4章 11 準決勝第二試合、リシェルの……
出来ました。
読んで頂いている方達、毎回遅くなり申し訳ありません。
とりあえず、どうぞ
「おめでとう、お疲れ様、ライ」
試合を終え控え室に戻らず、選手用の観覧席に戻った、ライは、観戦していたリシェルが待っていた。
「……おう」
「……あれ?
まだ、話し掛けたら駄目だった?
ライが、勝ったから、もう良いかって思ったんだけど」
そういう事じゃなかったんだけど、と思いつつ……ま、いっか、速かれ遅かれ同じか、とも思った。
「……いや、リシェルさえ、それで良いなら大丈夫だ。
しかし、知らねぇぞ?
もし、万が一、負けたらどうするんだ?」
「ん?
んー、そう、だな?
負けるつもりで、戦わないけど……その時は、その時かな?
でも、ライ?
話し変わるけど、さっきの試合、面白そうな魔法使ったね?
……やっぱり、私対策、かな?」
「まぁな、ついでに言えば、後、二つ奥の手が有るぞ。
楽しみだろ?」
「そうだね?
半分、怖いけど……楽しみだ!」
「しかし、さっき、見せただけで、もう特性が分かったのか?」
「うん、でも、実況でギルド長も気付いたみたいだよ?」
「マジで?
流石だな、ま、分かっても別にいいけど」
「良いの?」
「分かっても、対処出来るのと、出来ないのが有るだろ?
俺みたいに」
だから、覚悟しておけよ?という意味を含めた。
「それも、そうだね」
……分かってなかった。
いや、どうかな?
「んじゃ、お前の試合が始まるまで、少し休憩するか」
リシェルの横の椅子に座り、背にもたれ目を閉じた。
それを見た、リシェルは微笑み、試合が始まる前まで横にいた。
『さて、間もなく、準決勝、第二試合が始まります!
この試合の見所は、やはり〈零の極致〉を使う者同士の対決でしょうか?
そのところはいかかでしょう、本部長!』
『……うむ、勿論、そうだが。
二人は、それだけじゃないという事だな』
『と、いいますと?』
『カムは、其処までに至る経緯、剣聖に届く剣修行。
それは、無視出来ない脅威!
だが、リシェルには、さっきの試合のライと同じ師匠から習いし棍術を元に、更に、アークが最後に教え、達人の域まで到達した槍術。
〈零の極致〉が無くても、この試合、見ものだ!
正に、準決勝に相応しい!』
『なるほどー!
確かに、そうです!
私達は、これまでの試合で、そうの経緯を見て来ました!
そして、この試合も、次の決勝に結び付く為の戦いになるでしょう!
さあ、両者、戦いの場、大舞台に上がって来ました!
後は、審判が上がって来るだけ!
皆様、もう少しお待ち下さい!』
この後、休憩から戻って来た観客は、再び舞台に目が釘付けになる。
「カムさん、よろしくお願いします」
向き合ったリシェルが、カムに挨拶をする。
「後、連れのライが、失礼な事を言ってすみません」
「確かに、彼は失礼なヤツだが、君が、謝る事じゃないな。
でも、彼が言っていた事は、あながち間違ってはいない。
君は強い。
昨日、君の試合を見て、俺と、ナユタ・カーリーは戦慄したよ。
君の実力に……そして、槍聖アークに勝った事に」
「……あれは、偶然ですよ?」
「そんな訳があるか!」
リシェルの否定的な答えに、カムは激昂した。
「あの人に勝つのに、偶然だと?
人を馬鹿にするのも、大概にしろ!
槍聖に勝つ、それだけでも、とてつもない偉業なのに、否定的な答え方をするのは、止せ!
そして、それは、その者に勝った事に対して侮辱となる!」
「……そう、ですね。
確かに、そうです!
カムさん、ありがとうございます」
「……いや、こちらこそ失礼した。
つまり、何が言いたいのかというと、だな。
君は、もっと自信を持っていれば良いんだ。
そんな君と戦う事が、昨日から楽しみなんだ」
「はい、私も楽しみです!
