5章 2 ルリ・イルミア 中編
出来ました。
遅くなってしまい、申し訳ございません。
よろしくお願いします。
今回の話、少し前
ルリは、国王の部屋に呼ばれ、帝王レオハルトの守護せし、心霊ミカエルから、この世界の全て、人族と魔族、意味の無い戦いの歴史、神々の行い、12年前に死んだはずの妹の事、今代の勇者の事を、婚約者のウォルドと共に、話を聞き、力を貸すと決めた。
兄クレインと、三人で部屋を出て、夜会に向かう途中
ここから、今回の話。
「其所に居るのは、誰だ?
出て来い!」
途中、それに気がついたのは、ウォルドだった。
クレインと、ルリの前に立ち、柱の影に隠れて居る者に促す。
「……良く、気が付いたね?」
そう言って出て来たのは、自分達と変わらない年齢の青年だった。
「ふふ、誰だ?って顔をしているね。
初めまして、僕は勇者。
勇者アベル・ノーマンと言います。
よろしくね?」
「勇者だって?」
「まさか、そんな?」
クレインや、ルリは驚く。
本人の言う通りなら、先程まで、父達と話していて、出て来た人物の一人が目の前に居る事になる。
そして、この世界を消滅させようとしている、創造神に取り付かれている、勇者がここに居る。
「勇者、だって?」
クレインは、警戒しながら尋ねる。
「そう、君達に、僕の仲間になって貰おうと思ってね?」
「何を、馬鹿な?」
「……うーん、その反応、もしかして神霊ミカエルに、何か、聞いたりしている?」
「だとしたら、どうだと言うんだ?」
「うーん、少し、面倒臭いけど、仕方ないよね?
こう、するよ」
勇者は、右手で、ピシッっと、指で合図を鳴らした。
白い影が、ルリ達の頭上から降り立ち、三人の中にそれぞれ入り込んだ。
「くっ?」
「何、何か、私の中に?」
「あ、頭が……」
三人は、頭を押さえ、膝をつき苦しむ。
暫くして、三人は立ち上がり、勇者に向けた顔は、警戒心は無く、親友に向ける様な笑顔だった。
「成功、かな?
僕の事、分かる?」
「ええ、勇者アベル。
私達に命令を……」
三人はそれぞれの一礼をし、勇者の言葉を待つ。
「おー、成功だー!
それじゃ、お願い。
えーと、君!
……名前は、分かんないや?
君達、名前、教えて?」
「クレインです」
「ルリです」
「ウォルドです」
「そっか、分かった。
じゃ、クレイン、君は此れから、僕と一緒に、兵士達のところに行って、僕の駒になる様に、洗脳して行こう」
「はい、分かりました」
「んで、君達は、此れから夜会だよね?
「はい、そうです」
「じゃあ、来ている人達を洗脳、終わったら、少し休憩して、兵士達を連れて最南端の街サウルの住人を洗脳して、占拠する事。
よろしくね。
兵士の数は、後で、クレインと相談して、向かってね」
「「分かりました」」
「んじゃ、クレイン、行こっか」
「はい」
勇者は、クレインを連れ、兵士達の居る詰所に向かった。
「ルリ」
「ええ、行きましょう。
アベル様の為に」
この後、二人は夜会に出る準備をし、夜会が行われる会場に向かい、ルリの弟クロード、来場している貴族達、邪魔にならない様に立食で使用された食器等を片付ける侍女達、その他大勢の者を連鎖する様に洗脳して行った。
やがて、夜会も終わり、天使に取り付かれたルリ達は、勇者に言われた最南端の街サウルに向かう迄の、少しの時間、身体を休める為、ベッドで眠りに入った。
目を瞑り、眠りに入る、浅い意識の中で。
『私達から、出て行きなさい!』
『おや、驚きました。
まだ意識が有るのですね?』
暗い場所で向き会うのは、二人のルリ。
だが、一人は鳥篭の様な檻の中に居て、一人はその外から向かい立っていた。
『私達の身体と記憶を使って、どうするつもりよ』
檻の中のルリは激情的に問う。
『……私は、此れから貴女として生き、アベル様がこの世界で勝利する為の駒として、死ぬ迄行動します』
外にいるルリは、冷静に答える。
『貴女は、其れまで其処で見ていてください』
外にいるルリは、反転し、その場を離れた。
(しかし、何故、完全に私と一つにならなかったのでしょう?
少し、気になりますが……まあ、些細な事でしょう。
別段、困る事は有りません)
そして、完全に意識を落とし、眠りに付いた。
『私は、まだ諦め無い。
こうやって、まだ意識を保っているのだから……でも、どうして意識を保てるのかしら?』
檻の中のルリは考える。
そして、一つの答えに辿り着いた。
『そうか、ミカエル様が言っていた。
神に順ずる神霊、若しくは敵対する悪魔の干渉で神の法律は意味を無くすと、並ば、天使の能力が完全に作用していないなら……天使だけを排除出来る存在が居れば、私達は助かる?
