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3章 2 VS シーバイパー

出来ました。

お待たせしました。

 サウルの街を出て、バイパー討伐に向かったリシェル達は海岸に辿り着いた。

 岩場の方に目を向けると、岩ばかりで何も見当たらなかった。

「何もないな……」

 レイが魔術、探査で辺り一面に魔力を飛ばし、状況を確認したが、何も見つからなかった。

「本当にいるのか~?」

 ライが周りを見渡しながらぼやく。

「……ねぇ、レイ。

 探査って、どの範囲まで調べられるの?」

「どういう事だ?」

 ランの質問にレイは首を傾げる。

「例えば、土の中とか、海の中はどうなの?」

「……ああ、そういう事か。

 確かに、探査は地上や、空にいる、生き物や物質を調べる事は出来るけど、土の中とかは無理だな」

「やっぱり、じゃあ、どうする?」

「とりあえず、目的の居た岩場に行ってみたらいいじゃん」

「そう……だな、ん?

 リシェ、どうした、何か気になる事でもあるのか?」

 レイ達が話しあっている横で、リシェルが何かを思いつめた様に悩んでいた。

「え、あ、うん……少し試してみたい事があって、やってみていいかな?」

「リシェ?

 チームを組んでいるんだから、こういう時は遠慮するのは駄目よ。

 勿論、勝手な行為も許さないけど。

 じゃなきゃ、一昨日のオーガの時みたいに怒るよ?

 で、何をするつもりなの?」

「うん、大地魔法で土の中を調べてみたいんだけど……」

「出来るのか?」

「分からないけど、でも、試してみたい」

「んじゃ、やってみりゃいいじゃん」

「そうだな、頼めるか?」

「ありがとう、やってみる」

 リシェルは腰元から剣を抜き、剣先を地面に差し片膝をつき、柄に額を当て、祈る様に目を瞑った。

「……《土属性、大地魔法、土中探知》」

 魔法名を呟き数秒後、岩場の下、土中に大きな魔力を持つ生命を感じた。

 それに合わせ、所々に硬い膜に包まれた弱々しい生命反応も感じる

「……見つけた。

 やっぱり岩場の下にいるみたい。

 それに、これは……卵?

 土の中に卵が沢山有って、温めているじゃないかな」

 リシェルは立ち上り、感じた通りに説明をした。

「うぉ……マジか」

「間違ってないと思うけど……」

「あ、悪い、そうじゃなくて、な?

 リシェの言う通りなら、卵が面倒だなって」

「そう、ね。

 リシェ、卵は孵っている感じだった?」

「う~ん、硬そうな膜の中って感じは有ったけど……それ以外は無かったと思う」

「じゃあ、まだ孵ってないみたいだな」

「あ、でも、間違っているかも……」

「リシェ、間違っていても良い、自信をもって。これからも、こういった事はある。

 何度もやってみて、経験を積めば良いから」

「……うん、分かった」

「しかし、そうすると、どうする」

「そうね、とりあえず、バイパーを倒してから、卵、潰さなきゃ」

「そうするか、それじゃ、作戦だけど」

「あ、皆、これは作戦になるかな?

 また、やってみたい事、有るんだけど」

「ん?プラン有るなら、言ってみて?

 それも含めて考えてみるから。

 良いな、二人とも?」

「おう、俺は良いぞ、俺は作戦ないし」

「私も無いかな?

 ただ、リシェ、危ないと思ったら反対するから」

「うん、分かってる。

 まず、私は魔法メインで戦おうと思ってる。

 それで、私とライ、レイとランの二組に分かれて、それから……」

 四人集まって、リシェルは説明をした。

「と、言う感じで、どうかな?」

 リシェルは不安そうに、首を傾げる。

「私は良いと思う。

 レイは、どう思った?」

「ああ、そうだな。

 思ったより、しっかりしていた。

 二人が良いなら、それでやってみるか?」

「俺も良いぞ」

「私も」

「よし、それじゃ、その作戦で行く。

 後は、臨機応変で!

