4章 4 国王達との密談
出来ました。
いつも有難うございます。
では、どうぞ
Aブロック予選が終わり、審判から勝利宣告を貰った、リシェルは大舞台の上で、観客達から歓声を受け挨拶を返し舞台を降りた。
それは、リシェルが入場口に戻って姿を隠しても続いた。
リシェルが、選手達の控え室に戻る途中の通路に一人の男、兵士が立っていた。
「リシェル・シュザット様、お待ちして居りました」
一礼をし、上げた顔は、リシェルにとって一度見た事の有る顔であった。
「……貴方は、確か、審査入り口で話し掛けて来た?」
「覚えておられていましたか……そうです。
あの時は、不躾な質問、失礼しました。
私の名は、ランフォードと申します。
この度は、我が主より、手形を預かりまして、リシェル様にお届けに参りました」
「……手形?」
「此方になります」
リシェルは、差し出された手形を受け取った。
「……開けても?」
「どうぞ」
手形を開け、中に書かれた内容を読み、顔をしかめた。
「……幾つか、質問をしても?」
「どうぞ」
「それじゃあ……この手形は、今日、予選を勝ち残った者、全員に渡すのかな?」
「いいえ、リシェル様、貴女のみです」
「そう……断る事は?
私には、会う理由が無いのですが……と、いうより、やっぱり、私の事、気付いています?」
「出来れば、主達に会って頂きたい。
それと、貴女の事は、帝王レオハルト様と、神霊ミカエル様からのお墨付きです」
「そうですか……どうしても?」
「どうしても、です」
「……着て行く服が無い、というのは、どうでしょう?」
「そのままの格好でよろしいですよ。
でも、もし、気になるというのでしたら、此方で、用意します。
……いえ、そうですね、やはり此方で用意をしましょう。
きっと、お似合いでしょうね」
「あの、聞いてます?
遠回しで、断っているんですけど……」
「いや~、楽しみだなぁ」
「はぁ、もう、良いです。
それで、私は、このまま向かえば良いのですか?
それとも?」
「あ、はい、そうですね……リシェル様は、今は、どこかの宿で、お泊まれているのですか?」
「今、ですか?
今は、『黒山羊の宿亭』という宿で宿泊してますよ」
「黒山羊……ああ、彼処ですね!
彼処は、食事が美味しいでしょう。
もしかして、ギルドで薦められました?」
「ええ、そうですよ。
この大会が終われば、また、どこかの国や街に宛の無い旅に出るので……その間ですけどね」
「では、夜の晩餐の前に、そちらの宿に向かわせて頂きます」
「そうですか、あまり、目立ちたく無いので、目立たない様に、お願いします」
「分かりました。
……リシェル様は、この大会の後、王都には、もう?」
「ええ、旅に出ます。
……私は、この王都では、死んでいますので」
「そう、ですか」
ランフォードは、少し寂しそうに顔をしかめた。
「そうだ、一つ、別の事で気になる事が、有るんですけど……」
「何でごさいますか?」
「私が、さっき戦った魔人だった、ナーグ・ハインドですけど、先程、兵士達に連れて行かれましたが、どう処分されるのです?」
「今は、まだ、何も。
大会が終われば、何かしらの処分が決まると思います」
「そうですか」
「何時までも、ここで話し込んでは、失礼ですね。
今更かもしれませんが……今日、夕方、お泊まりの『黒山羊の宿亭』に迎えに行かせて頂きます。
それまでは、お待ち頂けますでしょうか?」
「ええ、仕方ないですね。
大人しく、宿で待ってます」
「有難うございます。
では、失礼します」
一礼をして、ランフォードは、リシェルの下を離れた。
「はぁ、面倒くさいなぁ……何で、今更」
リシェルは、この後の事を考えると、先程の戦いより、疲れるのであった。
黒山羊の宿亭に、先に戻って来た、リシェルは借りている部屋に入り、ベッドに寝転んだ。
念話で、ライに先に戻ると伝えて心配されたが、出番がまだな、ライに逆に頑張れと言って念話を切ったから、戻って来たら怒られるなーと思いながらも、時間まで何もする気が起こらない。
「リシェル、リシェル、居ないのか?」
いつの間にか、眠っていたみたいだ。
ライが、部屋のドアを叩く音で目が覚めた。
「……ライ?
ちょっと、待ってて」
寝惚けた頭で、ドアを開け、ライを向かい入れた。
「……寝てたのか?
何だよ、あの念話は?
心配したじゃないか!」
「……あー、ごめん。
予選、どうだった?」
「勝ったよ……それで、何があったんだ?」
「ん、んー、とりあえず、話すから中に入って」
「ああ」
ライは、進められるまま、中に入った。
「えっとね、まず、ライが知っているか、どうか分からないけど、ライには話していなかった事があるんだ……」
リシェルは、自分の出自や、予選の終わった後の出来事等をライに話した。
「……んじゃ、何か?
リシェルって、本当なら、闇属性で産まれて来なかったら、この国の王女だったって事か?」
「そうなるね」
「んで、リシェルの事が分かったから、城に呼ぶと」
「そういう事」
「……リシェル」
「ん、何?」
「城に行ったら、もう戻らないつもりか?」
「……何で、そうなるの?
