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4章 9 第四試合 リシェル・シュザット 対 アーク・ジルベスタ

本日、2話目です。

1時間前に、短いですが、1話目有ります。

まだな方は、そちらからよろしくお願いします。

『さて、間もなく第四試合が、始まろうとしていますが、既に、アーク様……いえ、試合に出る選手ですから、今は、様呼びは止めておきましょう!

 アーク選手は、既に舞台に上がっていますが、リシェル選手が、まだ姿を現せておりません!』

『まあ、審判が出て来てないんだ。

 遅刻ではないさ』

『それはそうですけど……あ、現れました!

 リシェル選手、現れました!

 焦ってますね?

 あ、リシェル選手、アーク選手に頭を下げまくってます!

 間に合って、良かったです!

 何か有ったのでしょうか?

 試合に影響がなければ良いのですが!

 あれっ?

 アーク選手、此方に何か、身振りしてますね?

 何でしょう?』

『……どうやら、アークの奴、ルー嬢ちゃんの集音くんを使って欲しいみたいだな』

『え、そうなんですか?

 ……えーと、それでは、集音くんを使ってみましょう?

 えいっ!』

 投げられた集音くんが、アークと、リシェルの頭上で止まった。




 リシェルは、既に舞台の上で、待機しているアークを見て、舞台に急いだ。

「すみません、お待たせしました」

 中央で、目を瞑り、槍を抱き抱える様に腕を組んで居た。

 リシェルの声に、目を開け欠伸をした。

「構わぬよ。

 審判が来ていないんだ……遅刻ではないさ」

「有難うございます」

「それより、審判が来る迄、少し質問をして良いか?」

「え、はい」

「お前さん、誰かに槍、いや、違うな?

 棍術を習っただろ」

「分かります?」

「ああ、お前さんの棍術は、達人の域迄、達しておる。

 が、槍術としては、まだまだだな。

 それで、だな?

 ……この会話、観客に聞かせても良いか?」

「……ええ」

「済まんな」

 そう言って、アークは実況席の方に向き、身振り手振りでジェスチャーをした。

 やがて、実況席から、何かを投げられ、リシェル達の頭上に、何かが浮かんでいた。

 さっきの第三試合でも、最後に使われていた魔法具だろう。

「よし、聞こえるか?」

 そう言って、実況席を見ると、ルーが両腕で大きく丸を作った。

「つまりな?

 俺は、この歳だからな?

 見込みの有る、槍を使う若者を見ると、アドバイスをしたくてな?

 お前さんにも、教えたいんだよ」

「……良いんですか?」

「構わぬよ。

 言っただろ?

 俺は、見込みの有る奴は、教えたい、と。

 だから、勝っても負けても、どっちでも良いんだよ」

「……ふふ」

「何だ?

 可笑しな事を言ったか?」

「いえ、すみません。

 私も、同じ事を、考えてこの大会に出たもので……つい、笑ってしまいました」

「同じ事?」

「ええ、実は、今回、槍の練習の為に出たんです。

 勝っても、負けても良いので……だから、良ければ、私にアドバイスを下さい」

 リシェルは、ニッコリと満面な笑顔で言った。

「……くっ、かはははっ!

 そうか、そうか!

 お前さん、なかなか、傲慢だな?

 しかし、お前さんの傲慢は、成長する為には、良い傲慢だ!

 さて、お前さんの槍術には、三つの攻防が必要だ!

 この三つの攻防に、お前さんの棍術が、一つになったら、お前さんは槍の技術だけなら、俺を越えるだろう!

 技術だけな!

 三つの攻防、それは〈突き〉〈払い〉〈巻き〉の三つだ!」

「〈突き〉〈払い〉〈巻き〉」

「そして、その攻防、それぞれに二つの動作が有る。

 〈突き〉には、突きと、引き!

 〈払い〉には、払いと、薙ぎ!

 〈巻き〉には、巻き込みと、巻き払い!

