ヨンブタイデ、コノアト、カンゼンナル、ワタシノ、トウバツヲ、オネガイシマス」
「分かった、後は任せろ。
だが、スラン。
お前も、頑張れ……頑張って、戻って来い!」
「フフ、ソウ、デスネ。
……デハ、ヨロシク、オネガイシマス」
スランは、頭を下げ、その大きさにより、姿を見せ始めた、黒いスライムに、向き直り、歩を進めた。
お互いが、手を伸ばせば、触れ合う程近い位置で、スラン達は進行を止めた。
スラン達は、その姿を、溶ける様に体を崩し、お互いに向け、伸ばし、少しずつ混ざり合う。
完全に一つとなった、スランの意識に、封印していた間、完全に対処出来なかった、此の世界の悪意に加え、先程、吸収した女性の深い憎悪が、襲い掛かる。
(そんな……これ程とは……)
此の世界を作った神々の悪意が、魔族の中でも、妖魔族……世界から、魔力素を吸収して知恵と、心と、姿を持って誕生したスライムに、スランに、知恵と、心を奪い、魔獣として退化させようと苦しめる。
更に、女性の憎悪が、神々の悪意を、暴走させる。
「アアアアァァァァァァーーー……………」
(皆様、ごめんなさい、これ以上は……もちません)
スランは、一心に抵抗し、悪意を、憎悪を浄化するが、少しずつ、知恵を失い、心が本能剥き出しになり、堕ちそうになる。
スランは、魔獣となり始める前に、心を守る為、今、最後に使える全力の魔力で、悪意と憎悪を包み込み、自我と共に封印し、白い核となった。
一つの希望を、残して。
その場に残った、黒いスライムは、この時点で、一匹の魔獣となり、魔族、人族の敵となる。
黒いスライムは、再び、魔王城に向け、魔族を滅ぼす為、前進し始めた。
「来るぞ!
各部隊、全力でスライムの進行を止め、向かい撃つぞ!」
妖魔部隊、隊長ドリューネは、念話で聞いた、スランの苦しみ、無念、此方への思慮を受け、涙を流しながら、一時、四部隊を率いる隊長として、命令を出す。
「先ずは、死魔部隊は、攻撃範囲に入り次第、魔法を放て!
獣魔部隊は、自軍、及び、目標の攻撃を避けつつ属性魔法を乗せた物理攻撃を打ち削れ!
魔蟲部隊は、目標からの攻撃を、魔法、物理、何でも良い、自軍を全力で守り通せ!
最後、妖魔族は、臨機応変に、各部隊の攻撃、防御を支援し、目標を……目標を討伐せよ!
此れは、実戦だ!
気を締めて、掛かれ!」
(此れで……此れで、良いんですよね?
スラン様ぁ)
命令を出した、ドリューネは、うつむき、崩れそうになるが、踏ん張り、顔を上げ、黒いスライムを睨む。
その顔には、もう涙は流れてなかった。
「今だ!
各自、攻撃開始!
守備の者は、随時、戦局を見て、行動を!」
黒いスライムが、攻撃範囲に入り、ドリューネの号令の下、戦いは始まった。
戦いは、数時間をもって、苛烈を極り、放たれた魔法は、スライムの体を削り、焼き、魔法を付与した物理攻撃は、動きを阻害し、ダメージを与えた。
ダークスライムの攻撃は、溶解液を放ち、数多い触手を振り回しで、死者や、負傷者を出したが、守り続けた。
ギバ、ダグド、ザンバインは、スランの提案、魔王ミーザからの命令に従い、負傷し、魔力が切れ、崩れていく部下達を、歯がゆい思いで後方で見ていた。
山の様に、大きかったスライムは、時が経つにつれ、小さくなり、弱っていった。
高さが十メトル程になった頃、スライムの動きが変わった。
魔獣となった本能で、身軽になった体を、素早く動かし、此方に向かって来る。
目的は、妖魔部隊、水妖隊……つまり、スライム達だった。
魔獣スライムは、水妖隊を殺し、吸収し、少しずつ、弱った体を戻していく。
ドリューネは、スライム達を拡散、避難の命令を出し、岩妖隊、ゴーレム達が溶けるのを我慢しながら、隊列から追い出すが、かなりの被害を受け、無理に押し出した場所は、城の方面であった為、隊列を突き抜けた状態になってしまった。
此れを好機に、ダークスライムは、後ろからの攻撃を牽制しながら、城に進行を再開した。
「……此れは、仕方がないな?」
「ああ、そうだな」
ダークスライムの進行上を、ギバ、ダグド、ザンバインは、立ち憚り、参戦を決めた。
ダグドの右肩には、スランから預かった、ピュアスライムが乗っている。
そして、この時点で、部下達による実戦は終了となってしまった。
「思ったより、善戦したが、被害が多いか?」
ギバは、部下達の状況を見渡し、感想を述べる。
「だが、三年後の時には、此処まで、突飛つした者はいないだろう?