……ただ、一つだけ、不満に思う事が」
「何だ?」
「実は、カムさんとの勝負なんですけど、槍ではなく、剣で戦いたかったな、と思って」
「どういう事だ?」
「私、この大会は、槍の対人技術を高めたかったんで、槍で出たんですよ。
でも、槍は、昨日、思わぬところで、強くなれたと思うんですよね。
でも、カムさんとなら、メインの武器である、剣で勝負したかったな、と」
「……メインは剣、なのか?」
「そうですよ?
……審判に、頼んでみようかな?」
「……」
「あれ?
カムさん、どうしました?」
「……いや、何でもない」
「あ、審判、来ました。
……すみません、一つお願いが」
リシェルは、審判に頼んでみたが、審判は首を横に振るだけだった。
『さあ、今、審判の宣言で、試合が始まりました!
リシェル選手は、審判に武器の交換を頼んでいましたが、駄目だったみたいですね?』
『まぁ、規則だからな。
でも、リシェルの気持ちも分かるな。
カム程の相手なら、ワシだって剣の方が良いな。
それに、実力が同じくらいなら、剣と槍なら、槍の方が、武器の性質上、有利だからな。
……カムなら、何とかして懐に入る事は出来るだろうが、恐らく、リシェルは棍術で対応する形になるしな。
どちらにせよ、この試合も楽しみだ』
『『はい』』
三人は舞台の二人を注目した。
それぞれ武器を構え、見合っていた二人は、お互いに攻めきれない様に見えた。
実際は、リシェルが突きの攻防で、攻めようと動くカムを牽制し、また、攻める振りをしていた。
(うん、やっぱり、これ便利!自分のペースに持って行きやすい。)
「くっ!」
今も、フェイントを掛けたり、速い動作で、どうにかして懐に入り、攻撃を仕掛けたいが動けなく、自分の戦い方を忘れたかの様に、リズムを狂わさられた。
(そろそろ、次を試してみよう)
焦れるカムに、リシェルは気を抜かず、自分の槍術を磨く為に一つずつ実戦で技を出す。
始まる前に、剣で相手になって貰いたかったのは、本当の気持ちだ。
無理だと分かって頼んでみたけど、仕方ない事だ。
今回は、槍を選んだのだから……カムさんには申し訳ないけど、序盤はもう少し練習相手をして貰う。
リシェルは、昨日の夜に練習した事を思い出していた。
リシェルは、昨日の夜、ライと別れた後、宿の部屋で、〈闇属性、影魔法、影空間〉を使い、自分の影に沈む様に潜り、ある程度の広さのある空間の中で、日課の素振りと、アークに教わった、リシェルに無かった槍術の基本の動きを想像し、練習を繰り返し、槍を動かす。
三つの攻防、確かに棍術には無い扱いだった。
槍を動かす度に、新たな事が分かる。
試合の時、アークが言っていた。
『槍の形状を理解し、六つの動作を利用すれば、もう一つ攻防が出来る』
この事が、分かり掛けてきた。
魔王である、ミーザおかあさんから、誕生日の祝いとして貰い、ザーツおとうさんに調整して貰った、この槍は矢印の⇒、の様な形をしており、刃の根元には返しがある。
所謂、魚を突いて、引き上げ取る、銛の様な形をした槍だった。
リシェルは、槍を操っては、槍を見て確認の繰り返しを納得が行くまで続けた。
『おっと、ここまでリシェル選手、牽制の突きで、カム選手の動きを阻害し、翻弄していましたが、どうやら攻撃の突きも混ぜて来た様です!』
『あれ?』
『どうかしましたか?
アンリさん』
『ええっと、今、リシェル選手の突きが変わった感じがして?』
『え、そうですか?』
『あ、ほら、今!
……分かりました!
リシェル選手の突きって、今までは、槍の刃を縦て突いていたんですよ!
でも、さっきから、少しずつ槍を戻す際に、刃を横に倒して戻してます!』
『……本当です!
横に倒しています!
