5章 3 アルテ・フェンシス
出来ました。
読んで頂いている方、大変、お待たせしました。
前回、投稿して、満足感が出てしまい、中々、今回、話が纏まらなかったです。
今回の話の時間軸は、
ルリが、目覚める一週間前の話で、サウルから引き上げて来てからの話です。
ブクマ登録、ありがとうございました。
「ふぅ、やっと終わった。
……魔族側、揃ったみたいだな?
待たせたか?」
五百人規模の一斉転移を出来るのは、ザーツだけで有った為、現在、廃村となっている所に送って来たところだ。
廃村と言っても、ただ、人が住んで居ないだけで、何らかの被害が出た場合、いつでも移住出来る様に、設備や、住居は整えている。
また、移住した際、別の場所に拠点を作るという作業も行わせている。
常に同じ場所に住めると決まっていないからだ。
ザーツは、会議室に集まっている者達を見て、ミーザに尋ねる。
「いや、そうでもない。
つい、さっき、揃ったところだ。
それに、ルリ姫と、エリック公爵を運びに行った、アミルと、付いていった王妃、リシェルは、まだ戻って来ていないな」
会議室には、魔王ミーザを始め、魔王軍六魔将の長にて、第一位〈無限〉のオズマ、二位の〈雷獣王〉ギバ、三位の〈鋼百足〉ダグド、四位の〈魔霊〉ザンバイン、五位の〈変幻妖〉スラン、六位〈狼姫〉のアルテ。
七年前、当時の第二位〈嵐刃〉アギに天使が取り付き、操られていたのを、ザーツが天使を炙り出す為、切り殺し、その後の順位の変動も有り、長い間、空席だった第六位に、昨年、獣魔族出身であるアルテ・フェンシスを迎えた。
人族側には、国王ラカール、空席三つ、タイタン、ガイ、ラーシャ、ルイ、キーシャ、ライ、ルーが順に座り、用意された軽食とお茶を楽しんでいた。
「そうか……っと?」
突然、後ろから、ザーツの腰元に軽い衝撃が有り、見ると。
一人の少女が、抱き付いていた。
「ししょー、お帰りなさい」
「おう?
……アルテか?
相変わらずだな、元気だったか?」
「うん、アルテは元気なのだ!」
「そうか」
抱き付いて来たのは、六魔将のアルテ。
半年前、リシェルが旅に出た後、ザーツが、魔王城に赴き、己の鍛練と、兵士達の訓練の為、訓練場に居た時、偶然、城に来たアルテに相手を挑まれ、適度に相手をしていたら、気に入られた。
それから何度か、相手をしていたら、何故か『師匠』と呼ばれ、こうして抱き付かれる様になった。
ザーツとしては、何故、リシェルといい、抱き付かれるのか分からなかったが、別段、普段から、リシェルに抱き付かれていたから気にしなかった。
「戻りました」
そう言って入って来た、アミルと、リシェル。
リシェルが部屋に入って、目にした光景……ザーツに抱き付いている少女。
「……」
リシェルは、無言でザーツ達の元に向かった。
「確か、六魔将のアルテちゃんだったかな?
どうして、おとうさんに抱き付いているのかな?」
リシェルは、少ししゃがみ込み、目線を合わせてアルテに聞いた。
「ん?
何だ、お前?」
ピキッ、と、近くに居る、ミーザには聞こえた。
「……うん、私は、今、貴女が抱き付いている人の娘、なんだけど、何で、抱き付いてるのかな?」
「娘?
そうなのか?
お前、人族だろ?
何で、魔族のししょーに、人族のお前が、娘なんだ?」
「それは……私が、おとうさんに育てて貰ったから」
「そうなのか?
でも、抱き付く権利は、誰にでも有るのだ!
だから、私が抱き付いても良いのだ」
「それは……」
「それに、やっぱり、人族が、魔族の娘って、おかしいのだ。
ぜったい、嘘なのだ!」
「……」
リシェルは、この時、チラリと、人族側に座っているラカールを見た。
見てしまった。
「あ……」
故に、いつもなら、言える事も言えなくなってしまった。
「いたいっ」
声をあげたのは、アルテ。
見れば、ザーツを抱き締めていた腕を、ザーツが握り潰すが如く、右手で握り締めていた。
その力は、段々と強く、やがてピキッと、枯れ木が折れた音が鳴った。
ザーツが、本当にアルテの腕を握り折ってしまったのだった。
「うああぁぁーーーーー、いたい、ぼくの腕が折れた、ししょー?
