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最終話 スノーナイト

最終話 スノーナイト


俺は肉体が死んでも、その精神や心は生き続ける派で、

ギースは心が死んでも、物質として生き続けたい派だったけれど、

俺たちはそれ以外を考えたことはなかった。

もしもあんたが猫だったら、猫があんただったら、

ちょうどこんな感じになるのではないだろうか。


あんたは前衛のくせに、応援力が高かった。

あのケミカルな猫は後衛のくせに、やたら攻撃力が高い。

あんたは延長時間突入までの30分間を、ただただ潜伏するのを厭わない。

あのケミカルな猫は味方前衛を亡き者にした。

「嫌なやつ」なのは、あんたもあのケミカルな猫も同じ。


生まれ変わり、この非現実的な第3の考えも悪くはない。

その後の連合員の事を少し書いたきり、更新の滞っていたあの異質なブログ、

「左近の夢」を更新をし、それを最後とした。

そして俺は彼女たちを物語の中心に置いた。



1年をかけて書いた新しい本は、予想以上の大成功をおさめた。

「テツオ・タケモト」という名前も、ようやく国内で知られるようになった。

ヨーロッパで評価されても、本のターゲットがターゲットなだけに、

国内ではただの新人なのだろう。

それでも忙しくそれからの2年間を過ごした。


3月の白く曇った、底冷えのする夜だった。

あのケミカルな猫が容器を倒して、全身に台所用洗剤を浴びたので、

狭い風呂場でシャンプーをしてやり、身体を拭いて乾かそうと戦っていた。

俺の顔面に殴る蹴るの暴行を加えて、傷害を与えた後、

部屋中を逃走し、身柄を確保できない事にいらついて、

俺はとうとう根をあげて彼女を放置し、食事の後片付けを再開した。


すると、あのケミカルな猫がすうっと足元に現れ、にょうと鳴くと、

俺のはいているジーンズに、濡れた身体をこすりつけて拭き始めた。

しかもすごく楽しそうである。

デフォルトのしゃーに続くのではなく、ぐるぐるごうごうと鳴いて、

ジーンズを濡らすという、新しい嫌がらせを楽しんでいるらしい。

嫌な猫はやっぱり嫌な猫のまま、少しも変わらなかった。


その翌朝、妙な静けさに目を覚ました。

窓の外を見るといよいよ白く、やはり雪が降り積んでいた。


「…ケミー?」


気が付くと、あのケミカルな猫はベッドと段ボール、どちらの寝床にもおらず、

探してみたら、机と本棚の間に横たわって、冷たくなっていた。

猫は死ぬ時、その身を隠すと言うが…。


「バカだな、それで隠れたつもりか? こんな狭い部屋で…」


俺は笑って、彼女を抱き上げた。

初めて抱くのが、まさかその亡骸とは。

自動認証のようにどこかから流れて来て、この部屋がようやく居場所となった。

誰からも嫌われて、孤独を生きてきた彼女にとって、

最初で最後の居場所はどんなに嬉しかった事だろう。


ずっと待ち望んで来た瞬間だったのに。

未だ色を失わずカラフルな生地に、偶然が織りなした幾何学模様の、

汚らしい事この上ない毛皮の上に、涙の粒がぱらぱらと落ちた。



ギースを見送って、連合のみんながリアルの生活へと戻って行き、

あのケミカルな猫も今朝、その命を終えた。

とうとう誰もいなくなってしまった。

「戦国☆もえもえダンシング」はようやく終わった。


夕方になって出勤して開店準備をし、今夜もとりあえず店を開く。

雪がまた降り出して来た。

ノートパソコンに向かって副業をしながら、客を待っても誰も来るはずはない。

12時に早じまいして、余った材料でカクテルを作る。


ジンとライムにスパイスで香り付けしてあるのと、

ショートカクテルである点は、「神算」と同じだったが、

ガムシロップが少し入っており、

縁を砂糖で飾ったスノースタイルのグラスの底に、砂糖を厚く敷いてある。

「スノーナイト」、これはメニューには載っていない。

俺が自分自身のためだけに作る、特別なカクテルだから。


ギース、サーニャの奥さん、らめーんさんの患者。

それからあのケミカルな猫…そしてあんた。

閉店した店内には、いくつもの生命が交差して消えていった。

カウンター席に移って、金色の小さなスプーンでカクテルをかき混ぜて、

グラスの中に小さな嵐が起こる様を、じっと見つめる。


俺は自分に2つの事を許した。

グラスにカクテルがある間だけ、俺はあんたに恋をして、愛を思った。

そしてそのままカウンターに俯せて眠り、それから出かけてあんたを永遠にした。

物語でもなく、夢でもなく。






「プレイヤー融合機能」 完


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