本部長、お尋ねします。
横に倒す事に意味が有るのでしょうか』
『恐らく……いや、予想は着いているが、もう少し待ってくれるか?
もし、予想通りならば、リシェルの槍術は、また、昨日よりも成長している事になるはずだ。
悪いが、もう少し確認したい』
『あ、はい!
……って、成長ですか?
まだ、強くなるって、どれだけですか?』
『……実は私、もう予選の時点で、勝てると思っていません』
アンリが苦笑した顔で、ルーに言う。
『む、やはり、そうか!
リシェルめ、アークの言った事を実行しておるわ!』
リシェルの槍の動きを、見つめ続け、自分の予想が、当たっている事を理解した。
『アーク様の言った事?』
ルーが、アンリに目線を送り、分かるかどうか確認した。
暫く、悩んだアンリは思い出したかの様に、本部長に伺う。
『……もしかしたら、アーク様が言った事とは、リシェル選手の持つ槍の形状の事ですか?』
『そうだ、槍の形状を理解し、六つの動作を利用する事で、四つ目の攻防を身に付ける。
昨日、審判と揉めた後、アークが、リシェルに最後に言った言葉だ』
『思い出しました!
確かに、その事を言ってました!
と、いう事は、リシェル選手は、今、実戦しているというのですか?』
『今……だからこそ、という事だな。
相手がカムで、相当の実力者。
格下相手では、今一務まらんよ。
後、先程の突きの牽制で、カムが混乱しているのも大きいな』
『カム選手の混乱?』
『出足の動作を、幾度と潰され、たたらを踏み、リズムを崩されたんですね?
本部長』
『そうだ。
リシェルは、常に実戦で成長する。
底知れぬ才能と、若さ故の吸収力か……羨ましいな、ワシには、遠い昔の事だ』
『……本部長』
『おっと、すまん!
感傷しておる場合じゃなかったな?
試合だ、試合!
ふむ、カムは、受けるのに精一杯ってとこだな。
……変化があるまで、リシェルの新しい攻防の説明しておこうか?』
『ぜひ、お願いします!』
『うむ、まず、注目はリシェルの槍だな。
槍の柄に付いた刃、あの刃の後方には、鋭い返しの刃が付いている。
あの返しを利用したのが、新しい攻防になる。
ここまでは良いか?』
『……はい、大丈夫です!』
『うむ、あの返しに、基本の六つの動作を使う。
〈突く〉は……そのままだな。
〈引く〉は、突いた後、引き戻す際、返しで攻撃する。
〈払い〉と、〈薙ぎ〉は、タイミングが難しいが、振った後、返しで引っ掛け攻撃をずらす、又は、体勢を崩す。
〈巻き払い〉と、〈巻き込み〉は、刃先を円を描く動きの中で、刃と返しで挟んだり、引っ掛けたりして、より万全に武器を奪い、相手の体勢を崩し引き寄せる。
まだまだ、改良の余地は有るだろうが、それはリシェル次第だな?
まあ、簡単に言えば、こんなところか?
参考になったか?
……あの槍の形状ならではだな。
他にも、十字槍や、三叉の槍等、それぞれに見合った動きで、また変わるだろう』
『なるほど……あ、リシェル選手、今、本部長が言った様に、返しを利用した巻き込みで、カム選手を引き寄せ、体勢を崩しました!
カム選手、この体勢は不味い!』
『……出るか?』
説明が終わり、再び両者の動きを見ていた、本部長は呟く。
『おおっと、カム選手、大きく体勢を崩し、次に来る攻撃は、確実に当たるはずが避けました!
……これは、もしかして?』
『ああ、〈零の極致〉だな』
『やっぱり!
とうとう、カム選手、零の極致を使いました!
……しかし、何故、このタイミングなのでしょう?』
『それは、その辺りが、カムが、まだ、剣聖と呼ばれないところだ。
まだ、完全に使いこなせなく、未熟なんだろう』
『だから、今になり、使い出したという事ですか?』
『そうだ……まあ、リシェルの攻撃に混乱していたのもあるな?