考えられる状況は、多数、隊列の合戦になるんじゃないか?」
ダグドは、三年後の予想を立てる。
「かもしれん。
今後の事を考えるに、どの様な状況でも、戦える様に、鍛えていくしかないだろう」
ザンバインが、締める。
「んじゃ、始めるか。
おーい、お前ら、此処までだ!
負傷者を連れて、撤退しろ!
此処からは、俺達がやるから、サッサと、この場を離れろ」
ギバが、大声で叫び、各部隊に命令を出す。
「……すみません。
私が、至らないばかりに」
部隊が、撤退しているなか、ドリューネは、ギバ達の下に合流し、頭を下げた。
「おう、来たか、じゃあ、俺から行くぜ!」
キバは、身体を魔力で纏い、ダークスライムに向かって行った。
「ウオオオオッ、〈光爪大連撃〉!」
キバは、両手を広げ、各指に、一メトルの光の爪を出現させ、ダークスライムを、何度も引き裂き、ダークスライムの体を削り取ってゆく。
「次だ!
〈雷獅子波動襲撃〉!」
先の連撃を終え、一旦、後ろに飛び、ダークスライムの反撃を避けかわし、両手に溜めた光の魔力を雷に変え、ダークスライムに向け、両手を突き出す。
二メトルを超す、雷の獅子が両手から、飛び出しダークスライムに襲い掛かる。
襲い掛かり、接触した場所は、ダークスライムを大きく抉り、弾け飛ばした。
「あ、あの?」
ドリューネが着いた時点で、キバが飛び出し、ダークスライムに、単独で戦い向かったので、良いのかと、狼狽え確認した。
「彼奴の事は気にするな……元々、今回の実戦は、コイツ相手に、何処まで出来るのかの確認と、戦いの経験を増やす為の実戦だ。
ドリューネは、この後、今回の死者数、並びに、負傷者の数等、状況報告を各部隊で調べて、兵士達に休息を……ドリューネ、お前もな」
ダグドが、ドリューネを労い、指示を出す。
「了解しました、ありがとうございます。
……ダグド様、一つ、質問をしても宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「その……肩に乗っている、スライムは、何でしょう?」
「ん?