 の六つだ!

 そして、ここで質問だ……」

 この時、審判が舞台に上がって来た。

「盛り上がっているところですが、時間です。

 よろしいでしょうか?」

「よろしくない!

 今、良いところなんだ!

 もう少し待ってろ!」

「……いや、しかし、規則ですから」

「……別に、始めても良いが、暫くは、此れが続くだけだぞ?

 どうせ、後、五分か、そこらだ……直ぐ終わる。

 待っとれ」

 アークは、観客全域を、ぐるっと見渡し叫んだ。

「観客よ!

 直ぐ終わる!

 暫し待ってくれまいか?

 ……待って貰えぬなら、俺は棄権する。

 この嬢ちゃんを連れてな!」

「なっ?

 アーク様、何を言って」

 審判が、アークのあまりにもの屁理屈に、戸惑って言葉を無くすと、

『構わぬ、この試合が、今日、最後の試合。

 アークよ!

 なるべく速く終わらせ、試合を始めよ!』

 事の成行きを見ていた、国王が口沿いし、アークを急がせた。

「……国王陛下、有難うございます。

 そういう事だ、審判。

 お前さん、さっきの続きだ」

 アークは、来賓席にいる国王に頭を下げ、礼を言い、再びリシェルに話始めた。

「質問だ。

 棍と、槍、違いは分かるか?」

「……刃が有るか、どうか?」

「そうだ!

 棍と違い、刃が有るが故、持つところが、ある程度決まる。

 刃を、相手に向ける。

 剣と違い、攻撃範囲が広い。

 それは、良いな?

 その為、さっき言った三つの攻防が、そして、六つの動作が、槍術に欠かせなくなる」

「六つの動作」

「突きは、突き出す。

 引きは、突き出した槍を引き戻す。

 この動作が速ければ速い程、良い!

 では、〈突き〉が何故、防御になるか?

 それは、後で、実戦で教えよう」

 アークは、そう説明しながら、槍を突き出し、引き戻す。

「払いと、薙ぎの違い。

 払いは、相手の攻撃、武器を払う。

 薙ぎは、相手に攻撃する為、武器を振る」

 アークは、槍を左に振り、返す反動で、右に振る。

「巻き込みは、槍で、相手の武器を絡ませ、引き寄せる。

 巻き払いは、槍で、相手の武器を絡ませ、弾き、体勢を崩す、又は、武器を取り上げる」

 アークは、槍の先端で円を描き、次に、逆に円を描く。

「此れが、六つの動作。

 最後に、お前さんの槍の形状、六つの動作を利用すれば、新たな攻防が出来るかもな?

 どうだ?

 理解出来たか?」

「……言っている事は、理解しました。

 後は、出来るか、どうか」

「今は、それで良い。

 審判、待たせた!

 試合を始めてくれ」

 アークは、審判にそう言うと、リシェルも、審判に顔を向け頷く。


「……それでは、本日、最後の試合。

 第四試合、始め!」

 審判が、試合開始を宣言した。


「俺が言った、アドバイスを含め、お前さんの槍術で勝負しようぞ」

 アークは、槍を構え、腰を低く落とした。

「来い!」

 リシェルも、槍を構え、攻撃に移ろうとするが、一歩踏み出す前に、アークが槍を、リシェルに突き出す。

 攻撃に移る。

 その度に、突き出すので、リシェルは焦れる。

「……もしかして、此れが、〈突き〉の防御?」

「気付いたか?

 相手の攻撃を、未然に防ぐ……此れも、防御の一つの形なり。

 そして、此れはどうだ?」

 アークは槍で、リシェルの顔を狙い、リシェルは避ける。

 避けた時には、既に、アークは、槍を戻しきり、次の攻撃に移る。

 リシェルは、反応し、身体が動く。

 が、その攻撃は、フェイクで、体勢を崩す。

 次の攻撃は余裕無く、避けた為、身体に槍が掠る。

「此れも、〈突き〉の攻防だな。

 相手を、突きで体勢を崩すして、次に生かす。

 どうだ?