やっと集中しだして出来たんだろう』
『これで、また、面白くなって来ましたね!』
『ああ、そうだな』
舞台の、リシェルは攻撃を止め、少し離れ距離を取っていた。
(今のは……やっぱり、零の極致だよね?
完全に入ったかな?)
リシェルは、雰囲気が変わったカムを見て、また戦術を変える事にした。
リシェルも、零の極致を使うので、多少なりとも、利点を知っている。
……それに、欠点も。
リシェルは、槍の動きだけでなく、棍も混ぜて攻撃を仕掛けた。
突き、薙ぎ、払い、下段からの掬い上げ、上段からの打ち落とし、更に、槍に魔力を通し、振りに〈風刃〉や、突きに混ぜた〈風穿〉を使い、見えない攻撃も含め攻めた。
カムは、旋律する。
零の極致でも、追えなくなる程の連続なる攻撃、速さの中に含まれた見え難い攻撃を、上下左右や、斜めに、突きと様々な方向から、更に先程から攻撃に入っている、引き戻す際に返し刃での攻撃も加わって、相手は前に居るのに、自分を中心とした全方向を、気にしなくてはならなかった。
そして、この後、リシェルの攻撃は、更に複雑になる。
リシェルは、一度、後ろに跳び、間合いを開け、舞台に踏ん張っていた両足を、跳歩に変え、軽くステップを踏み始めた。
その分、攻撃の威力は軽くなってしまったが、速さが増し、正面からだけでなく、移動もスムーズに出来、横から、後ろからと、カムを翻弄する。
また、〈火魔法、陽炎〉にて幻を作り、自分の位置をずらし、カムからは、リシェルが色んな場所に現れた様に見える。
しかも、全てのリシェルから、槍の攻撃がカムに襲う!
カムも、零の極致を使い出してから、幾度も、リシェルに攻撃をしているが、どういう訳か当たらない?
リシェルは、どう見ても零の極致に入っていない。
なのに、何故なんだ?
俺の攻撃が当たらない……
どうして、お前は……お前が、そんな顔を、悲しそうな顔している?
分からない。
分からない事だらけだ。
リシェルは、憂い、哀しむ。
カムが、段々と混乱し、集中出来なくなり、自信が無くなっていくのが、分かるから……
実は、この大会に出る時に、ライに言われて、決めていた事があった。
勝っても、負けても、戦った相手を何らかの形で戦意喪失させ、潰すと……数年後、魔王軍が、少しでも有利になる様に。
予選で、戦った相手くらいなら問題無い。
昨日、本戦で戦った相手、ライは、実の兄だったから味方になったが、リシェルの戦った、槍聖アーク・ジルベスタ。
今日の、ライの相手、ブロッケン・ビーバーに、今、戦っている、カム・ホークスは、魔王軍には厄介な相手となるだろう。
だが、リシェルの本来の優しさが出始め、心を痛めた。
これ程の人物に、戦争で死んで欲しくないから、だけど、だからと言って、こうする事が、正しいのかも、リシェルには分からない。
技術の向上には、最高の相手だった。
槍聖アークも、目の前に居るカム・ホークスも……それ故に、申し訳無い気持ちで溢れている。
それも、この攻撃で終わらせよう。
「……カムさん、ごめんなさい」
その声は、カムには、やはり悲しそうに聞こえ、その後、カムは意識を失なった。
『なるほどな……ワシは、〈零の極致〉が使える者が、単純に強いと思っておった』
『私も、実際、そう思います』
『うむ、使い手は少ないし、ワシには、身近にアークが居たしな。
だが、この試合を見て、考えが変わった。
それは、リシェルが教えてくれたよ。
零の極致、その正体は、集中力の塊だった!』
『集中力の塊……そういえば、先程、カム選手が入った時も、集中した時でしたね?』
『そうだ!
そうだな……一秒に十発の攻撃があるとしよう。
そこに、集中し感覚が変わる事で、その攻撃が、一秒に一発になって見える。
いや、、物事がゆっくり見えると聞いているから、十秒に一発として、それに対応出来る動きが出来たなら、それは、零の極致という事にならないか?』
『なります!