ああ、此れは、スランが、ここに来る前、会議室で預かった、ピュアスライムだ」
「スラン様か?」
「ああ、私も会議室を出た後、付いてきて、その後は、ずっと肩の上に乗っているんだ」
「そう、ですか」
この時、キバの攻撃が極り、ダークスライムの動きを止め、深刻なダメージを与え、ダークスライムの体に、白い核が姿を現した。
「ピィーーー!」
「なっ?」
突然、ダグドの肩に乗っている、ピュアスライムが鳴き、ダグドの肩から飛び出し離れた。
ピュアスライムは、何度も跳ねながら移動し、最後に、光ながら大きく飛び跳ね、ダークスライムの体に、出現している白い核に、体当たりし、入り込んで姿を消した。
「おい、ダグド。
あのチビ、何で、急に飛び出して来たんだ?」
それを見た、ギバは、一旦、ダグド達の下に戻り、疑問を、ダグドにぶちまけた。
「いや、私達も分からん……突然、鳴いたかと思ったら、止める間も無く、この状況だ?」
ダグドがそう言い、顔を見合せ、とりあえず状況を見守った。
ギバの雷で麻痺し、動けないダークスライムは、白い核から筋の様な、ひび割れが起こり、そこから光が幾つも漏れ、やがて、白い核全体が光出し、それを包むかの様に、スライムの溶体が動き、二メトルくらいの黒い球体になり、再び、動きを止めた。
黒い球体が、光り輝き、闇で染まったスライムが、次第に、薄い白の半透明になり、光が収まった。
どうやら、ピュアスライムの光は、闇を払い消す、浄化の光だった様だ。
完全に、光が収まった時、半透明のスライムの体の中に、一人の白く長い髪の少女が眠って、漂っていた。
暫くすると、球体は弾け、横たわる少女に、半透明のスライムの溶体は集まり、少女の身体の中に、全て吸収して、最後に残ったのは、眠っている少女だけだった。
数分後、少女は目を覚まし、身体を起こして、キョロキョロと辺りを見渡し、ダグド達が居る方向で、首は留まり、笑顔を見せた。
「スラン様?」
ドリューネは、そう少女を見て呟き、よろよろと、少女の方に、歩いて行く。
「ドリューネ、心配掛けたね?」
後、数歩という所で立ち止まった、ドリューネに対し、少女は立ち上がり、ドリューネの名を呼び、首を傾げ、呟いた。
「……スラン様」
ドリューネは、涙を流しながら、少女の名を呼ぶ。
「うん、ただいま、ドリューネ」
「スラン様ぁ~」
ドリューネは、少女……スランに抱き付き、何度も、スランの名を呼んだ。
その状況を見て、ダグド達も、スランの下に近寄った。
「……本当に、スランなのか?」
ギバが問う。
「ええ、そうです。
キバ様」
「その、姿は?」
ザンバインが問う。
「私も、よく分からないのですが……どうやら、封印を解いた者達……勇者の連れていた女性の姿を元に、作り出した身体ですね」
そう、ギバ達は知らないが、ダークスライムが、吸収した女性、リアの一部を元に作られた身体。
故に、どことなくリアの面影を持った姿だった。
「お前の封印を解いたのは、勇者だったのか……それより、あのピュアスライムは何だったんだ?」
ダグドが問う。
「あのピュアスライムは……保険、でした。
暴走した私を、何処かの時点で、再浄化出来ないかと思いまして、ダグド様に預けたのです。
預けたピュアスライムは、ギリギリまで成長させていました。
もし、最初に、私がダークスライムを浄化出来、浄化する必要が無かった場合、また、完全に悪意に飲まれた場合は、新たな人生?
いえ、スライム生を送らせるつもりでした。
だけど、保険は効きました。
ギバ様の攻撃で、ダークスライムの体から、白い核が見えたと思います。
白い核は、私に襲い掛かる悪意や、憎悪を、私の最後の悪足掻きで、封した物でした。
あれが、露出した時、ピュアスライムに、信号を送り、再浄化して、今に至るという事になります」
「成る程な」
ダグド達は、一応、納得はしたが、疑問は残った。
「しかし、何故、勇者は、お前の封印を解いたんだ?」
「……私も、よくは分かりませんが、女性の記憶からは、どうやら手札の一つにしたかった様ですね?」
「ふむ、詳しくは、魔王様達に、報告をしたほうが良いな」
「そうだな。
……ドリューネ、とりあえず、スランから離れて、兵士達の指示を頼む」
ザンバインが、スランの話を聞いて、意見を言い、ダグドが同意した。
「はい……ぐすっ、了解しました」
ドリューネが、涙を拭き、城に戻って行った。
「さて、私も行きますか」
ドリューネを見送った後、ダグド達も城に戻った。
後編、少し長くなってしまいました。
ミーザは、ダグド達を信じて、城で仕事をしてました。
ミーザは、結構忙しいんです。
魔王だから
と、思ってください。
何時も、読んで頂いている方、ありがとうございます。
そして、ブクマ登録、ありがとうございます。
とても嬉しく、喜んでいます。
これからもよろしくお願いします。