 〈突き〉だけでも、使えるだろ?」

 ニィ、と口角を上げ、本当に嬉しそうに笑う。

「どうした?

 俺が、教えた事は忘れたか?」

「くっぅ」

 リシェルは、突かれる槍を苦し気に払う。

 払った事により、若干の、リシェルぐらいの実力者には、体勢を直せる時間が出来、一旦離れた。

「どうした?

 攻撃して来ないのか」

 リシェルは、挑発に乗らず、大きく息を吸い吐いた。

「……よし!」

 今の攻防を頭に消化し、次に活かせる。

 リシェルは、五歳から続いている修業でも、そうして来た。

 教える相手が、父、ザーツや、ガイ達から、目の前にいるアークに変わっても、変わらない。

 勇者《創造神》と戦うまで……


 リシェルは、先程、アークがした様に、槍を突く。

 そして、フェイクを混ぜ、払い、薙いだ。

 アークは、繰り出されるリシェルの槍を、当然の如く捌くが、反撃に出られない。

 出ようとすると、〈突き〉で止められ、避けようとすると、〈払い〉で出足を崩される。

「むぅ?」

 アークは、驚く。

 リシェルの才能は、分かっていた……いたつもりだった。

 一度の攻防だけで、ここまで使える様になるとは思っていなかった。

 アークでさえ、リシェルの才能を読みきれなかった。




『アークの奴、テンション高いな?

 あの嬢ちゃんの才能は、それ程なのか』

 ルーが、集音くんを投げ、舞台のアークが、リシェルに足りない、槍術の技術をアドバイスするに辺り、説明するアークが、調子が上がっているのに、タイタン本部長は、長年、チームを組んでいた経験で気がついた。

『アークは、槍術の才能を持つ者に、技術を教えるのが大好きだというのは、嬢ちゃん達、知っているか?』

『知っています。

 有名ですから、アーク様の教え好きは』

『私も、知っています。

 教えた相手に、アーク様は必ず言う言葉が有りますから』

 ルーと、アンリは、顔を見合せ

「「アイツは、俺が、育てた」」

 と、アークの口癖を、二人は合わせて言う。

『……恥ずかしい言葉だな。

 それで、だな?

 アークには、もう一つ、癖が有ってな。

 教える相手の才能が、大きい程、テンションが上がるんだ』

『と、いう事は?

 今回のアーク様は……』

『最高に上がりきっているな!

 あれだけ調子が良いのは、久し振りに見る』

『あの娘、凄いですね。

 十二歳で、あれだけ強く、才能に溢れているなんて……本当に、人間ですか?

 化け物なんじゃ?』

『……アンリ嬢ちゃん、そう言いたい気持ちは分かるが……そういう事は、言っちゃあ、駄目だ。

 相手を、傷つけるだけでなく、言った本人も、品が下がる。

 と、いうものだ!』

 ルーは、不味いと思い、自分のを含め、拡声な魔法具を止めた。

「……はい、そう、ですね」

「いや、済まん!

 傷つける事を言ってしまった。

 申し訳ない」

 本部長は、アンリの方に顔を向け、頭を下げた。

「本部長、頭を上げてください」

「しかし、注意した者が、人を傷つける事を言っては意味がない」

「……本部長は、間違っていません。

 間違っていたのは、私なんです。

 だから、後で、リシェルさんに謝りに行きます」

 二人に挟まれた、ルーが困った顔で勘弁してー、と、心で思いながら、

「あのー、すみません。

 二人の言いたい事も、分かりますし、馬鹿にするつもりもありません!