どうしてーーーー……、ひぃっ!」
あまりの痛みの為、座り込んでしまい、混乱しながらも、ザーツを見上げた。
アルテは、ザーツの顔は、あまりにも、いつもの優しい顔ではなく、痛みを一瞬、忘れてしまうぐらいに恐ろしかった。
また、リシェルも、物心がついた時から、今までその様な怒りを表した顔を見た事は無かった。
違う意味で、リシェルは声を出せなかった。
恐ろしさで……。
「……アルテ、お前、何が嘘なのか、もう一度言ってみろ?」
「し、ししょ~?」
ザーツが何を言っているのか、痛みと、混乱が混ざり合い、アルテには、何が起こっているのか、理解出来ない。
「俺は、十二年以上前、リシェルを引き取ってから、覚悟を決め、ガイや、ラーシャの力と、知恵を借りながらも、一生懸命、見守り、時には、癒され、共に勤しんでいた日々を嘘だと?
お前に何が分かる?
ミーザ?
何故、お前は何も言わない?
七年前のあの時、お前は、リシェルの母親と認め、誓ったんじゃないのか?
あれは、嘘だったのか?
リシェル、お前は優しいな?
普段のリシェルなら、必ず反論していただろう?
だが、リシェル、あの時、ラカール殿を見ただろ?
ラカール殿、そして、今ここに居ないリサ殿を、思って、何も言えなかったんだな?
ラカール殿、貴方達には悪いが、俺は、リシェルを実の娘として接して来た。
貴方達が、どう思おうが、俺達は親子だ。
リシェルは、実の娘だ!
誰が、何と言おうと、反論を許さない」
「……分かっています。
ザーツ殿、私には、貴方に文句を言う資格も、権利も無い。
有るのは、此処まで立派に育てて頂けた事を、感謝の念しか有りません。
落ち着いた時、こうして、言わせて貰おうと待っておりました。
妻のリサは、今、居りませぬが、共に感謝を」
リシェルは、二人の父親の言葉で、涙を流す。
その言葉と、心で、リシェルは満たされ、腕を押さえているアルテに近寄り、魔術で腕を治癒し、アルテを立たせて、後ろに庇い、ザーツの方に顔を向ける。
「おとうさん達、ありがとう。
私、どう言えば良いのか、分からないけど、おとうさんに育てて貰えて、嬉しい。
だから、もう、アルテちゃんを許してあげて?」
「……ああ」
リシェルの言葉を聞いて、怒りを納めたザーツは頷いた。
「ガッハッハァ、ザーツ。
相変わらず、リシェルには甘いのぅ」
そう言って、近付いてきた六魔将のギバは、ザーツの横に立ち、肩を叩いた。
「……」
ギロリと睨む、ザーツ。
「おっと、まだ、完全には収まっておらぬか……?」
ギバは、そう呟き、頭を下げた。
「済まんな、ザーツ。
俺からも、アルテの言った事を謝る。
こいつの父親は、かつて、俺の親友でな……そいつが死んでからは、度々、面倒を見て居たんだが、中々早々、会うことも出来なくてな?
こいつの産まれた事情も含めて、ややこしくてな?
リシェル、良かったら、こいつの友達になってくれぬか?
こいつ、同年代の友達が、居ねぇんだよ」
「……ギバさん」
「おお、何だ?
リシェル、昔みたいに、ギバおじちゃんって言わないのか?」
「言わないよっ!
と言うより、言ってないよ!
じゃ、なくて……事情て何?」
リシェルは、顔を赤くして、抗議しながらも、気になる事情を尋ねた。
「ん、ああ、こいつの種族、獣魔族の白狼族は、闇属性が産まれる事が稀なんだ。
アルテの母親は、集落の長の娘で、アルテを産んだ後、亡くなった。
その事も含め、集落で、アルテは爪弾……いや、もう、あれは迫害に近い扱いだったな?