でも……そんな都合の良い存在って居るのかしら?
ううん、今の私は、ここから出られないのだから、その存在が居る事を、祈るしかないわ!
お願い、私達を助けて』
檻の中で、ルリは祈り続ける。
自分の解放を、
家族の安否を、
そして、まだ、会った事のない妹、リシェルの勝利を祈り続ける。
朝、天使ルリと、天使ウォルドは兵士詰所に行き、天使クレインと話し合って、五百の兵士をサウルに連れて行く事決めた。
サウルの街には、天使ルリと天使ウォルドで、転移魔術を何度か区切って使い、距離を稼ぎ、夕方当たりで、街に着いた。
「へえー?
中々、強力な魔獣避けの結界が、敷かれているわね?
しかも、その中に、判り難い私達避けも含まれているわ」
天使ルリが、目を細め、何も無い空間を睨み、結界の意味を知る。
「そうなのか?」
「ええ、貴方みたいな探知能力の無い者が、気付かず、そのまま街に入って行ったら、結構なダメージを受けていたでしょうね?
ふふ、この身体に、感謝かしら?」
「では、とりあえず、結界ギリギリ迄、進み兵士による威圧をしかけ、中の住人を揺さぶってみるか?」
「そう……ね」
天使ウォルドが、そう提案すると天使ルリは、手を顎に持って行き、思案する。
「いえ、一度試してみましょう」
何も無い空間、結界に手のひらを向け、魔法を放つ。
「〈氷魔法、氷杭撃〉」
天使ルリの上空に、氷で出来た巨大で先端が鋭く尖った杭が現れ、天使ルリの向けた方向に、先端から向かって落ちて行き、やがて、結界に当たり、突き刺さった。
ピシッ!
ピキ、ピキッピキキキキーーー
パリーーーーンッ……………
結界を突き抜け、大地に刺さった巨大な氷の杭。
結界に穴が開いた所から、至る方向にひびが入り、街を追おう結界が割れ、結界は消滅した。
「……成功っ!
次は、ウォルドの番ね?」
「ああ、任せろ」
天使ウォルドが、一歩、前に踏み出る。
すぅーっと、息を深く吸い込み、魔力を込めて言葉を発する。
「何だっ?
今、何が起こった?」
街の外で、大きな魔力を感じたと思えば、今度は、結界が割れた音が聞こえ、サウル傭兵ギルド、ギルド長、サラド・メイルは、窓に駆け寄り、外を見た。
「結界が……消滅している、だと?」
サラドは、この街の結界を張った人物を知っている。
長年、別の姿で、ここに来ていた魔族で、半年前に、その魔族の依頼が解決され、本当の姿で現れた時、サウル全域に強力な結界を張って、魔族領に戻った、アミル・タンザナイト。
「長い間、世話になった。
人には、被害は無く、魔獣は、虫型で有ろうが、土の中から来ようが、入る事は無い。
……が、別の存在が現れて、中に入ろうとして、結界は壊すかもしれない。
その様な事は、起こって欲しくは無いがな」
アミルが、言っていた言葉通り、街に、魔獣が入って来なくなり、街の住人は、安心して暮らしていた。
だが、結界が、壊されたという事は、アミルの言った、別の存在が、この街に来たという事だ。
その事を思い出し、サラドは、ギルド職員に指示を出す為、部屋を出ようとした。
その時、サウルの街に大きな声が、鳴り響く。
『私は、イルミア王国、エリック公爵家当主、ウォルド・フォン・エリック。
そして、私の横に居られるのは、イルミア王国、継承権第三位、ルリ・イルミア第一王女である。
この度、我らが、サウルに来た理由。
長年、サウルに、決して少なくない魔族が、この街に居たと確認した。
魔族だと気付いていながら関わった者、気付かず共に暮らしていた者達を捕らえる為、また、未だ、この街に隠れて過ごして居る魔族を滅ぼす為、我らは、この街に参上した。
先ずは、この街の責任者は、我らの前に、現れて話を聞かせて貰いたいと思う。
責任者は出て来たまえ』
「第一王女だぁ?
確か、第一王女は、魔法に長けてるって聞いた覚えが有るな……結界を壊したのは、そっちか?」
街全体に聞こえいるんだろう。
外に出ている住人は、戸惑いながら、また、話し合い、王女が、この街に来た事に戸惑いが隠せない。
「不味いな……」
そんな街の様子を見て、サラドは呟く。
(ギルド長、聞こえますか?ギルド長?)
「な、今度は何だ?
何処から、聞こえた……?」
突然、頭の中で聞こえ声に、サラドは、部屋を見渡し、声の主を探す。
(ギルド長、落ち着いてください。アミルです)
「あ、アミルか?