 ラン、僕と離れて隠れよう。

 リシェ、ライ、用意が出来たら合図出すので、よろしく!」

「うん、分かった」

「おう、任せろ!」

 レイとランは、その場を離れ、大きな岩の後ろに隠れて合図を出した。

「おし、合図だ。

 リシェ、行けるか?」

「うん、始めるよ」

 そう言って、リシェルは先程の探知と同じように構え、魔法を繰り出した。

「《大地魔法、土中圧迫》」

 すると、バイパーが隠れいる岩場一帯が、一段落ちる様に沈んだ。

 これによって、まず、バイパーと卵を、土と岩の重さで潰す作戦だ。

 リシェルは引き続き、探知でその場一帯を調べた。

「……卵は全部、潰れて生命反応は消えた。

 けど、バイパーは……来る!」

 バイパーは土の中から出て来て、何かを探す様に長い首を動かす。

 やがて、魔法を放ったリシェルを見つけ、その全長を現し、卵を潰され亡くなった自身の子供達の怒りの鳴き声を叫んだ。

「キシャアアアアアーーーーーーーアァァ」

 リシェルは一瞬、体を硬直させた。

 そしてバイパーは、リシェルに向かい攻撃を始めた。

 その全長、ギルドの報告と違い、二十メトルどころか、余裕で三十メトルを超えていた。

 リシェルは、向かってくるバイパーに対して、《火炎魔法、火柱の檻》を繰り出した。

 バイパーの周りに、大きな火柱が六本立ち、バイパーは動きを止めた。

「今だ!」

 レイはバイパーに向かい走り出し、ランは弓を構え、三本の矢を引き狙いを定めた。

「貫通の矢」

 魔力を乗せた矢を放ち、三本の矢は一瞬にしてレイを追い抜き、バイパーに突き刺さる。

 続いて、バイパーの下、辿り着いたレイは影魔法収納から取り出していた大剣を、突撃した勢いに合わせ、大きく振り下ろし切り裂いた。

「はあっ、大破断っ!」

「ギシャアアアアアーー」

 バイパーは切られた方に向き、レイに怒りの牙を向け攻撃対象を変え、レイに向かった。

 その時点で、リシェルは火柱を消し、ライと共にバイパーの下、連続の瞬歩で辿り着き、リシェルは剣に、ライは鋼鉄で造られた棍に魔力を宿し、バイパーに攻撃した。

「喰らえ!」

「はあっ!」

 だが、バイパーは荷の轍を踏まないという様に、鱗に魔力を通し、鱗は強力な盾の如く、攻撃を跳ね返した。

「「なっ」」

 跳ね返された事により、バランスを崩した二人は地面に膝を着く。

 更にバイパーは、レイの方向に向かった勢いで尻尾をリシェル達に振り攻撃した。

「不味い!」

 ランは再び弓を構え、バイパーの目を狙い、先程と同じ、貫通の矢を放った。

 バイパーは、迫る矢に反応し、魔力を通した瞼を閉じ、矢を防ぐが、体の鱗と違い、薄い瞼は矢を刺させはしなかったが、かなりの衝撃を与え、体を硬直させた。

 その隙に、リシェル達は立ち上がり、体勢を整え距離を取った。

「《火炎魔法、大炎槌》」

 リシェルはバイパーの頭上に、大きな炎の槌を落とすが、それに気がつき避けた。

 しかし、完全に避けるには炎は大きく、先程、矢が当たった目に炎は当たり、目を焼き潰した。

 ライは素早く、レイの下に寄り、武器を鉄棍から手甲と足甲に変えて貰い装置し、レイからも距離を取った。

 固まって行動するのは悪手だ。

 こういう大きな相手の場合は、散らばって相手を

 攪乱させて対応する方が、危険が少ない。

 ただ、負傷した場合は別だが……


 この時、ライはこのバイパーを倒した報酬で武器用の携帯アイテムボックスを買う事を決意した。


 手甲は、ゴブリンの時のと違い、手甲と一体化した、長さ十五センチメトルの太針が拳から出ている。

 まるで、短い刺突槍の様に。


 片方の目を潰されたバイパーは、更に魔力を全身に魔力を通し防御を固めた。


 ここからが、第二ラウンドだ!

 リシェルはバイパーの潰れた目を死角にする様に移動する。

 しかし、バイパーはそれに気付いているかの如く、体を動かし警戒する。

「リシェ、バイパーは熱源反応で感知している。炎魔法で攪乱を頼む!」

 レイが、素早くバイパーの謎に気付いて、大声で注意し、対処を促した。

「分かった!