アルテを守っていたのは、父親のガルテと言うんだが、数年前に、ガルテも死んでしまったんだ。
その前に、アルテは、大悪魔マルコシアスと契約したんだが、実はマルコシアスは、白狼族を含む、狼族が祭り崇める狼型の悪魔で、それまで、アルテを迫害していたクセに、白狼族はアルテを、ガルテから引き離し迎い入れ、保護すると言い出したんだ。
当然、ガルテは断り、アルテも白狼族を忌避した。
すると、白狼族は強硬手段を取り、ガルテを殺してでも、アルテを奪おうとした。
ガルテは強かったが、多勢に無勢で、少しずつ傷付き、弱っていった。
その頃だな、他の狼族がアルテを引き取ろうとしたのは、父親を助けてやるから、己の部族に来い、と言って来たのは……ガルテは、こうなる事を読んで、俺に連絡し事情を知った、俺は魔王に話し、魔王軍に迎い入れる様に頼んだ」
此処まで話を聞いた、ザーツと、リシェルは、ミーザの方に顔を向け、ミーザは「本当だ」と言って頷いた。
そして、そのまま話を、ミーザが引き継ぐ様に話を続ける。
「事情を聞いた、私はギバと共に、ガルテの元に向かい着いた時には、ガルテは力尽きる寸前だった。
ギバは、ガルテの最後をみとり、私は、白狼族をや、他の狼族を戒め、アルテを引き取り、ギバの頼み通り、魔王軍に迎い入れ、長年空席だった、六魔将の末席にした。
当然、反対の声は有ったが、アルテの実力は、マルコシアスを除いても、選りすぐりの兵士十人に対しても、十分に勝てる程だ。
直ぐに収まったよ。
……さっき、ザーツに言われたが、アルテがザーツに抱き付いていたのを見ていて、父親に甘える様に見えてな?
いや、違うな……リシェル、理由はどうあれ、弁護出来なくて済まない。
どうしてだろうな?
私は、リシェルの母親のつもりだったが、所詮は、つもりだったみたいだ」
ミーザは、寂しそうに微笑んだ。
それを見た、ザーツは深いため息を吐き、ミーザに近付き。
「ザーツ?
……あ、痛い」
ある程度の痛みが有るチョップを、ミーザの頭に落とした。
「馬鹿か?
事情は分かったが、知らなかったとはいえ、俺も少し短気過ぎた。
お前は、アルテを、軍に入れたのなら、お前の事だ?
アルテの母親のつもりなんだろう?
並ば、落ち込んでるんじゃなくて、アルテに注意してやらなくて、どうする?」
「そ、そうか」
「……ねぇ、おとうさん?」
「どうした、リシェル?」
「おかあさんって、アルテちゃんのおかあさんになったの?」
「まあ、そういう事になるな?」
「ふーん、そっか……ねぇ、おかあさん?」
「ん、どうした?」
「じゃあ、アルテちゃんは、私の妹になるの?」
「んっ、んー?
この場合、どうなるんだ……ザーツ?」
「自分で考えろ」
「ザーツ……其れは酷いんじゃないか?
仮にも、私、魔王だぞ?」
「甘えるな、魔王」
「リシェルー、ザーツの奴、酷いと思わないかー?」
あくまで突っ張るザーツから、リシェルに対象が変わる。
「んー、この場合は、おかあさんがハッキリしないから悪いんじゃないかな?」
「なっ?」
娘に甘えるミーザに、リシェルは正論でバッサリ返した。
「プッ」
黙って聞いていたアルテを除く、六魔将は堪えきれず笑い出す。
「相変わらず、仲が良いな、ザーツよ?」
そう言って来たのは六魔将の長にして、魔族の重鎮、第一位オズマ。
「うるせぇ、おっさん」
ザーツは、憮然と睨む。
オズマは、其れを流して、ミーザの方に顔を向ける。
「魔王様、分かってますか?
ザーツは、貴女の魔王としての威厳を守る為に、敢えて、ああいう態度を取っているのですぞ」
目線を、ミーザから、人族側に座っている面々を見て、ミーザに戻す。
「あっ……」
気付いたミーザは、ごほんっと咳払いし、姿勢を正した。
「いや、もう遅いですぞ」
「くっく、本当、うちの魔王は、ザーツと、リシェルが絡むとポンコツだな」
「うるさいぞ、お前達!