どうして、アミルの声が、頭の中で聞こえるんだ?」
(そうです。アミル・タンザナイトです。これは念話という魔術です。
後、千里眼という魔術で、そちらの状況も分かっています。
とりあえず、そのまま、落ち着いて聞いてください。
今、第一王女と、エリック公爵という者が、街の外で、私の結界を壊し、責任者を呼び出しているはずです。
彼らは、本物です。本物ですが、天使という存在に取り付かれています)
「……前に言ってた、創造神が、うんたらかんたらって、言ってたヤツか?
と、いう事は……これは創造神の仕業か?
(ええ、ただ)
「ただ?」
(詳しい事は、後で話します。
とりあえず、ギルド長。ギルド職員にある程度の話をして、責任者として、ギルド長は王女達の所に行って貰えますか?
出来るだけ、時間稼ぎをして欲しいのです)
「時間稼ぎか……何故だ?」
(此れから、魔王様達に、この事を話して援軍を貸して貰おうかと思ってます。
丁度、ザーツさん達も戻って来てますので……その間、ギルド長に)
「時間稼ぎだな」
(そうです)
「分かった。
行こう……だが、早めに頼むな?」
(分かりました)
念話が切れ、複雑な思いを払拭する様に、頭をバリバリとかき、部屋を出てギルド職員達に、ギルドに住人を集める様に、指示を出した。
その後、サラドは、街の外に向かった。
「待たせたな。
俺が、責任者だ。
街長は歳で、最近足腰が悪くなってきたんで、俺が来たんだが……駄目だったか?」
「構わないが……私達は、誰だか名乗ったはずだが?
王族、貴族に交わす言葉じゃ、無いな」
タバコを咥え、腰に剣を差し、飄々とした態度で、私達の前に立つ男に、天使ウォルドは非難する。
「ふぅー……悪いが、俺は田舎出身の傭兵上がりでね。
最初は、敬語は愚か、普通に読み書きや、言葉も上手くなくてな?
今じゃ、俺にとって、此れが普通なんだわ。
増して、王族、貴族?
見掛けた事は有っても、声を掛けられる様な活躍もした事無いし?
Aランクだった、ていっても、こんな端っこにやられるし?
ああ、名前、言ってなかったな?
この街の傭兵ギルドで、ギルド長をやってる。
サラド・メイルだ。
ところで……あんたら、本当に、王族?
貴族?
会った事無いから、分かんねーわ?」
紫煙を長く吐いたかと思ったら、長々と講釈を垂れ流し、挙げ句に、私達を偽物と疑う。
単に愚か者なのか、肝の座った馬鹿なのか、それとも、此れが演技で、此方の事を伺っているのなら中々に面白い人物だ。
だが……意図が分からないな?
天使ウォルドと、会話する目の前の男、サラドは何を、狙っている?
「悪いが、私達は本当の事を言っている。
が、今は、それを証明するつもりは無い。
この街が、魔族に関わっている事は確実だ。
故に、今から、私達は街に入らせて頂く」
「この街に、魔族が?
いや、長い事、この街に居るが……聞いた事も、見た事も無いな?
何かの、間違いじゃないのか?
俺の知っている奴か?
名前を、知っているなら、教えてくれ」
「……ザーツ・シュザット、ガイ・ハワードと、その一家」
「マジか?
彼奴ら、結構顔合わせているが、全然、気が付かなかったぞ?」
サラドは、初めて知ったという風に驚いた。
が……
「くすっ、そういう事か……時間稼ぎ。
サラドと言ったわね?
貴方の演技、見事だったわ。
貴方の目当て……来たみたいね」
サラドの後ろを指で差す。
「ん?
おおっ、来たか!
あー、もー、来てくれて、良かったー。
何だよ?
天使に取り付かれた、第一王女と、その婚約者って?
そんなん、俺に対応させるなよー?
お前らー!」
援軍に悪態ついている、サラドが気になる
「……一つ、聞いて良いかしら?」
「んぉ?
……ああ、何です?」
まだ、悪態をついていた、サラドは状況を思い出し、振り返る。
「あら?
敬語、出来無かったのじゃなかったかしら?
「いえいえ、勿論、あれは嘘です。
多少ですが、失礼の無いぐらいは出来ます。
それと、この国の第一王女様と、その婚約者にあたる公爵様の顔は、ギルド長として、知っておりますよ?
聞きたい事は、此れでよろしいですか?」
先程と、まるで人が、変わったかの様な態度に、天使ルリは、また驚く。
何処までが、演技だったのか?
口角が少し上がるのが、分かる。
「いいえ、聞きたいのは、どうして私達が天使だと知っているのか、だったのだけど……やっぱり、魔族からよね?」
「ええ、そうですよ。
さて、彼らも来たので、私は、此れで失礼させて頂きます」
「そう?
残念ね……さようなら」
天使ルリは、何の動作も無く、氷の針をサラドに打ち出した。
まさかの中編です。
と、いうよりも、なってしまいました。
中々、踏ん切りがつかず、中々、投稿出来なかったので、ここで切りました。
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入れて貰って、数字が上がるのは、いつもうれしいです。
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