なると思います!
なるほど……そういう意味なら、説明出来ます!』
『それが、分かれば弱点も見えてくる。
リシェルは、それを知っていて、実行している。
もし、十秒に一発と見えるなら、逆に、それよりも速く動いたなら?
一秒に一発。
一秒に十発。
それよりも速く、攻撃すれば、零の極致の意味が無くなると思わないか?
実際は、難しい事なんだが……』
『それで、カム選手は受けるのに、精一杯になっているのですか!』
『しかも、リシェルは、予選で見せた魔力による、見えない刃とかも使っているな?』
『確か、風刃と言ってました!
……って、零の極致を使っても、攻撃を見極めるのも難しいのに、そんなの使われてしまったら』
『そうだな、実際にカムは他の攻撃を含め、全身に受け始めている』
『あ、リシェル選手が、数歩下がり、その場で、ステップを踏み出しました!
再び、リシェル選手の攻撃!
おお、更に、素早い移動により、横から、後ろから、様々な方向から攻撃が、カム選手に襲います!』
『……カムは、零の極致が解けているな』
『それじゃあ、益々、攻撃が?』
『ああ、当たるな……ただ、先程の攻撃より、速さ重視で、威力は落ちているか?』
『それって、リシェル選手が、カム選手のダメージを考えて?』
『どうだろうな?
威力は少なくても、数が多い』
『……私は、ダメージを考えていると思います。
だって、カム選手、まだ立っています。
それに、攻撃しようとしています』
『ふむ、リシェルは何を求め、何を考えているのかが、今一、分からんな?
だが、このままだと、カムは傭兵として自信を無くし潰れるぞ……いや、もしかして、あえて潰そうとしている?
アークの事も?
だとしたら、辻褄が合う。
合うが、何故だ?
何故そうするんだ?』
『どうしました、本部長?』
本部長は、周りの声も聞こえず、段々と深い思考に入り、呟き続けた
『ああーと、カム選手、とうとう倒れました!
そして、審判が試合終了を宣言!
リシェル選手、準決勝を勝利し、決勝進出です!
カム選手、惜しくも、ここで敗退!
どうやら、意識が無い様です!
大丈夫でしょうか?
ん?
リシェル選手、倒れているカム選手の近くに近付いて、膝をつき?』
ぱん!
闘技場、全域に響くくらいに、リシェルは両手のひらを叩き合わさる。
『凄い音です……おお、今ので、カム選手、動き出しました!
大丈夫みたいです!』
『……何だ、今の音は?』
『あ、本部長?
……どうやら、本部長も、今のリシェル選手の柏手の音で、戻って来たみたいです!
本部長、試合終わりましたよ?』
『……なっ、す、すまん!
少し考え事が』
『少しどころじゃなかったです!
何度も、声掛けたのに、全然気が付いてくれなかったじゃないですか』
『そ、そうか……本当にすまん。
結果は……リシェルが勝っただろうが、どうやってか分かるか?』
『それ、こちらが聞きたいです!
なのに、本部長』
『まあまあ、ルーさん。
本部長、本部長が考えに入った後、暫くしてカム選手が倒れました。
ふっ、と意識を失ってでした』
『ふむ、攻撃が蓄積して、意識がか?』
『いえ……どちらかといえば、突然ですね』
『リシェルは、何かをしたか?』
『特に何も……いえ、私の勘違いかもしれませんが、カム選手が倒れる前、リシェル選手の槍を持っていない方の手、腕がブレた気がします』
『腕がブレた……もしかして、あれか?』
『分かったんですか?』
『うむ、恐らくだが、遠当ての一種だと思う』
『遠当て、ですか?』
『無手の技に、手に魔力を溜め、拳速で遠くの獲物に飛ばして当てるのが有る』
『しかし、魔力は感じなかったですが』
『距離は近かったんだろ?