……ごほんっ、ラカール殿、失礼した」
もう一度、咳払いをし、頭を下げた。
「いやいや、王だって間違える。
其れを、進言出来る臣下……其れは、王にとって、宝だ。
だが、逆に、臣下は、王に甘えてはいけない。
……と、いう私には、その様な者は居なかったな。
今となっては、羨ましく思う」
ラカールは、目を瞑り、微笑んでいるが、何処か寂しそうだ。
「ラカール殿……改めて、済まない。
少々、配慮が足りなかった」
「此方こそ、済まない。
保護されている身で、偉そうな事を言いましたな」
「いや、勉強になる」
ミーザは、ゆっくり首を振り立ち上がり、リシェル達の元に行き、リシェルと、アルテの二人を抱き締めた。
「リシェル、さっきの答えだが、私はアルテを娘をして引き取った。
其れに、リシェル?
私は、お前の母親を、辞めたつもりは無いぞ。
だから、アルテは、リシェルの妹だ」
「分かった。
アルテちゃん……ううん、アルテ?
私は、リシェル。
貴女の姉だよ。
ヨロシクね?」
「姉?」
「そうだよ。
アルテのお父さんの事、聞いたよ……私には、アルテの気持ちは、完全には分からないけど、おとうさん達がそんな事になったら、やっぱり悲しいよ。
そして、聞いていたと思うけど、アルテのお父さんの頼みで魔族の王が、アルテを引き取り、私達を娘と言ったんだから、姉妹だよね?」
「……怒ってないの?」
「何が?」
「さっき、ぼく、酷い事言った」
「酷い事?
ああ……あれか!
そう、だね。
少しは、ムカついたけど、怒ってないよ」
「……本当?」
「本当。
後、因み、おとうさんも、もう怒ってないよ」
後ろに立っているザーツに、指を指して教えてあげる。
「……うそ、ししょー、さっき、凄く怖かった」
「あー、あれは怖かったねー!
私も、初めて見たよ」
「えっ?
リシェル、初めて見たの?」
リシェル達の話を、聞いていたミーザが驚いて尋ねて来た。
「えっ、う、うん、初めてだよ?
……おかあさん、もしかして?」
そんなに、怒らせていたの、という、呆れた顔をする、リシェル。
「いや、だって、ザーツって、昔から、怒りぽっいだろ?」
慌てて、言い訳するミーザに対して、
「あれは、お前が余計な事ばかりするからだろ?
……どんな事をしたか、リシェルに、教えてやろうか?」
「や、止めてくれ」
ザーツが、ため息を吐きながら、リシェル達に、目線を合わせた。
「アルテ、済まない。
さっきは、遣り過ぎた。
許してくれ」
「……ししょー?」
「後、リシェルが姉なら、リシェルの父親である俺は、アルテの父親でもある。
……アルテが、望むならだが?」
「お父さん?」
「ああ……勿論、アルテの父親、ガルテの勇敢な姿は、此れからも、アルテの、心の中に生き続ける。
そして俺達は、血は繋がっていないが、家族に成れる。
そう、思っている。
其れに、其処に座っている、六魔将達もはじめ、この部屋に居る人、全員、家族に成れると、俺は思っている」
ザーツは、部屋に居る者、全員、見渡し微笑む。
アルテも、連れて見渡し、最後に、リシェルを見た。
目が合った、リシェルは微笑み、どうしたの、と尋ねる。
「リシェルお姉ちゃん」
「ん?」
お姉ちゃんと呼んでくれた事に、気付き、笑みを深める。
「リシェルお姉ちゃん」
もう一度、呼んだアルテは抱き付いて、胸元に顔を埋める。
リシェルは、抱き締め返し、頭を撫でる。
「アルテ、よろしくね?」
アルテは、埋めたまま、耳まで顔を赤くし、頷いた。
「さて、話が纏まったな?
……ライ、そろそろ、お前の話を聞こうか?」
ザーツは、微笑ましい二人を見て、和んだ後、ライを見て、そう言った。
何となく、前回の話と、似た所が有りますが、こうなりました。
よろしくお願いいたします。
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