 ありません、が、今は解説の方に集中して頂いてもよろしいでしょうか?」

「す、すまん……」

「ごめんなさい……」

「いえ、こちらこそ、失礼しました。

 ……準備が良かったら、言ってください。

 拡声の魔法具、動かしますので」

「ああ、分かった……ワシは大丈夫だ」

「……私も、行けます」

「では、動かします。

 私から、入りますので、宜しくお願いします」

 ルーは、魔法具を立ち上げ話始めた。

『さて、観客の皆様、失礼しました。

 舞台の上、アーク選手は、未だリシェル選手に、槍の技術について説明している様です。

 突き、払い、巻きと、アーク選手は仰有っていますが……本部長、どのようなものでしょうか?』

『ふむ、なるほどな……アークは、嬢ちゃんに槍の特徴を、完全に理解していない、と言いたいのだろう』

『槍の特徴?』

『アンリ嬢ちゃん、今回、出場者の武器を、複製した訳だが、槍は、他の武器と、どう違っていた?』

『そう、ですね?

 まず、剣や、斧、その他の武器に比べ、長い木材で作りましたね』

『そうだ。

 槍は、他の武器に比べ、長い。

 その長さを利用し、相手の攻撃が届かなくても、槍なら届く。

 槍先を、相手に向けて、相手の動きに合わせ、動かすだけで、相手は懐に入る事が難しい。

 嬢ちゃんは、槍を持っているが、基本は棍術。

 扱い方が、半分くらいしか、出来ていない。

 出来ていないのは、槍の扱い方。

 予選の時も、棍術で戦っていた。

 アークの奴は、そう思ったんだろう』

『だから、アドバイスですか』

『そういう事だ』

『あ、審判が舞台に上がって来ましたよ』

『本当ですね。

 アーク選手の、アドバイスは途中で終わるのでしょうか?』

『……そう思うかい?

 今の、アークなら、無理やり続けると思うぞ?』

『まさか?』


『観客よ!

 直ぐ終わる!

 暫し待ってくれまいか?

 ……待って貰えぬなら、俺は棄権する。

 この嬢ちゃんを連れてな!』


『本当だ!

 しかも、審判と揉めてる?』

『やっぱり、テンション高いな。

 普段なら、あんな事、言わない』

『ですよね?

 どうなるんでしょうか?』


『構わぬ、この試合が、今日、最後の試合。

 アークよ!

 なるべく速く終わらせ、試合を始めよ!』


『国王陛下の言葉による、フォローが入りました。

 審判、仕方なしな顔で、アーク選手に続けさせています』

『……六つの動作か、久し振りにきいたな』

『それが、リシェル選手に足りない技術なんですか?』

『技術というより、基本だな。

 さっきも言ったが、槍の長さを利用する基本動作だ』

『お、説明が終わった様ですね?

 審判が、試合開始を宣言しました!

 早速、リシェル選手、攻撃に入る……が、仕掛けられない!

 その後も、何度も仕掛けるが、進めない!

 ……これが、槍を利用した基本動作なのか?』

『そういう事だな。

 アークが言った、動作の一つ、突きだ』

『私にとって、突きとは攻撃のイメージですが、なるほど!

 確かに、此れは、牽制による防御!

 リシェル選手、攻撃に出られません!

 お、アーク選手、少し動きが変わったか?

 フェイントを混ぜています!

 リシェル選手、更に動きを制限され、体勢を崩されたー!』

『只、突くんじゃない。

 左右に身体を振らせ、膝や、肩、胴に攻撃を入れ、バランスを崩しているな?

 む、嬢ちゃん、アークの槍を払ったな。

 今のも、基本動作の一つ、払いだ。

 どうやら、間合いを取り直す事が、出来たようだ?』

『……リシェル選手、大きく深呼吸!

 リシェル選手、間合いを詰めながら、突きを放つ!

 アーク選手、此れを払って裁く……が、リシェル選手、この突きはフェイントだった!

 再び、突きの連続攻撃、いや、払いも入る!

 上下左右の振り払い、間に突き、リシェル選手攻撃を止めない!

 アーク選手、今度は防戦一方!』

『……まさか』

『はい?