魔力が大きい程、威力が上がるんだ。
逆に、ほとんど魔力を、それこそ感じぬ程の魔力を飛ばしたんじゃないのか?』
『……なるほど、それなら納得です!
あれ、誰か舞台に上がって来ました?
あれは……ナユタさん?
昨日、カム選手に負け、その後、何故かカム選手と、付き合う事になった、ナユタ・カーリーさんです。
……何か、凄い剣幕ですね?
こういう時は、やっぱり、これ!
集音くん!
よし、行け!』
『……やはり、それ、便利だよな。
ルー嬢ちゃん、良いの作ったわ……本当』
『いや~、照れますね。
……お、聞こえてきました!』
「貴女、どうして、それだけ強いのに、そういう戦い方をするの?
この大会、この試合は自分の実力を示す為に、若しくは、自分の強さを確かめる為の場であって、自分の練習する為じゃないわ!」
「…………」
「何とか、言いなさい!
リシェル・シュザット!
それとも、自分の非を認めるの?」
「……人が、どういうつもりで戦おうと、自由だ。
貴女に、どうこうと言われる筋合いは無い。
ましてや、私の戦う理由や、目的を、貴女に話す必要もない。
思い上がるな、ナユタ・カーリー」
「な、貴女、何様のつもりよ?」
「私は、私だよ。
何者でもない」
「~~~~っ、さっきから、その態度、我慢ならないわ!」
ナユタは、憤りながら腰元の双剣を抜き、片方をリシェルに向けた。
「抜きなさい!
目上の口の聞き方を、教えてあげるわ」
「ふ~ん」
「無茶だ!
ナユタ、止めるんだ……」
未だに立つ事の出来ない、カムが、リシェルに勝負を挑む、ナユタに声を掛け止める。
「大丈夫よ、カム。
だって、この娘、零の極致なんて使えないもの」
誰もが、信じられない事を、ナユタは言った。
「よく考えてよ。
さっきの試合も、一度も使っていないし、昨日だって無理な体勢から、反応良く、速く動いただけじゃない?
それに、この娘だって、一度も、零の極致を使えると言ってないでしょ?」
「そう言われれば、そうだが……しかし」
「あー、もー、カムは黙って見てれば良いのよ!
私が、証明して見せるわ!
それに、カムに、だって見せていない技も、幾つも有るのよ!」
「くそっ、リシェル、頼む!
落ち着いてくれ!」
「……落ち着いてますよ?」
「カームー?」
「ナユタ、お前は勘違いしている……」
「「うるさい!」」
リシェルと、ナユタは、カムを黙らせる。
リシェルは、単純に五月蝿くて。
ナユタは、カムがしつこくて。
リシェルは、腰元のポーチ型アイテムボックスから、自身の分身……相棒の片手剣リュートを取り出した。
「さあ、お望み通り、やりましょうか?」
リシェルの持つ剣から、異様な気配を感じる。
「……ねぇ、その剣って、何?」
「私が、主に使っている剣ですけど、何か?」
ナユタが、生唾を飲みながら、リシェルに問うが、リシェルは、当たり障りのない事を、満面な笑顔で答える。
「……魔剣なの?」
リシェルは、答えず笑顔のまま、剣を構えた。
《種類・魔法剣》
名称/リュート・
能力/成長:最終形態
腐蝕:常時発動
能力吸収:標的討伐時、発動
隠蔽:任意発動
熱源探知:任意発動
魔力硬化:任意発動
猛毒無効:常時発動
重量増加:任意発動
筋力増加:常時発動
魔力盾:任意発動
光熱線:任意発動
音響探知:任意発動
風読み:常時発動
剣精顕現:任意発動
????:????
任意発動は、リュートの判断で、随時発動する。
書いていて、段々とリシェルに釣られ、暗くなって行く、私でした。
かなり、辛かったです。
読み終えた方も辛かったんじゃないでしょうか?
それでも、続きを読みたい方、
頑張って!と思っている方
もし、良ければ、ブクマ登録、評価に点数を入れて頂けたら嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
(o゜◇゜)ゝ