そんな訳ないでしょ!
あ、もしかして……私が居ないと、さ、み、し、い、とか?」
リシェルは、からかうつもりで、そう言ってみたのに、対し
「悪いかよ……」
「「…………」」
ライが、顔を赤くして答えた為、部屋の空気が気不味い雰囲気になってしまった。
コン、コン、コンッ
「……お客様、よろしいでしょうか」
気不味い雰囲気を壊したのは、この宿の亭主のノックだった。
「あ……はい、ちょっと待ってください」
リシェルが、焦って立ち上がり、部屋を開けた。
ライも、まだ顔を赤くしたまま、後に続き様子を伺う。
「あ、お客様……お客様を読んで欲しいと、兵士の方が来られてます」
「そうですか、有難うございます。
下で待っているんですね?」
「あ、はい、そうです」
「じゃあ、向かいます。
ライ、それじゃあ、行って来るね」
「あー、俺も下まで付いていくわ」
「そう?」
リシェルが、借りている部屋の鍵を掛け、下に降りると、待っていた兵士は、ランフォードだった。
「リシェル様、お待たせしました。
よろしければ、向かいましょう」
「……あ、あんた、あの時の兵士!」
ライが、ランフォードの事を思い出し、指を指した。
「ふむ、少年か、今日は、予選突破、おめでとう」
「リシェル、やっぱり、俺も付いていく!」
「悪いが、少年。
君は、招待されていない。
ご遠慮頂こう」
「大丈夫だよ、ライ。
心配してくれて、有難う。
それじゃ、行って来るね」
「ああ、おい、兵士のオッサン!
リシェルに何か有ったら、許さねぇぞ」
「有ってたまるか!
……二度も、有ってたまるか」
ランフォードの後半の呟いた言葉は、リシェル以外聞こえなかった。
ランフォードが乗って来た、迎えの馬車に乗って王城に向かっている。
その中で、リシェルとランフォードは向かい合って座っていた。
「ところで、ランフォードさん?
王城で会う方って陛下以外に、どなたが居られるんです?」
「……ラカール陛下の他には、王妃リサ様、帝王レオハルト様、そして神霊ミカエル様と私、ランフォードの予定です」
「そう、ですか……ランフォードさんも入っているんですね?」
「ふふ、一応、護衛ですよ。
まあ、私より強い方が、二人も居るんですけどね。
私は元々、王妃が子供の頃からの護衛なのですよ。
今も、それが続いているだけです」
「そうなんですか」
「……貴女は、王妃、リサ様の子供の頃に、そっくりです。
後、私に敬語は必要ないですよ」
「……そう?、そうなんだ」
「特に、顔立ち等は、そうですね……そういえば、昔、サウルの街で貴女を見た時は、髪の毛の色が」
「ああ、今は魔法で、色を変えているんですよ」
リシェルは、ペチッっと指を鳴らし、髪の毛を茶色から銀色に、目の色は茶色から薄い紫に、元に戻した。
「……おお、正に!
リサ様の写しみ、本当に何から何まで……」
ランフォードは、昔を思い出し、薄らと涙を浮かべた。
「そんなに、似ているんだ?
道理で、王国に行くなら、髪の毛と目の色を変えて行きなさいって、言われる訳だ」
「……それは、どちらが?」
「私のおとうさんだよ。
私を今まで、育ててくれた、おとうさんだよ」
「そうですか……リシェル様、幸せですか?」
「勿論だよ!
これは、誰にも否定させない」
「……運命が、これ程、悔しいと思った事は無いですね」
ランフォードは、寂しそうに笑い、目線を外に向けた。
「そろそろ、王城に着きますね」
「……そう」
「城に着いたら、まず、リシェル様は、城の侍女達にお世話をさせます。
その後は、陛下達と食事をなさい、食事後、対談となります」
「……侍女達のお世話って」
「ええ、手形を持って行った時に、言った通りです。
楽しみですね」
「私は、楽しくない!」
「はは、観念して下さい」
「はぁ、それだけで憂鬱になりそう……」
馬車は人知れず、王城の敷地の中に入って行った。
「と、この様な事を、馬車の中で話しておりました」
「しかし、其れほどに、リサに似ておるのか?」
「ええ……リサお嬢様、ご覚悟をして下さい」
ランフォードが、王妃に対し、昔の呼び方で、リサに注意した。
「ッ?