 どうかしましたか、本部長?』

『ワシは、まだ、あの嬢ちゃんの才能の底が見えん!

 そして、アークの奴も、見間違えた様だ。

 ……アンリ嬢ちゃん、ワシも、あの嬢ちゃんが恐ろしいぞ』

『え、どういう事です?』

『……あのですね、ルーさん。

 普通は、教えられて、一回の攻防で身に付く事は、出来ません!』

『いや、あの嬢ちゃんの才能なら、それは有り得ると思う。

 ワシが恐ろしいのは、アークに通用し、反撃させない、出来ないというところだ』

『……全傭兵の長、タイタン本部長が、そこまで言うなんて』

『しかし、まだ、基本動作、巻きを使ってませんよね?

 リシェル選手、忘れているのでしょうか?』

『いや、単に、アークが、まだ使っていないからだ。

 ……合わせられない程の、攻撃なのか?』

『そんな……あ、アーク選手、使いました!

 今の、そうです『馬鹿な?』よね?』

 ルーの言葉に驚き、本部長は、椅子から立ち上がった。

 アークが、リシェルの攻撃を止める為に、何をしたのか、理解し舞台の二人を見ながら、呆然としていた。

『今のは……使わなきゃならなかったのか?

 アークよ……?』

 本部長は、誰もが聞こえない声で呟く。




 反撃が出来ないアークは、気が付いていた。

 リシェルは、アークが〈巻き〉を使うのを、待っている事を……

 だが、リシェルは、手を抜かない。

 リシェルは、アークに習った動作を、少しずつ変化させながら、槍を振るい追い詰める。

「……よし」

 アークは、覚悟を決めた。

 アークは、意識を集中する。

 〈零の極致〉

 リシェルの動作は、ゆっくりとなる。

 槍が、真っ直ぐに進む場所は、アークの首。

 アークは、右下から払い受け、その勢いのまま回し、左上に跳ね上げる。

 リシェルの体勢は跳ね上げられた。

 槍に釣られ身体が伸びきったのだ。

 アークは、槍を素早く戻し、渾身の突きを放つ。

 リシェルは、身体をひねり、なんとか槍をかわす。

 地面に倒れ、二、三、その場から転がり、勢いを付け立ち、再び数歩、距離を取る。

「……今のが?」

「巻き払い、だ」

「不思議な感覚だった。

 後は、捲き込み、必ずきけ見せて貰う!」

 突きを出す。

 先程までの、突きより僅かに遅い。

 アークは、それに気付き小さく息を吐く。

 突いて来た槍に合わせる様に、刃の根元に槍を当て、槍を絡ます様に円を描き、捲き込みながら引き戻す。

「わっ」

 突く為に体勢が前よりだったのも含め、槍を絡まれ引っ張られ、リシェルは、躓いた様に、体勢が前に伸びる。

 アークは、既に、槍を引戻している為、次の攻撃に入っている。

 上段からの撃ち落とし。

 確実に、伸びた、無防備の背中に、槍を叩き込む。

 ……はず、だった。

 体勢を、完全に崩していたはずだ。

 避けられるはずがない。

「どういう事だ?」