 《火炎魔法、火柱の檻》」

 再びバイパーの周りに六本の火柱が立ち上がった。

 火柱の熱に惑わされ、リシェル達を見失ったバイパーは戸惑った。

 そして、ランの矢が、三度放たれバイパーの体に刺さる。

 次に、レイが攻撃するが、バイパーは、それには気づき体を動かし、大剣を弾く。

 続けて、リシェルは魔法を放つ。

「《大地魔法、土中圧迫》」

 卵を潰した様に、地面を崩し、バイパーを穴に落とす。

 近くなったバイパーの顔に、ライが瞬歩で近づき一撃、跳歩で飛び、空歩で足場を固め、踏歩で空を踏み抜き、更に、重く雷を纏った一撃を繰り出す。

 バイパーの魔力を纏った体を突き破り、肘近くまで刺さった右腕に、魔力全開の雷を放つ!

 ドンッ、という音が鳴り響き、バイパーとライは弾かれる様に吹き飛び、バイパーは火柱に、ライは地面に落ちた。

 バイパーは、傷ついた体で起きあがり、逃げる様に海に向かった。

 リシェルはライに近づき、《聖光魔法、再生回復》を行い、吹き飛び落ちた際のダメージ、並び自らの雷で傷ついた右腕の治療する。

 ランが何発も矢を放つが、バイパーは動き続ける事で避け、弾き逃げる。

 レイも追いかけるが追いつけず、バイパーは海の中に逃げてしまった。


 討伐失敗……

 レイとランは、バイパーが逃げた海を睨みつけていた。









 レイ達は、そう思った。

 リシェルを除いて……


 バイパーは逃げてはいなかった。

 バイパーは海の中に潜り、海の底、地中を進み、再び、ライの怪我を治しているリシェルの前に現れた。

 海に潜る際、大量の海水を胃の中に納めて……

 その海水をリシェルに吐き出そうとする。

 リシェルはバイパーを見ながら言う。

「分かっていた。

 逃げる時、私の方を見たのを……

 気がついていた。

 微かに近づいてくる地面の振動を……

 待っていた。

 私の前に現れるのを!

 狙っていたのは、お前だけではない!

 私もだ、落ちよ!

 《火炎魔法、大火柱の槍》」

 先程まで、バイパーを囲っていた火柱五本(一本はバイパーがぶつかった時にダメージを与え消えた)に魔力を追加し、空中に待機させていた。

 新たな魔法として!

 潰された卵達を思い、深刻なダメージを受けて死に際にいたバイパーは逃げる事を選択せず、リシェルに相討ちを狙っていた。

 攻撃を止める事も出来ず、避ける事も出来ず、バイパーはリシェルの放った魔法に、体を貫かれ倒れた。

 粗方、傷を治したライを寝かせ、リシェルはバイパーに近寄った。

 バイパーは無事な方の目で睨む。

「……ごめんね、君の卵、子供達を殺して。

 君達に恨みは無いんだ、でも、私は強くならないと駄目なんだ。

 この世界を作った神を、私は殺す。

 私達も、君達も、神に作られた理不尽な駒。

 恨みはないけど、君の強さを貰うよ……

 神を殺す為に」

 リシェルは、握っていた剣を、バイパーに突き刺し止めを指した。

 リシェルは剣を顔の近くに持って来て、目を瞑りバイパーに祈る。


 ドクンッと、剣があの時と同じ様に脈を打つ。


 祈り終わり、そのまま魔力を剣に通し確認した。《種類・魔法剣》

 名称/リュート

 能力/成長:常時発動

  腐蝕:常時発動

  能力吸収:標的討伐時、発動

  隠蔽:任意発動

  熱源探知:任意発動(初)

  魔力硬化:任意発動(初)

  猛毒耐性:常時発動(初)


 剣に新たな能力が三つも増えていた。


「リシェル……」

 バイパーが倒れた時、レイ達は気がついた。

 駆け寄ろうとした二人は、バイパーに祈りを捧げるリシェルを見て戸惑っていた。

「レイ兄さん、ラン姉さん、仕方がないとは言え、辛いな……

 せめて、恨みでも有れば、こんな事、思わなかったんだけど……

 私、非道いヤツだね」

 リシェルは静かに涙を流す。

「非道くない!

 リシェルは非道くない!

 リシェルはコイツを倒して、コイツの子供を殺して、心を傷つく事ない!

 誰かがやらなくては、街に被害が何れ出る。

 だから、リシェルは非道くない、悪くない」

「ラン姉さん……」

 ランは、リシェルを抱きしめた。

「泣いても良い、悲しんでも良い。

 だけど、心は折れないで、負けちゃ駄目。

 後、ライを治してくれて、ありがとう」

「……うん、ありがとう」

 リシェルは、暫くの間、ランの胸元で泣き続けた。




次回、事後報告、ザーツとの一時期別れ


の予定です。


よろしくお願いします。

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