……その呼び方、久し振りですね?」
すると、タイミング良く、部屋にノックが掛り、侍女が、リシェルを連れて来た。
「入れ」
部屋の主、国王が許可を出し、リシェルが部屋に入って来た。
リシェルは、王城に入った時点で、侍女達に連れられ、ある部屋で、入浴をし、リシェルに似合った衣装を着せられ、化粧と髪型までしっかりと纏められていた。
部屋に入った、リシェルを見た国王達は、ランフォードから聞いていた通り以上に、王妃に似ており、また、将来を認められ、期待が膨らむ、美しさだった。
「まずは、君に謝らせていた……」
国王が、リシェルに我が元に産まれた際、処分する決断した事を謝ろうと伝える途中で、王妃が淑女らしからぬ勢いで椅子を倒しながら、立ち上がった。
王妃は、リシェルを見据えたまま、ゆっくりとリシェルに近寄り、リシェルの前で止まった。
「う、あぁ、ああぁあぁぁーーーーーー」
王妃は涙を流しながら、リシェルを抱きしめ、声にならない叫びの様な、泣き声を出し続けた。
リシェルを、そんな王妃に対し、なにも出来なかった。
数分後
「……私の子、あの時、抱きしめる事の出来なかった、私の赤ちゃん、やっと、こうして抱きしめられた。
間違いなく、この子は、私の赤ちゃんです」
王妃は泣き止み、そう言葉を発した。
王妃は十二年前から、感情が一部、時が止まったままだった。
こうして、リシェルと会い、抱きしめ、涙を流す事で、王妃、リサの止まった時間は、再び動き出したのだった。
「ごめんなさい、見苦しいところを見せてしまったわね……」
リサは、リシェルを離し、照れながら離れた。
「あ……、いぇ、その、私も、嬉しかった、です。
お、おかあさま……」
リシェルは、うつむき、顔を赤くしながら、最後は遠慮がちに呟いた。
「ああっ」
リサは、リシェルの呟いた言葉が聞こえ、再び抱きしめた。
「おかあさま……」
今度は、リシェルも遠慮がちに抱きしめ返し、涙を流した。
七年前、魔王ミーザが、リシェルを自分の娘と言って抱きしめた時も嬉しかったが、こうして、最初は戸惑ったが、産みの母親が抱きしめ、涙が流し、認められて、リシェルも嬉しかった。
そう、純粋に嬉しかった。
リシェル達が落ち着いた後、食事を済ませ、再び談話室で話しあった。
リシェルは、自分の知っている限りの事を話した。
大悪魔ルシファーと産まれた直前、直ぐに契約を交わし、融合する事で魔人になる事もなく、こうして成長した事。
ルシファーとの契約内容の事。
この国に、間者として潜り込んでいた、ザーツ・シュザットの事。
国王に、処分命令を受け、潜り込んでいたザーツに、大切に、本当の家族の様に育ててもらった事
魔王ミーザとザーツの関係、ミーザに自分の娘と言って愛された事。
そして、この世界の秘密、人族と魔族の戦いの歴史の真実、神々の思惑、間もなく起こる勇者と魔王、人族と魔族の戦争、今度の勇者が、この世界に降りて来た創造神である事。
次に神である勇者が勝った場合、神々はこの世界を壊すつもりという事。
この世界の秘密と今代の勇者が創造神である事は神霊ミカエルも認めた。
下手をすれば、リシェルが話した内容は、魔族にとって不利になる場合もあったが、リシェルは、この場に居る人達を信じた。
「私は出来れば、王国は戦争に関わって欲しくない。
私が、育ったサウルの街を責めないで(攻めないで)欲しい。
あの街は唯一、人族と魔族が共に暮らせる場所だから……」
リシェルは、心からそう願った。
「……ふぅむ、未だに信じられぬ内容ばかりだ。
だが、神側であるミカエル様が認めるのなら、間違いないのだろう。
分かった!
絶対とは言わないが、出来る限りはそうする事にしよう」
「有難うございます。
……おとうさま」
「う、うむ!
出来る限りだぞ?」
「はい……今日、ここに来て良かった。
来る事に不安だったけど、本当に良かった」
「リシェル……」
王妃は優しく抱きしめた。
今までの分と、もう抱きしめてあげる事が出来ないと分かっているので、リサはいとおしく抱きしめた。
「帝王レオハルト、ミカエル、貴方達に聞きたい事がある。
七年前、貴方達の前に、勇者が、創造神が現れたはずだけど、貴方はどうしたの?」
下手をすれば、不敬に値する言い方だが、帝王は気にせず答える。
「ミカエルに、俺から離れて戻って来いと言っていたな」
「ええ、共に戦うと言いましたが、彼から離れるのは断りました。
次に現れた時には、どうなるか、分かりませんが、出来れば……」
「出来れば?」
「……」
ミカエルは、話すつもりはないみたいだ。
「私、戦いたくないな……」
「貴女は優しいですね。
ルシファーが、選ぶはずです」
「さて、話しは此処までかな?
名残惜しいですけど、おとうさま、おかあさま。
会えて良かったです。
明日の本戦、頑張りますので……それでは、失礼します」
「リシェル、頑張ってね。
愛しているわ」
「はい、おかあさま」
「……あの時、あの様な対処になって、済まなかったな、リシェル。
表立って、お前を支える事が出来ないが、心から応援する。
頑張って、生きよ!
リシェル、愛している」
「おとうさま、有難うございます。
では、これにて」
「ああ」
二人は最後にもう一度、リシェルを抱きしめた。
読んで頂いている方、本当に有難うございます。
やっと、此処まで来ました。
作成スピードが段々と遅くなって行きますが、遅くても4、5日に1話はあげたいと思ってます。
これからもよろしくお願いします。