 既に、離れた場所にいるリシェルを見る。

 リシェルは、隙無く構えながら、先程の内容を思考している。

 アークは、本当は気が付いている。

 リシェルの先程の動き、あれは……

「零の極致」

 信じられなかった。

 傭兵になって間もない少女が、身に付ける事の出来るような、簡単な代物では無い。

 ……分からない。

 ……分からない。

 ……理解出来ない。

 ……恐ろしい。

 アークは、完全に混乱している。

「……」

 リシェルは、アークの状況を、理解している。

 だけど、リシェルは攻撃に入る。

 突きや、薙ぎだけでなく、様々な動き。

 アークに教えて貰った、槍の技術だけでなく、棍術の技術も混ぜ攻撃する。

 複雑怪奇な攻撃を、アークは防御し続ける。

 混乱していても、長年の経験で、身体は動いていた。

 リシェルの攻撃は続く。

 速さを増して。

 アークが、少しずつ対応が遅れていく。

 とうとう、アークに重い一撃が入る。

「……降参だ。

 俺の負けだ」

 アークは、両膝を落とし、俯いてく様に、リシェルにだけ聞こえる様に呟く。

 リシェルは構えを解く。

 アークは、突然、立ち上がり、今までで一番の突きを放つ。

 リシェルは、驚く事もなく、冷静に槍を巻き払い、アークの槍を場外に弾き飛ばした。

 アークは、飛んで行く槍を追い見続け、落ちた槍から目を離して、リシェルに向く。

 今度は、審判にも、観客が理解出来るくらいの声で降参した。


「第四試合、勝者、リシェル・シュザット!」

 審判が、宣言した。




『第四試合、終了ーぅ!

 本日、最後に勝ち抜いたのは、リシェル・シュザットー選手っ、だ!

 まさか、の大金星!

 伝説のSSランク、アーク・ジルベスタ選手を打ち破り、若干十二歳の少女、才能の塊、リシェル・シュザット選手、明日の準決勝し・ん・しゅ・つ!

 此れで、明日の準決勝進出者が、全員揃いました!

 明日の、準決勝!

 第一試合、ライ・ハワード選手 対 ブロッケン・ビーバー選手!

 第二試合、カム・ホークス選手 対 リシェル・シュザット選手!

 そして、それぞれ、勝ち抜いた選手が最後の決勝者になります!

 泣いても、笑っても、明日が最後!

 明日は、見逃せない!

 見逃せない、一日になるでしょう!』

 ここで、ルーは拡声の魔法具に、声が入らない様に、未だ、椅子から立ち上がって、呆然としている本部長に、耳打ちする。

「落ち着きましたか?

 本部長、解説をお願いしても大丈夫ですか?」

「……すまん、もう大丈夫だ」

 ルーは、本部長の言葉に頷き、放送を続ける。

『さて、本部長、ここで先程の試合、最後の攻防の説明をお願いしたいのですが、アーク選手の反撃で、本部長は驚いていましたが、あの辺りから説明をお願いします』

『……ああ、そうだな。

 結果から行くか?

