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第3話 連合「INTERSECTION」

第3話 連合「INTERSECTION」


ケイさんは鎌倉在住の主婦と言う。

とある合戦イベントに合わせて、ゲーム内の連合員募集用の掲示板に書き込んだ、

求人広告に反応して、フレンドと2人セットで応募してきた人だった。


当時の「INTERSECTION」は、まだ立ち上げて間もなく、

空き枠なんて半分近くあったから、2人セットで受け入れた。

イベントが終われば、またどこか別の連合に移る人たち、そう思っていたし、

実際、1人は移動して行った。


このイベント中、連合では静かなもめ事が起こっていた。

トラブルメーカーてのはゲーム内のあちこちに点在している。

連合にもそういう連合員がいた。

ヴァーチェさんと言って、後衛専門の人だった。

掲示板への書き込みの感じからして、若い女の人らしい。


「INTERSECTION」という連合は、教育や研究機関としての色合いが強い連合で、

モチベーションの高い人なら、まったくの初心者からでも採用している。

要求する参戦率も高く、通常、合戦イベント問わず1日60分てのは、

よほどの上位連合にいかない限り、なかなかない。


このゲームはカードバトルというシステムから、他のゲームより多額の課金を必要とする。

それゆえに強者と弱者の二極化が激しい。

十分な教育を受けるには、上位連合に入るしかない状況の中、

初心者や課金額の少ない者は、弱い連合にしか行けない。

弱い連合は参戦率も低く、学べる事も少なく、ゲームも面白くならない。

だから、そのまま辞めてしまう人も少なくない。


「INTERSECTION」はそういった人たちに、

十分な教育を受ける機会と参戦する事の楽しさを与え、

救いとなるために生まれた連合だった。

悲しい人はあんたが最後でいい。


その教育の一環として、連合では専門とは違うポジションに時々配置する事にしている。

違うポジションを経験することで、視野を広げ、

微妙なタイミングなどをつかんでもらい、

より強い前衛や後衛になってもらう事が目的だった。

また、合戦イベントには「全員前衛」ルールの時もあるから、その準備も兼ねていた。


後衛専門の人には、どこまでも後衛にこだわる人が一定数、必ずいる。

その人もまた、そういうタイプの後衛だった。

俺や当時の軍師や補佐がいくら、その趣旨や目的を話しても、

理解してもらえないどころか、連合掲示板で皮肉を言ったりする。

皮肉は時間を重ねるごとに、皮肉じゃなくなっていく…。


皮肉だけならまだよかった、鈍感な人は気付かないだけで済んでしまうから。

でも全員が全員、鈍感な訳じゃないし、

これはもうとっくに皮肉の範囲を超えていた。

また、普段の合戦後の書き込みの多さについても、

大事な連絡が流れてしまう、正論だけどそれでは連合内の空気が悪くなると、

複数人の連合員より苦情が来ている状態だった。


当時の後衛筆頭だった「送り火」さんが、それに噛み付いたのを皮切りに、

連合内は大きく揉めた。

俺がヴァーチェさんに個人チャットで、発言について注意すると、

彼女からは10倍になって返って来た上、

全く無関係なケイさんにまで飛び火した。

俺とケイさんは個人チャットで、この事について話し合った。


彼女がケイさんについて何と言ったか、内容なんてもうどうだっていい。

ケイさんがヴァーチェさんに怒るのもすごくわかる。

でもそれ以上に、無関係な人を巻き込んだ事が許せなかったし、

彼女が連合に在籍し続ける以上、それはこれからも繰り返されるって事。

少々強引ではあるが、俺はヴァーチェさんの除名を決めて、

その翌朝、手続きを実行した。


この対応を当時の軍師が不服とし、連合を去って行った。

そこで後任に選ばれたのが、現在の軍師であるケイさんだった。

彼女は奥義の順序や使うスキルや動きなどを、あらかじめ決めておくタイプだった。

ギースには考えられないようなタイプだろう。


「ケイさんの指示、すっげえな。

どこであんな軍師見つけて来たんだろ?」


合戦終わり、案の定ギースがLINEで驚いていた。

合戦は「INTERSECTION」の勝利だった。


「ケイさんは軍師初心者だよ。

最初はただの前衛で、しかも短期の人だったし」

「マジか。 んじゃ、無双の『天一ラーメン3杯』さんは?

あの人もすごいよね? 今10位以内の連合に入っても即戦力じゃね?」

「らめーんさんは島さんとかにさんのフレンドだな。

あの人もまだ始めて250日ちょっとの初心者だよ」


連合最強の「無双」である、「天一ラーメン3杯」さん…、

俺ら「INTERSECTION」のやつらは、「らめーん」さんと呼んでいるが、

彼は大阪で開業医をしているらしい。

連合で使っている外部チャットで、よく本人入りの飯テロ画像を貼り付けている。

外科系らしい大柄な人で、ラーメンのどんぶりがもはや茶碗にしか見えない。

「島左近」と「ペルソナ」で連合を開設して、最初の連合員だった。


「補佐の『あぇるぅす』さんは? あの人も相当手慣れてるよね」

「『あぇるぅす』さんはやっぱり島さんのフレンドで、

『INTERSECTION』に来る前は、別の連合で盟主兼軍師をしていたらしい」

「へえ…」


俺はあんたという命だけでなく、あんたの人間関係をも引き継いだのだった。

俺自身は長らく「謎の連合員」と、あんたに呼ばれて来たほど、

口数が少なく、人付き合いもそんなに好んで来なかったが、

「島左近」という活動はそれを許してくれなかった。


次の合戦イベントを20人満員で迎えるために、

移動の予定を連合員に確認し、空き枠が出る予定ならば募集をかける。

求人に反応して、応募して来た人の対応をしなければならない。

必要とあらば個人勧誘を行い、交渉だってしなければならない。

他人と関わらざるを得ない、俺も変わらざるを得ない。


そんなある午後だった。

開店準備の合間に、あらかじめ用意してあった記事を投稿しようと、

例の異質なブログ、「左近の夢」の管理画面にログインした。

そこには珍しく新着コメントがあった。

投稿者は「サーニャ」と言った。


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