 ワシが、驚いたのは、アークが、嬢ちゃん、リシェルの攻撃を返す為に、零の極致を使って、巻き払いという反撃をした、という事だ』

『零の極致、って前の第三試合で、カム選手が使った。

 あの、相手の動きを遅く感じるという、あれですか?』

『そうだ。

 只、相手ではなく、辺り一辺だな。

 それを使って、リシェルの攻撃を返した。

 そうしなければ、返せなかった……そこに、ワシは驚いた。

 ……あの、アークがだぞ』

『あ……』

『そして、次の攻防。

 巻き払いを、実際に受けたリシェルは、捲き込みも見せろという風に、僅かに遅い突きを出し、

 それに気づいたアークが、捲き込みをした。

 捲き込みで体勢を崩された、リシェルに、アークは、上段から撃ち落としをした。

 ここで、リシェルは……リシェルは、アークにとって、俺もだが、驚く事をしたんだ!』

『何をしたんですか?』

『……分からないか?』

『ええっと?』

『ルーさん、リシェル選手、彼女は零の極致を使って、攻撃を避けたんですよ』

『零の極致って、まさかっ、そんな?』

 今まで、黙っていたアンリが、ルーに説明をした。

 流石に、それを聞いたルーは信じられず、聞き返す。

『それ以外、説明がつかないんですよ……でなきゃ、あんな避けかた、普通、出来ません!』

『そうだな……俺も、そう思う。

 でなきゃ、アークが最後、呆然と、リシェルの攻撃を受け続けるはずがない』

『そういえば、あの時の攻撃、それまでの槍の動きだけじゃなかったような?』

『……そう、予選で見た、棍術の動きも有った』

『それで、段々と防御出来なくなって、最後に、鳩尾に入り、膝をついた、と』

『…………それいう事だな』

『でも、最後に、アーク選手、とんでもない速さの、突きを放ってましたよ?』

『……それも、冷静に巻き払いで、アークの槍を場外に飛ばしていたがな』

『はぁ、それで、アーク選手は降参する。

 で、決着となるんですね。

 解説、ありがとうございました。

 本部長、アンリさん、明日も、よろしくお願いします』

『……ああ、よろしく頼む』

『……私、殆ど話していないですけど、大丈夫ですか?』

『勿論です!

 少ないコメントでも、要所要所で、パンチ効いています!

 大まかなところは、私が、話すので、明日もよろしくお願いします!』

『そうですか?

 ……はは、よろしくお願いします』

『では、観客の皆様、今日のところは、この辺で!

 明日も、お楽しみに!』

 こうして、実況の三人は、それぞれに動き、実況席を跡にした。




「よう、居るか?」

 タイタン本部長は、アークが与えられている控え室に、ノックもせずに入った。

「……何だ、お前か」

 簡易ベッドに寝転んでいる、アークは、入って来たタイタンを、チラリと見て興味が無い様に、目を瞑った。

「何だ、いい歳して、泣いているのか?」

 タイタンは、ニヤニヤと笑いながら、アークをからかう。

「……泣くか、ボケ爺」

「ワシが、爺なら、お前もだろう。

 ……しかし、何というか?

 魂消たな、ありゃあ、ワシでも勝てんわ」

「……何だ、今度は慰めてくれるのか?

 忙しい奴め!」

「そういうつもりは、無いんだが、な?」

「なら、何だ?」

「……事実、だな」

「……そうか。

 タイタン……俺は、決めた。

 槍を持つのは、今日で最後だ。

 引退する事に、決めた」

 ベッドから起きあがり、アークは、タイタンを真っ直ぐに見て宣言した。

「……これから、どうするんだ?」

「金は有るしな、どこかに引っ込んで隠居し、そのまま、死ぬさ……」

「……そう、か」

「泣くなよ、爺」

「うるさい、泣きたい時は、泣く事に決めているんだ、ほっとけ!」

「ありがとう……友よ」

「なぁ?

 本当に、このまま?

 別に、良いじゃないか?

 ワシのところで、槍の指導でも、すれば良いじゃないか?」

「なぁ、最後に放った突き見たか?

 あの前な、両膝ついた後、あの嬢ちゃんにだけ、聞こえる様に、一度、降参しているんだ……。

 そんな奴が、槍聖と、呼ばれて良いと思うか?

 俺は、思わん!

 その時点で、俺は、槍を持つ資格が無くなったんだよ。

 分かってくれ、な?」

「……すまん、お前の心を、踏み潰すところだった」

「気にすんな。

 ……これ、お前に持っていて欲しいんだ」

 壁に掛けて置いてあった、アークが、長年使用していた。

 タイタンとチームを組んでいた時から、使用していた槍を、タイタンに渡した。

「……帝都のギルド本部のワシの部屋に、大事に飾って置くよ」

「別に、邪魔なら、捨てても良いぞ?」

「するか、馬鹿!」

「……もう一度だけ、言わせてくれ。

 有難う、我が友よ。

 さらば、だ」

 アークは、タイタンを残し、部屋を出た。


 その後、槍聖と呼ばれた男、アーク・ジルベスタの姿を、見た者はいなかった。



すみません。

大変、遅くなりました。

合わせて1万2千文字以上、過去、最高になりました。

分けました。

2話目、1万文字、近く

同じ様な内容ばかりで、すみません orz


ブクマ登録は勿論!

評価点を入れて頂けますと、嬉しいです。

故に、1万文字を越えてしまったとも言える。


ブクマ登録、評価点などよろしくお願いします。

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